「ん・さ・じ・ふ」 足の間から逆さまに富士山を見て、タクヤはため息をついた。上に乗っかられているスターシルバーは、文句一つ言わない。隣りにはドランもいる。大きな富士山、樹海の中まで探しまくったのだが、一向にパワーストーンは見つからない。 「このキーワードで間違いはないんだろーな、スターシルバー?」 『ああ。オレが憶えてたのは、その形だけだぜ』 「これだけ探して見つからないってことは、別の場所なんじゃない?」 「別の富士山ってことかよ?」 タクヤがフロントガラスを滑り落ちてきた。 「別の富士山か・・・・・」 カズキは顎に手を当てて考え始めた。 「ひょっとして、お風呂屋さんの富士山とかね」 「逆さまに見ておねしょパンツってのは?」 「タクヤ君ったら」 呵呵大笑するタクヤと苦笑するダイの横で、カズキが手を打った。 「そうだ!」 「?」 「もう一つ富士山があったぞ!」 根城にしているタンカーに戻ったカズキは、早速アドベンジャーのスクリーンに地図を映し出させ、その前に立った。 「ジャポネシア?」 「その昔、冒険家オマルコ・ポーロが、日本と間違えて上陸したっていう国なんだ」 「確かに似ているかも」 というより、日本をひっくり返したような形をしている。 「ジャポネシアにも富士山があるの?」 「うん。富士に似ると書いて、『富似山(ふにさん)』っていう山があるんだ」 「それだあ!」 「間違いないよ!」 「よーし、ジャポネシアへ出発だあー!」 そしてその動きは、しっかりザゾリガンに監視されていた。ギアハンガーでは、新しく届いたワルターの搭乗機が組み立てられている。真っ黒な甲冑の背中に、二つの巨大なミキサーついており、まるで羽のように見えた。 「これが新型ギア、『セメントス』でございます。その背中のミキサーで合成するキュウコンは・・・・」 「球根?」 「究極のコンクリート、でございます。我が国の土木建築班が開発したもので、一瞬にして相手の動きを封じ込めます」 「ふん、なるほど。一つ、ゴルドランのビルディングでも建ててみるかな」 そこへタイミングを計っていた親衛隊員がやってきた。 「ワルター様。アドベンジャーの目的地が判明しました」 「何処だ」 「アジアの孤島、ジャポネシアです」 ジャポネシアにやってきた三人組は、その風景に目をチカチカさせていた。富似山の下には新幹線が通り、城下町は日本の浅草界隈を思い起こさせる。着物で行き来するいなせな連中は、公衆電話によりかかり、くれーぷを頬張り・・・と、妙に落ち着かない。文明開化頃のごっちゃになった日本というより、映画村の撮影の合い間といった方がイメージに近かった。ちなみにお白州の文書は筆ではなくワープロであるという。 「いや〜、なんてゆーか、そのー・・・・・うわっと!」 キョロキョロしていたタクヤはいきなり誰かにぶつかって倒れた。 「おらおら、何処に目ェつけてんだよ!」 「すいません、ごめんなさい」 頬に傷をもつ、流石にちょっと関わったらヤバそうな相手に、思わず謝ってしまう。ダイがタクヤを助け起こした。 「けっ。気をつけろい」 言い捨てて立ち去ろうとした男の腕を、通りがかった一人の男性が捻り上げる。 「いっててて・・・・何しやがんでい! この野郎! 離せー! 離せー! 離しやがれーー!!」 「?」 男の背中から顔を出したのは、通りの向こうを歩いている後家さんが裸足で追いかけてきそうな美形だった。 「よっ、兄さんたち、日本人かい? この国もいろいろと悪いやつがいるからよ。ホント、気をつけないと」 「あの・・・・?」 「今回は見逃してやるが、異人さん相手の悪さは、今度やったらタダじゃおかねえぜ」 最後にもう一ひねりすると、男性は男を突き飛ばした。 「うわっ! くそう、憶えてやがれーーー!」 男性は男の罵倒に耳を貸さず、タクヤの目の前に財布を差し出した。 「ああっ!」 慌てて懐を探ると、確かにない。 「今度から気をつけな」 「あ、ありがとう」 「じゃな」 立ち去る男性に、せめてお名前を・・・と声をかける。 「あ、あの・・・」 「おいら金公っていう、ケチな遊び人よ」 そのまま金は抜き袖で立ち去っていった。 「ああ・・・」 「ま、そのうちどっかで会えるだろ」 「そうだね」 気を取り直すと腹が減ったので、近くにあった茶店に入った。 「玄米バーガー三つに、珠露シェイク三つですね? ご一緒に大学ポテトはいかがですか?」 「ああ、はい。ください・・・・」 予想とは大分違う対応に、つい押し切られてしまった。席を探したが、少々ガラの悪そうなねーちゃんたちがいる隣りしか他に空いていなかった。席につくと、カズキは日本で買ってきた旅行用のガイドブックを取り出した。最初にジャポネシアの簡単な歴史と、統治する将軍家の写真、外交担当老中の挨拶文が載っている。 「んぐんぐ・・・・ギヤマンの珠?」 「この国に古くから伝わる宝物なんだ。このガイドブックによると、『ギヤマンの珠を手にしたる者、天下を制す』という、言い伝えがあるんだ」 「間違いない! それがパワーストーンだ!」 「ね、ギヤマンの珠って、何処にあるの?」 後ろで『ギヤマンの珠』という言葉に反応したねーちゃんたちは、こっそり席を立った。 同じ頃、ワルターもそのガイドブックを見ていた。もちろん、ワルザック共和帝国語版だ。 「とうとう見つけたぞ! この菊姫のかんざしこそ、まさしくパワーストーン!」 「では、早速セメントスを」 ギアハンガーに指示を出そうとするカーネルを、ワルターは悪戯を思いついた子供のような目で止めた。 「いや待て」 「はあ?」 「郷に入っては郷に従え。ここはジャポネシア風にいこう」 「下に〜下に〜」 公道を白バイで先導された黒いリムジンが通る。 「菊姫だ!」 「姫様が小学校からお帰りよ!」 道を歩いていた町人たちは、喜んで道路脇に並び、ひれ伏した。 「下に〜」 先導する白バイに、十字手裏剣が突き刺さる。 「うわっ!」 「大丈夫か?」 護衛の車からも降りてきた侍たちが、刀を抜いて身構えた。 「ふふふふふふ・・・・・はははははは・・・・」 何処からともなく笑い声が聞こえる。武士たちの前に、木の葉が螺旋を描いて舞った。それは、やがて人の姿を浮かび上がらせる。三度傘を被り、着流しに刀を携えていた。 「な、何奴!」 「ふん、おれか。そうさな、おれの名は・・・・・悪太三十郎」 「悪太三十郎?」 正真正銘ワルター・ワルザックその人である。 「菊姫の持つギヤマンの珠、頂戴に参上した!」 悪太三十郎が刀を抜くと、上から忍者に化けた親衛隊員たちが小太刀を構えて降り立ち、侍たちと切り結んだ。剣の扱いも慣れたもので、悪太三十郎は護衛の武士たちを叩きのめすと、車のドアに手をかけた。 「パワーストーンは貰った!」 中は畳に座布団の純和風。だが、そこに人影はなかった。 「何? いない!?」 立ち止まった悪太三十郎の手を、十銭銅貨が叩く。 「な、なんだ!?」 刀を取り落とし、片手を抑えて悪太三十郎は十銭の飛んできた方向を睨んだ。 「神田明神署の銭又だ!」 「大人しくお縄を頂戴しろい!」 紫房の十手を携えた銭又と、朱房の十手を持った子分の八兵衛が眼光鋭く悪太三十郎を睨みつける。 「ふっ。誰が貴様などに!」 「そいつはどうかな?」 そういって銭又が取り出したのは、リボルバー拳銃だった。 「い!?」 見ると、叩きのめした周りの武士連中も立ち上がって拳銃を構えていた。 「と、飛び道具とは卑怯なり!」 せっかく時代劇を参考にしてきたのに。ジャポネシアの警察情勢を調べなかったワルターの失点である。いつもは常備している拳銃も、ザゾリガンに置いてきてしまっていた。 「くわ〜、かくなるうえは・・・・」 「た、退散だーー!」 こちらも飛び道具を準備してこなかった親衛隊員たちは、主を置いて一目散に逃げ出した。 「な、何ーーーーー?」 一人残されたワルターは、あっという間に包囲されてしまった。 「しょ、しょんな・・・・」 失意に呆然としている間に、手錠をかけられてしまう。 「貴様、この私を誰と心得る!」 「言いてえことがあるなら、署でたっぷりと聞かせてもらうぜ」 「平次親分ー!」 御車の検分に当たっていた八兵衛が奇声をあげた。 「お?」 「てーへんです! 姫様がいません!」 「何?」 「ギヤマンの珠、ギヤマンの珠・・・菊姫が持ってんだろ? お城に行って、入れてくれるかなあ」 歩きながら相談しているタクヤたちの目の前に、人垣が立ちはだかった。 「!?」 さらしを巻いた上に特攻服で身を固め、カミソリを指に挟んだり、チェーンを持ったりしたちょっとヤバめのねーちゃんたちだ。さっきの茶店でタクヤたちの後ろの席にいた女の子も混じっている。 「な、なんだよおまえたち!」 「ギヤマンの珠、探してんだって?」 中央で立っている、タクヤたちより少し年下ぐらいの少女が口を開く。どうやら彼女たちを纏めているのは、この少女らしい。年下に見えるのは、十二歳にしては小柄なタクヤよりも背が低いからだ。 「?」 意味ありげに微笑する少女に、タクヤたちはどうしようかと顔を見合わせた。 「うわー!」 ワルターは番所で、『石抱き』という拷問を受けていた。棘々の上に正座させられ、その膝の上に重量のある石を乗せるのだ。 「うっく・・・・何度言ったらわかるのだ! あの時既に姫はいなかったのだ!」 「ハチ」 「へい」 平次が顎をしゃくると、八兵衛がワルターの膝に新たな石を乗せた。 「うわー!」 「もう一度聞く。姫様を何処へやった?」 「知らんと言っておるだろう!」 「よいしょ」 今度は自発的に八兵衛は石を置く。 「どうわ〜! 知らんと言ったら知らん!」 「しぶといやつめ・・・・」 「うう・・・・」 ジリリ・・・と黒電話が鳴った。ワルターにとっては、僅かな息抜きだ。 「銭又だ! ホントか? 場所は? 『でぃすこ花魁』?」 『ギヤマンの珠』の在り処を教えてやると、連れてこられたのは、何故かミラーボールの輝くディスコだった。しかも日本のものよりもずっとゆったりしたリズムが流れている。ミニの浴衣で扇子を打ち鳴らして踊る女性たちに混じり、特攻服の少女たちもお立ち台で踊っていた。 「あいつらホントに知ってんの? ギヤマンの珠」 「ディスコ代が欲しかっただけかもよ」 カウンター席でモクテル(ノンアルコールのカクテル)を飲みながら、カズキがつまらなそうに言う。女の子に奢らせるようなマネはしないつもりだが、それも時と場合による。 「せっかくだから僕たちも踊ろうよ」 「こんなダッセぇノリで踊れるかよ」 年寄りのリズムだぜ? と呟く。扉が微かに開き、特攻服の少女が一人、飛び込んできた。リーダーの彼女のところに駆け寄って、何事か囁く。彼女は進言に表情を一変させると、お立ち台から飛び降りて、タクヤの腕を掴んだ。 「お、おい! 何だよ?」 「いいから来な! 見つかっちまうだろ?」 「あん?」 『御用』と書かれたパトカーが、『でぃすこ花魁』を取り囲んだ。日の光を避けるような小さな出入り口が精一杯開かれる。 「神田明神署の銭又だ! 菊姫様!」 突然の珍入者に、店内にいた客たちは動きを止めてそぞろざわめいた。 「どうかしたのかしら?」 「菊姫様だって?」 「姫様を探すんだ!」 銭又の号令で、奉行所の者たちがでぃすこの中に雪崩れ込む。 「姫様ー!」 「いないぞー!」 少女の顔見知りの店長に頼んで入れてもらった狭い隠れ場所で、タクヤは少女の肩を肩で突いた。 「なんだってオイラたちまで隠れなきゃなんないんだよ!」 「黙ってろよ!」 「ああ、暴れないで・・・・」 暴れるには無理な空間で、タクヤと少女が揉み合う。ブチっと隠れ場所を支えているコードが切れた。 「きゃー!」 「うわー!」 天井に釣り下がっていた一番大きなミラーボールが落下する。悲鳴をあげて逃げ惑う客や奉行所連中を蹴散らし、一気にでぃすこの外にまで出た。パカっとミラーボールが割れ、中から目を回したタクヤたちと少女が折り重なって現れる。 「ぐるぐる・・・・」 「くそっ!」 少女は真っ先に正気を取り戻すと、まだ目を回しているタクヤたちを蹴っ飛ばした。 「とっとと起きな!」 「痛っ! 何すんだよ!」 「逃げるに決まってんだろ!」 少女は出払って無人になったパトカーに乗り込むと、エンジンを点火させた。特攻服は伊達ではない。慌ててお子達も後部シートに飛び込む。そのままパトカーは猛スピードで走り始めた。 「大変だ! 菊姫様が連れ去られた!」 後ろから、横から、物凄い数のパトカーが「御用だ、御用だ!」とサイレンを鳴らして迫ってくる。タクヤたちを、先日のレースとはまた違ったスリルが襲った。 「おまえ、一体何をやらかしたんだ!?」 「運転代わって!」 カーチェイスで逃げ切れないと悟ったのか、少女は後ろで怒鳴るタクヤにそれだけ言うと、奉行所の車に装備されていたショットガンを手に取った。 「ええっ!? うわっ! バカヤロ! オイラは運転なんてできないぞーーーっ!!」 『誘拐犯に告ぐ、誘拐犯に告ぐ! 今すぐ菊姫様を開放し・・・うおうッ!?』 フロントガラスが割れた。少女はショットガンの反動をものともせずに、窓から身を乗り出して追尾のパトカーを狙い撃ちにする。先頭のパトカーが潰れると、後はもう玉突き事故だ。 「ハハハハ・・・一昨日きやがれ〜〜〜い!!」 少女は喜色満面を浮かべ、タクヤの蛇行運転で逃げ去った。 「おやびん・・・・」 「言うない・・・・」 「何をやっていたのだおまえたち!」 カーネルは逃げ帰ってきた親衛隊員たちに怒声を浴びせた。 「すぐに若君を探すのだ!」 「ははっ!」 竦み上がるのも一瞬のこと。すぐに彼らは街中に展開した。 ようやく運転から開放され、タクヤは緊張で少し頭がふらふらしながら、パトカーを乗り捨てた。長屋の裏路地に隠れる。 「さっき菊姫とか言ってたけど、あれって一体・・・・」 カズキが少女を問いただす。 「苦しゅうない」 「別に苦しくないけど」 タクヤのボケに、少女はタクヤの胸倉を掴み上げた。 「あたいがその菊姫だって言ってんだよ!」 「・・・・・ハハハハハハ・・・・!」 ひとしきり笑い、真顔になる。 「冗談だろ?」 「この紋所が目に入らぬか!」 菊は得意げに懐から印籠を取り出した。 「んげっ! その印籠は!」 「ジャポネシア将軍家の家紋!」 「本物!?」 ようやくタクヤたちが納得したのに気を良くしたのか、菊は肝心要の話を切り出した。 「あんたたちが探してるギヤマンの珠ってのは、父上に貰ったかんざしにくっついてるぞ」 「そのかんざしは、今何処に?」 「僕たち、あの石がどうしても必要なんだよ」 「まーま、慌てない・・・」 菊が意気込むお子達を宥めようとした矢先。 「ワルター様ーーーー!」 「若君〜〜〜〜〜」 「げげ!」 タクヤたちは聞こえてきた声に身を竦ませた。そのまま壁にへばりつき、外の様子を伺う。着物を着ているがサングラスは変わらない、ワルターの親衛隊員たちだ。 「あいつら、悪太の!」 「まずいな、見つかっちまう・・・・」 「おまえら、追われてんのか?」 回れ右をして走り出したタクヤ達と平走しながら、菊が尋ねる。 「ああ。あいつらもギヤマンの珠を狙ってんだ」 「ふーん・・・・」 走りながら菊は何を思ったのか、真面目に考える表情から一転、ニヤリと笑った。 「こっちこいよ! 秘密の道があるんだ!」 番所。壁の注意書きは『注意一秒怪我一生』。包帯をぐるぐる巻いた銭又と八兵衛は、手がかりを求めて再びワルターの拷問にかかっていた。 「私は無実だ! 何もやっておらん!」 「この三人の顔に見覚えがねえか?」 銭又は、でぃすこの天井監視カメラから起こした写真を見せた。 「こ、これは・・・お子達!」 「やっと白状しましたぜ」 「おう。こいつらは菊姫様を誘拐した三人組だ!」 「何〜!?」 先手を取られた、というよりも、誘拐に手を染めたお子達が信じられない。 「てめえたちのアジトは? 菊姫様は何処だ?」 「違う、私はこの三人の仲間などではない!」 「ハチ」 「へい」 八兵衛は無情に四枚目の石を乗せた。 「ひい〜〜〜〜! 何をしておる爺〜〜〜〜〜!」 「ワルター様の反応確認!」 「至急、現場の特定を!」 「丁!」 「半!」 「丁」 「丁!」 何軒かの長屋を無断で通り抜け、狭い路地を裏へ裏へと回りまわってついたのは、何故か賭博場だった。たむろしているのは人相の悪い男たちばかりだ。菊がバンッと賭け札を叩きつける。 「丁!」 後ろではタクヤたちが渋い顔をしていた。壷振りが様子を見て、それ以上賭ける者がいないのを確かめる。 「勝負!」 壷を避けると、二つのサイコロは1と6を出していた。 「ピンロクの半!」 ピンは1、丁は偶数、半は奇数を表す。要は偶数か奇数かを当てるお遊びだ。 「けっ! おい、金」 取られていく賭け札に、菊は背後に手を伸ばす。そこに札の感触はない。振り返ると、空の財布をひっくりかえしているお子達の形相があった。 「まったく、これだから貧乏人はイヤじゃ」 「こいつ、黙ってりゃいい気になりやがって!」 「その貧乏人に金借りてんのはどいつだよ! おまえの道楽に付き合ってる暇はないんだぞ!」 「お願いだよ。ギヤマンの珠は何処にあるの?」 三人に迫られて、流石にバツの悪そうに笑って誤魔化す。 「は、はは・・・・質屋に売った」 「えーーーーっ!?」 「ギヤマンの珠を売ったのか!?」 「国の宝を質屋にーーー!?」 「借金がかさんじまってよー。つい・・・・だから、こうして稼いで戻してもらおうとしてんだろ?」 「ったく、こんな遊びばっかしてっから金がなくなるんだよ! もっと他に面白いこと、いっぱいあんだろ?」 タクヤは菊の額を思いっきり突いた。 「あにすんだよ!」 カズキは菊と睨みあいを始めたタクヤを無視して立ち上がると、菊の腕を引っ張った。 「とにかく、その質屋に案内してくれ」 「待ちな」 人相の悪い賭博場の主人が、入り口の前に立ちはだかる。 「お客さん、大分負けがたまってるんですがね。払うモン払ってもらいましょうか」 「あう〜・・・そうだ! 控え控え控えおろう! ここに座わすお方をどなたと心得る! 天下の・・・・」 「八百八町連合初代総長、神風のキク!」 「だあ〜!」 タクヤの苦肉の策も斬り捨てる菊に、賭博場の連中も般若となった。 「ふざけんな! 野郎ども、たたんじまえ!」 「うそーーーーっ!?」 囲みを入れる男たちの後ろに、納戸を破って大荷物が叩きつけられる。 「!?」 床に倒れているのは、賭博場の若い衆だ。納戸の向こうの日の当たる場所から、タクヤたちの見知った顔が現れた。 「そいつから全部聞いたぜ。女子供相手のイカサマ賭博とは、悪どいことをしやがる」 「金さん!」 「マジかよ!」 囲みを入れられても平然と事を見ていた菊の表情が一変する。 「何モンだ、てめーは!」 「てめぇらみてぇな悪党がでぇっきれーな遊び人よ。たとえお天道さまが見逃しても、この桜吹雪が許しちゃおけねえんだ!」 金が右の片肌を脱ぐと、そこには見事な桜吹雪の刺青が。 「こ、このやろー! やれやれい! やっちまえーー!」 金は一斉に飛びかる連中をものともせず、ちぎっては投げ、ちぎっては投げる。見事な立ち回りに、菊もお子達も思わず見とれた。 「そうだ! 今のうちに金をかき集めて質屋へ行くんだ!」 「おう!」 心の中で金に礼を言い、四人は賭博場から逃げ去った。 相も変わらず番所。八兵衛に水をぶっ掛けられたワルターは、ぶるりと身を震わせた。まだジャポネシアは桜の残る季節だ。水を被ると一気に体が冷める。 「どうだ、白状する気になったか!?」 「知らんと言ったら知らん!」 「いい加減、しぶてぇ野郎だぜ」 次の拷問を考えるか・・・と、机に視線をやった銭又はふと現場に残っていた証拠品に目を止めた。 「おい、ハチ」 「へい」 「『かんざし一本 金十両 越後屋質店』。何だこりゃ?」 (! かんざし!) 赤い髪から水を滴らせるワルターの前から、八兵衛が銭又の方へ移動する。 「へえ、姫様の攫われた現場に落ちてたんです」 「ハチ、でかしたぞ! こりゃ、てぇした証拠品だ」 「そーですか? あっしもそうじゃないかと思ってたんですよ」 みし・・・・と土壁が悲鳴をあげ、砕けた。壁際にいた銭又と八兵衛が反対側の壁までふっとばされる。穿たれた穴から、タキシード姿の老人が飛び込んできた。 「カーネル!」 「若! なんとおいたわしいお姿で・・・・・」 「爺、質屋だ! 越後屋質店へ急げ!」 越後屋質店は、町はずれにあるこじんまりとした店だった。それがいきなり上下に揺れた。 「ひええ〜〜〜!?」 居眠りをしていた店主が、突然の出来事に悲鳴をあげる。カスタムギアが越後屋を持ち上げ、文字通り揺すっていたのだ。 『待てーい!』 変形したドランがカスタムギアに体当たりを食らわせる。越後屋は倒壊もせずに、地面に落ちた。 『私が相手だ!』 「ひょー! やるじゃねぇか!」 菊は乗ってきたドランが姿を変えたのを見て、興奮した声をあげる。 「ほら、ボケっとしてんじゃねーよ!」 「はい、ごめんよごめんよ、ごめんよー!」 それをせっついてタクヤたちは対峙するドランとカスタムギアの足元を通り抜ける。 「おっさん、かんざしだー!」 「へ?」 突然入ってきて大金を積み上げた子供に、店主は目をパチクリさせる。 「この子の質入れしたかんざしだよ!」 外で爆発音がした。ドランがカスタムギアを斬り捨てたのだ。 「流れたー!?」 「はい。一刻ほど前でしたか。男の方がいらっしゃいまして」 「その人何処の誰なのさ!?」 思わず店主の胸倉を掴むタクヤを、カズキとダイが必死に宥める。 「そこまでは・・・・」 『稲妻斬りーーー!』 最後の一体を斬り捨てたと思ったら、ザゾリガンから後続のカスタムギアが降下してきた。 『ちっ、まだ来るか! ゴルゴーン!』 ドランの喚びかけにゴルゴンが応える。大地を割ってゴルゴンが地中から、ゆっくりと姿を現し・・・・。 「そうはさせるか!」 セメントスが飛来し、ミキサーに直結している両脇のパイプからキュウコンをゴルゴンにぶっかける。 『ゴルゴン!』 地割れの中でじたばたと暴れるゴルゴンは、急速に固まったコンクリートに封じ込められた。 「ゴルゴンがコンクリート漬けにされちゃったあ!?」 意表をついたワルターの作戦に、暖簾の下でタクヤたちも驚いた。 「ははははは・・・・私の受けたこの痛み、貴様にも味合わせてやる!」 セメントスは青龍刀を抜いて、ドランに襲い掛かった。 「おらおらおらおら! このっ、このっ、このっ、このっ、このっ!!」 銭又と八兵衛に味合わされた痛みを、ドランに向けて発散する。体高が二倍、横幅も同じく二倍もあるセメントスと、その肉厚の青龍刀に、ドランは避けるのが精一杯だ。 「すごい迫力・・・・」 菊は巨大ロボットの格闘に目を輝かせる。 『うわっ!』 弾き飛ばされたドランは、越後屋を掠めて地面を滑った。 「ドラン!」 「くそう! パワーストーンさえあれば・・・・」 「ぱわーすとーん?」 「おまえが売っ払ったギヤマンの珠のことだよ」 「そいつならここにあるぜ」 暖簾をくぐって出てきたのは、なんと金であった。 「あ・・・・金さん!」 あれだけの人数を相手に立ち回りを演じたというのに、傷一つ負っていない。埃を払う姿は、なんとも華があった。 「姫様の大事なものだと思いやしてね。流れる前にあっしが」 金が懐から取り出したのは、確かにギヤマンの珠だ。 「パワーストーンだ!」 「ご苦労であった」 金からかんざしを受け取った菊は、今までの悪戯少女とはうって変わった気品を見せて振り返る。 「おまえたち、今日一日とても楽しかったぞえ。これはその礼じゃ」 「菊姫・・・・」 国の宝を一存で渡す菊に、邪険にしてきたタクヤも少し見直す。 「サンキュー!」 「うん」 タクヤに礼を言われて、菊は初めて嬉しそうな表情をした。 「タクヤ君、ドランが・・・・!」 「わかってるって! 黄金の力護りし勇者よ! 今こそ甦り、我が前に現れ出でよ!」 碧の光が、ギヤマンの珠から迸る。越後屋の前に、銀と深緑の巨体が降り立った。手には大型の斧と盾を構えている。 「は〜・・・・」 「こりゃまた、てぇしたモンだ・・・・」 感心する菊と金の前で、勇者は主に膝をついた。 『自分は、大地の騎士 ドリルシルバーであります! 主よ、ご命令を!』 『うわっ!』 何度目かのダウンをくらったドランは、もう立ち上がることができなかった。 「はははは・・・・いいザマだな。今日こそおまえは私の僕になるのだ」 青龍刀を構えるワルターの足元から、地響きがする。 「お? なんだ?」 地面に流し込んだコンクリートにヒビがはいった。ドリル戦車に変形したドリルシルバーが、コンクリ詰めにされたゴルゴンを救出したのだ。地面から黄金恐竜が現れる。 「何〜〜〜〜!?」 『とお!』 そのままドリルシルバーはセメントスに体当たりを食らわせ、ドランの立ち上がる隙を作る。 『ドリルシルバー!』 『遅くなったであります!』 「おっのれ〜! またしてもパワーストーンをお子達に! くらえ!」 セメントスの吐き出すキュウコンを避け、大きくジャンプしたドリルシルバーは、斧を大上段に構えた。 『ドリルアックス 大切断!』 背中のミキサーが切断され、キュウコンがセメントスの足元に溢れる。 「ええ〜!?」 『ドラン、今であります!』 『うん。 行くぞ、ゴルゴン!』 ゴルゴンの体が展開し、ドランが胸部に組み込まれる。合体を果たしたゴルドランに、ワルターは歯噛みした。 「くっそー! こうなれば、まとめて血祭りにあげるまで!」 が、いくらレバーを引いてもセメントスは動かない。 「っく・・・どうし・・・あーーー! 足が固まっているーーー!」 ちなみにセメントスには悪太三十郎同様、飛び道具はない。焦るワルターの目の前で、ゴルドランはスーパー竜牙剣を抜いた。 「ちょ、ちょっと待って! ちょっと・・・・!」 『一刀両断斬りーーーー!!』 ゴルドランは問答無用で、動けぬセメントスを切り裂いた。爆風に乗って脱出ポッドが飛び出す。 「おのれ、五度ならず六度までも・・・あれ?」 いつものようにザゾリガンまでいかぬうちに、脱出ポッドが落下を始める。 「エンジンも固まってるーーー!?」 「若!」 上からカーネルの悲鳴が聞こえた。 「やったぜ、ゴルドラン!」 『いや、全てはドリルシルバーのおかげだ』 『そんな・・・・照れるであります』 「賭博やでぃすこ以外でも面白いものはあるものじゃ」 「はい」 正装した菊の後ろで、こちらも正装した金が控える。実はこの金、遠山左衛門尉という北町奉行所の頭目であった。普段はお忍びで街を歩いているので、勝手に城下で遊ぶ菊姫の相談役も任されていたのだ。 「今度はもっと面白いこと教えてやるよ!」と言ってSLに乗り込んだ少年たちが去っていく。ギヤマンの珠がなくなれば、父の将軍は怒るだろうが、今まで気づかなかったので大丈夫だろう。万一怒られても、それぐらいでどうにかなる自分ではない。立場も気性も何もかも。 「姫様誘拐の犯人を逃したと騒いでおる者がおりますが・・・・」 「構わぬ。迷宮入りにさせておけ。 さて、それよりも」 遠ざかっていくアドベンジャーに、菊は微笑んだ。 「次は何をして遊ぶかのう」 |
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