ふれあい
- Touches for Sympathy -


ACT.1

「主、食事ができましたよ」
 翼がトレイからテーブルに料理を並べながら放送をかけた。
「ダイ」
 カイザーが喉を鳴らさんばかりにダイの肩口に頬を摺り寄せる。
「はいはい」
 ダイは苦笑しながら軽くブラシを当て、紐でカイザーの長い髪を括る。食事をする時に邪魔にならな
いようにだ。ダイにおんぶというか覆い被さるようにひっついて、二人が食堂に入ってきた。
「やれやれ。すっかり主にカイザーを取られてしまったな」
 レオンは軽く苦笑しながらワインを傾ける。
「そんなことないよ。カイザーだってレオンといる時は機嫌いいもん。ね?」
 はぐはぐと口に物を詰め込んでいるカイザーが一生懸命頷く。その様子に再び笑いが起きた。
 食事が終わると、当番でないダイはリビングの床にカイザーと一緒に座り込んだ。ダイは膝の上にカ
イザーを寝かせると、紐を解き、熱心に髪を梳き解す。カイザーは気持ちがいいのか、満足そうに笑顔
を浮かべていた。
「デキてるみたいだぞー、ダイ」
 タクヤが囃し立てる。
「そんなんじゃないって。僕はカイザーの親代わりなんだよ」
「ダイ、いい匂いするから好き」
 カイザーはダイの膝に額を擦りつけた。


ACT.2

 珍しく3人だけで部屋に集まった。子供たちだけがそろうなど、初めてではなかろうか。

「そういえばタクヤ君はどうしてゴルゴンにゴルドシーバー預けてたの?」
 ダイが不思議そうに尋ねる。
「どうしてって・・・オイラがいたのはちょっと物騒なトコだったんだよ。あれなら誰も気付かないだろ?」
「まーな。俺たちも全然気付かなかったし。でも、これって何に使ってたんだ?」
 カズキのは懐中電灯だし、ダイのは双眼鏡だ。現在は綺麗な外見に合わず壊れている。かろうじて双
眼鏡が倍率を変えることはできないが、見ることはできた。
「さあ・・・・?」
 復活の呪文を唱えてから、これのおかげで光のレールが出現したのだから、絶対に何か使用していた
のだろうが。
「冒険に使ってたものだろ。暗い所用に懐中電灯、遠くを見るのに双眼鏡。あとは・・・火をつけるラ
イターか、カッター代わり・・・・」
「通信機って手もあるよな」
 鋭く伸びた金のウイングは、よく見ると刃こぼれのようなものを起こしている。試しに指を当てて引
いてみた。血こそ流れなかったものの、結構痛い。
「でもこれじゃホントにカッターだよな。もっとサバイバルナイフみたいにでっかいのじゃないと実践
向きじゃないよ」
「通信機だったら、僕たちのも使えるのかな?」
 試しにそれぞれ部屋の隅にアイテムを持っていって囁きかける。
(カズキのバーカ)
(ダイ、カイザーって犬みたいだよな)
(タクヤ君、聞こえる?)
「おーい、オイラが言ったの聞こえたか?」
「だめだ。ダイは?」
「僕も、全然聞こえなかったよ」
「あーあ」
 どさりとタクヤがソファに寄りかかる。
「ちょっとは使えるって期待してたんだけどなー」
 用から席を外したレオンがリビングに入ってきて、寝室に戻って寝るように追い立てた。一人部屋に
戻ったタクヤはベッドに寝転がってゴルドシーバーを天井にかざした。
「ドラン」
 意味はない。ただ、一番これに向かって呼んだことが多い気がする名前。
 トントンと扉をノックする音がした。
「開いてるぜー」
「呼んだか?主よ」
 入ってきたのはなんとドランだ。
「ど、ドラン?!」
 そのあまりのタイミングの良さに、驚くタクヤに
「いや、何となくタクヤの声が聞こえたような…」
 自分の空耳だったのかとドランは頭を掻いた。
「別に呼んでねーよ」
 そう。用があって呼んだわけじゃない。それでもそのタイミングが嬉しかった。
「でも、丁度良いからこっち来いよ」
 ぽんぽんと自分の座っているベッドを叩く。
「そうか」
 ドランが隣に座ると、タクヤは何となく抱きついた。


ACT.3

 目を覚ますと、目の前にタクヤの寝顔があった。
「?!」
 慌てて起き上がろうとするが、片腕がタクヤの下にある。
(ど、どどどどどうして主がッ?!)
 以前にも同じように一緒に寝たことがあるのに、何故か焦ってしょうがない。首だけ動かして辺りを
見ると、そこはタクヤの部屋だ。そこでようやくドランの頭が正常に働いた。何となくタクヤに呼ばれ
て部屋に入り、そのまま一緒に寝てしまったのだ。男性期だったのも手伝ってドランも気兼ねなく一緒
に布団に入ったのだ。自分で自分に納得し、動悸を抑える。腕を引き戻そうとしたが、その動きでタク
ヤが目を覚ましてしまうのではないかと思うと動けなかった。
 しかし寝ているタクヤは可愛い。しがみつくようにぴったりと体を寄せている姿を見ると、頼られて
いるという実感がする。
「髪を縛ったまま寝て・・・・」
 片手で髪紐を解くと、翠の黒髪がふぁさっと揺れた。飽きもせずにタクヤの寝顔を見つめる。耳や額
にかかる髪を払ったり、意外と長い睫の先にも触れてみた。同じ場所にいながら、時々カズキやダイで
すら眼中に入らない遠くを見つめ、別の世界にいるような気がするタクヤが身近に感じられる。
(こんな時にしか身近に感じられないとは、少し寂しいな)
 できればもっと起きている時にもそうであってほしい。例えそれが自分相手でなくても良いから。
 一方のタクヤはというと、起きていた。
(な、何やってんだよ、コイツ!)
 耳の辺りがどうもくすぐったいと思ったら、ドランが触れているのだ。意味もなくどきどきして、お
まけに起きるタイミングまで逃してしまった。
(早くどかねえかな?さもなきゃ別のところ向いてるとか)
 じっと我慢して時々薄目を開けてみる。視線を感じると、慌ててぎゅっと強く目を閉じた。
 そんなタクヤをドランは微笑ましく見下ろしていた。
(起きてる、起きてる)
 やけに頻繁に瞼を動かしていると思ったが、寝たふりをしていたのだ。自分も甘く見られたものであ
るが、同時にそんな悪戯をしている主が可愛かった。
「・・・・っ、っ・・・・」
 タクヤとシーツの間にあるドランの腕が震えている。またそっと目を開けて見ると、ドランが一人で
笑っていた。
「・・・・何笑ってんだよっ!」
 とうとう我慢できなくなり、タクヤは結局起きてしまった。シーツの中から上目遣いにドランを見上
げ、タクヤが睨む。
「タクヤの寝顔が可愛かったのでな」
 首から一気にタクヤの顔が赤くなる。
「ば、ばっか・・・・・!」
 ごろんと反対側に転がるが、そこには今まで下敷きにされてきたドランの手があった。
「〜〜〜〜〜!!」
 手が動く。動いてタクヤを抱き上げ、ベッドの上に座らせた。
「おはよう、主」
「お、おはよ・・・・・・」
 掠れた声しか出せない自分に、経験をしたことはないがまるで秘め事でもした朝のような錯覚を覚え
る。焦ったタクヤはすぐに視線を反らせ、体ごと後ろを向いた。掌が、汗で滑る。
「喉が渇いているのか?」
 ドランは心配そうに首筋を撫でると部屋から出て行く。ほっと一息ついて動悸を治めようとしいると、
コーヒーカップを持ってドランが戻ってきた。
「あ・・・・・・」
「丁度翼が起きていてな。淹れてくれたのだ」
 差し出されたカップを、震える手で落とさないように受け取る。思ったよりも熱くなく、タクヤは砂
糖とミルクの入った薄めのアメリカンを啜った。
「・・・おいし・・・・」
「そうか」
 ドランが自分のことのように喜んだ。


ACT.4

「シリアス様」
「レイザーですか」
 航路を算出しているシリアスの後ろからレイザーが声をかけた。かすかなエンジン音とコンピュータ
ーの起動音にまじって、コーヒーの匂いがする。
「一息いれてはいかがでしょうか?」
「気が利きますね」
「貴女のことでしたら、どんなタイミングでもわかります」
 振り返ったシリアスは軽くこめかみの辺りを押さえて立ち上がる。
「翼がコーヒーにうるさいので入れてもらいました」
 砂糖だけはたっぷり入っているコーヒーを飲む。冷ます必要がなく、温度も丁度いい。甘さも温度も、
全てがシリアスの好みだった。
「おまえはどうして私を探したんですか?他にいくらでも人生の選択肢などあったでしょうに」
 シャーク号の中は人間が多い。二人きりになれる機会は以外と少なかった。
「ずっと夢を見ていたんです。そう、この体に産まれた時からずっと。いつもいつも、貴女に会いたか
った。目覚めれば消える儚い夢と、未来を描く夢が、一緒だったんですよ、私は。空影たちも同様らし いですが」
 にっこり微笑まれると、返ってシリアスは緊張する。またも玉座に近い場所に生まれた身としては、
他人の笑顔は信用できないこと甚だしい。
 レイザーはシリアスの前に跪くと、再び手を取った。
「どんな報酬も見返りもいりません。ただ今一度、貴女の側に」
 ちろりと舐められた指先から、熱く疼くような痺れが伝わる。慌ててシリアスは手を引っ込めた。本
能的にそれが何だかわかってしまうから。
「み、見返りがいらないというのならこんなことはやめなさいっ!」
「申し訳ありません」
 食えない笑顔を浮かべると、レイザーは大分冷めてしまった自分のカップに手を伸ばした。
「・・・・・可愛くなくなりましたね・・・」
「冗談を覚えたんです」



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