「クリスマス?」
「おお、もうそろそろそんな時期じゃないかと思ってさ」
始まりはそんな会話だった。シャーク号の船室に置いてあった、 めくられていないカレンダーを見つけたタクヤが、そんな事を言い出したのだ。
「もうとっくにすぎてるだろ。てゆーかもう年末でさえねえよ」
溜息を吐いたカズキが肩をすくめる。不機嫌そうに頬を膨らませたタクヤだったが、 丁度通りかかったワルターが話を聞いていて、
「そういえば本国では毎年新年の祝いをしていたな」
「ホントか?!」
「うむ。毎年祝いの宴を用意してな、諸国の王や親戚たちを呼んでよく楽しんだものだ」
ワルターの話に目を輝かせているタクヤを見て、仕方ないといった風にシリアスが苦笑して提案する。
「なんなら、ここでもやりますか?」



「荒野の勇者」クリスマスとっくに過ぎてるよ番外編

荒野のクリスマス
- Weihnachten der Wildnis -




「てなわけで〜、筆者から言われたボクが司会として仕切っちゃいま〜す」
「何だよそれ〜」
「引っ込めー」
集められたメンバーの野次を制して、白衣の焔がパーティの段取りを着々と進めた。 ノンアルコールのシャンメリーやシャンパンで乾杯の音頭を取った後、 料理の得意な面子が腕を振るったクリスマス料理に全員が舌鼓を打った。そして今は食ごなしのプレゼント交換会である。
料理の乗ったテーブルを部屋の脇に動かして、椅子だけを円状に並べてある。 ドランは勿論、タクヤの隣を確保していた。それを目敏く見つけた焔が、ムッとした口調で、
「そこ、いくらなんでもお約束でひっつきすぎ。てなわけでいきなりフルーツバスケット〜」
「「はぁ〜?」」
「いいからいいから、名前にア行と「ア」の発音のつく人全員起立〜!(怒)」
「なんだよ・・・」
「おう、俺様もか」
「カイザーも?」
「うん、僕もだね」
言われた皆はしぶしぶと席を立ち、ドランもタクヤもほぼ全員が空いている別の席を探して移動する。
「すまないでありますな」
一人だけ該当しないロックは苦笑しつつ大人しく鎮座していた。
「うん、これで丁度いいかな〜」
座り直した輪をぐるりと見渡して焔は満足そうに頷いた。
(だ、だいぶタクヤと離れてしまったな・・・)
円状に並べてある席のうちの、ほぼ斜め前からタクヤの顔を眺めつつドランは内心涙を流した。 ちなみに、タクヤの両隣は申し合わせたようにレオンとロックが陣取っている。ドランの隣はシャランラと空影。 ある意味両手に花(?)であるかもしれない。
「お主、なにか不満がありそうな顔でござるな」
「い、いや・・・」
「さ〜てさて、皆、例のブツは用意してきたかな〜??」
言われてタクヤ達はそれぞれ何かを取り出した。事前に焔から言われていたプレゼントの袋だ。 プレゼントの中身は自由だが、ただ一つだけ厳命されていることは、 『お金で買わないこと』である。
つまり、手作りなり自分で持っているものなりの中で選んだという事だ。ドランも懐から小ぶりの袋を取り出した。 一応、クリスマスという事で不器用なラッピングを施してある。リボンが見つからなかったので、懐紙で作った折花を結んであった。 他の者たちも大なり小なりプレゼントに見えるものを、膝の上に出している。
「それじゃ、始めるよ〜」
そう言った焔が足元に置いたラジカセのスイッチをぽちっ、と入れた。

ちゃららっちゃっ ちゃらららちゃっちゃっちゃっ〜♪

「・・・なんでオクラホマミキサーなんだよ。普通ジングルベルだろ?」
「細かいコトは言いっこナッシング〜、ほらほら、皆リズムに合わせてプレゼント移動して〜」
カズキのツッコミにもめげない焔の号令で、一同は自分のプレゼントを右隣に渡していく。 左隣から渡ってきたプレゼントをさらに右隣へ。
(はっ、そうか・・・!)
さっきまでしょげていたドランだが、はっと気付いて気合を入れ直した。これは結構チャンスかもしれない。 上手くすればタクヤの用意したプレゼントが貰えるかもしれないのだ。 交換会のノリである以上、どうせ渡せないだろうとドランは別に専用のプレゼントを用意していたが、 自分から渡してもタクヤから貰えるかどうかはわからない(強引に貰う手もあるが) 少なくとも隣に座っていた時よりはプレゼントが渡ってくる確率ははるかに高いだろう。
(来い、来い・・・!)
慎重に数えて最初にタクヤの手にあったプレゼントを目で追う。真剣な形相を隣の空影が怪訝な顔で見ている事に、 集中しているドランは気付いてなかったが。プレゼントがひと巡りした所で、そろそろ周りがダレてきた。「まだかよ〜」という声が上がる。
「は〜い、それじゃそろそろ止めるよ〜。3、2、いち〜」
(ここだ!)
「ストップ〜」
焔の指がかち、と停止ボタンを押す。音楽が鳴り止むと同時にプレゼントの移動もぴた、と止まった。
(やった・・・!)
はぁはぁと荒い息を付きながら(周りの目はもちろん気にしていない)自分の手にしているプレゼントの袋をドランは感無量で見つめている。 焔もそんな様子を冷ややかに見つめながら、次の号令を出した。
「は〜い、それじゃ〜お待ちかねのプレゼント開封〜。順番は〜ロックから!」
「え、自分からでありますか?」
「さっき一人だけ座ってたからね〜」
いきなり指名されたロックはもたつく手つきでプレゼントを開け始めた。紙袋に入っていたので開封には手間取らなかったが。
「これは・・・本、でありますか?」
「ああ、それは私めからでございますね」
赤い装丁の本を見てカーネルが名乗りを上げた。
「ワルザック王家の紋章つき聖書でございます。クリスマスプレゼントですからな」
「いいんですか?」
革命の時に持ち出してきたものであろうことを予想して、翼が尋ねる。
「構いませんよ。あと20冊はございますからな」
「はあ・・・」
「大切に読ませて貰うであります」
「どういたしまして」
「はい、それじゃあ次はカーネルさん〜。貰ったプレゼントの相手の人が次だからね〜」
意外に仕切り魔な焔の言葉でどうやらそういうことになったらしい。 カーネルの開けたプレゼントは、大きなワインのボトルだった。
「おう、そいつぁ俺様のだな。シャトー・ド・シレーヌ・ド・アールヌーヴォの年代ものだぜ」
「はぁ・・・、それはどうもありがとうございます」
「この俺様もまだ口つけてねえんだからな、開けるときは呼べよ」
結局自分も楽しむつもりのキャプテンの台詞にくすくすと周囲から笑いが洩れた。次はキャプテンの番である。
「俺様のぁ・・・なんだ、やけに小せぇな。匙か?」
「あ、それボクから〜」
挙手をした焔に、何の変哲もない匙の正体をキャプテンが尋ねようとする。
「それはズバリ、『医者も投げ出さない幸運の薬匙』〜!持ってると病気にかからないよ〜」
「なんだそりゃ。効果あんのか?」
「もっちろん、だって主にも使ってたんだも〜んv」
(何!?)
勢い余って立ち上がってしまったドランだが、当のタクヤの関心は別のところにあったようだ。
「うわ、お前そんなもんプレゼントに出すなよ、ばっちいだろ!」
「え〜ちゃんと消毒してあるよ〜?」
「まあ・・・ご利益つきならいいか。貰っとくぜ」
「どいたしまして〜。それじゃ、ボクのは何かな〜?」
ごそごそと包装を解いていく焔。巻かれていた紐についている紙花を見てドランはあ、と呟いた。
「何だろう?ちっちゃなナイフかな〜??」
「それは小柄だ」
元は竜牙剣の鞘についていた装飾品である。実戦に使えるものではないが、 実家から持ち出してきた物なので思い入れのある品であることは確かだ。
「ふーん、ペーパーナイフくらいにはなりそうだね。ありがと」
「いや・・・」
(余計な・・・武器を与えてしまったか?)
よりにもよって焔に渡るとは予想していなかったと、と内心心配にならないでもないドランだった。
「それじゃ次、ドランのだね〜」
いよいよだ、とドランはどきどきしながら自分の手の中の包みを解いた。 タクヤからのプレゼントだと確信していたが、それでもやはり不安になる。もし見誤っていたらどうしよう?などと。 外袋がやけに軽いのもそんな動揺を煽っているのだ。
「これは・・・?」
中から出てきたのは、段々に折り目のついた紙だった。他に何も入っていない。 ぺらぺらの紙の折り目には切り取り線がついており、折り目の間にはへったくそな字で、『ゴルゴン一日貸し出し券』と書いてある。
「あ、それオイラからな。ゴルゴン借りたい時はそれ1枚切ってオイラに渡してくれよ。 今ならキャンペーン中につきなんと5枚つづり!」
「タクヤ・・・お前せこすぎ」
「いーじゃん別に、ゴルゴンは今はオイラのだもん。な〜ゴルゴン」
「ガ」
カズキの言葉にも頭の後ろで手を組んだまま、タクヤは悪びれずに笑う。 元々あまり持ち合わせのないタクヤが他にプレゼントを用意できるはずもなく、これはまさに金のかからないプレゼントだった。 大抵なら重い荷物を運ぶときに手伝ってもらったり、高い所にある物を取ってもらったりといった簡単な用事にしか使えないことは言うまでもないだろう。 もちろん、券などなくてもゴルゴンは頼まれ事をちゃんと聞いてくれる。こういうものは「かたたたき券」などと同じく、貰う方もあげる方も遊び感覚なのだ。だが。
(5枚つづり・・・ということは、5回は大丈夫なのだな)
「かたじけない。大切に使わせて貰う」
「おう」
含み笑いを浮かべているドランは何やら大人の使い方を考えているようだった。ある意味一番使える奴に当たったとも言えるのかもしれない・・・
「じゃ、次は主なんだけど〜」
焔に水を向けられたタクヤは勇んで包みを開けようとして・・・ふと思いとどまった。
「やめた。パス」
「ええ〜?」
「だってさ、お楽しみは最後まで取っておいた方がいいじゃん?誰からのプレゼントかも判るしさ」
「駄目だよタクヤ君〜」
「お前、一人だけわがままだろ」
「あ〜はいはい判ったからケンカしないで。も〜仕方ないなあ〜」
仲裁に入った焔だが、結局はタクヤに甘甘な勇者の采配である。
「じゃあ主は一番後回しだけどその代わり!絶対開けちゃ駄目だからね〜!」
「わかってるって」
「それじゃ、主の隣の〜ロックはもう開けちゃってるから今度はレオンね〜」
焔に促され、レオンは自分のプレゼントの包装を解き始めた。
「あ!それ、カイザーの!!」
「駄目だよカイザー、開ける前に言っちゃ」
慌てて隣のダイが抑えようとするが、咎める事もせずレオンはただ鷹揚に笑って許した。
「そうか、カイザーからか。何が出るか楽しみだな」
タクヤと同じくカイザーも自分で持っているものが少ない。 ダイや他の者に貰ったものか、それ以外なら一体どんな物が出てくるか、ドラン達も興味津々でレオンの手の中の物を見守っていた。 何重にも包装されている紙を丁寧に開けていくと、最後に残ったのは小さな封筒だった。
「??」
逆さまにして掌の上に振ると、ころん、と2つの小さなかたまりが転がり出てくる。
「これは?」
「それね、それね、カイザーの歯!ここのとこの」
言いながらあーんと口を開いたカイザーは下側の歯を指で示した。確かに、両方の犬歯があった所がすっぽりと無くなっている。
「この間おやつの時間に抜けちゃったんだよね」
「へーえ、カイザーってまだ乳歯だったのか」
「下の歯は天井に投げる慣しじゃありませんでしたっけ?」
「もうやった」
翼の意見に頷いた所からすると、どうやら天井にぽーんと放り投げただけで、落ちてきたのをそのままキャッチしてしまったらしい。
「はじめて抜けたから、プレゼント。レオン、あげる」
「かたじけない」
にっかと笑うカイザーに微笑を返したレオンは、二つ揃っているからイアリングにでも加工してやろうかな、 などと考えていた。後に、この犬歯のイアリングはカイザー自身の耳を飾ることになる。
「それじゃ、次はカイザーのプレゼントを開けようね」
「うん!」

◇◇◇

「なーんか貸し出し券だの、抜けた歯だの、妙なプレゼントばっかしじゃねえか?」
まだ順番の来ないハヤタがぼやいていると、隣のカズキが耳聡く聞きつけて小声で返した。
「そういうお前は一体何用意したんだよ」
「そいつぁ誰かが開けるまで秘密だろ?まあ少なくとも、ここの大部分の連中には役立つシロモンってとこさ」
「やったー!お菓子ー!!」
ハヤタが肩をすくめるのと同時にカイザーの歓声が上がる。 あまりのはしゃぎっぷりに隣に座っているシリアスが迷惑そうに体をずらした。
「ははあ、クリスマスブーツとはやるもんですなあ」
カーネルの賞賛の声に、送り主である翼は微笑んでカイザーの喜び様を眺めている。 翼のプレゼントは主たちの誰かに喜んで貰うべく選ばれたものだった。 勿論、一番喜んでくれる人物に当たったのだから、作る方としては言うまでもないことだ。
「カイザー、オイラたちにも分けてくれよな」
「えー、主たちいっぱいとってくからやだー」
クリスマスブーツを抱きしめてぶーたれるカイザーを親代わりのダイがたしなめている。 まだいっぱいありますから、あとであげますよ、という翼の言葉で、ようやく子供たちのいがみ合いは収まった。
「それでは、次は私のですね」
そう言って紙袋を開けた翼だったが、中身をのぞき込んでしばらく硬直した後、物凄い勢いで顔を振り上げた。
「ハヤタ!!」
「お。俺の当たっちゃったか?」
にこやかに手を振るハヤタに無言で席を立った翼はずんずんと近づいていく。 その形相に思わず冷汗を流しつつハヤタは椅子ごと後退る。
「お、おい待て待て、んな怒るなよ〜。ま、まさか、俺に使う気じゃ・・・」
「冗談は大概にして下さい!!」
ばしん、とハヤタの顔面に紙袋を叩きつけて、翼はくるりと踵を返し、元の席にどっかりと腰を下ろした。 全くもって不機嫌だとばかりに長い両足をこれ見よがしに組んでいる。
「まったく・・・主たちやシリアスに当たったらどうする気だったんですか!」
ぶつぶつと呟いている内容を察して苦笑気味になる者、わけがわからずきょとんとする者、 周りの反応は様々であったが、全てはカズキの一言の呟きに収束されていた。
「明るい家族計画か・・・」
つまりは、そういうことである。

気を取り直して焔の合図により自分の包み紙を開けたハヤタだが、今度は怪訝な顔つきになった。
「なんだこりゃ・・・サイン色紙か?」
「おお、それは私のものだな」
随分と出番の無かったワルターがようやく台詞をもらえたとばかりに起立する。
「宇宙を股にかけるこの大海賊にしてワルザック共和帝国連邦の正当な後継者たるこのワルター・ワルザックのサインだ。 プレミアがついてついてつきまくるぞ」
「いらねえ・・・」
ものすごく正直にぼやいたハヤタだったが、ふと顔を上げると、真正面に座っているシャランラがきらきらと瞳を輝かせている。
「・・・・・・・・・・。」
ものすごくきらきらと瞳を潤ませている。
「・・・欲しいの?」
こくこくこく、と頷く。
「じゃ、やるよ」
ぽいっと無造作に投げられた色紙がフリスビーのように飛んでくると、シャランラはきゃいんvとばかりに口で・・・ではなく両手ではしっと色紙をキャッチした。
「きゃいーんvシャランラ超感激ーvv」
「そんなに嬉しいもんかぁ?」
「もちろん、愛しのワルター様の直筆サインですものvこの名前のラインの流れにワルター様の魅力が詰め込まれているんですわvv」
色紙をぎゅっと抱きしめてはしゃぐシャランラの様子にワルターがぽっと頬を赤らめる。
(この2人は・・・)
他所でやってくれとばかりにシリアスは額に手をやった。
「よし、じゃあ次はワルターが開ける番だな」
「主〜それ言うのはボクの役目だよ〜」
ワルターがあけた包みの中は、木彫りのサンタの像だった。そりを引いているトナカイの姿もある。
「ほう・・・これは見事な」
思わず賞賛の声が上がる彫物の作者は、なんとアドベンジャーだった。
「アドベンジャー、いつの間にこんなの作ってたんだ?」
「大抵は就寝前ですが・・・実はブリッジにいる時もこっそり彫っていたんですよ」
結構暇だったもので、とアドベンジャーは頭を掻いたが、短期間でこれだけ時間のかかる作品を作り上げた芸術家に、 貰ったワルターは素直な賛辞と盛大な感謝の意を伝えた。
続いて開けたアドベンジャーのプレゼントもこれまた力作だった。思わずアドベンジャーの口元が綻ぶ。
「これは・・・以前の私たちのぬいぐるみだな」
こんなものが作れる者など、ただ一人しかいない。
「えへへ・・・うん、僕が作ったんだよ。カーネルさんやシャランラにいらない布をもらったんだ。 なるべく思い出しながら作ったんだけど、夢で憶えてるだけだから、ちょっと間違えてる部分もあるかもしれない。間違ってたらごめんね」
黄色と、白、黒のそれぞれ一色ずつで作られたロボットが3体、赤と青の2色で作られたロボットもある。 マスコットは大きなものではないが、縫い目もしっかりしているし、かなり細かい部分まで作られた立派なものだった。
「いや、十分すぎるほどです。主、どうもありがとう。大切にします」
黒いロボットのぬいぐるみを嬉しそうに見つめながらアドベンジャーはダイに深く礼をした。
「なーんかアドベンジャーのが一番良さそうなプレゼントだよなー」
「日ごろの行いが悪いからですよ」
プレゼントを放棄した二人組(片方は自ら放棄した)は、それでも羨ましそうにほくほく顔のアドベンジャーが手にしているぬいぐるみ達を眺めていた。
「じゃ、次はダイのだな」
「うん」
「だから主〜」
今度はカズキに先を越された焔である。大体そんな事はもう誰も気にしていないのに。 リボンつきの包装を開けて出てきたのは、新書版サイズの3冊の本だった。表紙には金の箔押しまで施されている。
「しゃら?それは私の贈ったプレゼントですわね〜」
ダイの持っている本を見て、シャランラがにっこりと微笑んだ。
「ハーレクインロマンス『荒野の勇者・西部編』ですわvとっても面白いんですのよ」
「おい、これってネタ的に大丈夫なのか・・・?(ひそひそ)」
「ボクは知らないよ〜・・・(ひそひそ)」
ダイの隣で焔とカズキの二人が小声で言い合っている。それには気付かず、ダイはシャランラに負けじと天使のような微笑を浮かべた。
「ありがとう。大事に読ませてもらうね」
「どういたしまして、ですわ」
ほのぼのムードが漂っているところで、ようやくお役目復活の焔である。
「それじゃ次は〜シャランラちゃんのを開けてね〜」
「はいしゃら〜」
シャランラが開けたプレゼントは、ガラスの置物だった。
「しゃら、綺麗ですわ〜」
「あっ、それは・・・自分から、でありますな」
名乗りを上げたロックだが、何故か顔を赤くしている。
「おい、あれって買ったものじゃないのか?」
「地球にいた頃に買ったものであります。実は・・・渡したい人に渡すのを忘れていたのであります」
今更ですからと照れくさそうに頭をかくロックだが、誰に渡したかったのかは明々白々であろう。 当の本人はロックの横で「恋人にか?このこの」などと肘鉄を食らわせている。
「しゃらら〜でも綺麗ですから大事にいたしますわ〜」
「そうでありますか」
「じゃあ次はロックさんが開ける番ですわね〜」
にっこりと言ったシャランラの言葉に、ロックを始めた一同がはっと気が付いた。
「ありゃ、ロックもう開けてんじゃん」
「お前が順番飛ばすからだろ、タクヤ。どうするんだ焔?」
「ん〜、まだプレゼント開けてない人、ちょっと手を上げてみて〜?」
カズキ、レイザー、シリアス、空影の4人が挙手をする。遅れてタクヤも手を上げた。
「じゃ、シリアスちゃんから開けようか。大分時間も経ってるし〜」
先程キャプテンが船員に呼び出されて抜け出て行ったばかりだ。シリアスも有事の際にはブリッジへ呼び戻されることがあるだろう。 多忙な中時間を開けてくれた彼女に対する焔のせめてもの配慮だった。 カーネルとカイザーに挟まれているシリアスは、頷いて自分のプレゼントを開け始めた。
「これは・・・キーホルダーですか?」
「あ・・・」
呟かれた言葉に、今までずっと押し黙っていたレイザーが顔を上げる。どうやら彼からのプレゼントであるようだ。
「使用済みの薬莢で作られていますね。これは手作りですか?」
「はい、シリアス様」
ライフル用の弾丸5、6個で作られたキーホルダーは、振るとチリンチリンという高い音が鳴り響く。 澄んだ音にふっと相好を崩したシリアスは、レイザーに双瞳を向ける。
「ありがとう」
「・・・!ど、どういたしまして・・・」
シリアスに礼を言われて、レイザーは満足そうに微笑んだ。彼にとってはこちらの方がプレゼントになるかもしれない。 もっとも、まだ彼の手元にあるプレゼントは開けられてもいないが。
「はいじゃあ次はレイザーね〜」
焔の指図で開けられた彼のプレゼントは、カジノで使うコインのペンダントだった。
「あ、それ俺からな。実際に俺が使ってたヤツだから、ラッキーは保障つきだぜ」
ウィンクしてみせるカズキにレイザーは小声で礼を述べる。これまでの流れからして、次は自動的にカズキがプレゼントを開ける番だ。
「へえ・・・こりゃ、苦無か?」
贈り主が一発でわかる。
「護身用に使うでござる。ただし時折手入れをせねば切れ味が鈍ってしまうでござるが」
「これって、マジホンの鉄でできてるのか?」
「今どきの忍はそのようなもの使わぬでござる。大抵セラミックか、チタンでござるな」
「ちぇ、ヴィンテージじゃねーのかあ。ま、いっか。貰っとくぜ」
空影に礼を言ってカズキは苦無をしまい込んだ。
「じゃあ次は空影だね〜。もうここまで来ると贈り主が限られてきちゃってるけど」
空影が開けた包み紙の中身は、綺麗な組紐だった。
「それは私からだ。旅立つ時に妹から贈られたものでな。何でも縁結びのご利益があるらしいが・・・」
縁結び、と聞いて青年連中は思わず互いの顔を見合わせた。実際、彼らにはなかなか縁が無いものだ。(ただしドランは除く)
「くっくっく・・・そうか。菊殿がか。有難く頂戴するでござる」
当時から兄の将来を心配していたらしい妹御の姿を思い出しつつ、珍しく空影は笑っていた。 順番がレオンに来たところで、2回目の打ち止めである。
「これでもう全員開けたよね〜。それじゃ主、お待たせ〜」
「おーう、待ちくたびれちまったぜ!」
焔の合図に、最後に残ったタクヤが意気揚々とプレゼントを開け始めた。
「ったく、自分で言い出したんだろ・・・」
「でも、タクヤ君らしいよね」
「贈り主は誰が残っているのだ?私は覚えていないのだが」
「はてさて、名乗りを上げていない者が最後の方でございますよ」
ワルターとカーネルの会話を、シリアスは俯いて聞いている。 包み紙を破かずに丁寧にシールを剥がしていくタクヤは、なかなか開封するのにてこずっている。
「よっし、開いたぜ!・・・って、これ何だ?」
出てきたのは小さな円筒状の棒のようなものだった。金属製の筒の真ん中に切れ目が走っており、 両手で引っ張って開けると、中から現れたのは・・・
「・・・これ、口紅?」
「・・・私の好きな色ではありませんでしたから」
贈り主が渋々と名乗りを上げる。プレゼントの口紅は明るめのパールオレンジで、確かにシリアスの好きそうな色ではなかった。 実は選ぶのに困ったシリアスが母親の形見の化粧箱から持ち出したものであることを、カーネルだけが知っていて微笑ましく見守っている。
「でも、シャランラちゃんか主くらいしか使える人がいないねえ〜」
「男性は女性へのプレゼントにすれば良いでしょう。もっとも、相手がいればの話ですが」
きつい一言に独り身の男たちは身の竦む思いをする。自身も苦笑しながら司会の焔が最後の合図を言い放った。
「さてと、これで全員が終了したね〜。それじゃあパーティーはお開き、ということで〜」
「ああ〜つっかれたな〜・・・」
「ま、オチとしてはちょっと弱かったけどな」
「気にしない、気にしない」
「ダイ、このお菓子、いっしょに食べよ?」
「今日はもう遅いからね。また明日にしよ?」
皆思い思いの行動を始める。翼はカーネル達と共に食器の片づけを始め、ハヤタも手伝いながら余った料理をつまみ食いしている。 ロックやアドベンジャー達は部屋の飾り付けを外し始め、子供たちはもう遅いから、と銘銘の部屋に返されることになった。
「主」
「ん、なに?」
呼びかけられて振り返ったタクヤに、ドランはそっと身を屈める。
「後で、その口紅をつけた姿を見せてくれると嬉しい」
耳元で囁かれた内容に、思わずタクヤは顔を真っ赤に染め上げた。
「・・・ったく、バカヤロ!」



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