The Brave of Gold GOLDRAN




 カップラーメンにお湯を注いで待つ間、カズキは今日の新聞を取り出してタクヤに渡した。ダイと二人でタクヤを挟んで記事を見る。
「何々? 『この度世界的富豪のカネアリーヌ氏によってクロスロード美術館に寄贈されることになった"炎の指輪"は、クロスロードを通るオリレンゾ急行で運ばれることとなった』」
 そこでタクヤは新聞から顔をあげた。
「クロスロードって?」
「古代にアジアとヨーロッパを結んだ道のことさ」
 カズキが顎をしゃくると、アドベンジャーが暗かった画面に地図を呼び出す。歴史の教科書から切り取ったような、古い街道が示された。
「あー! これってヒントの『×』印じゃない?」
「間違いない! この炎の指輪こそパワーストーンだ!」
「そうと決まったら、早速出発だね」
「ああ。アドベンジャー、クロスロードへ向けて」
「「「出発ーー!!!」」」
ピー、ピー
『主、3分経ったが?』
「あ」
 アドベンジャーが何のために時間を計っていたのか不思議そうな声を出す。
「その前に腹ごしらえ?」
 お子達はそろってソファに座ると、割り箸を割った。
「あちゃちゃちゃちゃ・・・・!」


パニック列車で名推理




「お子達が動いたと?」
 デスギャリガンのブリッジでは、ワルターが人工衛星が捉えたアドベンジャーの動きの報告を受けていた。
「はい、若君」
「して、やつらは何処へ行くつもりだ?」
「おそらく、クロスロードのオリレンゾ急行かと」
「ふっ、鉄道か。ヘルトーマスを用意させろ」
「はっ」


エゲレス――ボンドン駅

「これだ、これこれ。オリレンゾ急行!」
 日本とは違って全てのホームが平面に見渡せる広い駅の中で、お子達は問題のオリレンゾ急行を見つけた。初めて見る実物に、タクヤが上ずった声を出す。何しろ世界で一番有名な列車だ。豪華で料理もサービスも超一流らしいが、既に乗り込んでいる乗客たちは、それを差っぴいても全員妙に着飾っている。
「なーんか派手なやつらが多いな」
「だな」
「何かあるのかな?」
「あーら、ごきげんよう皆様」
「「「はあ?」」」
 のんびりとした少女の声に振り返ると、レースのパラソルを広げ、ピンクのドレスを身に纏ったシャランラが立っていた。頭にはドレスと同じ素材で作ったつば広の帽子を被っている。
「げっ、シャランラ!」
「どうしてここに?!」
「私、シースルー家の代表としてパーティーに出席するの」
「パーティー?」
「ええ。炎の指輪の寄贈を記念して、車内で開かれるパーティーですわ」
 三人は肩を寄せるとシャランラに背を向けた。
「パーティーだってさ」
「おい、そいつに上手く潜り込んで」
「パワーストーンを頂戴しちゃおう!」
「しゃら? 三人ともどうかして?」
 お子達はシャランラを振り返ると、手を組み、目をうるうるさせて懇願した。
「ボクたちに是非お供をさせてくださいっ!」
「「「シャランラ様〜」」」

『オリレンゾ急行、パリン経由ミツカンブール行きは、二十一番ホームより十四時三十分に発車します』
「オーライ、オーライ」
 車両が連結する。貨物室の暗がりで、双眸がきらりと光った。

ジリリリリリ・・・・
 ベルが鳴り、オリレンゾ急行が発車する。
 車内のパーティー会場では、シャランラと共にお子達が乗り込んでいた。シースルー家のご令嬢ともあろう者が、供も連れずに一人でパーティーに出るなどおかしなことだったからだ。
 車内パーティーの会場は、映画館として使われている車両だった。座席を全て取り払い、代わりに立食形式のバイキング料理の並んだテーブルがたくさん置かれている。
「シャランラ、あれ食べたーい」
「かしこまりましたあ」
 ぴゅっとタクヤがベリーのタルトを持ってくる。
「さあどうぞ」
「やっぱいらなーいっと」
どてっ!
「あんにゃろ〜〜〜〜〜〜!」
「怒っちゃだめだよ、タクヤ君」
「そう、パワーストーンが手に入るまでは、あいつの召使を続けなきゃ」
「わあってるって」
 直ぐに気を取り直すのもタクヤの良いところである。
「お集まりの皆様」
 中年の男の声に、ざわめきが止まる。特別ゲストのクロスロード美術館の館長だ。恰幅のよい中年男性である。
「お待たせいたしました。それではここで、本日のパーティーの主役、クロスロード美術館に寄贈される世紀の財宝! "炎の指輪"をごらんにいれましょう!」
「おお〜〜!!」
「いよいよ炎の指輪のお出ましだぜ」
 白い布を被せられた台座がワゴンで運ばれてくる。
「では!」
 もったいぶってばっと布を取り去った館長の目が点になる。
「ああっ無い?! “炎の指輪”が無い?!」
 台座の上はカラッポだったのだ。乗客たちは再びざわざわと騒ぎ始めた。
「なんだって?!」
「パワーストーンが消えた・・・・・」
「そ、そんな・・・・」
 お子達も気色ばんで顔を見合わせた。
「皆さんお静かに」
 混乱を切り裂いた声は鹿撃ち帽を被り、手にパイプタバコを持って窓際に佇んでいた男からだった。
「私にお任せください」
 男は探偵だと名乗った。パイプを口に咥え、虫眼鏡でじっくりと台座を検分しはじめた。
「ふーん、では盗まれた指輪はこの車両から外には出していないのですね?」
「はい」
 気弱な様子で館長は頷いた。
「となると、犯人はこの車内にまだいることになる」
 再び車内がざわめく。今度は隣人を疑って。
「エライことになっちまったなあ・・・・」
「もしかすると、悪太の手下がこの中に紛れ込んでいるんじゃないのかなあ?」
「かも知れないな」
「こ、これは!」
 探偵が声をあげた。
「ど、どうなされました?」
「犯人がわかりましたよ」
 探偵は立ち上がって館長や乗客たちの方に体を向け、少し俯いた。どうにも格好つけたがりのようだ。
「本当ですか?」
「ま、この私にかかれば解けない謎などありませんからね」
「で、その犯人とは?!」
 急かす館長に焦らす探偵。
「その犯人とは・・・・」
ドゴン!!
 突然列車が揺れた。
「うわ?!」
「何だ?!」
 咄嗟にお子達は身構えた。何かあったら即座にドラン達を呼びつけるつもりだ。
『フッフッフッフ・・・・・オリレンゾ急行に告ぐ』
 映画用のスクリーンに、赤毛と青い瞳を持った端整な顔立ちの青年が映る。顔が見られて困るとは思わないのだろうか?
「悪太!!」
「まあ、ワルター様!」
『大人しく“炎の指輪”を渡すのだ。さもなくば・・・・・』
 スクリーンに走る列車のサイドビューが映る。オリレンゾ急行の背後には、また別の列車がぴったりと張り付いていた。
『このヘルトーマスが地獄へ案内するぞ』
 再度後ろから体当たりをかけ、今度はアームで後部車両をがっちりと挟む。
『出発進行!』
 ヘルトーマスの急激な加速にオリレンゾ急行の車輪が悲鳴をあげ、機関室から火を噴いた。
「あんにゃろ・・・・!」
「でも、ああ言っているところを見ると、指輪を盗んだ犯人は悪太の手下じゃないみたいだな」
「それじゃ一体、誰が・・・・?」
「探偵さん、しっかりしてください!」
 館長が目を回した探偵を何度も揺さぶる。
『さあ、早く答えろ。渡すのか、渡さんのか?』
 邪魔なギャラリーを掻き分け、スクリーンのワルターにシャランラが近寄る。
「あーらワルター様ったら、照れくさいからってこんな方法でご自分をアピールするなんて・・・・好いたらしいお方」
 いつもよりアップにあった唇にキスをする。
『うう、何故か急に寒気が・・・・。ええい、また連絡する』
 ブラックアウト。
「しゃら? んもう、照れ屋さんv」
 画像が消えたところでダイが提案した。
「タクヤ君、ドラン達を呼ぼうよ」
「よっしゃ!」
 と、胸につけてるゴルドシーバーに手をやったのだが。
「ああ?! ゴルドシーバーがない?!」
 慌てて自分のポケットを探るカズキとダイも悲鳴をあげた。
「ゴルドライトもだ!」
「ゴルドスコープもだよ!」
「これじゃドラン達と通信できなーい!」


 ボンドン駅の車庫では、ただのSLのフリをしているアドベンジャーの側でドラン達がとぐろを巻いていた。
『主たちから連絡は?』
『まだだ』
『少し心配ですね』
『なーに、いざとなったら泣きが入るだろうぜ』
『便りがないのは無事な証拠であります!』
『とは言っても用心に越したことはないでござる』
 ジェットシルバー同様ホバリングしている空影が首を出口の方に巡らせた。
『拙者は主の後を・・・・』
『まて、誰か来る!』
 人の気配を察したドランの声と同時に車両倉庫が開き、案内の駅員と見学の子供たちが入ってきた。
「さあ、今度は車庫を見学しますよー」
「わーい!」
 ドラン達は慌ててアドベンジャーの中に隠れた。
「わあ、SLだー!」
 子供たちは歓声を上げてアドベンジャーに群がった。
「こんなSLうちにあったかなあ?」
 駅員は首を捻った。



 お子達はどたばたと冒険セットを探して急行内を走り回っていた。
「くそう! パワーストーンだけじゃなく、ゴルドシーバーまでなくなるなんて!」
「とにかく、車内を探そう!」
 必死の形相をしているカズキとダイの後ろを、何故かカメラを持ったタクヤが笑いながらついてきた。
「?」
「おまえ、何持ってんだ?」
「へへーん。これで写真を撮っちゃって、後でマスコミに高く売っちゃおうって作戦よ。
 いいか? この手のパニックものにはお決まりの風景ってえのがあってさ・・・・」
 カメラを向けた方向に映る状況をパチリパチリと写し、タクヤは解説を始めた。
「まずは、お祈りピーポー」
 太鼓を叩いてお経を唱える一団が。
「死ぬんだ―――!俺たちここで皆死ぬんだ―――!!」
「そしていたずらにパニックを煽るやつ」
 一人やたらと騒いでいる乗客が。
「かと思うと――」
「金ならある。この金でわしだけでも助けてくれ!」
 と、札束を車掌に向けてばら蒔いている年寄りが。
「絵に描いたよーな身勝手な金持ち」
 シャッターを切る音は止まらない。
「まだまだあるぞー」
「こんな離婚届なんか!」
 妻は離婚届を破り捨てると、夫に抱きついた。
「今初めてわかったわ。私、あなたを愛している・・・・」
「僕もだよ」
 夫も妻を抱き返す。
「急に仲良くなっちゃう倦怠期フライド夫婦。
 そして極め付けは・・・・」
 タクヤの視線を追うと。
「うう・・・産まれる・・・」
「しっかりするんだ!」
 大きなお腹を抑えて苦痛にうめく女性がいた。
「こーゆー時に産気づいちゃう妊婦。しかーも!」
「お客様の中に、お医者さんはいらっしゃいませんかー?」
 車掌の呼びかけに、一人の男性が立ち上がる。
「私は医者ですが」
「おお、助かりました」
「これまた上手い具合に医者が乗ってたりするんだよな〜」
 得意がって説明するタクヤに、両側からカズキとダイが張り手を喰らわせた。
「ンなもん撮ってヒマがあったら、早くゴルドシーバーを探せ!」
「はーい・・・・」


「本当です。“炎の指輪”は消えてしまったんです!」
 ワルターからの定時連絡で、館長は必死に状況を説明していた。
『嘘をつけ! どうしても渡さないというのなら、こちらにも考えがある』
 ワルターは画面に見えない場所でパチリと指を鳴らした。
 それより少し先に行った所にある切り替え機では、ワルターの命令で三機のカスタムギアと親衛隊員が、錆びついた切り替え機を壊し、路線をそれより少し先に行った所にある
『聞け! これよりこの列車は予定コースとは別の線路へと入る』
「何ーーーーー?!」
 全車両に連絡用においてあるモニターから響いたワルターの声に、思わずお子達は立ち止まった。
『この線路は百年前から使われていないオンボロ線路だ。こんなスピードで走れば何が起こるかわからんぞ』
 画面が切り替わり、線路の行く末が映し出される。
『おまけに終着駅は、この崩れ落ちた鉄橋だあ!』
 画面は再びワルターの顔に戻った。
『私が何を言いたいかわかるな?』
「それじゃ、オイラたちは・・・・!」
 谷底に落ちてお終いである。
『それが嫌なら大人しく“炎の指輪“を渡すのだ』
「くっそ〜〜〜〜! こっちだって探してるってーの!」
『ここからが本当の、地獄への旅だ』
 通信が、また切れた。
 オリレンゾ急行はワルターの言葉どおり、古びた路線の上を走り始めた。

「とにかく、この列車の中にパワーストーンがあるのは確かなんだ!」
「それで!」
 走り出したカズキをタクヤとダイが追う。何処へ行くのかまだ聞いていない。
「行き詰まったら犯行現場へって言うだろ?」
 パーティー会場へ舞い戻ると、未だに気絶したままの探偵を何とか館長が起こそうと努力しているところだった。それを放って、お子達は倒れた台座に近寄った。
「探偵さん起きてください。“炎の指輪”はどこです?さもないと私たちは・・・・!」
「そうですわ。指輪はどこですの?」
 シャランラも探偵に詰め寄った。
「ワルター様ったら、私との結婚式のために指輪をご用意なさるおつもりなんですわ。口ではあんなことを言っていても、ワルター様は私のことを・・・・!」
「あのー、ちょっと静かにしてくれませんか?」
「カズキ、何かわかるか?」
 台座の、それも指輪の置かれていた面だけを見ているカズキに、タクヤが声をかける。
「あの探偵は、ここを見ただけで犯人がわかったと言ったんだ」
 隅から隅まで舐めるように見ていると、数本の赤に近い薄茶色の毛を発見した。人間の髪の毛ではないことは一目瞭然だ。
「?!」
「ぁは〜ん」
 突然、少女の艶かしい声が聞こえた。振り返るとシャランラが体をくねらせている。
「あはは・・・やめて・・・くすぐったい〜」
「どうしたの?」
「さては恐怖のあまりプッツンしたな・・・・・」
「もう、ダメ・・・・」
 シャランラが仰け反った瞬間、胸の谷間から大きなリスのような動物が顔を出した。その色はカズキの指先にある台座の毛と同じものだ。
「しゃら?」
「なんだ、あれは?!」
 小動物はシャランラの首に巻かれているハートのチョーカーを掠め取ると、そのままぱっと身を翻し、人ごみに紛れてしまった。
「いやん、何するんですの?!」
「あれってイタチ?」
「いや、あれは“アフリカヒカリアツメ”だ」
「へ? 何それ」
「アフリカヒカリアツメ――イタチ科に属する雑食性の動物で、アフリカ西部にしかいない珍獣だ。光るものを巣に運ぶ性質があるから、現地の人は宝石の原石を探すのに利用している」
 ダイがハっと顔をあげる。
「そうか、犯人はあの動物だったんだ!」
「でーも、そんな珍獣がどうしてこんな列車の中に? 設定に無理がねーか?」
「いえ、無理はありません」
 探偵を起こすことを諦めた館長は、お子達に方にやってきた。
「ほえ?」
「何故なら、この列車に連結されているコンテナにはクロスロード動物園に寄贈される世界の珍獣が乗っているからです」
「なーんだ、そっかー」
 お子達は手を打った。
「なら、そこに行けばパワーストーンが!」
「行こう!」
 コンテナ車に行こうと客車を走り抜ける。
「しっかりしろ!」
「いかん、このままでは・・・・!」
 声の方に目を向けると、先ほど見かけた妊婦とその夫だった。
「母子共に危険な状態?!」
「帝王切開の必要がある。一刻も早く病院へ運ばねば」
 お子達は顔を見合わせ、無言で頷いた。
「もー、イヤ! アタシここで死んでやるわ!!」
 次の車両では若い女性が拳銃を持ち出して、自分のこめかみにあてていた。
「うふふふ・・・そうよ、生きていたって楽しいことなんか何もなかったわ! こんなところで・・・・」
「騒ぐな! 大人しくしろ!!
 少々危ない目つきで自殺しようとしている女性を、覆面をつけた男が羽交い絞めにして拳銃を奪った。たぶん、人相は悪いだろう。
「いいか、この女の命が惜しかったら美術館に運ばれる“ロザ・リア”の絵を持って来い!」
「そ、そんな・・・・」
 神経質そうな車掌は卒倒しそうになっていた。
「何よ、アンタ! 意気地がないわね! さっさと殺しなさいよっ!!」
 女性は無理やり拳銃に手を伸ばし、引き金を引こうとした。
「何するんだ、危ないじゃねえか!」
「アタシは死にたいのよ! いいから早く殺して〜〜〜〜!」
「何言ってんだ! 命は大事にしろって教わらなかったのか?!」
「はいはい、はいよ、ごめんなさいよッ!」
 男の背後から車両に移ってきたお子達は、そんな騒ぎの隙間を腰を屈めて通過した。
「くおらガキども〜〜〜!!」
「子供は大人と遊んでいる程ヒマじゃないんだよ〜!」
 怒って銃を乱射しようとする男の腕を女性が掴む。
「いいからさっさとアタシを殺しなさいよっ!」
「だーーーっ!離せ、この女!!」
「今のうちに取り押さえろーー!」
 我に返った鉄道保安員が、取り押さえにかかった。
 お子達は更に何処もパニックになった車両を通り抜けていく。幾つ目かの扉を開けると、なんとコンテナ車両には通路が繋がっていなかった。走る速度のために、髪が強風で嬲られる。
「そんな!」
「どうするの?」
「決まってんだろ!」
 タクヤは無謀にも走る列車のコンテナ車両に飛びついた。カズキとダイも後に続く。
「うわあ?!」
 あまりの強風に、小柄なタクヤが吹き飛ばされる。その手をカズキが、カズキの足をダイが掴んで、辛うじて地面に振り落とされることは免れた。
「ダイ、手を離すな!」
「わかってるよぉぅ!」
 タクヤはなんとか自分も捕まる場所がないか、体の下のコンテナ車両に目を向けた。都合良く通気用の格子が填まっている車両だった。しかも中から獣臭い匂いがする。
「ここだ!」

「ん? あれは・・・・」
 次の定時連絡までぼんやりと外の様子を眺めていたワルターは、列車の上で屈んでいる見慣れた三人の子供を発見した。
「お子達! おのれ、姿が見えんと思っていたら、あんな処にいたのか! かくなる上は・・・!」
 ワルターは手榴弾を持ってヘルトーマスの上に出た。
「ダイ、早く外すんだ!」
「うん、もう・・・ちょっと・・・・」
 ふと胸騒ぎのしたカズキが顔をあげ、車両の後ろを振り返る。
「しまった! 悪太に気付かれた!」
「げっ!」
「お子達め、これをば喰らえ!!」
 ピンと抜いた手榴弾を前方のコンテナ車両に向かって投げつける。
「うわーーーーーーっ?!」
 ところが投げつけた力弱かったらしく、高速で流れる空気に押された手榴弾はヘルトーマスに戻ってきた。
「わーーーーーーーっ?!」
 慌ててワルターはヘルトーマスに引っ込むが、爆弾も一緒に中に入った。爆発と共にヘルトーマスが列車から外れて後退する。
「バーカ!」
 ヘルトーマスの煙突から上がった煙に向かって、カズキがアカンベをする。
「よし、今のうちだ!」
「うん!」
 こちらもタイミングよく格子が外れ、お子達は中に飛び降りた。
 コンテナの暗がりの中では、見たこともない動物たちが目を光らせ、うるさいほどの鳴き声を上げている。ダイがおっかなびっくりカズキにしがみついた。
「うっひょー! こんな動物この世にいたんだねえ」
「だ、大丈夫・・・オケラだって、ミミズだって・・・・」
「わかったから早くアフリカヒカリアツメを探すんだ」
 カズキにせっつかれ、恐々と辺りを見回したダイは、きらきら光る一角を発見した。
「あ、あれ!」
 近づくと、敷き詰められた藁や貴金属の輝きに紛れて見えなかったアフリカヒカリアツメの姿が見える。檻の一部が木で出来ていたため、そこを齧って脱出していたらしい。
「ちょっと大人しくしててね」
 ダイはその可愛らしさに相好を崩し、柔らかい体を抱き上げた。
「ひょーっ! かーわいい!」
 くりくりした黒い目をしたアフリカヒカリアツメに、思わずタクヤも声をあげる。その間にカズキは檻の中を漁った。
「あったぞ! ゴルドシーバーにライトにスコープ!
 そして、“炎の指輪”だ!」
「やりい!」
 カズキはタクヤに炎の指輪を手渡した。
「タクヤ君、早く復活の呪文を!」
「わかってるって!」
 タクヤは炎の指輪を天に向かってかざした。
「黄金の力守りし勇者よ! 今こそ甦り、我が前に現れ出でよ!!」
 宝石から強烈な光が発せられ、思わずお子達は目を伏せる。光は場所が狭いのかコンテナ内を一周し、壁をぶち破って外に出た。
『ヒューーーッ!』
 実態化した光は救急車になった。
「今度は何故か救急車だ」
「救急車ぁ?」
 救急車はオリレンゾ急行と平走して、コンテナから見守る主を見つけた。
『Hey! 君たちがボクの主か〜い? ボクの名前は・・・・』
「ちょーっと待ったあ!」
『What's?!』
「その前に、頼みたいことがある」
 お子達はすぐに例の妊婦と医者のいる車両までついてくるように行った。列車と同じ速度で走る、目覚めたばかりの勇者に彼女たちを乗せる。
「その人たちを急いで病院まで運ぶんだ。それから、すぐに戻ってこい! わかったな?」
『まったく自己紹介もまだだってのに、人使いが荒いねえ。ま、主の頼みだ。行ってくるよ〜〜〜』
 サイレンを鳴らして離脱する勇者を、お子達は胸を撫で下ろして見守った。
「勇者が救急車でホント良かったね」
「ああ。これがパワーショベルとかだったら、シャレになんなかったよな」
「さあ、あとはこの列車を救出・・・うわ?!」
 突然襲った激しい揺れに、バランスを崩した。背後から迫るヘルトーマスが体当たりをしたせいだ。
「ええーい、お子達め、コケにしおって! 列車もろとも谷へ突き落としてくれるわ!」
 コゲたワルターは更に列車に体当たりをかけると、ヘルトーマスのスピードを上げた。タクヤは急いで勇者たちを呼んだ。
「みんな、来てくれ!」

『了解!』
 アドベンジャーは子供たちが自分から離れたのを確認すると、静かに車庫から出て行った。
「わー!走った走った〜〜〜!」
「あのSL、無人じゃなかったのか・・・・?」
 駅員は再度首を捻った。

「お子達よ、地獄はすぐそこだ」
 列車の窓から崩れた鉄橋が見える。
「ああ、鉄橋だ!」
「「「たーすけてー!」」」
 ヘルトーマスはアームを離して逆噴射をかけた。
「さらばだ、お子供よ・・・・!」
 落ちる。落ちた。
「わーーーーーーッ!!」
 鉄橋から墜落した列車の前に、ヒーローが参上した。
『チェーンジ!』
「何?!」
 スカイゴルドラン、シルバリオン、アドベンジャーが、落下する車両を受け止める。
「みんなぁ・・・・!」
『主よ、無事か?』
 そのまま静かに谷底へ下ろす。
「ふう・・・・間一髪」
 お子達は揺れなくなった列車の床に腰を下ろした。
「僕たち、助かったんだねえ」
「ヒヤヒヤしたぜ」
「とにかく、メデタシメデタシってか?」
「まだ終わってないっ!」
『何?!』
 勇者たちも忘れていたワルターが、崖の上から大軍を率いて見下ろしていた。
「毎週毎週、人の計画を邪魔しおって! 許さーーん」
 崖の上から飛び降りたヘルトーマスは、アドベンジャーのようにその体をロボットへと変形させた。続いてカスタムギアが着陸する。
「今日こそおまえ達を、全員残らずパワーストーンに戻してくれる!」
『Hey! まだ全員揃ってないよ〜』
「い?」
『とお! チェーンジ!』
 陽気で少々子供っぽい声が崖の上から降ってきた。続いてその声の主も。
『炎の騎士 ファイヤーシルバー!
 ボクを忘れてもらっちゃ困るね〜』
『ファイヤーシルバー!』
 シルバリオンは思わず声をあげた。
『Hey、主。ちゃーんと病院へ送り届けてきたよ?』
「戻ってきたか!」
 列車の外に出たタクヤの前に進み出たファイヤーシルバーは、格好つけて胸に当てた。
『では、主たちに改めて自己紹介を。ボクの名は炎の騎士ファイヤーシルバー。
 よろしく頼むよ、Baby〜』
「ちぇ、しょってらあ」
「でも、頼りになりそう」
「ま、よろしく頼むぜ、ファイヤーシルバー」
 お子達も口々に挨拶をした。
「おのれ〜〜〜〜!! 人がせっかくカッコ良く登場したのにぶち壊しにしおって!許せん。
 やれ! カスタムギア軍団!」
 攻撃の火蓋が切って落とされた。
『ファイヤーボウガン!』
 ファイヤーシルバーはボウガンから発せられる炎の矢で、次々とカスタムギアを撃破していく。
『こっちはボクが引き受けた!』
『乗客たちは我々が守る!』
 列車の前には、シルバリオンとアドベンジャーが立ちはだかる。
『頼む!』
 スカイゴルドランは後方の気を使わずに済むのがわかると、スーパー竜牙剣を抜いてヘルトーマスと相対した。
『さあ、来い!』
「こしゃくな!」
 ヘルトーマスは持っていた線路を南京玉簾のように変形させ、鞭のようにスカイゴルドランに向けて振り下ろした。
 シルバリオン、アドベンジャーはオリレンゾ急行に接近しようとするカスタムギアを倒していく。
「それそれそれそれそれっ!どうしたスカイゴルドラン!」
 対して鞭のような動きに慣れていないスカイゴルドランは防戦一方だ。次々に繰り出される斬戟を、辛うじて刀で受け止めるのが精一杯だった。
 とうとうスーパー竜牙剣が弾き飛ばされ、地面に突き刺さった。
『何?!』
「隙あり!」
 刀に目を向けた隙に、南京玉簾が首に絡みつく。
『しまった!』
 電流が流れた。
『うわあああああ!!』
「スカイゴルドラン!」
「ははははははは・・・・とっととくたばってしまえ!」
『くそう、このままではっ・・・・!』
『スカイゴルドラン、今助ける!』
 カスタムギアを蹴散らしたファイヤーシルバーが、膝裏のブースターで急加速をしてヘルトーマスとスカイゴルドランの方にせまる。
「こしゃくな、くらえ!」
 ヘルトーマスはもう片方の腕に仕込まれた南京玉簾を投げつけた。
『ファイヤーバリアー!』
 それを盾で防ぐファイヤーシルバー。南京玉簾が弾かれる。
「何ィ?!」
『ファイヤーボウガン 炎の舞!』
 残像を残すほどの高速で移動するファイヤーシルバーのボウガンから放たれた無数の矢が、ヘルトーマスに突き刺さった。
「え?」
 そのまま爆発する。壊れはしなかったが。
『大丈夫かい?スカイゴルドラン』
 爆発のおかげで拘束が解かれたスカイゴルドランの側に、ファイヤーシルバーは近寄った。
『かたじけない、ファイヤーシルバー』
「おのれ、おのれおのれ〜〜〜〜〜〜!!!」
 何とか立ち直ったワルターは、新しい南京玉簾を構えた。
『まだ来る気だよ?』
『ならば任せろ!
 超電磁ストーム!』
 スカイゴルドランのランチャー部分から発生した電磁気流が、ヘルトーマスの身動きを止めた。
「うわ〜〜〜〜〜!こ、今週も動けない・・・・」
 スカイゴルドランは突き刺さったスーパー竜牙剣を抜き、構えた。
『疾風迅雷斬りーーーーーーっ!!』
どっかーーーん!!
 今度こそ大破したヘルトーマスから脱出ポットが飛び出した。
「おのれ、憶えておれよ!七人の勇者め〜〜〜〜〜〜!!」



 救急病院から元気な赤ん坊の泣き声がする。駐車場ではドランとファイヤーシルバーが並んで、ゴルドシーバー越しに中の様子を聞いていた。
「おかげで助かりました」
 例の妊婦は無事にお母さんになった。腕には産まれたばかりの赤ん坊がいる。付き添っていた医者も微笑んでいる。
「元気な男の子です。見てやってください」
新米の父親がお子達を更に近くに呼び寄せる。
「うひょ?、かーわいい!」

『みんな、ファイヤーシルバーのおかげだな』
『え?えへへ・・・・ま、ざっとこんなもんかな?』



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