「ね〜、空影ちゃん、空影ちゃんってば〜」 タンカーの中にタクヤの甘えた声が響く。天井にはコウモリのように逆さになっている空影がいて、タクヤたちや人型で思い思いの格好をしている勇者たちが、彼を見上げていた。 「もったいつけずにさあ、君の知ってるパワーストーンのヒントを早く教えてよ〜〜〜」 『拙者、只今瞑想中でござる。邪魔をしないでいただきたい』 「も〜、そんなコト言わないで〜」 苦笑する主に、ドランが助け舟を出す。 『空影、主の言葉が聞けんのか』 『むう・・・・』 空影の目から光が出ると、壁面をスクリーンに見立てて次のヒントの形が映し出された。×印だ。 「え? ×<バッテン>?」 『如何にも。拙者が記憶しているのは、これだけでござる』 「あー、×ねー・・・・」 カズキが頭を掻いた後ろで、タクヤが目を回して倒れた。 「た、タクヤ君!」 『どうした、主よ?』 ダイが慌てて助け起こすのを、ドランも膝をついて見守る。 「ほえほえほえほえ・・・・・・」 「こいつ、この頃×恐怖症なんだよ」 『×恐怖症?』 とりあえず体に異常があるわけではないらしい。 「テストで0点ばかり取っているから、×を見ると反射的に気を失うことがタマにあるんだよ。 もう起きろよ、タクヤ」 「タクヤ君」 カズキとダイが二人してタクヤの頬を叩き、なんとか正気に戻そうとした。 『?』 空影は小さな蝙蝠を見つけた。片目が潰れている。 キキッ 途端に慌てたように鳴いて飛び去っていってしまう。空影は着地して厳しい視線で蝙蝠を追った。 『どうした?』 ドリルシルバーが目の前に着地した空影に近づく。 『蝙蝠がいた』 『コウモリ?』 ワルザック共和帝国日本大使館。深夜現在、ワルターは自室で爆睡中だった。細かいハートマークのパジャマとおそろいのナイトキャップを被り、たくさんのヌイグルミを抱いて寝ている。天蓋付きのベッドの側にロープが垂れ下がったかと思うと、赤い人影が降り立った。懐に手をやって拡声器を取り出すと、やおらワルターに向かって叫んだ。 「ワルター様ーーーーー!!!!」 「うわッ?! うー、うー、うわーーーー?!」 その音量に一気に夢の世界から引き戻されたワルターは、小柄な人影に向かって怒鳴り返した。 「だっ誰だ、おまえは?!」 「にょっほっほっほっほ・・・・」 怪しい笑い声と共に闇から湧き出てきたのは執事のカーネルだ。 「若君、この者は忍者集団の頭、サイゾウでございます」 「以後お見知りおきをーーーーー!!!!」 「その忍者が何故私の眠りを妨げる!!」 ワルターはヌイグルミを抱きしめて怒鳴った。 「寝込みを襲うのが拙者の趣味〜〜〜 〜〜!!!!」 「そんなことするなーーーっ!」 手のヌイグルミを投げつけると、ちゃっかり避けたサイゾウの代わりにカーネルが受け止めた。 「まあ、そうお怒りなさいますな。これより我々の力強いパートナーとなるものですぞ」 「? パートナー?」 胡散臭そうにワルターは腕を組んでサイゾウを見た。 「サイゾウ、早速若君にご報告を」 パチン 「ん? うわっ?!」 サイゾウが指を鳴らすと、ワルターの側を蝙蝠が通った。キキッと鳴いてサイゾウの腕に掴まる。片目の潰れているその蝙蝠は、空影に発見されたあの蝙蝠だ。 「ヒヒヒヒ・・・・ワルター様、これをとくとご覧あれ」 健在の蝙蝠の目が光ると、床に石環海岸が映し出された。この蝙蝠もロボットだったのだ。 「なんだこれは。お子達の基地ではないか」 内部ではロボット形態の勇者たちが、主と共に雑談をしている。 「ふん、どいつもこいつもアホ面さげおって・・・・?! これは!」 目を回しているタクヤは放って、ワルターは空影の映し出している×印に見入った。 「はい、次なるパワーストーンのヒントでございます」 ワルターの投げつけたヌイグルミの影からカーネルが言葉を添える。 「奴等ときたらまるで隙だらけ。儂にお任せいただければ、即刻始末してご覧にいれますする」 「若君、ここは一つサイゾウめに・・・・」 「黙れーーーーーっ!!!!」 ワルターはサイゾウをも上回る声で怒鳴った。 「え? え? え? え?」 「おまえみたいな者に手を借りたと皆が知ったら、我が家末代までの恥!」 「若、そんな堅い事を・・・・」 「いやだ、ボクのプライドがゆるさないもん!」 「若」 「やだっ! ボクねるっ!」 そのままワルターは布団を引っ被って寝てしまった。寝込みを襲われたのが気に食わなかったようだ。カーネルはまだ手にしたままのヌイグルミ越しに、サイゾウにこっそり囁いた。 「サイゾウ、若はああは言っておるが、ここは一つ・・・・」 「お任せあれーーーーーーーっ!!!!」 タンカーの側のコンクリートでできた小さな桟橋では、タクヤが欠伸交じりに釣りをしていた。 「ふわ〜あ。たまにはのんびりしてもいいよね〜・・・・・」 食べられるような魚が釣れるわけではないが、ボーっとしていても怒られない姿勢なので、たまに釣りをしたりする。 「お? そーれっ!」 カン! 「は〜ふわ〜〜〜〜」 針の先にひっかかった瓶が勢いをつけてタクヤの頭を直撃した。 「ちぇっ、ハズレか〜。ん?」 瓶の中には、一巻きの紙が入っていた。 「おーい! カズキ、ダイ!」 「?」 キャットワークから降りる階段を一気に飛び降りてきたタクヤは、二人の前に握り締めた紙を突き出した。 「見つけた、見つけた! パワーストーンの地図だ!」 『本当か、主よ?!』 「ああ!」 タクヤが得意満面で広げた地図は、真新しい白い紙に日本語で『パワーストーンの地図だよ〜ん! 場所はイガリアンです』と、でかでかと書かれていた。手書きの山や湖、田畑の上に大きく×印が引かれている。 「あーーー! ば、『×』!」 地図に見入るダイの横で、カズキが呆れた声を出した。 「おまえ・・・『×』恐怖症は・・・・?」 ツッコミどころを間違えているあたり、連日の捜索で疲れているらしい。 「えへ。これみたらどっかに吹っ飛んじゃったv さあ、イガリアンに向けて出発ーーーーー!!」 海面が大きく揺れ、SLが空に舞い上がる。水蜘蛛の術で海上に立っているサイゾウはニヤリと笑った。 「ヘン、エサにくらいついたか。うふふふ・・・・わはははは・・・・!」 高笑いの最中に高波に攫われたが、それを逆手にとってイガリアンに向けて泳ぐ。 「よーし、先回りじゃ! 忍法クロール泳ぎ!」 眼下に広がる海面で、ダイはイルカやシャチが戯れているのを眺めるのが好きだった。今日のように天気の良い日なら尚更、海の青と生き物の作り出す白い飛沫が美しい。 「あれ?」 「どうした?」 窓を眺めるダイに、また本を読んでいたカズキが顔をあげる。 「サメって、泳ぐのあんなに速かったっけ?」 「何のこと?」 そんなこんなでイガリアンに到着した。松や針葉樹林の密集する地帯にアドベンジャーが身を隠すように着地する。タクヤは整列した勇者たちを見上げて命令を出した。 「よーし、オイラたちは、これからドランと一緒に『×』の目的地に行ってみる。アドベンジャー、シルバーナイツはここで待機」 『了解』 「空影、おまえもここで待機。いいな?」 『そうはいかぬ』 「はあ?」 アドベンジャーの上から主の前に飛び降り、膝をついて意見する空影に、思わずお子達は目を丸くする。 『身を曝したままじっとしてるなどというのは愚かな事。拙者はごめんこうむる』 『何を言っているんですか、空影』 ジェットシルバーが柔らかめに窘めた。ドリルシルバー、スターシルバーはさっきの事もあって、目つきも鋭く睨みつける。 『そうだ! 主の命令は絶対だ!』 『おい、新入り! おめえ、ちょいとナマイキだぜ』 空影は主たちの前から立ち上がると、仲間と視線を合わせないように俯いた。 『拙者はお主たちとは違う。一人でも充分やっていけると言っておるのだ』 『なんだと?!』 『てめー! オレたちに喧嘩売る気か?!』 『空影、今の言葉、訂正しなさい!』 スターシルバーのみならず、普段穏健なドリルシルバー、ジェットシルバーまでもが空影に詰め寄った。 「な、なんかヤバイ雰囲気・・・・」 タクヤたちは一触即発の剣呑な雰囲気に寒気がする。 『おい、黙ってないで何とか言えよ!』 『お主に言うことは何もない』 『くっ、アッタマ来た!』 スターシルバーの手が空影の肩にかかる。 「ひえ?!」 『やめろ、スターシルバー』 ドランの静かな声に、スターシルバーの握り締めた拳が空影に届く寸前で止まる。 『くっ・・・・!』 「そーだよ、ケンカはいけないよ、ケンカは!」 拳が止まったのを幸いに、タクヤは慌ててフォローに入った。 「今さあ、仲間割れしてる場合じゃないんだからさー。ここはオイラの顔を立てて」 タクヤはパンっと顔の前で手を合わせた。 「皆、怒りを納めてちょーだい!」 『・・・・ふんっ!』 『主がそう言うのでありましたら、自分は怒る(いかる)のをやめるであります!』 スターシルバーはそっぽを向き、ドリルシルバーは主を真摯に見下ろした。 『空影』 ドランは勝手に歩きだした空影を促すが。 『拙者には拙者のやり方というものがござる。 ご免!』 そのまま誰の方も見ずに飛び立つと、鳥に変化して何処かへ飛び去ってしまった。 『ふんっ! てやんでーーーーい!』 スターシルバーが腹立ち紛れに叫んだ。 「ドラン」 『ん?』 場の雰囲気を変えようと、一生懸命甘えた声を出すタクヤに、じっと空影の飛び去った方向を見ていたドランは我に帰り、主に微笑みかける。 「さ、気を取り直してパワーストーン探しだ」 『心得た』 森を疾駆する金色の車を、いくつもの監視の目が追った。サイゾウのアニマルロボットの狼だ。平走し、リアルタイムの映像をサイゾウの元に届ける。イガリアンにある秘密基地で濡れた体を拭きながら、サイゾウは笑みをもらした。 「へへへへ・・・・飛んで火にいる夏の虫とはこのことだ。へっへっへ。 よーし、サイゾウ忍軍、全員集合ー!」 「へーい!」 背後から忍者の卵のような呑気な五人の連中が返事をした。 「おめーら、抜かるんじゃねーぞ!」 「へーい!」 「だはははははは・・・・・ハークショイ!」 「たわけーーーー!!」 カーネルは再びワルターの怒声に身を竦ませた。 「サイゾウにゴルドラン奇襲を頼んだだとーー?!」 「だ、あ・・・いや、その・・・・」 「ええい、伊賀者ごときの手を借りんでも!」 ワルターはマントを掴んで制止するカーネルを大使館の地下格納庫までずるずると引きずり、デスギャリガンに搬入する前の最終チェックを行っているギアを指した。緑色のカマキリのようなメカだ。 「このカマルダーで私が仕留めてくれるわ!」 不意の悪寒にワルターは飛び退いた。間髪入れずワルターの足元に、ハートの手裏剣が突き刺さった。 「ひいっ?!」 続いて天井から赤とピンクの小柄な忍者が降りてくる。 「うふふ・・・・私の手裏剣を避けるなんて・・・・流石は私の、ワ・ル・ター・様v」 「げ、シャランラ!」 「うふふ・・・今回も忍者スタイルで登場ですわv」 「よ、寄るな・・・・」 「もう、照れ屋さんv」 「照れてない!」 「忍法だっこ〜v」 「ひいっ!」 少女に抱きつかれたワルターは、そのまま床に押し倒される。 「忍法すりすり〜v 忍法ぶちゅぶちゅ〜v」 「か、カーネルぅ・・・・だじげで〜・・・・・」 「み〜て〜る〜だ〜け〜」 目のやり場に困るカーネルは、ハンカチで額を拭きながら熱い二人に背を向けた。 「ぶちゅぶちゅ〜v」 「き・・・・キビシー!!」 「おっかしいなあ。この地図でいくとこの辺なんだけどなー」 誰か大雑把過ぎる地図を読めるタクヤに気づいた方がいい。金色の車を昼間から起きているフクロウが見下ろしている。これもまたサイゾウのアニマルロボットだった。 サイゾウの秘密基地では、映像と発信しているロボットの位置を合致させた子分Aが報告をした。 「やつら、A地点に向かってますぜ、オヤビン」 パシーン! 子分Aの頭にハリセンが飛ぶ。 「オヤビンじゃねえ! 頭(かしら)と呼べ、頭と!」 「へ〜い、頭ぁ〜」 「へん、ガキどもめ。今から俺様の実力を思う存分見せてあげるわよん。 よーし、ドテドテ第一号作戦開始〜〜〜!!」 「へーい、オヤビーン」 ハリセンが五回飛んだ。 「だーから頭と言え、頭と!」 「へ〜い、頭ぁ〜」 「はん。ぽちっとな」 サイゾウがスイッチを押すと、森の中に散らばっているアニマルロボットが一斉に行動すた。樹の上にいるリスが、キツツキが、川にいるラッコが、カツコツと耳障りな和音を立てた。その音は波となって互いに増幅し、かなり広い森の全域に響き渡り、樹にとりつけた自爆装置を作動させた。 「な、なんだあ?」 樹木が次々とドランに向けて倒れてくる。 「あぶなーい!」 『むっ!』 それを飛んでかわし、避けてかわし、ドランは連鎖的に倒れ来る樹を間一髪で避けていく。 「だから何なんだよ〜〜〜?!」 『山崩れならぬ、森崩れか!』 「森崩れぇ〜?」 道を変えても尚樹は倒れてくる。 「ドラン、何とかしてぇっ」 『心得てる!』 薄暗い森の中に前方から光が差し込むのが見えた。 「あ、出口だ!」 「急げっ、ドラン!」 『心得た!』 一層スピードをあげ、森を抜けたドランは崖から飛び出した。 「ひえ?!」 「ドランは空飛べないし・・・・」 「と、いうことは・・・・」 「「「落ちるーーーーーーーっっっ!!!」」」 落下するドランに向けて金色の鳥が降下した。人の形を成すと、車を両腕で抱えて崖下の地面にそっと下ろす。 「空影!」 ドランから降りたタクヤ達は空影に笑顔を向ける。 「いや〜、ナイスタイミング! 助かったよ」 『偶然通りがかったまでのこと。礼には及ばん』 照れているのか、主を見ようともせずに立て膝で腕を組む空影が顔をあげた。あれほど晴れていたのに、急に霧が立ち込めてきたのだ。 『霧でござる』 『何か怪しいぞ』 ドランもロボット形態に変形して身構えた。 「へへへへ・・・・」 『誰だっ?!』 辺りに響いた声にドランが誰何する。 「ガキどもにデクノボウめ。まんまとワナにひっかかりおって」 「ワナ?! じゃあ、この地図は・・・・」 タクヤは握り締めていた地図に目を落とした。 「ニセモノじゃよ〜ん」 「そ、そんなあ〜」 「もう慌てても遅い。ここがおまえたちの墓場となるのだ!」 十m先も見えない霧の中から爆発音がし、中から見覚えのあるロボットの影が十数体、が現れた。キャノンガー、デザートロン、マリンダー、ソニックル、ターボラー、セメントス、ワルツハイマーX、ランバダー、ケルマディック、キングファンファン、ザゾリガン、ブリザードス、サモンダー、プラズマルス。 「な、なんだコイツらー?!」 「今までやられた悪太メカ!」 「い、いっぱいいる・・・・」 タクヤたちは無機質な視線に見下ろされ、体を寄せ合った。 「わはははは・・・・! 如何にレジェンドラの勇者とはいえ、これだけのメカ相手では勝ち目あるまい」 『何を! このドラン、悪太のメカごときに負けはせん! 何度でも相手になってやる!』 「へん、言いおったな。よーし、ものどもー!」 「「かーかれーーーーー!!」」 サイゾウの配下がスイッチを押した。向けられた銃口が火を吹く寸前、空影がタクヤたちを抱えて飛び退いた。 『ゴルゴーン!』 同じく飛び退いたドランはゴルゴンを喚んで合体する。抜刀すると、多勢に無勢の中を突っ込んでいった。 敵の猛攻は凄まじかった。それでもゴルドランの動きに無駄はなく、敵の砲火をかいくぐって攻撃をする。いくら多勢に無勢でも勝てぬ相手ではないというのに、確実に機影を捕らえた刀は空を斬り、気配もさせずに背後に移動したメカに、横で隙を窺うロボットに弄られた。向こうの攻撃は当たるのに、こちらの攻撃はことごとくかわされてしまう。 『うおおおおおっ?!』 「ご、ゴルドラン!」 「空影、何で助けにいかねーんだ!」 『静かに!』 カズキが怒鳴る前から空影は視界センサーを切り替えて、辺りを見回していた。霧や土地の状況、襲いかかるギアの情報を弾き出す。 ―――偽(いつわり)――― 『やはり!』 空影は中空に飛び上がった。とうとうゴルドランが倒れた。 「ゴルドラン!」 「ああ、こっちに来る〜〜〜〜!」 ワルターの声のしない、不気味なロボットが武器を構えてにじりよる。 「うわーーーーーー!!」 『はーっ!』 空影が裂帛の気合と共に投げた手裏剣が、ガラスの割れる音を引き起こす。同時にギアの群れが消え、霧が晴れた。タクヤたちの前に空影が立っているだけだった。 「空影・・・・」 「あれ? 悪太のメカ軍団は、いなくなっちゃった・・・・」 『ホロスコープ。幻影でござる』 ダイの疑問に着地した空影が腕を組んで静かに答える。 『多分、やつらの霧によって催眠状態に陥り、幻の敵を見ていたのでござろう』 『くっ・・・・そ、そんな陳腐な罠に嵌るとは・・・・我ながら情けない』 ゴルドランが剣を杖に体を支え、己の不甲斐なさを悔いていると、主たちが駆け寄った。 「ゴルドラン、大丈夫か?」 そんなゴルドランに向かって空影が手裏剣を投げた。 「?! 何をするんだ!」 タクヤの髪が揺れて、手裏剣が絶壁に突き刺さる。爆発音がした。 『隠れてないで出て参られい!』 岩壁が二つに割れ、中から白い牛とブタが合成され、腰にはシメマワシ、兜代わりに天守閣をつけたようなロボットが現れる 「えーい、やーりおったなー!」 それは『いのしし目加』とボディの側面に書かれていた。これこそサイゾウ忍軍の移動秘密基地、『いのしし目加』であった。 「こーれでもくーらえーい!」 ドテドテ大砲と書かれたピンクの巨大な砲身から、これまた巨大なミサイルが発射された。 『何い?!』 ゴルドランが斬り落とそうと刀を構える前に、背後からのビームで砲弾は爆発した。 『アドベンジャー、ジルバーナイツ!』 『ゴルドラン、大丈夫か?』 『ああ!』 アドベンジャーと合体したシルバリオンがゴルドランを囲んで、彼らの悠に五倍はある『いのしし目加』を睨み上げた。 「えーい、まとめて片付けてくれるわ! ドテドテ大砲第二弾発射ーーー!!」 「弾は一発しかありません」 「え?」 『いのしし目加』の不気味な動きが止まった隙に、ゴルドラン、シルバリオン、アドベンジャーがそろって蹴りを入れた。当然、爆発である。 「作戦は失敗ですね、オヤビーン」 「だから頭といえーー!」 サイゾウ忍軍は騒々しく舞台から消えていった。まあ、生きているからいいだろう。 『ふっ、愚かなやつ』 一人離れて吹き飛ぶ忍者たちを見て笑う空影の前に、アドベンジャーとシルバリオンが立ちふさがった。 『何故おまえは一緒に戦おうとしないんだ!』 『・・・・・』 『黙ってないで、何とか言ったらどうだ!』 『お主たちに言うことなど何もないと言ったはずでござろう』 視線も合わせぬ空影の言いように、温厚なアドベンジャーの頭上の煙突から煙が漏れ出す。 『おまえというやつは何処まで根性の曲がった奴なんだ!』 『やめろ、アドベンジャー!』 振り下ろされた拳はゴルドランの制止の声で止まった。 『仲間同士、言い争っていてどうするんだ』 『し、しかし・・・・!』 主の命令は聞かない、協調性もない。我慢強い方だと自認しているアドベンジャーでさえ、ゴルドランの正論には腹が立つ。始まった友情劇に空影は目を背けた。 『事も済んだ。拙者は戻るとする』 『待て、空影』 『ん?』 翼を広げた空影は、珍しくゴルドランの言葉に止まって振り返った。 『私たちは仲間だ、共に戦う仲間同士なのだ。私たちは主と共に悪の手からレジェンドラを守るということが、最大の目的ではないのか? 空影、おまえだって本当はその事を承知しているはずだ』 『・・・・説教なら、ご免被る!』 ゴルドランの言葉を聞き終えると、空影はそのまま鳥に変化して飛び去った。タクヤたちは盛大にため息をつく。 「はあー、これからどーなるのカシラ・・・・」 不意に体が浮き上がった。 「うわー?!」 『あ、主よ!』 「ふっはははは・・・・!」 主の声を追うと、薄い昆虫の羽で飛ぶ緑色のカマキリのようなメカの手元に、網に捕らえられたタクヤたちがいる。しかもこの笑い声はワルターだ。 「レジェンドラの勇者たちよ。お子達の命は我が手中にある! 大人しくしろ!」 『卑怯な!』 「ふん」 カマルダーの両腕に装備された湾曲の刃が、アドベンジャーとシルバリオンを崖に縫いとめた。 『アドベンジャー! シルバリオン!』 「ゴルドラン、おまえはそう簡単にはやらん。じっくりじわじわ〜vっとなぶり殺しにしてくれるわ!」 タクヤたちは網にしがみついて叫んだ。 「ゴルドラン、オイラたちに構わず戦ってくれ!」 「そうだ! 悪太をやっつけろ!」 「命令だ! 戦えーーーーっ!」 『し、しかし・・・』 タクヤたちは何にも守られず外にいる。ほんの僅かに自分の体が触れただけで潰され、カマルダーが腕を振り回しただけで網が千切れて岩や大地に叩きつけられてしまう。 「でーい!」 急降下したカマルダーは目にも止まらぬスピードでゴルドランの周りを周り、鋭い鎌で切りつけた。 『おうっ! うわっ!』 「ご、ゴルドラン!」 回転は攻撃はますます激しくなり、ゴルドランは倒れることもできぬまま、突き上げられる衝撃に次第に中空へ持ち上げられていった。 『あおお・・・・・』 「フフフ・・・・どうだ? カマルダー戦法・フラッシュチョムチョムの味は。 さあ、舞え。舞うんだゴルドラン! おまえはもう倒れることすらできない! そのまま苦しみぬいて地獄にいけーーーーっ! いやっはっはっはっは・・・・あーっはっはっは・・・・!!」 だらりと垂れ下がった手からスーパー竜牙剣が落ちる。金色の装甲に幾つもの傷が入った。 「何でだよ・・・・何で戦わないんだ・・・ゴルドラン!」 タクヤの双眸から涙が零れた。 『うわあああああ!!』 「ゴルドラン!」 カズキも涙と共に絶叫する。 『あおおおおおおっ!!』 「ゴルドラン!」 ダイはただゴルドランを思って泣いた。 「「「ゴルドラーン!!!」」」 タクヤたちの絶叫に冒険セットが輝き、ゴルドランの兜から光が天空に向かって伸びた。光が導いたのは黄金の鳥だった。 『はーっ!』 鎖鎌から伸びた鎖が黄金の光に目の眩んだカマルダーの足を絡める。 「のわーーっ?!」 バランスを崩し吹き飛ぶカマルダーの手から、慣性の法則にしたがって弾き飛ばされる塊がある。金色の光がそれをふわりと優しく包み込んだ。同じく金色に輝く空影は鳥に変形し、一声鳴くと首と爪を折りたたみ、ランチャーをせり出して、背筋を伸ばしたゴルドランの背中に張り付いた。 気を失いかけていたゴルドランの背後にするりと空影の意識が滑り込んだ。 『空影、一体この合体は・・・・』 大きな翼を背負ったゴルドランは、掌に降りてきた光の玉をそっと包み込む。花びらのように光が散ると、衝撃で意識を失っている主たちがいた。 『名づけて、スカイゴルドラン』 『スカイゴルドラン・・・・我々にこんな“力”があったとは・・・・』 『お主だけには任せてはおけんからな。これでお主も空を飛ぶことができる!』 協調性がないとはとんでもない。他人を立てることもできるのだ、空影は。 『空影、かたじけない』 『それより主たちを早く安全な場所へ』 『うむ、心得た!』 スカイゴルドランは飛翔すると離れた岩場にタクヤたちをそっと下ろし、網を引き千切った。 「何がいったい・・・・」 目を回していたワルターは、ようやくコンソールンにしがみついて起き上がった。スクリーンには黄金の翼を広げたゴルドランが映っていた。 「ぎょっ?! ええい、ゴルドラン! 何だその格好はっ?!」 『ゴルドランではない。スカイゴルドランだ』 「ふん、そんなのどっちでも良いわ!」 カマルダーが体制を立て直す。己の手首の側に、腕に装備されている鎌を突き出す。 「お子達の命がどうなってもいい・・・あーーーっ?! いない・・・・」 ・・・・ひっ?!」 強い覇気にワルターの表情が凍りつく。熱い炎を背負ったスカイゴルドランがいた。 『悪太。主を人質にとる卑怯なやり方。今日という今日は、このスカイゴルドラン、絶対に、許しはせんぞ!』 「黙れーーーーっ!」 両腕のブーメランサイザーを投げつける。スカイゴルドランは中空に飛び上がり、それを交わした。そして。 『超電磁ストーム!』 両肩のランチャー部から強力な竜巻がカマルダーを襲う。それは物体の電子配列を一時的に乱し、動きを拘束した。 「うおわああ〜〜〜! う、動けん・・・・っ!」 『スーパー竜牙剣! 疾風迅雷斬りーーーーーっ!!』 飛翔するスカイゴルドランの刀に雷が落ちる。飛行の勢いをつけて、大上段から刀を振り下ろした。 『てやーーーーっ!!』 真っ二つになったカマルダーから、脱出ポッドが飛び出した。 「覚えておれー! スカイゴルドランめーーっ!」 「ふーん、スカイゴルドランかあ。ははっ、ゴルドランが飛べるようになれば、超無敵だぜ!」 茜色の空を行くアドベンジャーの上でその後の事情を聞いたタクヤは笑ってサムズアップしてみせた。カズキも隣りで頷く。 「ああ」 『改めて礼を言うぞ、空影』 同じくアドベンジャーの背に乗っている車形態のドランがヘッドライトを瞬かせて、並行して飛んでいる空影に礼を言う。 『ふん、礼を言われる筋合いはござらぬ』 『まーだあんな事言ってやがる』 後部車両の上でドリルシルバーと仲良く並んでいるスターシルバーが愚痴を零した。 『やっぱり、彼とは付き合いきれません』 空影とは反対側を飛んでいるジェットシルバーは肩をすくめる代わりに軽く機体を揺すった。 「まーまー。確かにちょーっと変わったヤツだけどさー、まー、個性的なヤツというか〜」 「あ、タクヤ君、上手い!」 苦し紛れのタクヤを何とかダイがフォローする。 「そーだろ? そーだろ? ふははははは・・・・」 「何で主の俺たちが、気を使わなくちゃいけないんだよ」 乾いた笑い声を出すタクヤの努力に、横からカズキが水を注した。 「さー、皆仲良く、パーッと行きましょう!」 『では、拙者はお先に失礼する』 「えーー?!」 どよめく主の目の前で、空影はブースターを点火させた。 「あーん、空影ちゃーん! 待ってえ〜。一緒に帰ろ〜よ〜」 タクヤの甘えた声が追ってくるのを、密かに空影は嬉しく受け取った。 |
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