The Brave of Gold GOLDRAN




 ワルザック共和帝国。この国は、現代科学を遥かに凌駕する科学技術を持っている。皇室の始祖を辿れば知の神に仕えた神官であると伝えられていた。古来よりの伝承を紐解く考古学や言語学は人を育て、伝わる技術や理論は国を潤し、外敵から身を守る。
 だが、近年ではその技術を野望に投資させてしまっていた。広大な宮殿の敷地には学舎が並んでいる。その一つにレジェンドラの石版が置かれていた。集められた学者が、皇族だけが閲覧することを許される垂涎の古文書を片手に解読作業を行っている。
「本当に大丈夫なんだろうな? あんな年寄り連中にレジェンドラ石版解読委員会を任せておいて」
 ワルターは本や眼鏡をぷるぷると震える手で支える老人たちを一瞥した後、別の建物で建造中の新型空中移動要塞を見に歩みを進めた。その後をカーネルがつき従う。
「彼らは我が国最高の老考古学者ばかりですぞ。必ずやパワーストーンの在り処をつきとめましょう」
「うん。今後は独自にパワーストーンを探し出さねば・・・・」
 前回の痛い失敗に、ワルターは自分の作ったルールを曲げることにした。何にしろ父帝から咎めを受けるのは辛い。今回国元に帰ったのは、ザゾリガンに代わる新型要塞の下賜と叱責を受けるためだった。だが、それを振り切るように明るく振舞う。
「今までのように、お子達の動きを待っているだけでは、勝てんのだーーーーーっ!!
 爺、新型要塞デスギャリガンの準備は!?」
「はっ、いつでも発進できます」
 歩みを止めたワルターの前には、既にスタンバイを終えたデスギャリガンが主を待っていた。ザゾリガンと同じように赤いが、こちらの方がより洗練された外見で、空中戦艦らしい外見を持っている。艦底にはカスタムギアやサンダージャイロを始めとする兵器や小型輸送機を格納する切り離し可能なコンテナが、全体のデザインバランスを崩さないように収められている。「大きいことは良いことだ」の家訓に従い、ザゾリガンよりも二倍ほど大きく、また、ワルターの好みに合わせてカスタマイズされていた。
『ワルター様、パワーストーンの所在が判明しました!』
 移動モニターが老考古学者の喜色に満ちたアップを移しながら走ってきて、ワルターの目の前で停止した。
「何!? それは真か? 真実か?」
『はい』
 モニターの画面が切り替わる。石版の一部が大写しになった。
『ここに書いてあります文字に、「力の源、深き氷の奥底に眠れり」とあります。そして・・・・』
 次は地図だ。
「北極海・・・・」
『はい。このスノーランドは国土全てが氷でできている、まさに氷の国。その上に、古くから氷の奥に守り神が眠っているという言い伝えも残っております』
「スノーランドか。よし、ただちに出動だ!」
「はっ」
 カーネルが親衛隊員に合図を送る。
「今度こそ、パワーストーンをこの手に・・・・!」
「しゃらら」
「え?」
 開いた腕にシャランラが凭れかかった。
「私もお供いたしますわ、ワルター様ぁ」
「しゃ、シャランラ〜〜〜!」
 ワルターは思わずシャランラを突き飛ばし、飛び退く。それをちっとも気にせず、シャランラはワルターに擦り寄った。
「愛しい、愛しい、ワルター様ぁ〜〜〜〜〜!」
「うわっ!」
 狭いハンガーの中を、ワルターとシャランラが追いかけっこをする。
「ちょーお似合いの私たちに、部下の皆さんがジェラシっちゃっても構いませんの〜v 愛する夫の側にいられるのが、妻の幸せですもの〜〜〜〜〜v」
「くるなーーー!」
 ワルターが放り投げた移動モニターをシャランラの腕が抱きとめる。
「しゃら?」
 その一瞬の隙に、ワルターはデスギャリガンに乗り込んだ。竣工式もせずに、いきなりエンジン全開で発進する。
「シャイなワルター様v でもその心、何時かきっと蕩けさせてあげますわv」
 思いの丈を腕の中の物体にぶつけ、シャランラは移動モニターをへし折った。


 石環町のタンカー。SLの中で本に埋もれる主の下へ、パワーストーンを探しているジェットシルバーが連絡を寄越した。
「悪太がスノーランドに?」
『はい。先ほど、北極上空を行く、新たな敵の要塞と思われる飛行物体をキャッチしました。進行方向からして、おそらくスノーランドに向かったものと思われます』
「スノーランドか。寒そーだな〜」
 日本はもう衣替えの季節だ。想像力の豊かなタクヤは、なんとなく寒気を感じた。代わってカズキはジェットシルバーにパワーストーンの波動を感じたか尋ねた。
「つまり、パワーストーンはそこに?」
『いえ、まだそこまではわかりません』
『しかし、敵はどうやってパワーストーンの手がかりを掴んだのだろう?』
 石版があることを知らないドランが首を傾げる。タクヤはそんなことを疑問にすら思わず、楽しそうに立ち上がった。
「そんなの後、後!」
「そうだ。悪太の先回りをして、パワーストーンを見つけなきゃな」
「僕たちも出発しよう!」
『了解!』


 スノーランドである。国土全てが氷でできており、そこに住む人々の家も、地面である氷を削って作ったカマクラのようなものだ。人々は魚をとり、空を飛ぶものや流氷にのって移動する動物たちを獲物として生活していた。人工は百人程で、守護神の像とされるトーテムポールのような柱を中心に、小さな村が形成されているのみだ。
 うっかり防寒具を忘れたワルターは一人着込むカーネルの後ろで鼻水を垂らしていた。くしゃみが酷いので会話もできない。代わって長老と話しを進めるカーネルも気がきかない。
「伝説の守り神ですと?」
「ああ、昔からの言い伝えじゃよ。そんな昔話を聞きにわざわざこんな所まで・・・・。あんたらよっぽど暇人じゃの」
「へっくしょん! ヒマ人ではないわ」
パチン
 ワルターが指を鳴らすと、氷の影に控えていたカスタムギア隊が降り立った。
「ひゃ〜〜〜〜!」
 そのまま驚く人々を尻目に、地面に向かってマシンガンを発砲する。付近の家は壊され、人々は逃げ惑った。
「な、何をするのじゃ!」
「はっくしょん! パワーストーンを見つけ出すのだ。氷の大地を打ち砕いてな!」
「なんということだ・・・・」
 抵抗する術もなく見守る人々の前で、硝煙が晴れる。
「ふふふふふ・・・・どーれ、氷の下には・・・・」
 氷は十センチも割れていなかった。
「なっ! な、なななな・・・・なんでえ〜〜〜〜っ!?」
 村人がワルターの後ろで笑っている。
「パワーストーンどころか、穴一つ開かんとは・・・・。
 笑うな!!」
 試しにカスタムギアの何機かがダンスを踊ってみたりもしたが、一向に割れる気配はない。カーネルはしみじみと感心した。
「長い歳月凍りついた氷山の前には、カスタムギアも歯が立たないとは・・・・。まったく、大自然の脅威には」
「「アッと驚くタメゴロー」」
「ンなモンに驚いている場合か!」
 つられてしまったワルターが怒鳴る。
「はあ・・・・」
「はっくしょん! ったく・・・・早く暖かいところへ帰りたいわ。・・・・ん?」
 ワルターの表情が一変。ハードボイルド調になる。
「ふっふふふふふ・・・・」
笑っているうちに鼻水が垂れてきた。
「む゛ごう゛が大自然の脅威なら、こっちは大自然の恵みで対抗だ」
「は?」
「ふふふふふ・・・・・なーっははははは・・・・あはははったらあはははは・・・・はっくしょん!」


 アドベンジャーはスノーランドまであと少しというところまで来ていた。外は大分寒くなってきているはずだ。
「スノーランドについたらさ、氷山でカキ氷作って食べようぜ」
「呑気だねえ、タクヤ君」
「オイラ、いちご味が好きだけど、ダイは?」
 イチゴとメロンとミゾレを持ったタクヤが、上機嫌で聞く。
「シロップまで持ってくんなよ」
 ダイに代わってカズキがツッコむ。いきなりアドベンジャーが揺れた。
『うわ!』
「どうしたの?」
「急ブレーキかけやがって!」
『ぜ、前方に・・・・』
 スクリーンにアドベンジャーの視点の映像が映る。氷の絶壁が聳え立っていた。
「「「ひょ、ひょ、ひょ、氷山ーーーーーっっ!!!」」」
 アドベンジャーはすれすれのところを氷山にそって進み、上から落ちてくる氷塊を避けた。
「なんでこんなトコに!?」
「それにしてもちょっと!」
「でっかすぎじゃないのーーー!?」
『いや、あれはただの氷山ではない』
「え!?」
 巨大な氷山を一周して上空へ上がったアドベンジャーは、上から見た氷山の形を、目的地のスノーランドと重ねて見せた。
「こ、これって・・・・・」
「もしかして」
「スノーランドぉ!?」
 調査のために、その氷山へ降りてみる。ドランと、先回りしていたシルバーナイツもロボット形態になって辺りを見回した。タクヤは予想通りの寒さに、ジャケットの上から二の腕を擦る。
「でーも、なんでこんな所にスノーランドが?」
『嫌な予感がする』
 ドランの予感は当たった。氷の影からカスタムギア軍団が降りてきたのだ。
「ああ!」
 二機のカスタムギアが持ってきた巨大スピーカーから、聞きなれたバカ笑いがした。
「なーっはっはっはっは・・・・・!!」
「この声は悪太!」
「スノーランドへようこそ、おマヌケなお子達、A〜nd勇者ども」
 海中からデスギャリガンが海面に浮上する。各部から伸びたロープは氷山につながり、巨大な氷塊を曳航していた。
「よくぞ私の作戦に気づいたものだ。このスノーランドを赤道直下まで移動させ、太陽熱で厚い氷を解かし、その中に眠っているパワーストーンを手に入れる作戦をな」
「なーんて大雑把な計画だ」
 カズキが肩を竦めて呆れる。
「だけどあーりがーとさ〜ん。色々教えてくれちゃって」
「え? じゃ、あいつら何も知らずに来たのか?」
「そのようですな」
 カスタムギアに向かって一頻りはやし立てたタクヤは、ドランたちを振り返った。
「よーし、皆、合体だあ!」
『了解!』
 ドランとシルバーナイツが合体し、アドベンジャーが変形する。武装は解除しなかった。
「お・のれ、勇者どもめ! やれ! カスタムギア軍団!!」 
「いっけえー! ゴルドラン!!」
 例によってカスタムギアは時間稼ぎにしかならなかった。デスギャリガンのコンテナが開き、中からワルターのギア、ブリザードスが出撃する。防寒具をそのまま大きくしたような、少しコミカルな外見だ。
「ちいっ、小賢しい! この氷の大地に、おまえたちの墓標を立ててやる!
 このブリザードスでな!!」
 ブリザードスは両肩と両腕に装備された小型ファンから、青い光線を発射した。それはカスタムギアを砕いて隙のできたアドベンジャーを直撃する。
『うわー!』
「ああ、アドベンジャー!」
 タクヤたちの目の前で、アドベンジャーが見る間に氷の中に閉じ込められていった。
「っはっはははは・・・・!」
 不自然な体勢で凍ってしまい、そのまま倒れ伏す。幸いにも、砕け散るようなことはなかった。
『アドベンジャー!』
「次はおまえたちだ!」
『うわーっ!』
 アドベンジャーに駆け寄ろうとしたシルバリオンも冷凍ビームを浴びてしまう。
『し、シルバリオンまで! おのれーーーっ!!』
「はははは・・・・!」
 怒りに燃えるゴルドランの前に、ブリザードスが降り立った。
「気をつけろ、ゴルドラン! あの光線をちょっとでも浴びたら、アドベンジャーたちみたいに氷漬けにされちゃうぜ!」
 冷凍ビームを器用に避けるゴルドランの前で、カスタムギアが主に向かって拳を振り上げた。
「うわーーっ!!」
 とっさに避けたタクヤたちは、砕かれた氷と共に飛ばされてしまう。
『あ、主! うおっ!』
 主を追ったゴルドランの背後から冷凍ビームが襲った。
「凍れ、凍れ、凍ってしまえ! 私に逆らう勇者など、存在することすら許さんのだ!」
『うあ、主・・・・!』
 氷に閉ざされ、ゴルドランの緑の瞳がブラックアウトする。なんとか着地したタクヤたちは顔色を変えた。
「ご、ゴルドラン!」
「ヤバいぜ!」
 足元が揺れる。
「? うわーーーっ!!」
 三人の着地した氷の地盤が割れ、そのままソリの様に氷山の斜面を滑り始めた。
「主人公絶体絶命じゃねーかよーーー!!」
「どぅっはははは・・・・! ブリザードスの氷は、いかなる力でも抜け出すことはできんのだ! さあ、貴様らを破壊して、パワーストーンに戻してやる!」
 ブリザードスの拳がゴルドランに向かって振り下ろされる。
ガキン!
 氷はそれを跳ね返した。
「あれ? このこのっ! えいっ! てい、てい!」
 向きになって攻撃するワルターに、デスギャリガンに戻ったカーネルから通信が入る。
「若! ブリザードスの氷からは抜け出せません」
「そのセリフはさっき言った!」
「で、ですから、その氷の中にいる以上、如何なる攻撃をもってしても、奴らを破壊できないわけで・・・・」
「あ、そう・・・・」
 だが、いつまでも落胆しないのがワルターの取り得だ。
「おのれ、こしゃくな勇者どもめ! ふん、まあ良い。いずれこのスノーランドと共にその氷も溶けよう。その時でもおまえたちを葬るのは遅くはない。
 そして、そして! 私は一気に六つのパワーストーンを手に入れてしまうだあーーーーーっ!! はははは、あーっはっはっはっは・・・・!」


「どわ〜〜〜〜!!」
「何処まで滑ってくの〜〜!?」
「坂の終わりまでに決まってるだろーーーーっ!!」
 目の前に氷の絶壁が見える。
「あれが終わりだーーーーっ!!」
「止めてくれ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
 あまりの騒がしさに、眠っていたシロクマが目を覚ます。一声鳴いて立ち上がろうとすると、彼の背中を何かが滑って消えた。
「わあっ!」
 シロクマのおかげで方向転換でき、空中分解された氷から放り出されたタクヤたちは、ギリギリ断崖に着地できた。足元は海だ。
「ふう・・・・。間一髪セーフってトコか?」
「俺たち、運がいいな」
「主人公だもん」
「しっかし、本当にスノーランドを引っ張っていくとは・・・・」
 轟音が響く。氷の崖が、次々と崩れていくのが見えた。
「す、すげえ・・・・」
「大自然の脅威だね」
「TVのスペシャル番組みてぇ・・・・」
「でも、これってまずいんじゃない?」
「ああ。スノーランド全体がなくなっちまうぜ」
「ってことは、当然オイラたちが立ってるこの場所も・・・・」
ピシピシ・・・・
「あーーーーーっ!!!」


 赤道近くのリゾート地では、海に現れた巨大な氷塊に人々は目を奪われ、波を切り裂いてそれを曳航しているデスギャリガンにまでは目が向けられなかった。
 辺りは確かに寒いが、氷そのものが放つ冷気だけだ。気温自体は確実に上がっている。
「もー、やってらんねー!」
 スノーランドの人々は、初めて経験する暑さに次々と防寒具を投げ捨てる。
「長老、我々はどうなるんでしょうか?」
 不安を募らせ、トーテムポールの周りに佇む村人の中で只一人、長老だけが超然と防寒具を着用していた。
「はあ・・・・」
「この暑さは一体全体・・・・」
「あ、ああ・・・・」
「暑くねーのかよ、ジジイ!」
「あ、ああ・・・・」
「スノーランドはもう終わりよ!」
「我ら一族もこれまでか・・・・」
 ボケてしまったと思われた長老は、一人トーテムポールに祈りを捧げていた。
「神よ。ご先祖様よ。どうかスノーランドをお守りくだされ・・・・」

 デスギャリガンのコンテナには、氷漬けにされたゴルドランたちが収納されていた。
「あと数時間のうちに、スノーランドは完全に消滅いたします」
「うん。その頃にはこの氷も溶けているだろう。そしてこやつらを破壊して、パワーストーンへと戻し、スノーランドに眠るパワーストーンと合わせてこの手中に・・・・!」
「おめでとうございます、若君」
「めでたいぞ、爺。めでたいのだ! わっはっはっはっは・・・・!」
 上機嫌で立ち去るワルターたちの背後で、ゴルドランたちの氷は確実に溶け始めていた。

「うわ〜〜〜〜!!」
 崩れる氷からタクヤたちは未だに逃げていた。
「全っ然自体が好転してねーじゃんかよーーっ!」
 走っているうちに、起伏の激しい場所から開けた場所に出る。
「あ、人がいるぜ」
「スノーランドの人たちだ」
「ここが島の中心なんだな」
 広場から少し離れた場所に、大きな亀裂が走っているのが見えた。
「ここも安全じゃねーってことか」
「とにかく、向こうへ行ってみようぜ」
「ああ」
 村の中心に下りていくと、険しい、よそ者を見る目つきで歓迎された。
「ふうん。で、あんたらは何じゃ?」
「え? えっと・・・・・」
 返事に詰まって思わず冒険セットを見せる。
「ボクたち、正義の味方です!」
「それで?」
 崖がまた一つ崩れた。
「だ、だから・・・・みんなが困ってると思って助けに・・・・」
「あんたらが?」
「え? あ、いえ・・・・」
 一転、期待の込められた眼差しに、腰が引ける。
「あんたらが儂らをどうやって助けてくれるんじゃ?」
「いやー、その・・・・」
「ゴルドランたちは捕まっちまったしな」
「どうしよう・・・・」
 地面が大幅に傾いた。
「うわわわわ・・・・!」
 坂道を転がり落ちれば海だ。面積こそ狭くなってきているものの、スノーランドはまだかなりの高さを残しているし、サメがいるとも限らない海域だ。落下だけは絶対に避けたい。坂道を駆け上がり、脆い氷にしがみつく。
「何だ、何だあー!?」
「バランスが崩れたんだ、大勢乗ってるから!」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよっ!」

「ふっふふふふ・・・」
 ブリッジでくつろぐワルターの手には、スノーランドの氷で作った水割りがあった。巨大スクリーンでは、五分の一程になってしまったスノーランドが、どんぶらこっこと右に左に傾いている。
「スノーランドも終わりですな」
「うん。いよいよパワーストーンも我々の・・・・お? 何か妙だな」
 揺れが少なくなっているのだ。
「もっと左行ってー」
「右、右、もうちょい右!」
「左に人が多いみたい」
 お子達はトーテムポールによじ上り、氷山のバランスを取ろうと住民たちに指示を出していた。先に「正義の味方」などとのたまったお陰で、反対する声も上がらず、よく言うことを聞いてくれる。
「はい、皆さん。もーちょい右ねー」
「ああ、向こうになんか重そうな人がいるよ」
 ダイがゴルドスコープで遠くにいる人の塩梅を確かめる。
「そこのあなた! 右に寄って!」
「行き過ぎだよ、左、左!」
「あっちの人が貧乏揺すりしてるー」
「おら! 海におっこちたくなかったらバランスを取るんだ!」
「はーい」
 ワルターはそんな様子をイライラと指で膝を叩いて見ていた。
「うーん、うーん・・・・なんか焦れったいぞ!?」
「微笑ましいと思いますが」
「ましくない!
 あのくらいの大きさならもう充分! 私の手で砕いてくれる!!」
 デスギャリガンが牽引していたロープを切り離し、上昇する。一番コンテナが開き、ブリザードスが発進した。
「やはり私は焦れったい作戦は嫌いなのだ!」
 ワルターはそう言うと、バズーカを構えた。
 平定した氷の板に、タクヤたちは一息つく。
「ふー」
「とりあえずは落ち着いたな」
「うん」
 微笑みをかわそうとした時、大幅に揺れた。ブリザードスの攻撃で砕かれた氷のつぶてが飛ぶ。
「何だーーー!?」
「うわ!」
 最早トーテムポールの周りも無事ではない。
「ふふふふ・・・・氷さえ溶けていれば・・・・? 氷が溶ける? 何か忘れているような・・・・」
 デスギャリガンのコンテナの一つは、床が水浸しになっていた。
「忘れたことなど気にしてられんわ!」
「くっ!」
「パワーストーンは貰った!」
 バズーカの照準をトーテムポールに合わせる。
「ああっ!」
「くらえ!」
ズバッ!
 バズーカの砲身がなくなった。
「な、なんだと!?」
『黄金合体 ゴルドラン、再び見参!』
「ゴルドラン!」
 タクヤたちはその声に安心した。
「ど、どうして氷から・・・・そうか、こいつらの氷も溶けてしまったのか・・・・。
 ? あ、するってーと・・・・」
 処女航海のデスギャリガンが、内側から爆発した。甲板にシルバリオンとアドベンジャーが聳え立つ。
『そのとーり! 我々も氷の中から出られたわけだ!』
『目覚めのウオーミングアップをさせてもらったぞ!』
 中に積まれていた兵器は、一切が破壊されている。
「そんなバカなーーーーっ!!」
『バカではない!』
 シルバリオンが少し怒ったように怒鳴った。
「うぬーっ! こうなったらスノーランドのパワーストーンだけはいただく!」
 ブリザードスは指に装備されたバルカン砲を発射する。
「うわー!」
 スノーランドが壊されていく。
「もうダメだーーー!」
「これまでか!?」
「ああーーーー!」
 崖も山も、平坦な地面も、全てが氷の破片となって、なくなっていく。
『主! 主!!』
『主!』
『主!』
「いやった、やったぞー!! これで夢にまで見たパワーストーンが私のものに!」
 そこにはスノーランドはなかった。だが、巨大な船があった。
「・・・・いっ!?」
「なんだよ、この船はーーー!?」
 それは植民地時代に使われたような、古い古い移民船だ。人々はその船の甲板に救い上げられ、全員が無事だった。歓声があがる。
「これぞまさしく、スノーランドの守り神じゃ・・・・」
 長老はタクヤたちのしがみつくメインマストに祈りを捧げた。トーテムポールはこれのてっぺんだったのだ。
「氷の中に眠っていたのは、これだというのか?」
「これこそ、儂らの遠い遠いご先祖様が乗っていた移民船・・・・。大昔、新天地を求めて旅立ったご先祖様を、スノーランドへ導いた我らの守り神」
「そーんなバーカなーーー・・・・」
 ワルターの顎が外れる。
「ってことは、ここにもパワーストーンはなかったんだ」
「メーワクな話だぜ、ったく」
「そーだ! みんな、あいつのせいだ!」
「ギクッ! お、おのれーーー! こうなったらせめておまえらを葬ってくれるわーーー!!」
 再び冷凍ビームが発射される。
「ゴルドラン! あの光線を止めるんだ!」
『心得た!』
 ゴルドランは海に浮かんでいる氷塊を掴むと、ビームに向かって投げつけた。
『てやっ!』
「そんなもので!」
 氷塊はビームを受けて雪ダルマ式に大きくなっていく。
「いっ?」
 そのままブリザードスに直撃した。
「わーー!?」
 ビームは氷に当たって逆流し、ブリザードスを凍らせた。
「あ、れ・・・・? じ、め゛、だ、い゛・・・・」
『今だ!』
 ゴルドランは海に落ちたブリザードスに、スーパー竜牙剣を抜いて斬りかかった。
『一刀両断斬りーーーー!!』
 爆発が起こり、脱出ポッドが射出される。
「お゛・ぼ・え゛・で・ろ゛〜〜〜〜〜」
 ワルターを見送り、タクヤはため息をつく。
「でーも、スノーランドなくなっちまったよな・・・・」
「心配いらんぞ」
「え?」
 長老が、気の毒そうにマストを見上げる少年たちに優しく微笑む。
「この船さえあれば、ご先祖様のように旅ができますじゃ」
 背後の住民たちも依存はないようだ。少し胸のつかえが取れ、主は家来を見上げた。
「ようっし! ゴルドランたち、このままスノーランドの人たちを、北極まで運ぶんだ!」
『了解!』
 歓声があがった。


 氷漬けになったワルターはカーネルにお湯で溶かしてもらいながら、本国からの通信を受け取っていた。
「な、なんだと!? 石版の文章に続きがあったぁ!?」
「はあ・・・・『力の源、深き氷の奥底に眠れり。だが、それは勇者にあらず』とありました」
「なっ・・・・!」
 横転。
「ワルター様、お気を確かに!」
「わ、私は何のためにこんな・・・・うう・・・へっくしょん!」

 無事に北極まで連れて来てもらった人たちは、懐かしい冷気に感動し、去っていくSLにいつまでも手を振っていた。
「さよーならー」
「ありがとー」
「何ともありがたい。正に救いの神じゃ」
「さよーならー。元気でねー!」
 ダイたちもいつまでもアドベンジャーの窓から手を振っている。カズキは素直に感想を漏らした。
「妙に嬉しいな。あんなに喜んでもらえると」
 そろそろ陽が暮れる中、人々の目の前を、住処に戻るペンギンが横切っていった。
「? ・・・・ペンギンってことは、ここは・・・北極じゃなくて・・・・」
「南極だーーーーっ!?」
「まだあんなに手を振ってるよ」
「ホントだ」
「待ってくれー! おい、待ってくれーーーー!!」
「たまに良いことするってーのも、気持ちいーじゃん!」
 オーロラが笑うように揺らめいていた。





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