The Brave of Gold GOLDRAN




『主よ。私とアドベンジャーも、これよりパワーストーンの探索に参加する』
 タクヤたちが根城にしているタンカーに辿り着いてのドランの一声がこれだった。人型に変形して見下ろされるのはあまり気分のいいものではない。表情を変えずに機械的にそう告げるドランは、なんとなく嫌いだった。
「探索ならシルバーナイツに任せとけばいーんじゃないのー?」
 それに自分たちの足がなくなってしまう。
『主よ、それは違う』
『アドベンジャーの言う通りです』
『なんたってヒントがヒントだろ?』
 タクヤとカズキは改めてダイの手元のゴルドスコープを見た。上部の小型モニターには、"○"印が表示されていた。
『その形がヒントでは、あまりに範囲が広すぎるのであります!』
『よって、全員の出動が必要なのだ』
 近くにパワーストーンがあれば、彼らはその波動を感じ取れる。尤も、今まで成果をあげた試しはないが。だから主にも探索を頼むのだ。
『主たちも調査を頼むぞ』
 ここ二ヶ月ほど言われ続けている言葉に、タクヤがキーっと腕を振り上げる。
「あーッ、耳にタコ! 何べんも言うなってーの! オイラたちは図書館で調べ物すりゃいーんだろ!?」
『頼むぞ、主』
 勇者たちは変形すると、タンカーの船底にある破れ目から出動していった。ドラン、スターシルバー、ドリルシルバーは海上を走り、アドベンジャー、ジェットシルバーが空を行く。タンカーの甲板から堤防の上に出て、出動する彼らを見送ったダイは表情を改めた。
「何か、みんないつもと違うみたい」
「焦ってんだろ、きっと」
 ドリルシルバーまでポンポンと都合よく見つかったのに、次の勇者は二ヶ月経っても見つからない。
「あー、もうっ! つまんねー! 行くぞ!」
 タクヤは二人を促すと、図書館とは反対方向に足を向けた。


 勇者たちは世界の各地へ広がった。もっとも、いつワルターが攻めてくるかわからない。主たちの身の安全を考えてそれほど遠くへは散らばらない。
『こちらスターシルバー。手がかりなしだ! そっちはどうだ?』
『こちらもダメであります!』
『私の方も、今のところは収穫なしです』
 シルバーナイツからドランとアドベンジャーに定時連絡が入る。
『そのまま調査を続行だ』
『頼むぞ、みんな。もしもパワーストーンが心悪しき者の手に渡ったら、大変なことになるのだからな!』
 ドランが檄を飛ばした。
『了解!』


 タクヤたちはゲームセンターで遊んでいた。高圧的に言われれば反抗したくなるのが人間の常だし、この年頃の子供ならば尚更だ。
「このっ、このっ!」
「ていっ、それっ!」
「ねえ・・・・」
 ダイは腕に大量のぬいぐるみを抱えて、格闘ゲームに興じる二人に声をかけた。持っているぬいぐるみは、どれも女の子が喜びそうなファンシーなものばかりだ。全てクレーンゲームの戦利品である。ダイはこの手のゲームが得意だった。
「やっぱり図書館に行った方がいいんじゃないのかな?」
 少なくとも、行けば自分に言い訳はできる。
「黙ってろ!」
「バレやしないって!」
 ゲームに夢中の二人はそれを軽く聞き流した。


 ワルザック共和帝国日本大使館は、朝から静寂に包まれていた。
「しゃら」
 こっそりワルターの執務室に忍び込んだシャランラは、きょろきょろと辺りを見渡す。誰もいないのを確認すると、背中に隠したスーツケースを引っ張り出した。
「愛しのワルター様はお留守のようですわね。では、その隙に・・・・」
 スーツケースの中から飛び出してきたのはセーラー服、着物、看護婦、スチュワーデスと、様々な衣装だ。これで今晩、ワルターのベッドに潜り込む予定である。
「これだけそろえればもう安心! 後はお好きなコースをワルター様に選んでもらえれば・・・・ただでさえ私のことを好き好き〜v なワルター様のお気持ちは、ファイヤ〜! するに決まってますわ。うふっ」
プルルルル・・・・
 シャランラの妄想を電話の着信音が遮った。
「ぎくう! ど、どうしましょ? 出た方が良いのかしら?」

 留守番電話になっていた。きっとカーネルが切り替えていったのだろう。
『はい』
 ワルターの声で録音されたテープが再生される。
『ワルター・ワルザック様です。私はただいま留守にしている。ここ数日は帰らぬ予定である』
 いきなり「帰らぬ」とメッセージを聞かされ、シャランラの肩が落胆に下がった。
「はあ・・・・」
『ピーっという発信音の後に、そちらのお名前とお電話番号、そしてメッセージを入れておくがいい。おってこちらから連絡してやろう。では・・・・。
 あれ? 時間が余っ・・・・ブツ』

 肝心要のワルターは、レジェンドラの石版の置かれている部屋で学者相手に八つ当たり気味に怒鳴っていた。
「おまえたちは、このワルザック共和帝国で最高の知識を誇る学者たちであろう! なのに何故この私に実りある報告をもたらさぬのだ!」
「若君はあなた達の解読作業の遅れに苛立ち、こうして自らここに出向いてこられたのですぞ!」
 そう、一向にパワーストーンが見つからないことに苛立ち、ワルターはわざわざ本国に戻ってきたのだ。
「お言葉ですが、このレジェンドラの石版に記された文字は、現在解明されているどの古代言語にも属さぬ・・・・」
「ええい、黙れえっ!!」
 皇太子の声量に、本棚から分厚い本がバサバサと落ちた。
「私は学者の能書きを聞きにきたのではないわ! 私が求めているのは答えだっ! それが出るまで私はここを動かんぞ!!」
 ワルターは床にどっかと胡座を書いて長期戦の様相を示した。これでは国政も止まってしまう。
「若君をこれ以上怒らせてはなりませぬ! さ、作業を再開されよ!」


 夕方になってタクヤたちはタンカーに戻った。ドランたちも探索から戻ってきているからだ。ここのところ事務的にしか顔を合わせていないのがまたつまらない。
『そうか、主たちも手がかり成しか・・・・』
 ダイはゲームセンターで袋を貰ってくれば良かったと後悔した。後ろ手に隠しているぬいぐるみは今にも腕から落ちそうだし、ロボット形態の今は少しでも近くに寄られたら、上から見えてしまう。可愛いぬいぐるみを眺めたくて、景品を取ってもついつい袋を貰わなかったり、捨ててしまったりすることが多々ある。タクヤやカズキはそれに気づいて指摘したのだが、もうタンカーの直ぐ側まで来ていて準備する暇がなかった。ゴルドシーバーの反応が近くにあるのに、引き返したら返って怪しまれる。早く帰りたくてタクヤは口から嘘八百を並べ立てた。
「そーなんだよー。図書館中の本をチェックして来たんだけど。な? な?」
 カズキはダイは苦笑いをしながら大げさに頷いた。その拍子にぬいぐるみが落ちる。
「あっ・・・・」
「やべっ・・・・」
 足でズボンの裾に隠そうとするが、そうしている間にもどんどんぬいぐるみは落ちていった。
「あ、ああ・・・・」
「バカ!」
「だ、だって・・・・」
 小声で言い争いをしているが、冷たい視線を感じて上を見上げると、威圧感のある五人分の視線が見下ろしていた。叱られ恐怖感に身を寄せ合い、すぐにダイは謝った。
「ご、ごめんなさい! 本当は僕たち、図書館なんて行ってないんだ。本当は三人で遊んでたんだよ・・・・」
『・・・・・・そうか』
 ドランは随分長い沈黙のあとそれだけ答えた。十mもある巨人に見下ろされるのは、それだけで恐い。カズキもタクヤも上ずった声でなんとかこの場を切り抜けようとした。
「な、なんだよ・・・・」
「オイラたちは主なんだからな! べ、別に何やったっていーんだよー!」
『その通りだ』
 返ってきた意外な言葉に、思わず子供らしく目を丸くする。
『そなたたちは我が主だ。我々の言葉に従う必要はない』
「う、わ、わかりゃいいんだよ!」


 強気な言葉とは裏腹に、タクヤは家に帰っても落ち着かなかった。宿題をしないのはいつものことだが、ごはんもお代わりしなかったし、ベッドに入っても寝付けない。天井から釣り下がった戦闘機のプラモがジェットシルバーに見える。二階にあるタクヤの部屋の窓からは、石環山のキノコ岩が見えた。ドランを見つけた場所だ。
「うん・・・・」
 結局起き上がってしまった。
 
 カズキの家の部屋からもキノコ岩が見える。

 急にぬいぐるみがつまらないものに見えたダイは窓の外を見た。町の何処からでもキノコ岩が見えた。

 普段着に着替えて窓からこっそり家を抜け出したタクヤは、俯いてズボンのポケットに手を突っ込み、暗い夜道を歩いていた。
「『ドラン、今回はオイラが悪かった。許してちょんまげ』。ダメだな、これじゃ・・・・。『皆、何も言わずにオイラを殴ってくれ!』 うう〜、マジに殴られたらオイラが死んじゃうっつーの!」
「タクヤ君」
 一人でぶつぶつ言いながら歩いていたタクヤは、柔らかい呼び声に立ち止まった。
「ほえ? あ・・・・ダイ!」
 通学路になっている横断歩道の向こうにはダイがいた。
「やっぱり、タクヤ君も気になってたんだ」
「ま、まあな・・・」
「何クサイドラマやってんだよ、二人とも」
 歩み寄った二人に横槍が入る。
「カズキ! やっぱおまえも・・・・!」
「ああ・・・・」
 やはり照れくさいのか、カズキは横を向いて頬を掻いた。
 
 タンカーの外側にある梯子を上り、甲板から朽ちた船室を通って勇者たちの隠れている船倉に下りて行く。辺りは既に真っ暗だが、明かりもつけずにタクヤたちは昼間と同じ足取りで歩いていった。昔は幽霊が出るとかいう噂もたった船だが、今はドランたちがいるので恐くないと心の奥底で思い、安心している。
 船倉を上から見下ろすキャットワークから下に降りようと歩いていると、突然タクヤが伏せ、二人にも頭を下げるようにジェスチャーをした。
 船底の広い船倉では、ロボット形態になった勇者たちが車座になって座っていた。それぞれ胡座をかいたり足を組んだり、立て膝を立てたりと、思い思いの姿をして唸っている。合体していないので、当然アドベンジャーが一番大きい。
『うーん・・・・』
「あいつら、オイラたちの居ない時ってこんなだったのか」
「アドベンジャーの中で大人しくしてんのかと思ってた」
「何か、人間みたいだね」
 腕を組んで胡座をかいていたドランが顔をあげる。
『夜の探索も手がかりなしではな・・・・。明日からは探索の範囲をもう少し広げてみよう』
『了解』
『主たちには、もう一度調査をお願いしていますか?』
 ジェットシルバーがドランに顔を向けた。
『一応、お願いはしてみよう。しかし、あの調子だからな。あまり期待はしないほうがいいだろう』
『そうだな』
 肩をすくめて茶化すようなドランの言葉に、アドベンジャーが相槌をうった。
『主たちにも、困ったものですね』
 ジェットシルバーの苦笑交じりの発言に、勇者たちは声をあげて笑った。
『はははは・・・・!』
『まったくだ』
 手摺の無くなったキャットワークから身を乗り出すようにその様子を見ていたタクヤたちは、だんだん目が離せなくなった。
「笑ってる・・・・」
「ドランたちが笑ってる・・・・」
「ロボットなのに・・・・」
『けど、あいつらもやってくれるよなー』
 いきなり「あいつら」と言われて、慌てて伸ばしていた首を引っ込める。
『主としての自覚がゼロであります!』
『まったく、私たちはとんだ主を持ったものです』
『それも、レジェンドラの神の定めた運命かもしれん』
『だが、私は、自分を目覚めさせてくれたのが主たちで良かったと思っている』
 ドランは微笑して、しみじみとこれまでの三ヶ月ほどを振り返った。その様子に仲間たちもタクヤたちもドランの言葉に聞き入った。
『主たちは、まだ子供だ。主としての自覚に欠けていても仕方がない。だが、彼らには無限の可能性がある。それに、純粋な心もある。私は、そんな彼らを「主」と呼ぶことに誇りを感じている』
 彼らがそんな想いを抱えていたなんて想像もつかなかった。
「ドラン・・・・うわっ!?」
 思わず立ち上がろうとしたタクヤは足を滑らせ、キャットワークから落ちそうになった。辛うじてカズキとダイに支えられる。
『あ、主!?』
 子供の悲鳴に振り返った勇者たちは、驚愕の表情で主たる少年たちを見上げた。
「だ、あ、ははははは・・・・・」
 主たちは苦笑いで誤魔化し、勇者たちはバツの悪そうの表情をした。


「これが?」
 ようやくワルターの目の前のスクリーンが「実りある報告」を表示した。石版に刻まれた文字の一部が拡大され、スクリーンに映しだされている。
「はい。解読委員会によりますと、この一文こそが次なるパワーストーンに関する記述に間違いないとのことです」
 カーネルが古代文字の一部を指した。
「して、なんと記されておるのだ?」
「は。
  『丸に秘められし真の意味を悟れ。それは場所にあらず、言葉にあらず、意味にもあらず』
で、ございます」
 ワルターは顎に手をやって考える仕草をした。表面ほど考えてはいないが。
「ふむ・・・・場所でなく、言葉でもない・・・・。では一体なんだと言うのだ?」
「その謎は、次の文章の解読結果待ちでございます。もうすぐ答えが出るかと」


 船の備品でも安物は撤去されていなかった。ロッカーを開けると掃除道具が一式そろっている。
「お、あったあった! おい、二人とも! あったぞー」
 タクヤたちはそれぞれモップや雑巾を持つと、勇者たちに海に出ろと命令した。腰まで海水に浸からせ、灯台の明かりを頼りに濡らしたモップや雑巾で掃除にかかる。
『あ、主よ・・・・別にこんなことをしてくれなくても・・・・』
「気にすんなってーの!」
「今日のお詫びだよ」
 ダイを掌に乗せているジェットシルバーは、嬉しそうに訊ねる。
『ですが、いいのですか?』
「おまえたちが汚ねーと、主の俺たちまで恥かくからな!」
『ならば、お言葉に甘えて・・・・』
 スターシルバーは普段は内側に隠れている顎を仰け反らせた。すかさずカズキがモップで擦る。
『あー、いい気分だぜ』
『自分も、早くしてほしいであります』
『そうだな』
 人手不足で後回しにされたドリルシルバーとアドベンジャーがその様子を微笑ましそうに眺めていた。
 夜も大分更けた時間に、ようやく全員の掃除が終わった。
「あー、ちかれたび〜」
「もー二度とやんねぇ」
「でも、みんなピッカピカだよ」
 タクヤたちの努力は報われ、勇者たちは埃一つない姿で満足そうに海上に立っていた。
『主よ、お願いがある』
「ほえ?」
 ドランが至極真面目な表情で訴えた。
『今から我が相棒のゴルゴンを呼ぶ。あいつも綺麗にしてやってはくれまいか』
「え? え? え〜〜〜〜〜〜〜?」
 せっかくドランたちも綺麗にしてやったのだ、ゴルゴンもやらないのでは不公平になる。ああ、ですがゴルゴンですか。誰よりも溝が多かったり、角とか爪とか余分なパーツがくっついていたり、アドベンジャー並に大きい彼のことですか。有機的に見える丸い鱗のような金属部分が実は鋭角的なパーツをたくさん重ねた結果だって知ってますか? 収納されていない火器の発射口の溝が細かいって知っていますか? そろそろ新聞配達の方々が起き出す時間ではありませんか?
「あう〜・・・・」
 返答に詰まった主の困った表情を見て、ドランは真面目な表情のまま言った。
『心配するな、主よ。今のは冗談だ』
「え?」
『はっははははは・・・・!』
 主たちの表情にしてやったりと、ドランにシルバーナイツ、アドベンジャーは大笑いした。
「ったく、脅かしやがって」
 足を投げ出して座り、勇者たちを呆れて見下ろす。
「でも、おまえたちってこんなに人間臭いとは思わなかったぜ」
「どうして今まで隠してたの?」
『隠していたわけではない』
『どうやら我々は、精神的に変化を起こしているようだ』
「言ってる意味が、わ〜かーましぇ〜ん〜」
 タクヤが両掌を上に向ける。ジェットシルバーがもう少し噛み砕いて説明した。
『私たちは、目覚めてすぐには、ほとんど感情が働きませんでした。主の命令を実行するという気持ちしかなかったのです。ですが、しばらくすると・・・・』
『こうして色々な事を考えられるようになってきた、というわけだ』
「なるほどな・・・・よくわかんないけど・・・・」
 やっぱりわからなかったらしい。
「オイラ、こういうドランたちの方が好きだな!」
「うん、そうだね!」
 主たちもまた、笑った。


「次の碑文が解明できたとな!?」
 そろそろ飽きてきたワルターの前でカーネルが頷く。
「は。まだ完全ではありませぬが・・・。
  『××を通わせし者が集う姿こそ、真の意味なり。パワーストーンの秘密は、勇者たちの××の中にあり』」
「その××とはなんだ?」
「解読できておらぬ部分でございます」
「あら・・・」
 肩透かしを喰ったワルターが軽くコケる。立ち直ると、読めぬ碑文をまた眺めた。
「『××を通わせし者が集う姿こそ、真の意味なり。パワーストーンの秘密は、勇者たちの××の中にあり』か・・・・。うーん、××の意味とは一体・・・・」


 勇者たちはタンカーの上に上がると、大事な主を囲んで再び円の形に座った。
「今日はごめんな。ドラン」
『気にするな、主よ』
「明日はちゃんと図書館に行くね」
『ありがとう』
 アドベンジャーが頷く。
「おまえたちも、しっかり調査しろよ」
『はい』
 シルバーナイツが声をそろえた。


 ワルターは自分の休憩用に用意された机を叩いて立ち上がった。
「××の意味がわかったか!」
「はい、たった今」
「して、その意味は!?」
 カーネルは左胸で両手を少し丸めて左右対称になるよう組み合わせた。
「心、でございます」
 つまりはハートマークだ。
「心? では、あの碑文は・・・・」


"○に秘められし真の意味を悟れ。
それは場所にあらず、言葉にあらず、意味にもあらず。
心通わせし者が集う姿こそ、真の意味なり。
パワーストーンの秘密は、勇者たちの心の中にあり"



 車座になった勇者たちの頭から体にかけて電撃が走った。それは痛みや苦痛を伴うものではなく、心の起こした変化そのものを具現化したものだった。金色の光で五人の勇者が繋がりあう。
「大丈夫か、みんな!?」
『・・・・思い出した!』
「え?」
 心配する主たちを他所に、ドランたちは頭を抑えていた手を外し、それぞれの顔を合わせる。
『思い出しただろう? みんな!』
『ドランもか!』
『私にも見えました!』
『俺もだ!』
『自分もであります!』
「ったく、トンチンカンだなー。一体何を思い出したっつーんだよ!?」
 除け者にされて面白くないと、タクヤが頬を膨らませる。ドランは勢い込んで足元の主を見下ろした。
『パワーストーンの在り処だ!』


 デスギャリガンが発進する。パワーストーンの在り処が勇者たちの心にあるというのならば、お子達は必ず動くはずだ。
「爺、例のギアは?」
「いつでも出撃可能でございます。プラズマルスに装備された二百万ボルトの電気フィールドシステムは、必ずや勇者を葬り去ることでしょう」

 アドベンジャーは真っ直ぐエゲレスの北部に向かっていた。のどかな田園風景は徹夜の目にも優しい。
「パワーストーンの在り処はエゲレスだったのか」
『私たちの心に浮かんだのは、湖畔の古い城だ』
「そいつはおそらくアレだ」
 カズキはアドベンジャーのモニターに映る湖畔の城を示した。もう肉眼でも見える距離である。
「あれは古代エゲレスのヨールー王の城だ。ヨールー王は円卓の騎士と共に、このエゲレスの統一をしたんだ」
「エンタクって・・・・♪あ、答え、一発〜」
「それは電卓」
 ドランが冷や汗を流し、ダイが苦笑しながらツッコミを入れる。律儀だ。カズキも笑いながら説明してやった。
「円卓ってのは、丸いテーブルのことさ」
「丸かぁ。なるほど、ヒントとピッタシカンカンじゃん!」
 タクヤたちの笑顔を遮るように、突如アドベンジャーが揺れた。
「うわあ!?」
 雷太鼓を背負った真っ黒な姿のプラズマルスが、手に持ったイナズマソードから電撃を放ってきたのだ。
「アドベンジャー、着地して反撃だあー!」
『了解!』
 アドベンジャーは急いで着陸すると後部ハッチを開き、シルバーナイツ、ドランを外に出した。すぐに全員ロボット形態に変形する。
「しっかりなー、皆!」
『おう!』
 勇者たちは頼もしく腕をあげて戦場に向かう。
「待った!」
『?』
 いきなり水を注されてドランたちは訝しげに振り返った。
「みんな、あんまり無理するんじゃねーぞ」
 思いもかけないタクヤの言葉に、胸の内・・・・パワーストーンが温かくなる。
『主・・・・』
「せっかく苦労して綺麗にしてやったんだからな!」
 カズキの言葉は例によって少し意地っ張りだ。
「本当に気をつけてね!」
 ダイは明るく元気付けてくれる。
「負けそうになったら逃げちゃえばいーんだからな!」
 そういってウインクしたタクヤが、ドランには本当に可愛らしく見えた。
『わかったよ、タクヤ!
 行くぞ、みんな!』
『おう!』
 デスギャリガンの二番コンテナが降下し、中から赤いミサイルギアが次々と出てくる。次々と発射されるミサイルをかわし、ミサイルギアを撃破していく。ギア部隊を全滅させると、落雷が襲った。
「ふふふふ・・・・二百万ボルトの恐怖を味わうがよい!」
 間断なく電撃を振り下ろされ、勇者たちは地に伏せてやり過ごすしかない。
『こうなったら・・・ゴルゴーン!』
 ドランはゴルドランに、シルバーナイツが合体し、アドベンジャーが内臓されている重火器を出す。
「バカめ! 電気フィールドシステム始動!」
 プラズマルスが背中の雷太鼓を外して放り投げた。上空で回転しながら滞空し、辺り構わず電撃を撒き散らしていく。
『何っ!?』
 雷の直撃を受けた勇者たちは帯電と衝撃で動けなくなった。
「うわーーーー!!」
 お子達は頭を庇いながら林の間を逃げ回った。雷はあとからあとから切れ目なく降り注いでくる。
「ふふふふ・・・・無様なことよ。さて、それではゆっくりとパワーストーンを探すとしようか」
 プラズマルスが回頭し、雷の中を朽ちかけた城へ向かう。
「何であいつはこんな中でもへっちゃらなんだ!?」
「もしかして、あいつ、電気を通さないんじゃないの!?」
 タクヤたちは雷から必死に逃げながら苛立ち紛れに叫んだ。プラズマルスはこちらよりも高い位置にいるにも関わらずまったく被害を受けていない。
「当たりだ! ヤツは全身に電気を通さないラバーでコーティングしてやがる!」
「で、どうすりゃいいんだよっ!?」
「ゴルドラン! 剣をヤツに突き刺せ! そうすればヤツも稲妻を浴びるはずだ!」
 立ち止まって叫ぶカズキに向かって雷が落ちる。
「危ない!」
 間一髪でダイがカズキを稲妻から攫った。
『こ、心得た! む・・・ん・・・・』
 ゴルドランはスーパー竜牙剣に手をかけたが、雷のおかげで刀もゴルドラン自身も帯電してしまい、強力に引きあった磁石のようになかなか抜けない。
 プラズマルスは古城の一角を破壊した。歴史と伝統を感じさせる部屋の奥には、何かの儀式に使われたような、大きな金の杯の側面に赤い宝石が填まっている。
「見つけたぞ! 今度こそ私のものだ!」
「大変だ!」
「急げ、ゴルドラン!」
『わ、わかっている!』
 ついに刀を抜ききったゴルドランは、動かぬ体を無理して動かし、杯に手を伸ばしたプラズマルスに向かって刀を投げつけた。
『でやーーーーー!!』
プス
「何? ぎえ〜〜〜〜〜〜!! ししししし・・・・シビレル〜〜〜〜〜!!」
 ワルターが力尽きると、プラズマルスは湖に落ちた。
「ゴルドラン!」
『わかっている!』
 ゴルドランはタクヤを掌に乗せると、大きくジャンプして壊された古城の部屋にタクヤを下ろした。
「これだ!」
 タクヤは赤いパワーストーンの上に手をおくと、復活の呪文を唱えた。
「黄金の力護りし勇者よ! 今こそ甦り、我が前に現れ出でよ!!」
 パワーストーンが眩い光を放ち、気ままに宙を舞って空に飛び出した。
「うわ!?」
 慌ててタクヤは手を引っ込めた。
『おお!』
 ゴルドランは中空に姿を形成した光に声をあげる。それは今まで復活した誰とも違う、奇妙な懐かしさ。
 出現したのは黄金の翼を持つ赤と金の翼を持つロボットだった。彼は翼を広げてタクヤに挨拶をした。
『拙者の名は空影。レジェンドラを守る黄金忍者でござる』
「黄金忍者ぁ?」
『如何にも。主よ、拙者に命令を!』
 ゴルドランはタクヤを掌に乗せ、空影に向かって掲げた。
「よーし、まずはあれをぶっ壊すんだ!」
 タクヤは尚も放電を続けるプラズマルスの電気フィールドシステムを指差した。
『心得た! 
 黄金忍法 大空変化!』
 空影が体を一転させると、黄金の鳥になる。
「げっ! 金ピカの鳥になっちゃった!?」
 空を行く空影は、真っ先に雷の標的にされた。
『何の!』
 人型に戻ると、手裏剣を避雷針代わりに四方に散らばせる。空影は鳥の時には尾になっている小太刀、飛翔剣を逆手に持つと、電気フィールドシステムを切り裂いた。シルバリオン、アドベンジャーが雷の拘束から解かれ、カズキとダイは逃げ回っていた足を止めた。
 湖からプラズマルスがようやく浮き上がる。
「おのれ、またしても勇者を横取りしおって! くらえ!」
 ワルターはプラズマルスの背中に突き刺さっていたスーパー竜牙剣を引き抜くと、空影に向かって投げつけた。空影はそれを振り返りざまに、はっしと受け止めた。
「あ〜〜・・・・」
『ゴルドラン、受け取れ!』
『かたじけない、空影!』
 タクヤを下ろしてジャンプして宙で刀を受け取る。ゴルドランが刀を構えれば、後にはアレしかない。
「ひいーーーー!?」
『一刀両断切りーーーーーー!!』
 爆発するプラズマルスから脱出ポッドが飛び出した。
「憶えておれよーーー! 黄金忍者めーーーー!!」


『改めて挨拶つかまつる。拙者は黄金忍者空影。見ての通り、忍びでござる』
 この空影もまた偉そうに、腕を組んで主を見下ろした。
「ハデな忍びだなあ」
「ホント・・・・」
「でも、頼りになりそうだよね」
 身も蓋もないタクヤとカズキの言葉を、なんとかダイがフォローする。ゴルドランは足元の主を優しい視線で見下ろすと、空影を見た。
『空影よ、紹介しよう。タクヤ、カズキ、ダイ。彼らこそ、我らの主だ』
『よろしくお願いたてまつる』
「あは、いやいや、こちらこそ・・・・」
 時代錯誤な空影の言葉をなんとか頭で理解したタクヤたちは頭をかきかき返事した。
『そんな軽い挨拶でどうするんだ。もっと主としての威厳をもって挨拶しなくては!』
 シルバリオンが偉そうに進言した。
「あ、そっか」
 タクヤは何を勘違いしたか、啖呵を切るように右手を突き出した右膝の上に乗せた。
「おひかえなすってぇ。拙者がそなたの主でござる! よろしく頼むでござるでつかまつりソーロー!」
「何かヘンなの」
「ええ!?」
 元から自分も変だと思ったのだから仕方がない。主たちの笑顔は、すぐに勇者たちにも伝わった。空影だけはその笑いの意味がわからず、首をかしげていた。


「はあ・・・・まったく酷い目にあった・・・・」
 疲れ果てたワルターは大使館に戻ってベッドの上に倒れこんだ。見上げた天蓋の内側には、何故か海老染めの忍者装束に身を包んだシャランラが張り付いていた。
「お待ちおりましたでござるわ、ワルター様!」
「しゃ、シャランラ! ひいっ!?」
 慄くワルターの側に、シャランラが飛び降りた。
「いいえ、私は恋に生きるくの一。その名もシャランラ丸でござるですわ! 若君様、お覚悟ーーー!」
「い〜〜〜〜っ!? もう忍者はコリゴリだーーーーっ!!」





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