The Brave of Gold GOLDRAN




 石環海岸。座礁して撤去されずにいるタンカーの中には、何故かSLがあった。
 今日は土曜日。そのSLアドベンジャーの中には、三人の子供が乗っていた。ゴルドスコープのモニターには、次のパワーストーンのヒントが映し出されている。円の周りに八本の線が出ている、絵日記に描く晴れマークだ。
「お、出た出た。これがジェットシルバーの憶えてたパワーストーンのヒントだな?」
『そうだ。主たちはその形をヒントに、次のパワーストーンを探すのだ』
「わかってるよ、ドラン」
 タクヤが振り返って金色の車を見上げる。カズキはドランの言い方に、常々思っていたことを口にした。
「けど、相変わらず家来のくせに偉そうだな」
『そうか?』
 本人はいたって偉そうだと思っていないらしい。タクヤは下僕の偉そうな態度には気をまわさず、ゴルドスコープを持ち上げて眺めた。
「何かな〜この形? ハゲ頭のオヤジを上から見た所・・・・いや、タコの断面図かも」
「素直に『太陽』って考えた方がいいなじゃない?」
 ダイが呆れた感じで、タクヤを横目で見た。
「だよな」
「ん? ちょっと待てよ」
 カズキは足元に置いてあるカバンの中を漁り始めた。
「どっかで見たことあるな・・・・」
「ええ!?」
「ホントか、カズキ!」
「これだ!」
 教科書とノートの間から引っ張り出した本を二人に見せる。
「?」
「これって村田和美の写真集?」
「あ、違った」
「おっと、ちょっと見せてね〜」
 引っ込めようとするところを、タクヤが素早く引っ手繰る。ダイも好奇心で写真集に見入った。学校のクラスでも人気の高いグラビアアイドルだ。
「カズキ君が村田和美のファンだなんて知らなかったよ」
「カズキってばクールな顔してカワイコちゃんには目がないんだから〜」
 肘でつつくタクヤを無視して、今度はちゃんとカバンの中で確認する。
「うるさいなー。俺が見せたかったのは・・・・こっちだ!」
 今朝、学校に行く前にコンビニで買ったカー雑誌を取り出した。巻頭特集の記事名がデカデカと印刷されている。
「ファイヤーボールレース?」

恋は過激な火の玉レース!





「大西洋に浮かぶアメリコーン島で毎年開かれる、世界最大のレース。それがファイヤーボールレースさ」
 雑誌にはファイヤーボールレースの開催地、歴史、今年のエントリー予定者、勝敗の予想、賭博の許されている国でのオッズ、コースなどが記載されていた。
「でも、それがどうパワーストーンに関係あるんだ?」
「これを見ろよ」
 カズキが更にページをめくる。
「あー! これって・・・・」
「ヒントのマークとパワーストーン!」
 主催者の写真の下には、優勝カップの写真が大きく載せられている。金色の優勝カップの中央には、ヒントのマークが刻まれ、その中には碧の宝石が填まっていた。
「このカップについているのは『アメリコーンの星』っていう宝石で、古代アメリコーンの遺跡から発見されたものだって言われてる」
「間違いないよ! これ、パワーストーンだよ!」
「でも、なーんで優勝カップなんかについてんの?」
「元々、ファイヤーボールレースは、古代アメリコーンで行われてた、太陽神に捧げる戦車レースが元になってるんだ。このマークも、太陽神を表す古代文字なんだよ」
 すっかり記事の内容を暗記したカズキが、タクヤの疑問に答える。
「ふーん。ってことは、レースに優勝すれば、パワーストーンが手に入っちゃうワケじゃん!」
 ついでに賞金も。タクヤの頭の中では既にソロバンが弾かれていた。
「まさかタクヤ君・・・・レースに出る気じゃ・・・・」
「あたぼうよ!」
「でも車が・・・・」
 ついでに免許もない。
「あるじゃねえか」
 自信たっぷりにタクヤが後ろを振り返る。
「「え??」」
『ええっ!?』
 主たちに期待のこもった視線を向けられたドランは、何故か寒気がした。
「なるほど」
「ドランなら優勝間違いなしだね!」
「そういうこと! ってなわけで、善は急げだ!
 アドベンジャー! アメリコーンに向けて出発進行!」
『了解!』


 レース会場は熱狂的な空気に包まれていた。ノリの良い実況アナウンサーが、満席の会場の空気を更に盛り上げる。ファイヤーボールはルール無用の、エンターテイメント性の高いレースだ。サーキットでの周回ではなく、公道やオフロードも使う。参加資格はとくにないので一般人も参加でき、参加車の改造に制限はないし、走行中の妨害も許される。賞金も高いので、見ている方も興奮する。
『さあ、いよいよアメリコーン最大のイベント、ファイヤーボールレースの始まりだあ〜!
 御覧の通り、難所からなるルートを通り、一番速くここへ戻って来た者が、It's Champion!
 さあ、皆カウントダウンの用意はいいかー!?」
「Year!!」
 10、9、8、7、6、5、4・・・・
 フォーミュラーマシンやバリバリの改造車の入り混じる中、一際目立つのは、一億円でも安いと言われるFマクラーレン似の、黄金の車だ。ちなみに「父親の代理で登録に来ました」と言っただけで参加できた。いい加減である。
「いよいよだな、ドラン!」
『うん!』
 形だけハンドルを握っているタクヤが、ドランに声をかける。パワーストーンのため、ドランは与えられた使命を果たさんと気合を入れる。
3、2、1・・・・
「行けっ、ドラン!」
『心得た!』
 ドランは一斉に走り出した集団から抜きん出た。
「すっげえ加速だ!」
「これなら優勝間違いなしじゃん!」
 急速に移り変わる外の景色を眺めていたダイが、左後方から迫ってきた一台の車に目を止めた。
「ん? あれを見てよ!」
「はん?」
 横を見ると、極端に大きな後輪を持つF1マシンが砂煙をあげて走ってくる。低く、細長くとられたサスペンション部やディフレクターとは対照的に、座席を高めに作られたコックピット。巨大な後輪タイヤに合わせて、エンジン、カウル、ギヤボックス、エギゾースト、インダクションポッドが大きく作られていた。窓ガラス越しにドライバーと視線が合う。
「あ! 悪太の野郎!」
「お子達よ、優勝の栄冠とパワーストーンはこの私のものだ」
 並走すると、ドランはワルターのマシンの半分ほどしかないように見える。

「聞こえますか、若君」
「何だ、カーネル」
 上空のザゾリガンでサポートに徹すると言ったカーネルから連絡が入った。
「調子は如何でございましょう?」
「順調だ。何かあったら連絡する」
 通信を切られて、カーネルは肩を竦める。
「やれやれ。わざわざレースに出なくとも、会場を直接攻撃すればパワーストーンは手に入るというのに。
 まあ、良いか。これも若君のご道楽。それにいざとなれば・・・・我が国の陸上兵器で最高のスピードを誇るギア、ターボラーで作戦を成し遂げるまで」

 サーキットを飛び出し、舗装された道路から広い砂漠に入る。悪路にドランの車体がガクンと揺れた。ダイは登録時にもらったコースの地図を眺めている。
「タクヤ君、そろそろ砂漠だよ」
「もう入ってるよ」
 疾走するドランとワルターのマシンのあげる砂煙で視界が遮られる。後続のマシンが互いにぶつかり、次々とリタイアしていった。
「すっげえクラッシュ!」
 カズキは初めて見る生のレースに興奮を隠せない。
「何か、今日の悪太ってすっごい真面目だね」
「ああ。もっとヒキョーな事してくれうと思ったんだけどなー」
 例えばミサイルを撃ってくるとか、マキビシをばら撒くとか。
(ふふふふ・・・・私は今、マシンと心を通わせ風になる。Good speed you。
 お子達よ、今回ばかりは真摯な態度で望ませてもらうぞ)
 キラリと白い歯を光らせるワルターとお子達の背後から、戦車を改造した究極のオフロードマシンが迫ってきた。妨害はOKだが、流石に大砲は積んでいない。
「前進あるのみ! 死ぬ気で行けーーーー!」
「はいー! 軍曹!」
 砂漠に強い戦車改は、二台の間を抜いていく。
「ぬわにー!? この私を抜き去るとは許せん!」
 ワルターはトランスミッションの隣りにあるボタンを押した。マシンの脇からミサイルが発射され、戦車改を吹き飛ばす。
「ホントに死んだらどうするーー!」
 一応ドライバーたちは無事だった。
「ぶわっかめー! 私の前を行こうなど百年早いわ! ついでに後ろのヤツラをまとめて片付けてくれる!」
 ディフューザーの下からバラバラと地雷が吐き出され、運悪く当たった者、踏みつけた者たちが、次々と爆発していった。
「あ〜あ」
「やっぱり・・・・」
「いつもと同じか」
 キノコ雲を呆れてみていると、マシンの屍を飛び越え、一台の車が飛び出した。
「あ、あれは・・・・!」
 大きくバウンドすると、ドランとワルターの間に入る。
『速いっ・・・・!』
 カズキは、飛び出してきた赤いマシンに乗っているドライバーを見た。ヘルメットも被らずゴーグルだけで、長いカールのかかった金髪を風になびかせている、女の子だった。彼女と視線が合う。
「・・・・・!!」
 ピンクの唇で余裕の微笑をカズキに送ると、表情を引き締め、あっという間にドランとワルターを抜き去った。
「おにょれ、女〜〜〜〜〜!」
 ワルターは再びミサイルのスイッチを押したが、彼女はそのどれもを余裕でかわし、同時に砂丘や穴を避けた。ミサイルを撃ち尽くしたワルターに向かって、振り返らずに手を振り、更に加速をかけて去っていく。
「ひょー! かっちょいい〜!」
 その颯爽とした姿に思わず見とれたタクヤが感嘆の声をあげる。
「ドラン、スピードを上げろ!」
 カズキが意気込んで命令した。
「ほえ?」
「『ほえ?』じゃないよ。あの女の人に優勝されたら、パワーストーンが手に入らないよ」
 ダイが説明する。
「あ、そうか。急げ、ドラン!」
『心得た!』
「くっそー! 負けるものかーーーっ!」
 ドランに遅れること数十メートル。ワルターも後を追う。
 カズキはさっきのほんの一瞬を思い起こしていた。視線の合った、ほんの一瞬の微笑。
「・・・・アイドルなんてメじゃないぜ!」


『さあ、早くも十数台がクラッシュするという波乱のスタートのファイヤーボールレース!』
 サーキットの電光掲示板は、上空からの映像を映し出している。実況アナウンサーは会場の騒ぎに負けじと声を張り上げていた。
『先頭集団は砂漠地帯を抜けて、ウルトラキャニオンに突入だあーーっ!』


 ウルトラキャニオンは絶壁とも言える岩壁を削ったわずかの道を走る難所である。ほぼ直角、あるいはそれ以下のコーナーに、遥か下に見える川。恐怖心でスピードを落としたドライバーたちが、次々とマシンをクラッシュさせていった。
「どわーっ!」
 ワルターがほんの僅かのスリップで、タイヤを崖の外に飛び出させてしまう。落ちたら渓谷にまっさかさまだ。ザゾリガンでカーネルが顔を青くした。
「若!
 マグネティックウェーブ!」
 ザゾリガンの底部に設置された巨大な電磁石が、ワルターのマシンを引っ張り上げた。余波で何台かのマシンも助かった。
「はあ〜・・・・流石は私だ。とっさに野生の勘が目覚めたようだ」
 ワルターは冷や汗を拭うと、レースに戻った。

 タクヤたちの前方に、赤い車が見える。彼女のものだ。
「急げドラン! フルパワーだ!」
『うおおおおおーーーー!!』
 決してコンディションの良いとは言えない道で、ドランは全力を出した。
「いいぞ、ドラン!」
「頑張れ!」
「あと少しだ!」
 ついに彼女と並ぶ。
「よーし、一気に追い抜け!」
「じゃなくて、このままだ!」
 カズキが叫んだ。
「え?」
「ちょっとこのままでいてくれ!」
 二人の主からの相反する命令に、ドランが戸惑う。
『どういうことだ、主よ?』
「さあ?」
「もう、タクヤ君ってば、ニブいんだからv」
「へ?」
 ダイは窓ガラスにぴったりと張り付くカズキを指差した。
 相手の様子を伺おうと、彼女が横に視線を向ける。カズキと視線が合うと、微笑して見事なテクニックで二台の隙間を埋めた。
「良い走りしてるわね」
 カズキは自分の声を伝えられるように窓を開けた。もちろん、彼女の声はちゃんと聞こえた。
「あ、あの・・・・」
「え?」
 カズキの蒼い髪が風圧に弄られる。それに負けないよう、精一杯の声を絞り出す。
「な、名前! 教えてくれないかな・・・・」
「わたし? わたし、クリスよ!」
「俺はカズキ! あ、あの・・・・」
「じゃあねー。カズキ!」
 クリスは年下の少年にウインクをすると、スピードをあげてトップに立った。
「ああ、待ってくれ!」
 車外に身を乗り出しそうになるカズキを、タクヤがヘッドロックをかけて引き戻した。顔がにやけている。
「カズキ! おまえ、あのねーちゃん好きになっちまったのか?」
「るっせーな。おかしけりゃ笑えよ」
 タクヤの腕を振り払い、俯いて顔を赤くするカズキに、タクヤは優しい視線を送った。
「笑わねーよ。このレースにバシッと優勝してさ、あのねーちゃんにイイトコロ見せてやろうぜ!」
「そうしたら、もしかしたらカズキ君のこと、好きになってくれるかもよ」
「あ・・・・・サンキュー!」
「ってなワケだ! ドラン、カズキの初恋がかかってんだ! しっかり頼むぜぇっ!」
『主よ、パワーストーンの方も・・・・』
 妙な雲行きに、ドランが不安そうな声を出す。
「わーってるって! 見事レースに優勝して、恋と名誉とパワーストーンを、全てをこの手にしようじゃないの!」
『心得た!』
 ちゃんと覚えてくれていることに安心し、ドランは更に加速をかけた。


『さあ、先頭集団はウルトラキャニオンをクリア! だが、油断は禁物! お次に控えているのは、恐怖の大河! シミミッピー川だあ!!』


 シミミッピー川は川幅数キロにも及ぶ大河だ。ウルトラキャニオンから流れ出た激流で、落ちた者の命はないとさえ言われている。クリスとドランは、順調にそこに架けられた橋に向かっていた。
 一方のワルターは、ある作戦のために、ザゾリガンに吊り下げてもらって移動していた。
「ふふふふ・・・・これで45秒後に爆発だ」
 ワルターは手の中の円盤に「45」と数字をセットすると、最後にボタンを押して橋に向かって投げた。円盤はそのまま水面ぎりぎりを飛び、橋の中央の真下に張り付いた。
「爺よ、作業は完了したぞ」
「かしこまりました」
 そのまま川の対岸に下ろしてもらい、岩陰に隠れる。爆発を見届けてから出発するつもりだった。
「急げ、ドラン!」
 クリスのやや後方をドランが走っているのが見えてきた。
「ふふふふ・・・・ジャストタイムだ。10秒前・・・・9,8,7,6,5,4,3,2,1,0・・・・・」
 何も起こらない。
「アレ?」
 そのまま二台は橋を渡りきり、ワルターの目の前を通過した。
「何故だ! 何故爆発せん!?」
 ワルターは勢いに任せてカーネルに通信を入れた。
「『分』だと!?」
「はい。時限爆弾にセットした数値はいくつでございました?」
「45だ!」
「それでは、爆発は45分後でございます」
「・・・・図られたか!」
「誰も計ってはおりませんが」
「う゛・・・・・・」


『さあー、先頭集団はシミミッピー川を通過! いよいよ脅威のロングハイウェイに入ったーーー!』


 レースのラストは地平線の彼方まで続くかのような超ロングハイウェイだ。これはそのままサーキットの入り口、すなわちゴールに繋がっている。今までと比べて格段に条件の良くなった路面で、クリスとドランは並んで一進一退の攻防を繰り返していた。
「行くぜ!」
 何故か真ん中のドライバーシートには、何時の間にかタクヤではなく、カズキが座ってハンドルを握り締めていた。
「ったって、運転はドランがやってんだろー」
「そうだよ、カズキ君」
「野暮な事言うなよ! 気分だよ、気分!」
 隣りのクリスに目を向けると、カズキにタイミングを合わせるようにクリスが視線を向ける。そのまま意味ありげに微笑し、ハンドルの下のレバーを引いた。カウルから出現したロケットブースターが一気にドランとの距離を引き離す。
「は〜〜〜〜〜〜・・・・」
「くそっ! こっちもスピードアップだ! ドラン、行け!」
『もうやっている!』
 ドランにはこれがもう限界だった。クリスのマシンはどんどん距離を開けていく。
「負けねーぞーーーーーーーーッッッッ!!!!」
 カズキは思わずアクセルを全開まで踏み込んだ。自分が運転しているわけでもないから、どうなるということでもない。それでも、ただただクリスに勝ちたかった。それだけなのだ。他の雑念が一切取り払われ、視界にはクリスしか映らない。ドランのドライビングに合わせてカズキが操縦する。無心の、無形のエネルギーが、ドランに流れ込んできた。
「スピードが速くなった!」
「ドラン、もう限界じゃなかったのか?」
『確かに私の性能は限界だ。だが、カズキの勝利を望む心が、私に性能以上の力を引き出させているのだ!』
 ドランとクリスがとうとう並ぶ。追ってきたカズキと、追いつかれたクリスは、互いに熱い視線を合わせた。
 三位に自ら下りてしまったワルターの視界には、最早前方二台の姿は見えない。
「と、とても追いつかん。かくなる上は・・・・!」


『おっと! 先頭の二台が見えたーーーー! 物凄いデッドヒートだ! 優勝はこの二台のどちらかだーーーーー!!』


「頑張れ、ドラン!」
「カズキ君もファイトだよ!」
「おう!」
「負けないわよ!」
「俺だってーーーーーー!!」
 エンジンが焼き切れるほどにアクセルを踏む。尚もスピードを上げ続ける二台の車は、同時にチェッカーフラッグを受けた。
『さあ、勝ったのはどっちだーーーーーっ!?』
「なんだ、あれは?」
 写真判定を待ち焦がれる観衆の前に、カスタムギアと、フォーミュラーマシンタイプのギア・ターボラーが下りてきた。
「あれは・・・・」
「悪太!」
「レースなどどうでも良い! パワーストーンさせ手にはいればな!」
 ターボラーが、表彰台の前に着陸する。レースを真に愛する男たちが、カップの前に立ちはだかった。
「邪魔だーーーー!」
 体当たりに驚き、逃げるスタッフを他所に、ターボラーが表彰台に激突する。優勝カップは宙を、弧を描いて飛んでいった。
「あーーー!」
 カップはそのままゆっくりとスピードを落としていたクリスのマシンのフロントに落ちた。
「?」
「くっそー!」
 轟音を立ててターボラーがクリスに迫る。
「きゃあっ!」
 通常のマシンの五倍はあろうかというその威容に、豪胆なクリスも顔を青ざめさせ、再びアクセルを全開にした。
「ああ、クリス!」
「ドラン、悪太を追うんだ!」
『心得た!』
 だが、走り出したドランはカスタムギアの集中砲火に晒された。
「うわー!」
「アドベンジャー、ジェットシルバー! 応援頼む!」
 タクヤはスピンで舌を噛みそうになりながら、待機している二人に指示を出した。
『了解!』
『ラジャー!』
 クリスは狭いサーキットから逃げ出した。ロケットエンジンの燃料はまだ残っている。
「待てーーーー!」
 しつこい攻撃に、ドランは逃げ惑うクリスを助けることができない。
「このままじゃ!」
「ドラン、合体して空を行くんだ!」
『すまぬ。ゴルドランに飛行能力はない!』
 ワルターは知りえ得ていたことだが、タクヤは初めて知った。
「あ、そうなの・・・・」
「危ない!」
 目の前にカスタムギアが。
「うわーーー!」
 銃口が火を吹く前に、カスタムギアが爆発した。お子達の表情が明るくなる。
『待たせてすまん!』
『ここは私たちに任せてください!』
 アドベンジャーとジェットシルバーが変形する。
『主たちは早くパワーストーンを!』
「よし、頼んだぞ! ドラン!」
『心得たー!』
 ロングハイウェイに出たドランを、カスタムギアが追う。ジェットシルバーとアドベンジャーはその前に立ちはだかった。
『待てい!』
『私たちが相手をします! バードチェイサー!』
 ジェットシルバーの盾から、ミサイルが発射される。


「ふふふふ・・・・レースで私の前を走った報いだ! さんざん怖い目にあわせてやる!」
 ターボラーの横から出た腕が、ハンディキャノンを発射した。さっきの妨害ミサイルとは比べ物にならない。直撃こそ免れたものの、余波でクリスの運転が危ぶんだ。
「・・・・・っ!」

「無事でいてくれ、クリス・・・・」

 クリスはシミミッピー川に差し掛かった。
「お遊びはここまでだーーー!」
 ビームが路面を直撃する。目の前で起こった爆発にクリスのマシンが大きく飛ばされる。
「キャーーーーー!」
 フロントに引っかかっていた優勝カップが宙を飛んだ。
「いただきー!」
「あーーーー!」
『チェーンジ!』
 悲鳴をあげるクリスを、変形したドランがマシンごと掌でキャッチした。そっと地面に下ろすと、カズキが慌てて駆け寄る。外傷は見当たらない。
「おい、大丈夫かい、クリス」
「あ、うう・・・・あ・・・・」
 目を開けたクリスにカズキは破顔する。
「良かった!」
 まだ意識が朦朧としているのか、視線を彷徨わせるクリスとそれを見守るカズキの耳に、ワルターの高笑いが聞こえた。
「わはははは・・・・!」
 おかげでクリスも正気に戻ったが。そのワルターは橋の上でターボラーを止め、その上で高笑いをしていた。
「やったぞ! ついにパワーストーンをこの手にしたぞ! うふふふふ・・・・」
「あーーーーっ! パワーストーンが!」
「では、復活の呪文を唱えさせてもらおう。
 黄金の力護りし勇者よ!」
 タクヤが指を咥えて悔しがる。そこに、何処か電子的な音が聞こえてきた。
「? 何だ、この音は?」
 何かのタイムリミットを刻むような音。
「そうか、さっきの時限爆弾!」
(爆発は45分後でございます)
「・・・・・え?」
ドッカーン!!!
「あいつ、自爆したぞ?」
 爆風に乗って優勝カップが落ちてきた。多少煤けてはいるが、形は崩れていない。
「やりい! パワーストーンだぜ!」
「早速復活の呪文を!」
「わかってらい! いくぜ!
 黄金の力護りし勇者よ! 今こそ甦り、我が前に現れ出でよ!」
 優勝カップから眩い光が放たれる。光が薄れると、そこには銀と青の巨人が立っていた。盾と両刃の剣を掲げ、主に挨拶をする。
『オレの名は、星の騎士 スターシルバー。よろしく頼むぜィ』
「オイラは主のタクヤってんだ! よろしくな!」
『おーし!』
「何だか軽いヤツ」
「タクヤ君と気が合いそう・・・・・!?」
 地面が揺れた。水柱が立ち、川の中からターボラーが現れる。
「勝負はこれからだーーーー!」
 煤けたワルターは叫ぶと、ターボラーを人型へと変形させた。
「ドラン、合体だ!」
『心得た! ゴルゴーン!』
 ゴルドランへの合体を果たすと、すぐさまスーパー竜牙剣を引き抜く。
『一刀両断斬りーーーー!!』
「ターボラーを舐めるなよ!」
 バックで加速をかけ、ホバリングで突進してくるゴルドランを引き離す。
『何!?』
「ははははは・・・・! 見たか、ターボラーのスピードを! くたばれ!」
 ターボラーのハンディキャノンが直撃し、ゴルドランは刀を取り落とした。
『おおっ!』
「ああー!」
「ゴルドラン!」
「くそっ! なんてスピードだ!」
『スピードならオレに任せろ! チェーンジ!』
 スターシルバーはパトカーへと変形すると、ターボラーに並んだ。
「ふふふふ・・・・このターボラーより速いマシンなど、この世に存在せんのだ」
『そいつぁどうかな?』
「いっ!?」
 突如聞こえた声の方向に視線を向けると、足元を見慣れぬパトカーが走っている。
「な、何ぃ!?」
『地上最速のマシン。それはこのスターシルバー様さ!』
「何とーーー!」
 スターシルバーはターボラーの遥か前方でUターンした。
『チェーンジ!』
 剣を構え、スピードののった体で、一気にターボラーに詰め寄る。
『スターソード 流星斬りーーーー!』
 スターソードが、ハンディキャノンを持つターボラーの腕を切り落とした。
「どわーーー!」
 ターボラーの武装はこれしかない。
『今だぜ、ゴルドラン!』
『かたじけない!』
 ゴルドランの脚部前面にあるレッグバスターが開き、肩の四連装ショルダーバルカン、手首に発射口のあるアームシューターの安全装置が外れる。
『一斉掃射!』
 それまで情報のなかったゴルドランの武装が、一斉に火を吹いた。避けることもできずに、ターボラーは爆発する。
「おのれ、四度ならず五度までも! 憶えておれ〜〜〜〜!」
「やりい!」
 ワルターの脱出ポッドが見えなくなったところで、カスタムギアを片付けたアドベンジャーとジェットシルバーが駆けつけた。
『ゴルドラン!』
『どうやら終わったようだな』
『ああ。スターシルバーのおかげだ』
『へっへへへ・・・・まあな!』


 表彰式も終わり、観客もスタッフもいなくなった夕暮れのサーキットで、クリスは一人、マシンの整備をしていた。もともとフリーの草レーサーだ。整備も改造も自分でやる。サーキットスタジアムからその様子を覗いている三人の子供がいた。
「しっかり、カズキ君」
「うるせーな」
 カズキの手には、パワーストーンのなくなった優勝カップがあった。ちゃんと磨いてピッカピカだ。
「早く愛の告白してこいっつーの!」
「「ほれ」」
「あ、あ、よせ! わあ!」
 タクヤとダイに押されて、カズキはサーキットに落ちた。
「?」
 音にクリスは振り返った。無様に落下していたカズキは電光石火で立ち上がり、背筋を伸ばす。
「あ、あ・・・あの・・・・」
 しどろもどろの少年に、クリスはちょっと不敵に笑ってみせた。
「何?」
「その・・・その・・・・」
 夕焼けよりももっと赤く、カズキの頬が染まる。出歯亀連中は、そんな様子をもどかしく、微笑ましく眺めていた。
「あのバカ! 早く郵便番号聞けっての!」
「ちょっと違わない? それ」
『何してんだ、ありゃ?』
『私たちの主は、色々大変なのだ』
『ふーん・・・・』
 上手く言葉を探せず、とうとう俯いてしまったカズキに、クリスの方から歩み寄る。
「・・・・また来年」
「えっ?」
「また来年、レースに来て。今度こそ負けないんだから!」
「あ、ああ・・・・」
 差し出された手を握り返すのが、カズキには精一杯だった。
「フフ・・・・じゃあね!」
 本当は、この優勝カップをあげたかったのに。言うことも差し出すこともできないカズキの前に、クリスが駆け足で戻ってきた。そのままチュっと、頬にキスをする。
「おおっ!」
「うわー・・・・」
 思ってもみなかった展開に、タクヤとダイの方が驚いた。
「あ、ああ・・・・・」
 ほけっとキスの余韻に浸るカズキの前で、クリスのマシンに灯が入る。
「チャンプへのお祝いよ!」
 そのまま夕陽へ消える彼女に、来年また出場しようと思う。
「イヤッホーィ!!」






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