「サボンナ王国?」 石環海岸にある座礁したタンカーには、秘密があった。中には「C−62」というプレートが掲げられたSLが隠れているのだ。一つきりしかない客車のスクリーンを三人の少年が見入っている。そこには世界地図が表示されていた。アホリカ大陸の南西部、海岸沿いの一部がアップにされる。 「この国の国王が昔、遺跡から宝石を発見したらしいぜ」 今日は日曜日。学校に行く合間に手がかりを探し出してきたのはカズキだ。ドランが前回の事もあって、慎重そうに尋ねる。 『それが、パワーストーンだというのか?』 「でも、このキーワードとどういう関係があるの?」 「☆だぜ、星!」 カズキはすました表情で言った。 「最後まで人の話は聞くようにって、先生も言ってただろ」 「はいはい、わかりましたよ、カズキ先生」 タクヤは苦い表情でカズキの続きの言葉を待った。 「アドベンジャー、この辺アップにして」 『了解』 サボンナ王国の北東部に位置する場所がアップになる。山の等高線が映し出された。 『これはっ・・・・!』 「星の形!」 「サボンナ王国のシンボル、サボンナ山さ」 カズキは腰に手を当て、「どーですか」と言わんばかりだ。 『間違いない!』 「やりィ!」 「凄いや、カズキ君!」 「まあな」 抱き合って喜ぶタクヤとダイに、面と向かって誉められると照れくさいのか、カズキは頬を掻いた。 「それじゃ、アドベンジャー。早速サボンナ王国へ出発だあ〜〜〜〜!」 『了解!』 アドベンジャーのヘッドライトが光を放つ。タンカーの船体を傾けないように、慎重に海へ進水し、それから一気に空へと飛び出した。 その様子を見ている者がいた。遥か上空一万キロメートルからザゾリガンに転送された画像は、ワルターへと報告される。こちらも週末業務というか何と言うか。 「アドベンジャーの動きを確認しました」 「うん。進行方向から、お子達の目的地を割り出すのだ」 「はっ」 手早くアドベンジャーの直線移動距離を割り出す。 「進行方向上にある国はただ一つ。サボンナ王国です」 サボンナと聞いてワルターはほくそ笑んだ。 「ご苦労。今回は先回りして、先手必勝だ」 サボンナ王国は歴史の古い国だった。アホリカ大陸が植民地の憂き目にあった時代、ワルザック共和帝国はあえて同盟を結び、かの国の植民地化を防いだのである。今でも両国は極めて友好関係にあった。 カーネルは一応、ゴルドランとの交戦も踏まえて、新型ギアの補給を行った。移動中の退屈を紛らわすため、ワルターへの説明も怠りない。 「これが兵器開発局から届きました新型兵器、ソニックルです。背中の羽がイカス、ソニックルは飛行能力を持ち、両肩から繰り出すデンジャラスボムはあらゆるものを焼き尽くします。これで飛べないゴルドランは、正に鉄板で踊るタイヤキ、もとい、猫」 「解説ご苦労。しかし、先手必勝作戦が成功すれば、今回はメカの出番は無いかも知れないな。 ん? あれは何だ?」 無機質な色のギアハンガーの隅に、場違いなラッピングの塊が置いてあった。 「パワーストーンと交換するアイテムでございます」 ギアの補給と共に手配したカーネルの手腕の見事さだ。 「なるほど、ギブ&テイクというやつか」 「はい。この贈り物を御覧になれば、サボンナ王も納得のはず」 そこへ親衛隊員が報告を持ってきた。 「ワルター様! まもなくサボンナ王国です」 サボンナ王国は亜熱帯に属する、機械文明にそれほど執着していない国だ。国土の多くがジャングルに覆われ、そこに小さな村が点在していた。首都以外には大きな街もなく、ジャングルを切り開いてできた都は、石を積み重ねた伝統のある街並みで、他は全て緑豊かな森で覆われている。王の住まう宮殿は、石造りで風通しを良くするために、柱と柱の間に僅かに仕切りの壁をいれてあるぐらいの、開放感のある建物だった。ジャングルの一部を庭として整えてある。 ワルターとカーネルは、宮殿に国賓として案内されていた。サボンナでは床に胡座をかいて座るのが習慣である。ほど良い柔らかさのクッションは、色鮮やかに染め抜いた布に覆われ、目の前の床には同じく見事な染物の上に新鮮な果物を中心とした料理が床に並べられていた。彼らの回りを、美姫たちが音楽に合わせて歓迎の踊りを踊っている。 「はあ・・・・」 ワルターは終わりそうもない踊りに飽き、大あくびを漏らした。国王の姿も見えないし、仕方がない。 「ん?」 ぴょんと、美姫に混じって腹の出た仮面の男がワルターの前で数度飛び跳ねた。それもすぐに美姫の間に紛れる。眠気より興味が優先されたのはほんの一瞬で、再び大あくびをしてしまう。 「ふあ〜・・・いったい何時まで続くのだ。この歓迎の踊りは。こうしてる間にお子達が来てしまうぞ」 「若君、ここはもう少しのご辛抱を」 ようやっと音楽が終わり、整然と美姫たちが下がる。仮面の男がワルターの目の前に再び現れた。 「ようこそ、我が国へ!」 なんと、仮面を外して出てきたのは誰あろう、サボンナ国王だった。 「歓迎の踊りはどうだったかな?」 「え、いや、あはははは・・・・」 慌てて取り繕うようにワルターとカーネルは拍手をする。サボンナ王は欠伸をされたことは気にしないのか、それとも全く気づいていなかったのか、実に機嫌の良さそうな顔で笑った。単に踊ったことに満足しているだけかもしれない。 「そうだろ、そうだろ! ま、あんたらが何をしに来たのかは大体わかる」 サボンナ王はワルターの話も聞かずに、パチンと指を鳴らした。すぐに美姫が小箱を捧げ持ってくる。 「ニィ〜ん」 そこから碧の大きな宝石を取り出して見せた。 「パワーストーン!」 一瞬で機嫌を良くしたワルターは、笑顔で立ち上がった。 「さすがは国王様だけあって話が早い。もちろん、タダとは言いません。それ相応のお礼を。 例のものを!」 すかさず控えていた親衛隊員が、紅いカーテンに隠したアイテムを持ってくる。宮殿に随伴しているので、いつもの戦闘服ではなく、正装だ。 「Open the certain」 メインとなる贈り物は、高名な画家のものだ。サボンナ王が絵画に深い造詣を寄せているとのことで、用意させたものである。 「素晴らしい!」 「この絵の価値がわかるとは、さすが国王様」 サボンナ王は目を輝かせて、隅から隅まで絵を見た。 「うんうん、何と素晴らしい額縁だ」 「だあっ!」 意表を突かれた攻撃に、ワルターもカーネルもひっくり返るのを、辛うじて堪えた。 「契約成立! ア〜、サボンナ〜、サボンナ〜」 「何だかよくわからないが・・・・」 「上手くいったようですな」 「それでは・・・・」 ワルターがパワーストーンに手を伸ばそうとした時だった。パワーストーンを持ったまま、喜びに手を振り上げた。ワルターはつんのめりそうになる。 「よーし! それでは感謝の踊りといこうじゃないか〜! さあ! サボンナ〜、サボンナ〜♪ さあ、あんた達もご一緒に♪」 「はあ・・・・」 促されるまま、再び現れた美姫たちの輪に取り込まれる。 アドベンジャーは人目につかないように、海岸にある洞窟からサボンナ王国に侵入した。洞窟が外に続いていることは、彼らの能力でわかっている。 暗い中降り立ったタクヤの頭を、何かが騒がしく掠めていった。 「うわっ、なんだ!?」 「驚くことないぜ。ホラ」 カズキがゴルドライトで、天井を照らして見せた。逆さに止まっているコウモリの群れがいる。 「なんだ、コウモリか・・・・びっくりさせやがって」 吸血だったら結構コワイが。 「それにしても、もっとスマートにサボンナ王国に侵入できないのかなー」 「仕方ないだろ、目立つんだから」 『『すみません・・・・』』 金色の車と空飛ぶSLは自らの責任ではないのだが、反射的に謝ってしまう。ダイはゴルドスコープに付近の地図を映し出した。こういった機能もついているのだ。 「えっと、洞窟を抜けて、森を越えれば、サボンナの町に出るみたい」 「オッケー。それじゃ、また後で」 『何かあったら、すぐに呼んでくれ』 ドランが心配そうにヘッドライトを瞬かせた。 「わかってるよ」 ゆったりとした音楽と共に、流れていた舞が静かに終わる。ワルターは心地良い疲労感と満足感に酔っていた。 「カ・イ・カ・ン・・・・!」 「私も歳を忘れてハッスルしてしまいました」 「う〜ん、それは良かった」 踊り好きなサボンナ王は、ゲストの反応に大満足だ。 「おっと、そうだった」 すっかり温かくなってしまったパワーストーンをワルターに差し出す。こちらもすっかり忘れていたワルターは、言われてパワーストーンに手を伸ばした。 「おー、すっかり忘れていた。それでは・・・・」 パワーストーンは、窓のない開放された広間で、ジャングルから差し込む陽光をキラリと反射する。 アッオー! 突如、光物に惹かれたオウムが飛び込んで、サボンナ王の手からパワーストーンを奪い去った。 「あっ!」 「パワーストーンが!」 「このっ、泥棒トリめーーーー!!」 サボンナ王への挨拶もなしに、ワルターはカーネルは柱の間からジャングルへとオウムを追って飛び出した。 「待てーーーーっ!」 「ひい、ひい・・・・」 ジャングルを追いまわしているうちに、踊りで体力を消耗したカーネルは顎を出した。 洞窟を抜けると、そこはジャングルだった。この間のトコナッツ島よりも遥かに緑が濃い。本当に近くに町があるのか、疑問になってくる。そんな珍しい客人たちを、近くの茂みから、『何か』が、見ていた。 「ん・・・・ん・・・・」 落ち着かない様子で辺りを見回すダイに、ペースを落とした二人が尋ねる。 「? どーしたー?」 「何だか、さっきから誰かに見られてるみたい」 「お〜ば〜け〜」 「わあああっ!」 キョロキョロするダイの下から飛び出したタクヤに、ダイは悲鳴をあげる。 「だったりして〜」 「あのな、オバケは昼間は出ないもんだぜ? ダイ、気のせいだよ」 悪戯に笑うタクヤも、ダイの神経質なところも、カズキは軽く流した。 「そうだといいんだけど・・・・」 「むわ〜て〜〜〜〜〜〜」 「!? この雑巾を絞ったような声は・・・!」 「待て待てーーーー!」 向こうの茂みから、ワルターが走ってくるのが見えた。 「ああっ、悪太だ!」 「あれは、お子達!」 その声に、ワルターもタクヤたちに気づく。 悠々と空を飛んでいたオウムは、『何か』からの強烈な視線を感じて、パワーストーンを取り落とした。 「あれは!」 「パワーストーン!」 石に目を奪われる人間にも構わず、その場から逃げ出してしまう。 焦ったワルターは走るスピードをあげた。 「とられてたまるかーーっ!」 あわや両者が激突するかという瞬間。『何か』が茂みから飛び出した。 「あっ・・・!」 「わっ・・・・!」 パワーストーンの真上に立ちはだかり、お子達をエサとして睨みつけたのは、立派な鬣に覆われたライオンだ。急ブレーキをかけた四人は、無言で茂みの中に飛び込んだ。ライオンは人の匂いのするパワーストーンに気づくと、鼻を寄せた。サボンナ王が握り締めたあと、オウムの加えていたそれは、滅多に食べられない鳥の匂いもする。 「こ、こら! 返しなさい!」 「そんなの喰ったら腹壊すぞ!」 震える声で怒鳴るも、ライオンは美味そうだと思ったのか、ぱくりとパワーストーンを丸飲みにした。 「あーーーーーーっ!!!」 食事を終えたらしく、ライオンはそのまま茂みの中へと姿を消していった。食べられる危険が回避されたお子達は、茂みの中から飛び出した。 「悪太、悪ィけどパワーストーンはいただくぜ!」 そのままライオンを追って獣道を走っていった。ようやくカーネルが追いついた。 「ぜいぜい・・・・若君、良いのですか?」 「まあよい。どちらが先にライオンを捕まえるか、お子達のお手並み拝見といくか」 カズキの話によれば、ライオンもテリトリーを周回するらしい。タクヤたちのとった手段は、獣道にワナを仕掛けるというものだった。落とし穴の上にツタを切ったロープを渡し、その上にカモフラージュ用の草を重ねていく。 「ん」 「はい」 体重の軽いタクヤがロープの上に乗っかり、慎重に草を重ねる。ダイは気のない様子で草をタクヤに渡していた。 「ん!」 促しても草の感触がない。タクヤは振り返って少し声を荒げた。 「ほら!」 「あ、ごめん・・・」 少し離れた場所で、カズキは若いヤシの木をしならせ、木の上部に括りつけたロープを、幹の太い別の木に結わえていた。簡単なスパイクバンデージだ。 「んしょ・・・・。こっちは終わったぞ」 地面に戻って最後の草をかけたタクヤが、しゃがんだまま返事をする。 「こっちも準備OKだ!」 ダイは俯いて考えていた頭をあげた。 「・・・・やっぱり、やめようよ」 「はあん?」 「ライオンさんを落とし穴に落とすなんて、可哀想だよ。ライオンさんだって、心が通じればわかってくれるよ」 「あのね、そんなマンガみたいな事言ってんじゃないの」 「そうそう。心が通じなかったらライオンの腹の中だぜ」 「でも・・・・」 尚も言い募るダイの背後に、全長十mはあろうかという巨大なガラガラ蛇が、鎌首を持ち上げた。タクヤとカズキはギョッと身を仰け反らせる。 「人間と動物という関係を捨てれば、心が見えてくると思うんだ。ライオンさんだって、バッタさんだって、ヘビさんだって・・・・」 熱弁を振るうダイの背後で、先が二又に分かれた紫の舌が、チロチロと動く。今にもダイの頭をパックリと食べてしまいそうだ。何とか危機を知らせてやりたいが、二人とも声が出ない。 「あわわわわ・・・・うわーーーーーっっ!!」 「ちょっと、どうしたの?」 突如逃げ出した二人に声をかけようとするダイの頬を、冷たい舌が舐めた。 「あーーーーーーっ!!」 「「「うわーーーー!!!」」」 学年トップを誇る運動神経の持ち主は、あっという間に先行した二人に追いついた。巨大な大蛇は立ち木や岩もものともせず、音を立てずに獲物を追った。ちなみにガラガラ蛇の毒は「アポトーシス」と呼ばれる、細胞の自殺を引き起こすタンパク質を含有している。 「わーーーーーっ!!!」 タクヤたちは正面に見えた洞窟に駆け込んだ。大蛇が首を突っ込むには少々窮屈そうな入り口だ。岩壁に張り付き、息を潜めて、じっと中を覗き込む大蛇が立ち去るのを待つ。尻尾の先がガラガラとした威嚇の音を立てていたが、やがて大蛇は去っていった。 「はあ・・・・」 大きく息を吐き出して、大蛇の気配が遠のくのを待つ。背後で「グルルル・・・と獣の威嚇声が聞こえた。 「!?」 「ヤな予感・・・・」 「どう考えても、犬や猫の声じゃあないな・・・・」 「どっかで聞いたことあるよ・・・・・」 「あーーーー! 答えを知りたくなーーーい!」 それでも恐る恐る振り返ると、暗闇の中ではっきり見える金色の光。そのうちの一つが、姿勢を低く構えたまま暗がりから出てきた。お子達は似ている声だと思っていたが、実際は少し違う。美しい毛皮に覆われたヒョウが、激しい敵意を向けていた。 「お邪魔してまーす・・・・」 「おかまいなく・・・・」 「それでは・・・・」 「「「ヒョウだーーーーーッ!!!」」」 今度は洞窟も見当たらない。ヒョウは木登りも得意。絶体絶命のお子達の前に、中空に釣り下がった緑の袋が見えた。 「あれだ!」 飛び上がって袋の中に潜り込む。ヒョウは袋の下で忌々しげな鳴き声をあげると、去っていった。 「助かった・・・・」 「便利な隠れ家があったもんだぜ」 何かの植物であろうことはわかるが、とりあえずほっと胸を撫で下ろす。 袋の底に微かに溜まっていた水溜りが、徐々に量を増やしていった。靴先が濡れると、そこから嫌な臭いと煙が噴出した。 「うわ! なんだこりゃ!?」 慌ててまだ水のない壁面に張り付く。カズキはこの植物の外見を思い出した。 「これって、ウツボカズラじゃないの?」 「それって、昆虫食べちゃうヤツ!?」 ウツボカズラ。ヒョウタンかヘチマのようにぶら下がった袋が特徴で、その中に落ちた虫を消化して栄養にする食虫植物である。サボンナのこのウツボカズラは少々大きすぎるが。ヒョウもそれを知っていて去っていったのだろう。獲物を食われたと。 「それじゃ、このままいったら・・・・」 卒業記念写真には、先生を中心に集合しているクラスメイトと離れ、右上の隅に三人の顔写真が載ってしまう。 「ヤダーーーーーー!!!」 慌ててとっかかりの少ないウツボカズラの壁面をよじ登る。だが、流石は食虫植物。一度入ったものを容易には出させてくれない。 「くそっ!」 「僕が下になるから、先に出て」 歯噛みするタクヤとカズキにダイが言い、すぐにタクヤを肩車する。 「サンキュ!」 続いてカズキがダイに持ち上げられて、ウツボカズラの縁に手をかけた。 「急げ、ダイ!」 「わかってるよ!」 タクヤとカズキが外側にしがみついて上から手を差し伸べ、ダイを引っ張り上げる。 「早く・・・!」 「もう少し・・・・!」 「よっ・・・・うわっ!?」 体重が一箇所に固まったため、ウツボカズラのバランスが崩れる。三人はそのまま地面に叩きつけられた。 「おいてて・・・・」 「助かった・・・・」 立ち上がったダイは、顔を輝かせて二人を見た。 「僕、凄いことに気づいた!」 「なんだよ、いきなり」 「ガラガラヘビ→ヒョウ→ウツボカズラ→・・・・しりとりになってるよ!」 「あのなあ・・・・」 呑気なダイにタクヤがあきれる。だが、カズキはあることに気づいた。 「ということは、次は・・・・」 「ラ・イ・オ・ン・・・・?」 「『ん』がついたら終わりだ!」 がさがさ、がさがさと・・・茂みが揺れた。そして。 「うわーーーー! ライオンだーーーーーっ!!!」 飢えたライオンが、三人の前に踊り出る。タクヤがその場に倒れた。 「ライオンには死んだフリ・・・・」 「バカ! それは熊だろ!」 カズキとダイはタクヤの足を引っ張って走った。 「うわーーーー!」 速い。ライオンは時速50キロほどで走れるのだ。 「ダメだ! 追いつかれる!」 さっきから走り通しで、足がもつれそうになる。 「よーし!」 ダイはタクヤとカズキの限界を感じると、立ち止まらずに踵を返した。 「ダイ!」 「バカ! 死ぬつもりか!」 恐怖から来る震えをなんとか抑えようと、ダイはライオンの目を見詰めた。 「ミミズだってオケラだってダンゴ虫だって・・・・みんな生きているんだ・・・・友達なんだ・・・うう・・・・だ、大丈夫・・・・心が通じれば、ライオンさんだって・・・・」 そんなダイをあざ笑うように、ライオンが咆哮をあげる。大きく開いた口の奥に、碧色の宝石が光って見えた。 「あ! パワーストーン!」 ダイはパワーストーンのことをひとまず頭から追い出し、口笛を吹き始めた。恐怖でところどころ詰まったりするが、徐々にそれは澄んだメロディを持ち出す。 「大丈夫、だいじょうぶ・・・」 ライオンの喉の奥から響く唸り声が小さくなってくると、ダイは人差し指をライオンの鼻面の上に伸ばしていった。 「あ、あれはオールドアイリッシュマジック!」 「おーるど・・・なんだって?」 カズキはダイの意図を理解し、タクヤに説明してやる。 「あれはオールドアイリッシュマジックといって、動物と友達になる方法さ。口笛を吹きながら、指先を相手の頭の上から鼻先にゆっくりと下ろしていくと、安心するってワケだ」 かといって素人のダイが出来るとも思っていない。一応大きめの石を拾う。 ダイの指先が、ライオンの濡れた鼻先に降りた。 「えへへ・・・」 緊張の解けぬカズキとタクヤは、成り行きを見守っていた。 「やった・・・・」 「すげえ・・・・」 ガオウ! 鼻先に触られたのがお気に召さなかったのか、ライオンがまた吼えた。 「うわーーーーーっ! 大人はウソつきだーーーーっ!!」 一目散に逃げ出すダイに、ライオンを牽制しようとタクヤとカズキが石を投げる。 「ダイ!」 「危ない!」 返って怒りを倍増させたらしいライオンは、タクヤとカズキにもターゲットを定めた。 「うわーーーーーっ!」 「衛星がライオンを捉えました」 親衛隊員が手元のポケットコンピューターで、受信されたパワーストーンの波動を捕らえる。動きやすいサファリルックに身を包んだワルターは、狩猟用のライフルに弾をこめた。移動手段もジープに切り替えている。 「よし、追いかけるぞ。お子達はとっくにライオンの腹の中だったりしてな。ははははは・・・・ああっ!?」 「若!」 主人の弾込めを最後まで待たず、ジープが発進した。仰け反って落ちそうになるワルターを必死でカーネルが抑えた。 「もーダメだーーー!」 顎を突き出し始めたダイの手をタクヤが引っ張る。前方に、少し違う色の草が見えた。 「あれは!」 「さっきの所だ!」 ぐるぐるジャングルを回った挙句、トラップを仕掛けた場所に戻ってきたらしい。だが、これは格好のタイミングだ。 「よし、落とし穴に誘導だ!」 たっぷりついた助走で大きくジャンプをし、落とし穴を飛び越える。 「こっこまで、おーいでー」 タクヤがお尻をペンペンと叩いてライオンを挑発する。ライオンは、お子達よりもよほど手前から、大きくジャンプをして落とし穴を飛び越えた。その表情が、「そんな姑息な手にひっかからん」と、笑っているように見えた。 「わーーーーっ!!」 ダーン! 銃声が喧騒をかき消した。ライオンもその発生源に興味を持ったのか、首を巡らせる。 「悪太!」 「死にたくなかったら、そのライオンを渡すのだ」 ジープに乗ったワルターがライフルを構える。 「いやだ! ライオンさんは渡さない!」 ダイがライオンとワルターの前に手を広げて立ちはだかる。ワルターはそんなダイの迫力に少したじろいだ。 「ね? タクヤ君、カズキ君」 「どーぞ、どーぞ」 「もー、好きにしてください。悪太の大将」 振り返ったダイは薄情な親友たちにがっくりとうな垂れる。 「そ、そんなあ・・・」 ライフルを構えたまま、ワルターはゆっくりとライオンに近寄っていく。 「ゲーム終了だ。今回は私の勝ちのようだな。二人のように、利口になったほうが良いぞ。ははははは・・・・あーーーっ!?」 落とし穴に落ちたのだ。 「若君!」 慌てて駆け寄るカーネルと親衛隊員の頭を、ヤシの実が直撃する。タクヤとカズキがロープを切ったのだ。 「今だ! 逃げろ!」 タクヤたちの後を、ライオンも続いて逃げた。 「若君、大丈夫ですか?」 カーネルが上から覗き込んで安否を確認する。ワルター一人が立っても手が届かないほど、落とし穴は深かった。 「こうなったら森ごと焼き尽くして、ライオンとお子どもを焼き殺してくれるわ!」 「わかりました。ソニックルを準備いたします。ポチっと」 一緒に逃げたはずなのに、ライオンはしつこくタクヤたちに牙を向けている。 「どうする?」 「ドランに相談しよう」 タクヤがゴルドシーバーに視線を向けた時だった。数千羽の鳥が一斉に飛び立ったのだ。木の上の猿やトカゲたちなども、ある方向から逃げ出している。 「なんだか様子がおかしいよ?」 地響きと共に、赤い火柱が上がった。 「火事?」 「違う。悪太のやつ、この森を焼き払うつもりだ!」 「来てくれ、ドラン、アドベンジャー!」 『了解!』 ソニックルの両脇から、大量のデンジャラスボムが落下し、ジャングルを火の海にしていく。 「吐かぬなら 殺してしまえ ライオンちゃん」 「字余り・・・およ?」 今日のギアは複座式だ。後ろのカーネルのレーダーに、パワーストーンの動きが確認された。ジャングルを疾駆するSLと金色のスーパーカーの姿に切り替わる。 『アドベンジャーは火事の延焼を防いでくれ。私は主たちのもとへ』 『了解!』 アドベンジャーの十本の指から、大量の水が放出された。 『むっ?』 走るドランの足元に、頭上からビームがほとばしった。 「そう簡単にお子達の所へ行かせるものか!」 「思ったより火の勢いが早いな」 煙をなるべく吸わないように、ダイたちは這ってジャングルの中を脱出口を求めていた。水先案内人はライオンだ。地面の匂いを嗅ぐように、慎重に道を探している。 「本当に信じていいんだな?」 「うん。ライオンさんの野生のカンが、僕たちを安全な場所へ連れて行ってくれるよ」 ダイが自信たっぷりに、ライオンの後を追いながら言う。立ち止まって辺りを見回すライオンに、タクヤが不安そうに漏らした。 「方向オンチってのはナシだぜ・・・・」 「どうしたの?」 ダイはその様子に何かを感じ取ったのか、ライオンに近寄る。突如ライオンはダイに襲い掛かった。 「うわーーーー!!」 飛び退いて逃げた丁度その時、ライオンの真上に焼けた木が倒れた。 「ああっ・・・!」 「ライオンさん・・・ライオンさん、僕たちを守るために・・・・」 ダイは襲うフリをしてまで助けてくれたライオンのために涙を流す。そっと近寄ると、息はまだあった。気を失っているだけらしい。枯れた草に火が燃え移り、最早来た道も断たれてしまった。 「マジやべぇよ。前は行き止まりで後ろは火の海だぜ」 ダイはその言葉に決心した。 「よーし、一か八か、パワーストーンを取ってみる!」 「危険だ!」 反対するカズキだが、タクヤはダイを味方してくれた。 「でも、ここから脱出するにはそれしか方法がないだろ? それに、本物のパワーストーンだったら、あいつも助けられるしな!」 「タクヤ君・・・・」 ダイはそっと目線で「ありがとう」と伝えた。牙を避けるため、大きめの枝を拾ってライオンの口をこじ開ける。 「ライオンさん、ごめんなさい!」 意識のないライオンの口を開くのは意外に大変で、ダイはやっとのことでタクヤが手を入れられるだけの隙間をつくった。 「よーし、いい子だからそのまま眠ってな・・・・」 生暖かいライオンの吐息が、タクヤの顔にかかる。微かにグルルと声がした。 「げえっ!?」 頭上からソニックルが、ドランをいたぶるようにビームバズーカを連射した。 『くっ、う・・・あっ!?』 ビームに弾き飛ばされるドランの上で、ワルターの嘲笑が響く。 「可哀想だねえ、飛べないロボットさんは・・・・」 『くうっ・・・・このままでは・・・・っ!』 「タクヤ君、早く・・・・」 ライオンの顎の力に、つっかえ棒にしている木の枝も、もうすぐ折れてしまう。ダイはなんとか棒を支えて、少しでも時間を引き延ばそうとしていた。 「わかってるっ!」 喉の奥にひっかかっているところを掴むのだ。ライオンの口の中を傷つけないよう、タクヤも一応気を使っている。 「もたないよ・・・・・」 「くそう、あと少し・・・・」 掴んだ! 「復活の呪文、早く!」 カズキに急かされ、タクヤは早口言葉のように復活の呪文を唱えた。 「黄金の力護りし勇者よ! 今こそ甦り、我が前に現れ出でよーーー!!」 呪文が終わった瞬間、カズキたちの上にも木が倒れた。 「あーーー!」 森に碧の光が走る。それは珠の形に収束し、空へと舞い上がった。 光が収まった時、タクヤたちは銀と赤のロボットの掌に、大事に守られていた。助かったことがまだ少し不思議そうな主に、彼は言葉をかけた。 『私は、空の騎士 ジェットシルバーです。主よ、ご命令を』 タクヤが掌の上で立ち上がる。 「よーし! ジェットシルバー、悪太のロボットをやっつけろ!」 『ラジャー!』 ジェットシルバーは「空の騎士」の名に相応しく、銀の鋭利な翼で身軽に空を飛び、煙のこない崖の上に主を下ろした。すぐにパワーストーン以外の金属反応を探し出すと、その姿を変えた。 『チェンジ!』 ジェットシルバーが変形したのは、銀色のシャープな外見を持つ戦闘機だ。そのまま彼は素晴らしいスピードで戦場へと馳せ参じた。眼下に、ソニックルに体当たりされ、倒れ伏したドランがいる。 「とどめだ!」 『待ちなさい!』 ジェットシルバーは空中で人型へと変形を果たすと、背中の槍と盾を構え、ソニックルと相対した。 『このジェットシルバーがお相手しよう』 『ジェットシルバー!』 「やはりあれは本物でしたか」 「うぬぬ・・・・またもや勇者を目覚めさせられるとは! こうなれば地上に落として、まとめて破壊してやる!」 ワルターはビームバズーカを構えると、トリガーボタンを押した。が、避けられる。 「くそっ!」 ターゲットも定めずに連射をしても、かすりもしない。 「速いッ!?」 『ジェットスピアー マッハ突きーーーーー!!』 ジェットシルバーが繰り出す無数の突きにより、ソニックルの翼がもがれ、各部に穴が空いた。 「しまったーーーー!」 落下したソニックルに、ジェットシルバーはドランに向かって微笑んで見せた。 『ドラン、後は頼みましたよ』 『心得た!』 ドランはゴルゴンを喚び、合体を果たす。ワルターはビームバズーカをゴルドランに向けて足掻いた。 「くらえっ!」 光の奇蹟を、スーパー竜牙剣が切り裂いた。そのまま一気に加速をかける。 『一刀両断斬りーーーーー!!』 爆発と共に二人乗りの脱出ポッドが射出された。 「おのれ、三度ならず四度までも! 憶えておれーーーー!」 「これで三人目か。この調子でじゃんじゃん見つけようぜ!」 「そうだな」 焼けてしまった森を背景にしたゴルドランたちの姿が、ダイには場違いなほどきらびやかに見える。タクヤはそんなダイに気づくと、背伸びをして、俯いているダイの首を腕で抱きこんだ。 「元気だせよ、ダイ」 「う、うん・・・・」 そういう気遣いのできるタクヤが嬉しい。背筋を伸ばそうとしたダイたちの背後で、重厚な獣の咆哮がした。崖の上で夕陽の中、揺ぎ無い力強さを秘めた声が、何度も何度も響いた。力強く引き締まったライオンの体が、美しいと思う。 「無事だったんだ・・・・」 「百獣の王、ライオンか・・・・」 「うん・・・・」 やがてライオンは鬨の声をやめ、飽きずに自分を眺めていた少年たちの方を振り返った。鬣が夕陽をきらきらと反射させ、金色の光を纏っているように見える。 「あいつ、オイラたちに何かいいたそうだな」 「僕には聞こえたよ。『ありがとう』って」 「『ありがとう』、か・・・・」 心が通じるとはこういうことか。その余韻を大事にしていると、突如ライオンが襲い掛かってきた。 「うわーーーーー!」 逃げても追う、追って来る! さっきの騒動で一層腹を減らしたのか、口の端によだれが見える。 「何が『ありがとう』だ! 全然違うじゃねーか!」 「所詮、ライオンはライオンだあ〜〜〜〜〜!!」 ドラン、主を助けてやれ。 |
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