『えーーっ!? みんなと合体しろだってぇーー!?』 ファイヤーシルバーは、何処か緊張感のない子供っぽい声で悲鳴をあげた。右手を頭にやって、主の要求に困り顔だ。タンカーの甲板で大声をあげても、街の人は誰も気づかない。 「だっておまえも、シルバーナイツの仲間なんだろ?」 「きっと合体できると思うんだ!」 仲間の前で一人立たされるファイヤーシルバーの後ろで、他のシルバーナイツは思い思いの姿でタンカーの甲板でくつろぎ、無責任に首を傾げている。 『そういえば・・・・』 『そんな記憶もあったような・・・・』 『なかったような・・・・』 「ファイヤーシルバー、おまえは記憶にないのかよ?」 『う〜ん・・・・ボク、わかんないなぁ〜』 「『う〜ん・・・・ボク、わかんないなぁ〜』」 タクヤはご丁寧に髪やら瞳やらまでファイヤーシルバーの真似をして怒鳴りつけた。 「バーカ! わかんなきゃやってみりゃいいだろ!!」 『む、無茶苦茶な・・・・』 顎の外れたファイヤーシルバーの後ろで、仲間が立ち上がる。 『いや、主の言う通りだ』 『やってみる価値はある』 『ダメでもともとだぜ』 だんだん主に感化されてきたジェットシルバーたちに、もともと余り深く考えない性質のファイヤーシルバーも賛同した。 『じゃあ、やってみようか?』 「やっちゃえ、やっちゃえ!」 「いけー! シルバーナイツ、合体だ!!」 『よーし、行くぞ!』 『おう!』 『フォームアップ!』 ファイヤーシルバーの体が分離する。ドリルシルバー、ジェットシルバー、スターシルバーの順で合体したシルバリオンの胸、背中、脚に補強パーツとして合体する。胸に十字の徴が光り、全身が眩い銀に輝いた。 『超白銀合体<ちょうシルバーがったい> ゴッドシルバリオン!!』 「ほんとに合体しちまった・・・・」 「言ってみるもんだね・・・・」 目の前に降り立ったゴッドシルバリオンに、今度は命じたはずのカズキたちの口が塞がらない。 「しっかし、ゴッドとは大きくでたなー」 『そう、私の名は、ゴーーーッドシルバリオン!!』 「イエ〜〜イ!!」 ポーズも力強く決まり、拍手を送る。 『合体によって、新たに記憶が甦った』 「?」 ダイはポケットからゴルドスコープを取り出した。そこには“□”が表示されている。 『それが、次のパワーストーンのヒントだ』 「四角?」 「片仮名のロ?」 「漢字の口?」 「よーし、早速調べよう」 それを波間から眺めるタコがいた。 「若、お子達の情報が入りました。偵察ロボ・タコチュー8号からの映像です」 「どれ・・・・」 デスギャリガンのスクリーンに映ったのは、丁度合体の完了したゴッドシルバリオンの姿だった。 「「こ、こりゃまたなんと!」」 細部のアップを見て、ますますそれを確信する。 「またまた勇者どもがパワーアップしたと!? くうっ〜〜〜〜!!!」 ワルターの手の中で、ワインが沸騰したようにぐらぐら揺れた。 「わ、ワルター様・・・・! (い、いかん・・・ワルター様がプッツンしかけている。タコチュー8号、違う映像を・・・)」 何処かの花畑に切り替わり、ワインの揺れが収まる。 「(ほっ・・・・いいぞ、タコチュー)」 今度はゴッドシルバリオンのアップが。 「〜〜〜〜!!」 「わっ!」 あまりの怒り様に、カーネルは声も出せない。 「まあ、良いではないか」 ワルターは急に気配を軟化させ、ソファから立ち上がった。 「はあ?」 「敵が強くなければ、冒険もつまらんだろうよ」 「わ、若・・・・」 カーネルはその器の大きさに感服した。 「このワルター・ワルザック、相手にとって不足はないわ」 「さすが若! ご立派ですぞ」 「わ〜〜〜〜!!」 さっと手を振ると、親衛隊員の拍手が止む。 「更に調査を続けろ」 「はっ」 ワルターはそれだけ言うと、グラスを置いてブリッジの出入り口に向かった。 「ワルター様、どちらへ?」 「ちょっと外の空気でも吸ってこようかと思ってな」 「はっ」 デスギャリガンは高度一万メートルの高さを維持していた。雲がワルターの足元を隠しては流れていく。実際の気温やら風の強さやらを考えたら、とてもではないがワルターの軍服で無事なわけはないのだが。 「勇者がパワーアップか・・・・勇者が・・・・勇者が、勇者がぁぁぁっ!! パワーアップ〜〜〜〜〜〜!!! ぢくじょ〜〜〜〜!!!!」 抑えに抑えていた憤激が一気に爆発する。 「タダでさえ、あいつら、滅法強くなってるのにーーーーっ!!」 この間はゴルドランで、その前はアドベンジャーだ。背後には憎き勇者の姿がはっきり見えた。 「その上、シルバリオンまで・・・・。 おまえなんか・・・・おまえなんかーーーーっ! だいっきらいだぁーーーーーー!!!!」 「しゃら〜〜〜〜!?」 白銀の巨体が霧散し、代わりにいたのは華奢なピンクの少女だった。 「い? あ・・・しゃ、シャランラ・・・・・」 「ワルター、様・・・・? 今、何とおっしゃいました?」 「あ・・・・」 雲が、また流れた。 「私の、ことが・・・・」 「いや、その・・・・」 「だいっきらい、なんですか・・・・?」 真紅の瞳に涙が浮かぶ。 「待て、誤解だ・・・・いや、確かにおまえはイヤーな奴だが・・・・」 何故にこの迷惑な小娘に言い訳をするのだろう? ワルターには自分がわからない。 「私のことが、大嫌い、なんですね・・・・」 「私が嫌いだと言ったのは!」 「言い訳なんか聞きたくない!」 「へ?」 シャランラはその場にしゃがみ込み、瞼の内に溜まった涙を零す。 「私は、ワルター様にとって、都合の良い女でしかなかったのね・・・・」 「都合の良い女ぁ〜?」 そんな試しは一度だってあったことがない。だが、何故かワルターは思考とは別の言葉を口走った。 「ま、待て、私は・・・・」 「もういいんです!」 シャランラはワルターの手を拒否するように立ち上がった。 「私と、あなたは、トホホホホ〜・・・・」 いつもとは逆に、シャランラが後辞去っていく。デスギャリガンの上で。 「トホホホったら、トホホのホ〜・・・・」 「な、なんなんだよ・・・・あっ!」 シャランラが落ちた。 「あっはははは・・・・ドジめ、落っこってやんの。 ・・・・落っこちる・・・・? こ、ここは・・・・」 風が、吹いた。 「ここは・・・・」 移動中のデスギャリガンの上甲板。 「シャランラ!」 慌てて覗くと、落下していくシャランラの姿がまだ見えた。 「トホホのホ〜・・・・」 「シャランラーーーーッ!!!」 「さよなら、ワルター様・・・・シャランラ、超、失恋ーーーー!!」 上に向かって落ちていった涙が下を向く。バッと開いたパラシュートには、破かれたハートマークが描かれていた。 「なんなんだよ、アイツは・・・・」 心配して損した。 こうして、私の恋は終わりました。でも、私はその事実を認められないのです。一人になって初めて気づいたんです。あの人が、私にとってどれだけ大切な存在だったかって・・・・。 あの人ともう一度やり直したい・・・・。 これを涙雨というのでしょうか? 私は、行く当てもなく雨の降り出した街を彷徨っていました。 「はっくしょん!」 何だかとっても情けないです。心は空疎になってしまったのに、くしゃみなんかして。髪も濡れてしまって、これではワルター様の前にでられません。ふと、鏡を求めて顔をあげると、お店のウインドウに自分の顔が映っていました。そして、ウインドウの中から見えた本に目が止まったのです。 魔法はそこから始まっていたのでしょう。私はその古本屋に飛び込むと、中身を見ずに買い取ってしまいました。その本には、素敵なことが書いてありました。中世から魔法を伝えてきたスクエア一族のことが記されていたのです。それを読んだ時、愛を取り戻すにはもう、魔法に頼るしかないと思ったのです。 魔法使いはどんな道具を使うのでしょう。きっとステッキやコンパクトやペンダントで、ホウキに乗って、可愛い魔法のペットを連れて・・・・。 「しゃ、シャランラ、その姿は・・・・」 「私、愛の魔法使い、その名も『魔法少女シャランラ』〜」 はぴ! 「シャランラ、シャランラ、ヘイヘヘイ! ワルター様、シャランラのラブラブパワーで、愛の奴隷さんになれ〜」 呪文を唱えたら、あ〜ら不思議。 「な、あ、あ〜・・・」 「さあ、ワルター様、どーぞv」 「私と、おまえは、ワルタタタ〜」 「あんv シャランラ幸せ〜」 「へっくしょん!」 とてつもない悪寒に襲われたワルターは身震いと共にくしゃみをした。 「いかがなされました、若」 「な、何でもない・・・・」 スクリーンに、お子達の姿が映る。先ほどは気を向けていなかった映像だ。 「先ほどのタコチュー8号の情報により、パワーストーンのヒントが見つかりました!」 「何と! でかしたぞ、タコチュー8号!」 パチパチ 親衛隊員たちもタコチュー8号を褒め称えた。スクリーンの向こうでは、タコチュー8号が照れくさそうに頭を掻いている。カーネルは再度、ダイの手元に映っている“□”を表示した。 「このマークに思い当たる国がございます」 「よーし、早速出撃だ!」 噴射をかけるデスギャリガンの後ろを、金色の鳥が追っていた。 『こちら空影。主よ、敵の要塞が動き出したでござる』 「よーし、そのまま後を尾行るんだ! 悪太もヒントをみつけたのか」 実際は自分たちの手元を見られたのだが。ドランは本に埋もれる主に催促した。 『主! 我々も出動を!』 「よーし、悪太を追うぞ!」 「おう!」 アドベンジャーが汽笛を鳴らした。 スクエア一族が棲んでいるのは、ファンタスの森という、人里離れた森です。オークが枝を張り、陽もあまり射しません。 「このファンタスの森のどこかに、魔法使いスクエア一族が・・・・何処かに・・・・」 私は森に入りました。獣道もあまりなく、泥で足を汚して。辺りは鴉がギャーギャーと騒ぎ、ところどころに動物の死体も見えました。 「えっほ・・・きっと、何処かに・・・えっほ・・・・。如何にもマジカルで不気味ですわ・・・。でも、ワルター様への愛のため・・・・」 ようやく沼を渡りきったと思ったら、鴉が私を襲ったのです。 「あーーー! シャランラびっくしー!!」 私は咄嗟に避けて、近くにあったものにしがみついてしまいました。それは妙に温かかったので、少し顔を離してよくよく見てみました。 「しゃら?」 「ちて?」 目と、歯が光ったのです! 「シャランラ二度びっくしー!」 「何者じゃちて?」 恐くて離れてしまいましたけど、その人はおばあさんでした。きっと、この森に住んでいるに違いありません。私は思い切って尋ねてみました。 「あの、私、この森に棲む魔法使い、スクエア一族を訪ねてきたんですが、知りません?」 「そりゃワシじゃちて」 「しゃら?」 「ちて?」 おばあさんは、くすんだブロンドの髪に、まるで鷲のような大きなお鼻と、とっても小さな黒目をしていました。あまりシワはありません。赤いローブに同じ素材の三角帽子、樫の木の杖を持って、首からは本にあったとおり、四角に加工した貴石をぶらさげていました。 「ワシこそ第百八十代目スクエア族の当主、バーバ・ド・スクエアその人じゃちて」 「ホントですのー? いきなり会えちゃうなんて、シャランララッキッキー!」 「実はお願いがあるのですう」 初めてあった人に対してちょっと大胆ですけど、ワルター様のためですもの。 「何じゃちて?」 「私を弟子にしてください」 「でーしー?」 私はおばあさんの家に連れていってもらいました。お野菜と水の入った壷にいれられ、おばあさんは火をつけてかきまぜます。 ぐつぐつ 「何かが違う。あのー、これは?」 「ダシにしろつーから、煮込んでるちて」 「デシなのに・・・・」 「ちて?」 おばあさんは私を壷の外に出すと、ハーブの香りのする紅茶を淹れてくれました。家の中は暗く、頼りは蝋燭の炎だけです。 「では、魔法の修行をしに来た、というのだちて?」 「はい!」 「おまえは魔法を信じているのか?」 「もちろんですわ!」 魔法は信じている者だけが使えると、あの本にも書いてありましたもの。 「ほーっほっほ・・・・」 おばあさんは面白そうに笑いました。それからしばらくお返事がありませんでした。 「どーしました?」 「へ? な、何でもないちて!」 きっと、おばあさんは魔法を信じていない人たちにからかわれてきたのでしょう。私もそういう人に見えたのかもしれません。 「気に入ったぞ! おまえは修行して、魔法使いになるちて!」 私はとうとう、魔法使いの弟子になることができたのです! 「きゃっほーい! どんな修行でもいたしますぅ〜! そして、私は、『魔法少女シャランラ』になってしまうのでーす!」 カーネルは間もなく眼下に見えてくる、心当たりの場所の徴を映し出した。 「これがスクエア一族の紋章でございます」 「魔法使いか。いかにも、パワーストーンが隠されていそうだな、爺」 「そうでございましょ」 「ようし、ファンタスの森へ全速前進」 「ラジャ」 その後を気取られないように忍がつけている。 『彼奴らはスクエア一族の棲む、『ファンタスの森』へ向かっているようでござる』 空影から受け取った情報から、デスギャリガンを追っているアドベンジャーに目的地の所在が映し出される。 「よーし、悪太たちがパワーストーンを手にしたところを、横からぶん取ってやる!」 「それって、悪役のすることじゃない?」 「悪役にパワーストーンを渡さないための作戦だろ?」 「そういうこと!」 ドランにも依存はない。 「アドベンジャー、見つからないように追跡だ!」 『了解!』 バーバ・ド・スクエアは、一人家の中でため息をついていた。 「はあ・・・・昔は良かったちて。人は素直に魔法を信じてくれたのに・・・・。 はっ!」 右手で左手の親指を隠す。次に右手を離したときは、親指は消えていた。何のことはない、指を折っただけである。魔法使いスクエア一族とは、後に『手品』と呼ばれる、マジシャンの家系だったのである。 「こんなんでも人々は信用し、ワシ等を恐れたもんじゃ。しかし、今となっては魔法を信じる者なんて・・・・あんなバカタレぐらいしかおらんちて・・・・」 もうじき夕方になる森は、とっても不気味です。私は恐くならないように、大きな声で歌を歌い、おばあさんに頼まれた薬草を持って帰ることにしました。 「マハリーク、マハクーラ、シャンバラヤンヤンヤ・・・・あっ!」 暗くて足元が良く見えませんでした。 「いったいーい! ああ!」 転んでしまったひょうしに、おばあさんに籠から薬草やキノコが落ちてしまいました。 「いけない、おばあさんに頼まれた薬草が・・・・きっとこれ、すごい魔法の薬ができるんですわよね・・・・」 慌てて拾い集めます。その時、私は何か危険な気配を感じたのでした。 デスギャリガンはアドベンジャーに集中砲火を浴びせた。 「うわーーー!」 ソファからお子達が放り出される。 「くっそー! 見つかったか!」 『す、すみません!』 アドベンジャーは隠密に向かないようである。 「撃て撃てー! 撃ちまくれーーー!! 人の後をつけてきて、パワーストーンを横取りしようなど卑怯な!」 「我々のいつものパターンですな」 「い゛・・・・」 「ファンタスの森上空にさしかかりました」 「おのれっ! なんとしても奴らを食い止めるのだ! カスタムギア軍団、発進!」 デスギャリガンの両脇のコンテナが開き、カスタムギアが射出される。ワルターは精鋭四人を率いて、別のコンテナに収容されているサンダージャイロに向かった。 「我々は別動隊にて、ファンタスの森へ降り立つのだ!」 「来たな、やられメカ!」 「ドラン! スカイゴルドランになって向かえ撃て!」 『心得た!』 隣りでカスタムギアの迎撃にあたっていた空影と合体する。 『さあ、来い!』 カスタムギアとデスギャリガンが注意を惹き付けている間、サンダージャイロはひっそりとファンタスの森に着陸した。 「よーし、スクエア一族を探し出し、パワーストーンをこの手に!」 「おーーーっ!」 ワルターの演説もそこそこに、親衛隊員たちは駆け出していく。 「こら! 私を置いて行くなーーー!」 コンコン・・・・ 微かに扉をノックする音がする。スクエアばあさんは、それがキツツキや仔リスのものでないとわかると、ドアをあけた。 「ちて?」 そこにはシャランラが立っていた。靴は片方脱げ、二つに結い上げた髪は片方がばらばらになり、服も泥だらけで所々破れている。 「お、おばあさん・・・ただいま、帰りましたぁ・・・・」 そのままスクエアばあさんに倒れ掛かる。そんな姿でも、籠の中身を落とすようなことだけはしなかった。 「おお、こ、これはどうしたちて? ちて?」 「黒豹に襲われたり、崖から落ちたり、散々でしたわ・・・。でも、薬草はちゃんと・・・・」 そのままシャランラは気を失った。 「おお、しっかりするちて! ちて! ありゃ、単に今晩のおかずだったのに・・・・すまんかったちて。ゆるちて・・・・」 デスギャリガンの副砲が、スカイゴルドランを直撃する。 『おうっ!』 「スカイゴルドラン!」 「にゃっははっは・・・撃てーーー! 殺せーーー! 今回こそ、彼奴らの息の根を止めるのじゃーーー!」 ブリッジではカーネルがエキサイトしていた。 『うおおおお・・・!』 「ほんにバカな娘じゃちて。この科学万能の時代に、本気で魔法を信じるとは・・・・」 そう、このスクエアばあさん自身は、魔法を信じていないのだ。手品と魔法は違う。先ほどの夕食になる薬草も、単に純真なシャランラをこき使ってやろうというだけのことであったのだ。 ベッドで寝ているシャランラの唇が微かに動き、何かを求めるように手を伸ばす。 「ワルター、様・・・・魔法で、愛を・・・あなたと・・・・」 おそらくはワルターという者に向けられた手を、夢の中でそうなるように、スクエアばあさんは取ってやった。 「な、なんという娘じゃ・・・こやつは、愛というものを信じているのか。その男を愛するが故、そうまでして魔法を手に入れたいか・・・・」 バタン! 「失礼する!」 乱暴に扉が開かれた。そこにいるのは、武装した兵士に囲まれた赤毛の青年だった。 「な、何者じゃ!?」 「私はワルター。パワーストーンを求めてスクエア一族を訪ねてきた。貴様がその末裔か」 「いかにも」 ずかずかと人の家に入ってくるワルターに、スクエアばあさんは左手の親指を、右手で隠した。 「ん〜〜〜〜〜はっ!」 親指がない。 「!! こやつ、確かに魔法使い・・・・!」 「おいおい・・・・」 だが、これでワルターの人柄が知れた。 恐怖に視線を反らすワルターは、更に驚くべきものを発見した。 「な、なんでシャランラがここに〜〜〜!?」 「はっはー。この娘がホレちょるのはおまえか?」 顔を赤くしたワルターが銃を取り出す。 「うるさい! さっさとパワーストーンを・・・・!」 スクエアばあさんは、左手の親指を隠したままワルターに近づいた。不気味な迫力に押されて、思わず後辞去る。距離が開くと、スクエアばあさんは懐から宝石を取り出した。 「確かに一族に伝わる宝石はある」 「まさしくパワーストーン!」 色が少々違うが。 「はっ!」 スクエアばあさんが掌に気合を入れると、宝石は消えた。 「き、消えた!?」 「魔法だー!」 これには親衛隊員も驚いた。 「石はくれてやっても良いが、条件があるちて」 「じょ、条件だと?」 『ぬおおお〜〜〜〜! こ、このままでは・・・・』 『スカイゴルドラン!』 一人攻撃に晒されるスカイゴルドランのもとに、シルバーナイツが駆けつけた。そのまま合体する。 『超白銀合体 ゴッドシルバリオン!』 「なーにがゴッドシルバリオンじゃ! 撃て撃てーーー!」 『何の!』 ゴッドシルバリオンは四つの盾が組み合わさったトライシールドで、攻撃を防いだ。 「何?」 『ゴッドシルバリオン!』 合体した姿を初めて見たスカイゴルドランとアドベンジャーは驚きを隠せない。 『ここは私たちに任せて、早くパワーストーンを!』 「よーし、頼むぜ、ゴッドシルバリオン!」 アドベンジャーが降下する。 『いくぞ、スカイゴルドラン!』 『心得た!』 ゴッドシルバリオンはスカイゴルドランと共に、敵陣につっこんでいった。 「きーーーーすーーーー!?」 親衛隊員のお兄さんたちは、その言葉にトキメいてしまう。顔を赤くして、事の成り行きを見守っている。 「スクエア一族に伝わる伝説では、清らかな愛を育む者のみ、この石を持つことができる。愛の証として、この娘っ子とキスしたら、石はお主にくれてやるちて」 「う、ううううう・・・・う・・・・」 ワルターは脂汗をだらだらと流しながら、シャランラを見た。 「さあ、どうする?」 二人きりになった寝室で、ワルターは試練の時に立たされた。 「ぬくくく・・・・野望のため、野望の為〜・・・・・」 唇を近づけるが、すぐに離れてしまう。一度人生を取ったものだから仕方がない。それを何度も繰り返し、とうとう体を離した。 「うくくく・・・・ダメだ! やっぱりヤダ!!」 が、完全には離せなかった。シャランラが意識のないながらも、ワルターの手首を掴んでいたのだ。 「うっ」 微かにピンクの唇が動く。 「ね、寝てるんだったら手ぇ握るなよ!」 白い指を一本一本引き剥がす。 「は・な・せ・よ!!」 すぐに握り込められる。 「ワルター、さま・・・・」 「・・・・!」 夢にまで見ているのだろうか。現実の自分がつれないから。 夢の中では自分はシャランラと仲良く過ごしているのだろう。互いに思い合っているのなら、あの迷惑な求愛行為もないだろう。それが無いのはとても羨ましい。 あのハタ迷惑な行動がないというだけで、シャランラは起きている時よりも随分可愛らしく見えた。愛らしい頬に、小さな唇。 「・・・・誤解するなよ。全ては野望の為だ」 少しずつ、ゆっくり近づく。 「おーーー!」 窓の外から覗いていた親衛隊員のお兄さんたちは、スクエアばあさんに殴られた。 「覗いちゃダメーーー!」 柔らかな余韻が残る。 「し、してしまった・・・・私はこの娘と・・・・してしまったのだ〜〜〜〜〜!!!」 「こら、悪太!」 けたたましく扉が開き、三人の子供が入ってきた。 「げえっ!? お子達!!」 「あれ? シャランラもいるよ?」 ワルターの顔色が変わる。 「何してたんだ?」 ドキューン! 「わーーーっ!」 「私がナニしてるところを見たなーーーーッ!?」 顔を真っ赤にしたワルターは銃を乱射した。たまらずお子達は外に飛び出す。 「ナニって何だよ〜〜〜〜!?」 「何〜〜〜〜!? トボけるなーーーーーっ!!」 ワルターに続いて親衛隊員たちも出て行った。 あまりの騒々しさに、シャランラが目を覚ます。 「しゃら? 私は一体・・・・」 「ほーっほほほほ・・・あの男と仲良くやるんじゃぞ。ちて」 「しゃらら?」 首を傾げるシャランラに、スクエアばあさんは免許皆伝を言い渡した。 「そうそう、これを、よっ、持っていくちて。ちょっくら高く放り上げすぎたちて」 掌から宝石が消えるなど、とんでもない。単に天井の梁に放り投げただけである。 「ほっ、あ、えい!」 背の低いスクエアばあさんは、杖をなんとか梁にひっかけようと、必死に背伸びをしていた。 「シャランラわかりませんわ〜?」 「ちくしょー、ちくしょー、ちくしょーーーーっ!!!」 森の中から、紫のローブを羽織り、手には大鎌を持った髑髏のギアが浮かび上がった。 「こうなったらこのメタルサタンで〜、どいつもこいつも皆殺しだーーーーっ!!」 森の中を逃げ回るお子達に向けて、大鎌を投げつける。 「わーーー!!」 それは炎の輝きを中心に秘めたハルバードによって弾かれた。 「!? 何奴!?」 『私だ!』 ゴッドシルバリオンは主たちを守るように大地に降り立つと、地面に突き刺さったトライランサーを抜いて構えた。 「出たな、シルバリオン!」 『いや、パワーアップを果たした私の名前は・・・・ゴーーーーッドシルバリオン!!』 「何がゴーッドシルバリオンだっ!!」 頭に血が上っているワルターは、そのまま特攻をかける。 『どりゃー!』 ゴッドシルバリオンはすれ違いざまにメタルサタンを切り裂いたが、手ごたえがない。 『何!?』 振り返ると、切り裂かれたローブの下には何もなかった。 「バカめ! メタルサタンをなめるなよ!」 ローブを投げ捨てる。メタルサタンは上半身だけのギアだったのだ。ひっくり返って腹の底からビームを発射する。 『くっ!』 意表をついた攻撃を、辛うじてかわした。 「ふはははは・・・・くたばれ!」 だが、一度攻撃を見れば充分だった。隙が多すぎるのだ。トライランサーが炎を纏う。 『バーニングトライランサー!』 そのまま回転するトライランサーは、メタルサタンのビームを弾き続けた。 「そ、そんな・・・・そ、そんな・・・・」 『行くぞ! 必殺! ゴーッドフィニッーーシュ!!』 全身に炎を纏ったゴッドシルバリオンが、メタルサタンを貫いた。 「にゃにーーー!?」 脱出ポッドは無傷で飛び出した。 「ゴーッドだからっていーばるなーっ!」 遅れてやってきたアドベンジャーとスカイゴルドランは、ワルターの捨て台詞を聞いた。 『ゴッドシルバリオン!』 『どうやら、我々の出番はなかったようだな』 「え〜〜〜〜!?」 鴉の鳴く森に、子供たちの悲鳴が響いた。 「パワーストーンが・・・」 「ニセモノ・・・」 というより、別物。 「それをあの男がまた必死になって・・・・ハハハハ・・・・」 「またくたびれもうけか・・・・」 「しかし、あやつらにとっては、愛のパワーストーンじゃろうちて」 「なーにが魔法だ! なーにがパワーストーンだ!! あンのババア、人を騙しやがって!」 朝方と同様、ワルターはデスギャリガンの上で手にした宝石を握り締め、あらん限りの罵詈雑言を吐いた。カーネルが聞いたら卒倒するだろう。シャランラがパワーストーンだと言って渡した青紫の宝石は、宝石ですらない。祭りの夜店で売っているような安っぽい石だった。値札までついている。 「こんなもののために私は、初めてのキスを・・・・」 悔しさに涙すら溢れそうだ。 「初めての〜?」 「あ、わーーーーっ!! 何でもないっつーの!!」 ニセモノとは思えないほど、その石は夕陽を受けてよく輝いていた。 「こんなもん、お空の彼方に捨ててやるーーーっ!!」 大きく振りかぶったところを、余さずシャランラは見詰めていた。 「あ」 「それ、捨てちゃうんですの・・・・?」 せっかくおばあさんが免許皆伝だと言って、くださったのに・・・・。 一緒に帰ってきたシャランラは、まだ着替えてもおらず、汚れた服装のままだった。白くてほっそりした脚が、こぼれ落ちそうなガーネットの瞳が、苦労を知らずに育った彼女の試練を物語っていた。それは全て、自分のために。 「ああ・・・・、まあ、おまえが苦労して手に入れたのだ。せっかくだからもらっといてやる」 宝石を懐にしまうワルターに、シャランラは飛びついた。 「まあっ! シャランラ嬉しい!」 「なあに・・・・じゃないっ! よるなっつーの!!」 慌てて飛び退くワルターに、今度はデスギャリガンから落ちないように、シャランラは抱きつく。 「しつこく抱っこ〜v」 「わあっ、よせって、バカものーーーーっ!!」 「すりすり〜〜v」 「やめんか、やめろーーーーーっ!!」 「ぶちゅぶちゅ〜〜v」 「どっしぇ〜〜〜〜〜v」 ↑これでいいのだ。 |
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