追ってくる。 追ってくる! 追ってくる!! ワルターの背後からとてつもないものが追ってくる。 肺が破れそうになるほど走っているというのに、それとの差は一向に開かず、質感を伴った気配に戦慄する。 「まって〜! ワルター様ぁ〜〜!」 「く、来るなーーー!」 地面が割れた。 「どっしぇ〜〜〜!?」 奈落の底に落ちる。 ドシン! 底は以外に浅かった。頭を打ちつけ、辺りを見回せば、そこは彼自身の仮眠室だった。天外付きのベッドの上には、ライオンのぬいぐるみが寝そべっている。 「ゆ、夢か・・・・」 「若ーーー! いかがなされました?」 ワルターの絶叫にカーネルが駆けつける。 「案ずるでない。悪夢を見ただけだ」 「悪夢?」 「ああ、あのシャラン・・・いや、戦いに敗れる夢を見たのだ」 口にするのもおぞましい。そしてそれは恥ずべきことだった。慎重に言葉を選ぶ。 「若君、その夢、正夢になるやもしれませんぞ」 「何?」 空を行くザゾリガンのブリッジで、カーネルに手伝ってもらって着替えながら、スクリーンに映る映像を見る。 「ジェットシルバー、スターシルバー、そしてドリルシルバー。彼らには、恐るべき能力が隠されているのです」 「何だと?」 「分析の結果、彼らには合体し、パワーアップする機能があったのです」 ワルターの手から目覚めの一杯がすべり落ちた。 「ただでさえやっかいだというのに、合体だと? 奴らは・・・奴ら自身はその事実を知っているのか!?」 『こちらジェットシルバー。パワーストーンは見つかりません』 『スターシルバーだ。てんで手がかりなしだぜ』 『ドリルシルバーです。こちらもダメであります!』 空に地上に地下に。それぞれ得意とする地形で、シルバーナイツはパワーストーンの探索を行っていた。近くにパワーストーンがあれば、彼らレジェンドラの勇者たちは互いに共鳴しあう。それを利用して探しているのだが。 「やっぱムリかなあ。ヒントも無しにパワーストーンを探すっつーのは」 『ドリルシルバーがキーワードをもっていなかった以上、今は地道に探すしか手はない』 石環海岸のタンカーでは、タクヤが報告を受け取ってぼやいていた。アドベンジャーは主が中止命令を出さないよう、先に言い置く。 「ちぇっ。おまえたち、もっと色々な情報を持っているかと思ったのに、何だよ・・・・」 『我々勇者には、限られた記憶しか残っていないのだ』 カズキの愚痴はドランが引き受けた。 再びザゾリガン。着替え終わったワルターは、新しいワイングラスを傾けている。 「諜報隊によりますと、彼らはまだシルバーナイツの合体には気づいていないようです」 「と、なると・・・奴らが合体に気づく前に叩いた方がよいな」 「そうくるだろうと思いまして、本国で建造中のワルツハイマーXを手配いたしました。これでまでのロボット兵器とは、大きさも攻撃力も桁違いでございます」 「なるほど。その巨大メカで奴らが合体に気づく前に倒そうというわけか」 「左様でございます。お気に召していただけましたか?」 ワルツハイマーXの完成映像を見て、ワルターはソファから立ち上がった。 「うん。大きいことはいいことだ! さっそく準備に取り掛かれ」 「はっ。搬送前の最終調整を本国に急がせましょう」 ワルザック共和帝国兵器開発局へ、搬出命令が通達される。ワルツハイマーXは無人の音声入力式の移動攻撃要塞だ。ザゾリガンから指定されたポイントへは、自動的に移動することができる。動き始めようとするワルツハイマーXに、こっそりと忍び込んだ人影があった。 『何? 矢立部長が殺された!?』 アドベンジャーの中から男の声がした。 『はい』 「やっぱり犯人は、妻の不倫相手だった、営業の島村だろ」 タクヤがアドベンジャーに命じて、モニターにTVを映し出させているのだ。探索はシルバーナイツに、資料探しはカズキに任せて、スナック菓子片手に二時間サスペンスの再放送を見ている。ダイは教わったばかりの花の活け方を復習していて、アドベンジャーの中に微かに花の香りが漂う。 「何見てんだか、こいつは・・・・」 ピンポーン 「?」 変装した犯人に襲われかかっているヒロインの頭に被る形で、ニュース速報が流れてきた。 「ニュース速報?」 「何かあったの?」 「何々・・・・『オホホック海のサムチャック島で』・・・」 「『パワーストーンと思われる宝石が発見された』か・・・・」 「なーんだ、くだらねーニュース」 「じゃないぞーーーっ!!!」 菓子も本も放り出して立ち上がる。 「パワーストーンだ!」 『主よ!』 「よし、行くぞ! いざ、サムチャック島へ!」 モニターの中では、犯人のかけている眼鏡がキラリと光っていた。 「ははははは・・・・愚かなお子達よ。このニセのニュース速報を見ておるか?」 ザゾリガンのブリッジでは、日本の石環海岸付近にのみ発信されたニュース速報が流れていた。ワルツハイマーXの到着を受信したカーネルが進言する。 「若君、我々も準備を」 「よし、サムチャック島へ、全速前進!」 途中でシルバーナイツを収容して、サムチャック島へ向かった。北海道よりも北に位置するサムチャック島は、無人の何もない島だ。ごつごつと岩ばかりが転がっている。 「着いたのはいーけどさ」 「何処だろうね、パワーストーン」 アドベンジャーの上から見ただけでは、発見したと騒ぐ人影も見えなかった。カズキが顎に手を当てて考え込む。 「ニオウな・・・・」 「え? オイラ屁なんかしてないぜ?」 タクヤはサスペンスばりのシリアスな表情でカズキを見た。 「なーんてお決まりのボケは」 「「「おいといて」」」 三人揃ってジェスチャーの息が合う。 「ニオウって何が?」 「パワーストーンの秘密を知っているのは、俺たちと悪太だけのはずだろ? なのに何でパワーストーンのことがTVのニュースで? ヘンだぞ」 「気のせいだよ、気のせい。サクサク見つけてさっさと帰ろう。ドラマの続き、ビデオに撮ってきたんだ〜」 「ああーー! 何だろう、あれ!?」 ゴルドスコープで辺りを見回していたダイが、空の一角を指差した。 「は?」 「あれは・・・っ!」 降ってきた。ワルツハイマーXが、でかい図体のくせに空から降ってきたのだ。その大きさたるや、高さ三百m、各辺は百mはあろうかという巨大さだ。 「何だ、あのバカでかいヤツは!」 「悪太だ! あいつら、オイラたちを罠に・・・・! 皆!」 『心得た!』 『了解!』 ドランが、シルバーナイツがアドベンジャーから飛び出して、人型に変形する。アドベンジャー自身も立ち上がる。 「出揃ったな勇者ども。真の主を忘れた愚か者どもめが。今日こそ貴様らを破壊して、パワーストーンに戻してやるから覚悟しろ!」 ワルツハイマーXの中では、ワルターがただ一人で足元の勇者たちを見下ろしていた。 「ファイヤーーーーー!!」 ワルツハイマーXの砲門が、一斉に火を吹いた。五百mmビーム砲三十門、三百mm機関砲十二門、二百mm対装甲砲五十門、五十mm連装機銃百門という、360度死角なしのハリネズミのような超々々々攻撃要塞だ。 『なんという火力だ!』 責めるどころか、逃げ回るので精一杯である。 「すっげえ攻撃・・・・」 「みんなやられちゃうよぉ・・・・」 「ドラン、早く合体を!」 『心得た! ゴルゴーン!』 ワルツハイマーXから離れて、ドランがゴルゴンを喚ぶ。雷が落ち、地面が割れる。 「させるか!」 地割れの上にワルツハイマーXが跳んだ。 「ああっ!」 『何と!』 砲撃は止まらない。返って分散した形になった勇者たちは、個々の弱いまま砲撃に晒されるハメになった。 『おのれッ、ゴルドランに合体させぬつもりか!』 体勢を崩されたまま、ドランは立つことすらできなかった。 『うおおおお・・・・・!』 『これでは近づくこともできない・・・っ!』 シルバーナイツは辛うじて盾で攻撃を防いだが、前進もままならなかった。 「いいぞ、その調子だ。右舷の火力を10%増加。後ろに周り込む敵に備えよ!」 ワルターの声に反応し、調整レバーが一人でに動く。 『ぬお・・・・!』 最早爆撃で、ワルターの目にすら勇者たちの姿は見えなくなった。 「はははは・・・見たか! 超でっかい兵器、ワルツハイマーXの力を!! 今回こそ、勝利の女神は私に微笑んでくれるわ」 「私も、愛するワルター様に微笑みをv」 「そうか、ありがとう・・・・ってえ、その声は!? ま、まさかあっ!!」 無人のはずのワルツハイマーXに、少女の声がする。ワルターが悪寒に振り返ると、軍服に身を固めた小柄な人物が立っていた。 「うふふふふ・・・・しゃらららら〜〜〜」 甘ったるい少女の声と共に、軍服が床に滑り落ちた。そこにいたのは、声と同様、甘ったるいピンクの髪に、ハートをあしらった赤い上着。ピンクのスカートからは細くて白いおみ足がすらりと伸びた美少女だった。 「お、おま、おま、おまえは・・・・シャランラ・シースルー!!」 「お久しぶりです、ワルター様v」 シャランラと呼ばれた少女は、つぶらな赤い瞳でにっこりと微笑んだ。 「な、な、な・・・・」 「お会いしたかったわ。私の、未来の旦那様ーーー!!」 「く、くるなーーーーー!!!!」 にじり寄るシャランラに、ワルターは悲鳴をあげた。 悪夢は正夢だった。 「うふ、ワルター様〜v」 「や、やめろーーーー!」 シャランラに抱きつかれ、ワルターが石化する。その声に反応して、ワルツハイマーXの攻撃が止んだ。 『ど、どうしたんだ?』 『攻撃が止んだ・・・・?』 『な、何故だ・・・』 いぶかしむ勇者たちに、主が勢いよく命令を出す。 「とにかく、チャンスだ!」 「ドラン。今のうちに合体だ!」 『心得た!』 動きを阻まれていたゴルゴンを、別の場所から出現させる。ゴルゴンの体が展開し、ドランがそれに合体する。シルバーナイツたちは、敵に攻撃するのも忘れてその光景に見入っていた。 『何故だ・・・・? ゴルドランの合体を見ていると』 『ああ・・・・心が動くぜ・・・・』 『自分たちは、とても大切な何かを忘れているような気が・・・・』 『記憶だ』 アドベンジャーが兄のように彼らを見下ろして言った。 『?』 『君たちに残った微かな記憶が、あの光景に揺り動かされるのだ』 何を忘れているのだろう? 顔を見合わせるシルバーナイツたちの目の前に、黄金の巨体が降り立つ。 『さあ、今のうちに奴を叩くぞ!』 「ふふふふ・・・・愚かなお子達よ。パワーストーンは、このワルター・ワルザックが必ず手に入れる」 「う・・・・か、カーネル様・・・・?」 額に冷や汗を浮かべた親衛隊員が声をかけた。 「あー・・・似とらんかったかな〜? ははははは・・・・」 カーネルはワルターのマスクを外すと、笑って誤魔化した。 「いえ、ワルツハイマーXが・・・・」 上空にいるザゾリガンのスクリーンには、何故か沈黙しているワルツハイマーXの姿が映っていた。 「何!? どうしたことじゃ? 若君に何か!? ブリッジの映像を!」 「はっ」 映像がアップに切り替わる。前面が強化ガラスでできたサンルーフ型のブリッジは、外から中の様子を覗くのにはうってつけだ。 「ん? あ、あれはっ・・・・!」 そこには、ワルターに抱きつくシャランラの姿があった。 「誇り高き貴族、シースルー家のご息女、シャランラ様ではないか! 何故彼女があそこに・・・・」 シースルー家はワルザック共和帝国でも指折りの名門貴族だ。シャランラはそこの一人娘である。当然カーネルは知っている。そして何よりも・・・・。 「あ、なるへそ。シャランラ様は若君を愛するが故、全てを捨てて戦場にまで・・・・なーんと美しき愛の気高さよ・・・・・」 どういうわけか、カーネルの目には嫌がるワルターの仕草がまるで映っていないようだった。二人の関係に涙する。 「カスタムギア隊、発進!」 「ラジャー!」 「ワルター様の愛の時間をお守りするのだ! これより戦闘の指揮はこの私が取る!」 ザゾリガンのカタパルトデッキから、大量のカスタムギアが射出される。それはワルツハイマーXに斬りかかろうとしていたゴルドランたちの行く手を阻んだ。 『新手か! 行くぞ!!』 五人の勇者たちは、有象無象のロボットに攻撃対象を変更した。 「あはっ。シャランラ幸せ〜」 殺伐とした戦場を癒すように、甘いシャランラの声が響く。 「う、ああ・・・・」 万力にしめつけられたようなその腕力に、ワルターはうめき声しかあがらない。 「思い出しますわ・・・・ワルター様が私に愛を告白した・・・・。そう、あれは舞踏会の夜でしたわね〜」 それはまだ半年にも満たない昔。十九歳のワルターは、とある貴族の主催する舞踏会へ主賓として招かれていた。十二歳のシャランラは当時既に社交界へデビューしており、同じ舞踏会へ、従兄に伴われて出席していた。気さくに話す相手もおらず、退屈そうに壁の花をしていたワルターを、シャランラは見つけたのだ。 「しゃら? まあ、なんてステキなお方v」 それは外見だけを見ての、一瞬の浅はかな思いだった。だが、ワルターはシャランラを見たのである。そして、辺りの者に話し掛けられても仏調面でしかなかったワルターが、シャランラを見て微笑んだのだ。 「あの一瞬で私は知りました。あなたも私を愛してくれているってぇーv だって、あなたは最高の笑顔をこの私に見せてくだしましたものv」 シャランラはワルターに会う度に、新鮮にその記憶を思い出す。 (何時、私がそんなことをした!!) それは何度も聞かされた話だが、本人はシャランラを見た憶えなど全くなかった。主催した貴族の名を言われれば、出席したことは憶えている。そこで大笑いしたといえば、太りすぎてズボンのベルトが切れ、下着を丸出しにした侯爵がいたことぐらいだ。 「シャランラ、超v初恋v それからでしたわね。私とあなたの愛の日々が始まったのは・・・・」 陶酔し始めたシャランラの横を、抱擁から開放されたワルターはそーっと通り抜ける。 (そう、あの日から私の地獄が始まったのだ・・・・) 突如押しかけてきたシャランラに、わけのわからない手料理を食べさせられ、二十歳の誕生日にはシャランラ本人にラッピングを施して贈りつけられ、勝手に婚約記者会見を開いて周りを誤解させるわ、さんざんである。特に誤解はワルターが否定すればするほど深まり、今では本当に進退極るレベルにまで発展していた。ことに貴族社会の残る共和帝国は、噂が強力な武器となる。早いところ、してもいない婚約を撤回させなければならない。 (こ、このままでは私は・・・・この娘から逃げられない・・・・) 「どちらへ? ワルター様」 いきなり背後からかけられた声に、ワルターは絶叫をあげた。 「どっしぇー!」 そのままシャランラは、彼女特有の不気味さでワルターににじり寄る。 「私と、あなたは、しゃららら〜〜〜〜v」 「どっしぇ〜〜〜!」 だがワルターも怯えてばかりはいられない。勇気を振り絞ってシャランラを突き飛ばす。 「ああん!」 「さらば!」 「ワルター様ー! 待ってぇ〜v」 「ひえ〜〜〜!」 ブリッジで繰り広げられる普通とは逆の追いかけっこを、カーネルは微笑ましく眺めていた。 「のっほほほ・・・・若いお二人は愛を語るのに忙しいようじゃ。 若、そこでギューっと・・・・ムチューっと!」 「大変です! カスタムギア隊が!」 「何?」 荒地には、カスタムギアが累々と屍を晒していた。 「よーし、次は無意味にでかい、あのメカだ!」 『心得た!』 バーニヤを噴かして、一気にワルツハイマーXに肉薄する。武器を振りかぶった瞬間、撃ち落された。 『しまった! やつが再び動き出した!』 「よっとっと・・・・こんなこともあろうかと思って、リモートコントロールにしておいて良かった・・・・」 カーネルは家庭用コンピューターゲームのようなコントローラーを握り締め、ワルツハイマーXを動かしていた。 「グレートビッグキャノンスタンバイ!」 主砲の千mm荷電粒子砲のグレートビッグキャノンが、エネルギーの充填を始める。 その振動はワルターの逃げてきたパイプ通路にも伝わってきた。 「? グレートビッグキャノンの準備が?」 「私も」 「いいっ!?」 撒いたはずのシャランラが目の前に。 「私も、心の準備は、できてましてよ〜〜〜〜〜!」 逃げた。 「しつこすぎるーーーーッ!!」 「愛し過ぎるぅーーーーー!!」 「エネルギー充填120%!」 「グレートビッグキャノン、発射!」 ワルツハイマーXの正面から突き出た主砲が、固まって膝をついていたゴルドランたちを直撃した。 「!!」 キノコ雲があがり、サムチャック島の地形が一部変わった。 「やりました・・・・かな?」 「み、みんな・・・・」 「やられちゃったの!?」 煙の中から、盾を構えたシルバーナイツが飛び上がった。 「ああ、シルバーナイツ!」 「無事だったのか!?」 地面には、身を守る術のないゴルドランとアドベンジャーが倒れ伏していた。 『アドベンジャー!』 『ゴルドラン!』 『うう・・・・』 『動けん・・・・』 ワルツハイマーXは不気味にキャタピラで迫ってきた。ゴルドランとアドベンジャーを守るように、盾を構えたシルバーナイツが前面に出る。 『おのれ・・・・!』 『ゴルドランたちは我々が守る!』 『しかし、もう一発あれを食らったら・・・・』 無事な三体の勇者に、カーネルは歯噛みした。 「くぬう〜! しそんじたか。第二波の準備を!」 「エネルギー充填開始。発射90秒前」 「はあっ、はあっ・・・・」 逃げに逃げ回って、ブリッジの上の展望室へ逃げてきたワルターは、ガラス越しに下を見た。 「戦況はこちらが有利なようだな。勇者どもめ、あと少しで私のものに・・・・」 「ワルター様も、あと少しで私のものに・・・・v」 「ふふふふ・・・・じゃないっ! しつこいぞ、シャランラ!」 背後から聞こえた声に振り返ってもいつものようにそこにはいない。被害妄想かと、額の汗を拭う。 「やれやれ、気のせい・・・・」 「じゃないですわv」 「なあっ・・・・!」 見えなかったのは当然で、背中にコバンザメのように張り付いていたのだ。シャランラは十二歳の少女とは思えない腕力で、二十歳のワルターに羽ペンを握らせた。 「な、なな・・・お、お、な、何のマネだ?」 「ワルター様、サインしてくださいなv この婚姻届にv」 「こ・ん・い・ん・と・ど・け〜〜〜〜〜!?」 ワルターの悲鳴は爆音に消され、幸いにもカーネルに届かなかった。 シルバーナイツの盾は、武器も備えた攻防一体のものだが、ワルツハイマーXの弾幕と装甲の前では、焼け石に水だった。 『我々の力では、ヤツには敵わないのか?』 『うわーーー!』 「エネルギーの充填はまだか?」 「はっ。後40秒で発射できます」 そろそろ連射で指が辛くなってきたカーネルは、ここぞと気合を入れる。 「よーし、次の一発でやつらも、『はい、それまでよ〜』じゃ!」 「がんばれ、シルバーナイツ!」 見ていることしかできないのは辛い。 「今、ゴルドランとアドベンジャーを守れるのは!」 せめて彼らに乗って一緒に戦えたら。 「君たちしかいないんだよーー!」 それでも、だからこそ、声を限りに叫ぶのだ。 「ぬ、お、お・・・・」 「さあ、ワルター様、早くう〜〜〜v」 ワルターもピンチだった。右腕の筋肉は抵抗のあまりつりそうだ。背中にマウントポジションを取られ、脱出の手段すら奪われた。 「ああ・・・よせっ、やめろ・・・・!!」 シャランラの腕力はすさまじく、ペン先は何度も婚姻届をかすり、インクをつけた。 「これにサインすれば・・・・」 「これにサインしてしまったら・・・・」 ゴルドランとアドベンジャーの盾に徹していたシルバーナイツも、とうとう大地に叩きつけられた。 「どーすんだよ、このままじゃ!」 カズキに肩を掴まれ、タクヤが険悪に睨みかえす。 「オイラにどーしろってんだよ!」 倒れたまま必死に盾に手を伸ばすジェットシルバーは、盾の鏡面に映ったワルツハイマーXの姿が大きくなったのを見てとった。 『っ・・・・!』 咄嗟に振り返ると、キャタピラが不気味ににじり寄り、今にも踏み潰さんという距離まできている。グレートビッグキャノンの放電が始まる。 『だ、ダメだ・・・・』 『勝ち目がない・・・・』 『わ、我々にも力が・・・・』 『『『力があれば・・・・・』』』 「そうだ!」 電撃に撃たれたように、ワルターの中にある思考が浮かんだ。 (今、勇者たちに敗北すれば、このピンチから脱することができる! しかし、後少しで勇者たちを我が僕<しもべ>にできるのに・・・・。 人生を捨てて勇者を得るか・・・勇者を捨てて・・・・人生を取るか・・・・) 「ワルター様、早くう〜v」 正に究極の選択だった。 「グレートビッグキャノン、発射20秒前」 「にっへへへへ・・・・全員まとめて吹き飛ばしてくれるわ」 立ち上がることもできないゴルドランたちに、カーネルの指も休まる。 決断は下された。 「わかった、シャランラ!」 ワルターの声に、シャランラの力が緩んだ。ワルターは立ち上がると、婚姻届に引きつった文字を書いた。これで全ては終わるのだ。強張った筋肉に血が流れる。浮かび上がる勝利の笑みに、シャランラは感激した。 「ああ、ワルター様。シャランラ、超カンゲキ・・・・v あら? 何なさるんですの?」 なんとワルターはサインしたはずの婚姻届を折り始めたのだ。それは次第にシャープな形の紙飛行機となった。サンルーフ型の展望室の窓が開く。 「このワルター・ワルザック、野望のために人生は捨てぬ! お子達よ、受け取れーーーー!!!」 ワルターの最後の望みを乗せて、紙飛行機はひらひらとタクヤの手に収まった。 「ほえ? 何だこりゃ?」 こんな無人の島で誰が紙飛行機など飛ばしたのだろうか? 開いてみると、文字の上に文字が重ねて書いてある。 「何か書いてあるよ」 そこには。 「ええっ!? “シルバーナイツが合体できる”だって!?」 「まさか!」 「誰がこんなことを・・・・」 そう、ワルターは人生を取ったのである。 「でも、本当だったら凄いぞ!」 「よし、シルバーナイツ! 合体するんだーーーーっ!!」 タクヤの声が荒野に木霊した。その衝撃に、シルバーナイツは声も出せなかった。 『あ、主・・・・今、何と・・・・』 『オレたちに合体しろだって?』 『そ、そうだ!』 ジェットシルバーがはっと立ち上がる。 『思い出したぞ。我々シルバーナイツは、合体することができたんだ!』 ジェットシルバーの記憶は、そのまま二人にも伝播した。 『そうか!』 『思い出したぜ!』 「いけえー! シルバーナイツ!!」 主の声に押されて、シルバーナイツは合体体勢に入る。 『シルバーナイツ、フォームアップ!!!』 「いいんです、ワルター様」 ゆらりと立ち上がったシャランラは、ピンクの幽鬼のように見えた。 「ひいい〜〜〜〜!」 「形式なんていりませんわv 誓いのキスをお願いv」 唇を突き出すシャランラに、ワルターの背筋を悪寒が走る。 「ひィ〜〜〜! シルバーナイツ、早く!!」 ジェットシルバーが頭と手足を縮め、体を折り曲げる。スターシルバーの手首が引っ込み、胴が収縮され、180度開いた足が、真っ直ぐ伸びた腕に接近する。ドリルシルバーが頭と手足を収納し、体の装甲を開いて、ボディを二つに分けた。それはそのまま巨大な脚となり、その上にジェットシルバーが胴として接合。胸から上にスターシルバーが組み合わさる。武器も盾も三つのものが合わさり、大地に降り立ったのは白銀に輝く巨大なロボットだった。 『白銀<シルバー>合体 シルバリオン!』 陽光を受けて輝くその姿に、ゴルドランとアドベンジャーも感嘆の声をあげる。武器のトライランサーは槍と剣が上下に合わさり、真ん中を握る柄部分は斧が篭手のようにガードする。 『お、おお・・・・』 「すごーい!」 「本当に合体しちまった」 「イカしてるぜ、シルバーナイツ!」 『いや、合体を果たした私の名は、シルバリオン!!』 『シルバリオン?』 『君たちの失われた記憶とは、このことだったのか』 合体の様子は、ザゾリガンのブリッジでもつぶさに見て取れた。 「何故だ? 何故彼らは合体に気づいたのだ!? ええーい、グレートビッグキャノン発射ーーーー!!」 太いエネルギーの塊が三体の勇者を直撃する。 『トライシールド!』 「み、皆っ!」」 だが、爆発を覚悟したタクヤたちが見たものは、盾をかざしてグレートビッグキャノンを防いでいるシルバリオンの姿だった。 『な、何と強力な盾だ』 それは受け止めるのみならず、軌道を変えてザゾリガンに向けて弾き返した。 「およよよ〜〜〜なんと・・・・」 直撃こそしなかったものの、急な回避でカーネルが椅子から放り出された。 そして反射の余波はワルツハイマーXにまで及んでいた。 「すりすりすりする〜v」 「うわ〜〜〜! 急げーーー勇者よーーーーッ!!」 傾きかけた筐体に、ワルターは壁際に追いやられた。シャランラはそれを楽しむかのようにワルターに擦り寄る。 『今だ!』 シルバリオンが武器を構えてワルツハイマーXに飛び掛る。 「なあっ・・・おのれ、勇者め! ファイヤー!」 カーネルは再び砲撃を開始した。それを盾で防ぎながら、シルバリオンは槍の方を切っ先として合わせ、トライランサーを構えた。 『トライランサー! はあああーーーー!!』 ワルツハイマーXの底部にもぐりこみ、そこから一気に塔のようなワルツハイマーXを貫いていった。 『トラーイフィニーーシュ!!』 「も、もうダメだ・・・・あ?」 閃光が溢れる。ワルターとシャランラのすぐ側をシルバリオンが通過し、爆発が起こった。 「やったー!! ついにあいつから逃げられたぞーーー!! わははは・・・・!」 爆風に乗って、煤だらけのワルターが高笑いする。 「ワルター様v」 「げっ、シャランラ!」 隣りの煙からシャランラが追いかけてきた。生きているって素晴らしい。 「ああ〜ん、ワルター様v 逃げちゃいや〜v」 ゴルドスコープに、久々にヒントの形が表示される。“○”だった。 「これがパワーストーンのヒントぉ?」 『うむ。合体によって復活した私の記憶によると、それが次のヒントだ』 「丸・・・か?」 「数字のゼロ?」 「英語のオーかもな」 「ま、とにかくまた冒険ができるってワケだ」 「そんなに照れないでくださ〜い!」 「あ?」 場違いなほど可愛らしい少女の声がする。お子達どころか勇者たちもそろって顔を向けると、ワルターがシャランラに追いかけられていた。 「う、うわああ・・・来るな、シャランラーーーー!!」 「待って〜〜〜〜〜!」 二人は金メダリストも真っ青なスピードで、荒涼としたサムチャック島を西へ東へと走り回る。 「悪太のヤツ、何やってんだ?」 「女の子に追いかけられるなんて、羨ましい」 「でも、命がけで逃げてるってカンジだぜ?」 「いいんじゃない? 他人事だもの」 「「そりゃそーだ」」 ああ、無情。カズキも酷いが賛同する二人も酷い。 「さあ、オイラたちは次のパワーストーン探しだ!」 「おう!」 「たーすけてくれーーー!!」 「ワルター様〜v」 シャランラは読者に気づいて振り返った。 「私の超初恋! ぜーったい叶えてみせますわ!!」 |
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