追跡者はしつこくウサリンを追いかけてきた。既に十数カ国は通り過ぎたであろうに、それでも尚のこと追って来る。そろそろウサリンのエネルギー残量が危なくなってきた。 「ワルター様、シャランラ、パワーストーンをお守りします!」 ハートのボタンを押すとウサリンの持つバスケットから布が取り払われ、中からニンジン型の自動追跡攻撃ユニットのキャロビットが射出される。 『なんと?!』 ジェット機に変形して追っていたレオンは、そのファンシーな外見とは裏腹の火力に驚きを隠せなかった。それ自体がまるで意思を持っているかのような動きでヒットアンドアウエイを繰り返すキャロビットの攻撃を必死にかわしていると、ウサリンとの距離がだんだんと開いていった。 「あー、シャランラが! レオン、早く!」 「どうした、ドランたちに笑われるぞ!」 「お願い、頑張って!」 『ウサギごときにこの私、負けはせん! どおおおお!!』 主の応援にレオンも負けじと機銃を出し、キャロビットを破壊した。デスギャリガンも機銃を出して応戦する。 「追いかけっこも飽きました。 撃ち落しなさい!」 並行してウサリンを追っているデスギャリガンが主砲でウサリンを攻撃する。 「うわ?!」 ビームの光が直撃しなくとも発する電磁波はすさまじく、かなり距離を置いているにも関わらずレオンの体が揺れた。 「うわ?!」 ウサリンも直撃こそしなかったものの、エネルギー余波で胴体の一部が吹き飛んだ。 「きゃいーん!」 「シャランラ!」 「あーん! いやーん!」 目眩滅法ボタンを押すがどれも反応しない。 「こうなったら・・・・!」 最後の最後まで生きているエマージェンシーボタンを押す。ウサリンの胴体が爆発した。 「ああ、シャランラ?!」 だが、シャランラは無事だった。爆風に紛れてウサギの首だけが空を飛んで逃げた。ちょっと恐い。 「ちっくしょう、逃げられた!」 タクヤは半分安心、半分悔しさでレオンのパネルを叩いた。 「窮鼠猫を噛む、ですか・・・・」 シリアスもまた、レイザーの首を撫でながらデスギャリガンの中で呟いた。 走りどおしだったワルターは高原の酸素の薄さにグロッキーになっていた。 「はあ・・・・、はあ・・・・。最後の勇者までお子達に復活させられるわ、パワーストーンは奪われるわ・・・・。一体シャランラは何を考えているんだ!」 思わず足元の小石を蹴っ飛ばす。 ガンッ! 「い〜、いっててて・・・・」 実は岩の一部らしく、小石は一ミリも動かなかった。 「くっそ〜〜〜! 石ころまで私をバカにしおって・・・・!」 零れそうになる涙を堪えるために上を見上げると、カーネルサンダーが目に入った。 「お?」 カーネルサンダーはカーネル専用の輸送機だ。ワルターの表情が一変する。 「おーい、ここだ〜〜〜〜〜!」 失神から正気を取り戻したあと、カーネルはすぐにシリアスに言伝を残してワルターを探しに出たのだ。索敵モニターに動く物体が映る。 「ん? 若君!」 「はあ〜、助かった〜」 カーネルサンダーの帰艦報告に、シリアスは爪を噛んだ。 「兄上も悪運が強いですね・・・・」 ならば仕方が無い。殊勝な弟を演じなければ。レイザーが甘えるようにシリアスに擦り寄ると、表情を和らげたシリアスはレイザーの頭を撫でた。 ブリッジに怒り心頭のワルターが入ってきた。 「シリアス! おまえというやつは一体・・・・」 「兄上!」 いきなり抱きついてきたシリアスにワルターは二の句が次げない。 「やはりご無事でしたか! 兄上でしたら、必ず切り抜けると思っていました」 目をきらきらさせて自分の帰還を喜ぶ弟の姿に、毒気を抜かれたワルターは怒りが急速に行方不明になってしまった。 「そ、そうか・・・・。しかし少々やりすぎだぞ。この私だから良かったが・・・・」 「ごめんなさい。でも、流石は私の兄上だ」 「ま、まあな」 「でも、私たちのパワーストーンを奪ったのは一体誰なんでしょう?」 また頭痛がした。シャランラという、うるさい小娘だと言っても良かったのに、ワルターはそれをしなかった。 「兄上に何か心当たりは?」 「あ・・・ああ、いや、まったく・・・・逃げるのが精一杯で・・・・は、ははは・・・・」 じっとシリアスがワルターを見上げる。その探るような視線に、思わず父親の前で叱られるのを待っているかのような錯覚を起こした。 「・・・・・そうですか」 フイと視線を外したシリアスに、何故かワルターは胸を撫で下ろした。 「と、とにかく! 早急にパワーストーンを取り返さないと!」 「慌てる必要はありません」 「え?」 ワルターの背筋を本日何度目かの寒気が走った。 波打ち際には巨大なウサギの首が転がっていた。シャランラが不時着したのは名も知らない南の無人島のジャングルだ。シャランラはアタッシュケースからお気に入りのウサギさんのリュックにパワーストーンを移し、一人雑木林に身を隠していた。 (ワルター様ごめんなさい。シャランラ、こうするしかありませんでした) 今ごろどれだけ自分を心配しているだろう。愛する人の心の傷を思うと、身を隠していることに酷い罪悪感を感じる。ぼーっとして歩いていたら石に躓いた。 「いったーい!」 草色に染まってしまった膝を撫でて立ち上がると、決して曇ることのない美しい輝きを放つパワーストーンが、リュックから零れ落ちていた。 「しゃら? そうですわ! シャランラが勇者にして、ワルター様にプレゼントしちゃえばいいんですわ〜。そうしたらワルター様と・・・・」 例によってめくるめく妄想がシャランラの脳を満たす。 (そう、式はお城の片隅に建てた小さな教会。二人の愛は金色の鳥さんに運んでもらって、お城の番をするのは黒くて大きい勇者さんと銀色の方々。そして黄金の車でハネムーンへ・・・・) ちなみにシャランラは各勇者の名前を正確に認識していなかった。頭の中でハッピーベルを流しつつ、パワーストーンを手に取る。 「シャランラ冴えてる〜。それじゃ、コホン。 黄金の力護りし勇者よ! 今こそ甦り、我が前に現れ出でよ〜〜〜〜〜」 が、パワーストーンは木漏れ陽を反射するだけで、沈黙したままだ。 「しゃら? どーして勇者が飛び出してこないのーーー?!」 ラムネのビー玉でも取り出すようにヤケになって振り回してみたり、叩いてみたりするが全く反応がない。 「こーら、でてきなさーい! もしもーし? もしもーし?」 「それでは、戻ったパワーストーンが再び勇者となるには、一定の時間がかかると?!」 てっきりシャランラの居場所を既に突き止めてあるのかと思ったワルターだが、別の意味でまた驚愕した。途中の未解読な部分も既にシリアスは解読しておいたらしい。最後の最後の碑文は解析されていたので覚えていたのだが。 「ええ。ですから、奪った何者かも、当分勇者を呼び出すことはできません。私はその間に探索を進めますから、兄上は少しお休みになってください」 「しかし、今はそんな時では・・・・」 「じきに、パワーストーンを奪った相手もみつかりますよ」 「そ、そうか・・・・」 パワーストーン探査装置は既に完成しているのだ。 「兄上には、これからやっていただくことがありますから。せめてそれまでの間、お体を休めておいてください」 「くう〜、私はおまえのような弟を持って嬉しいぞ!」 その気使いに再びワルターはシリアスを抱きしめようと近寄った。なんといっても、たった一人の大事な弟なのだ。 ガルルル・・・・・ が、レイザーの唸り声に再び体が硬直する。 「はっ・・・・え、いや・・・・あっはははは・・・・」 「ドランにアドベンジャー、ジェットシルバー、スターシルバー、ドリルシルバー、ファイヤーシルバーに空影。そしてレオンだ」 『それが私の仲間か』 目覚めてすぐのレオンは、仲間が近くにいなかったことも相まって、全員の名前を思い出していないらしい。タクヤはシャランラを見失った落胆から立ち直り、一人一人の名前をレオンに教えてやった。 「そうだ。皆、オイラたちの大切な仲間だ」 『早く逢いたいものだ』 その間にダイやゴルドスコープを出して、カズキと一緒に探索範囲を搾り出していた。 「この辺でシャランラの電波が途絶えたから、そう遠くには言ってないと思うけど・・・・」 南海の小島の点在する付近だ。一つ一つ洗うのは困難を極める。だが、お子達にも勝機はあった。パワーストーンから勇者が復活するまでのタイムチャージ完了する瞬間が、レオンにはわかるらしいのだ。 「それに、シャランラの行動が読めないのはいつものことだからな。レオンが皆の居場所がわかるっていうなら、それを待ってた方が早いぜ」 「あーんな小っこいパワーストーンに入ってたら皆肩こっちゃうから、さっさと見つけてやろうぜ。なんてったって勝負はこれから! レオンも目ン玉おっぴろげてよーく探すように!」 「でもそう簡単に・・・・」 「あ、ウサギさんだ!」 ダイがレオンの窓からウサギの首を見つけた。 「来る、来ない、来る、来ない・・・・・」 その辺に咲いている熱帯の花で、シャランラは花占いをしていた。もちろんワルターは赤い糸を頼りに自分をみつけてくれるだろうが、それでも追っ手が先ではないと言い切れない。ピンチに颯爽と駆けつけてくれるワルターも捨て難いが、このまま二人でひっそりと逃避行というのも魅力的だ。 「ワルター様、私を・・・みつけて・・・・」 「レオン、何かあったら連絡する」 『心得た。気をつけるのだぞ』 「わかってるって」 いつもはドランとする会話をレオンと交わし、早速ウサリンの残骸を調べてみた。中でシャランラが(ありえない確立の方が高いが)気絶している可能性もあるからだ。案の定中はカラッポ。アタッシュケースだけが砂地に落ちていたので試しにタクヤが持ち上げてみると、 「あいた!」 カニに指を挟まれた。 「足跡はこっちに続いてるな」 「行ってみよう」 タクヤを放ってさっさと二人はジャングルに足を踏み入れる。 「あー、待ってーーー!」 「来る、来ない、来る、来ない・・・・・しゃら?」 最後に残った花びらは。 「来るーーーー!」 タイミングよく背後の草むらがガサガサ動く。 「きゃいーん! ワルターさまぁ!」 振り返りざまの抱きつきを辛うじてかわしたお子達は、突然の攻撃に戸惑っていた。 「しゃ、シャランラ・・・・・」 「・・・・しゃら・・・・・」 が、直ぐに真顔になってシャランラに詰め寄る。 「シャランラ、パワーストーンを返せ!」 「パワーストーンは渡しません!」 「はい、そうですか・・・・って引き下がるわけないだろ!」 シャランラの腕からはみ出しているウサギの耳を掴む。 「いやーん、離してー!」 シャランラの怪力に、カズキとダイもタクヤの加勢に入る。それでも引きずられてしまう。 「や、め、て!」 「だ、れ、が!」 「やーめーてー!」 「おーまーえーがー!」 「やー! めー! てー!!」 ピンクのブラストヴォイスに流石のタクヤもウサギから手を離してひっくり返る。反動でカズキとダイも尻餅をついた。 「ウサちゃんのお耳が取れちゃう・・・・」 大事にウサギの耳を撫でるシャランラの姿は可憐な少女そのものだ。 「あのな・・・・」 「ちょっとタクヤ君」 取れたらつけりゃいいだろうがと、憮然として言いかけたタクヤをダイが引っ張った。 「ほえ?」 「やっぱり無理矢理はまずいよ」 女の子を泣かしたことのないダイが、シャランラ本人を気遣って囁く。 「追い詰められた人間はなにするかわからないぜ」 こっちの方が追い詰められているって思わないか? タクヤは目を細めてカズキを見た。カズキの代わりにダイがタクヤを宥める。 「パワーストーンは無事みたいだし、少し様子を見よう?」 懇願するような視線に、タクヤも渋々返事をした。 「わかったよ・・・・。なんだかオイラだけ悪者みたいじゃないか・・・・」 「まずは、落ち込んだシャランラを何とかしてあげなきゃ!」 というわけで、何故か缶蹴りをすることになってしまった。遊びを選んだのはカズキ。タクヤはママゴトにされなかっただけありがたいと思った方がいい。 「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ!」 ルールをシャランラに教え、最初のジャンケンを示し合わせたお子達はシャランラを鬼にすることに成功した。 「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ!」 無理な姿勢で立ち止まったダイが揺れる。 「ダイ君、動きましたわね?」 「うっ・・・・しまった・・・・」 「ふふ・・・・たまには下々の者と遊ぶのも楽しいですわ」 シャランラはこの遊びを気に入ったようで、捕まえたダイと躊躇いなく手を繋いだ。 「あっ・・・・・」 小さくて柔らかい女の子の手に触れて、ダイが顔を赤くして下を向く。 「ダイのやつ、照れてるぜ」 カズキはそんな様子を面白がってタクヤに囁いた。 「そんなことよりパワーストーンだよ」 一方のタクヤはそんなことはどうでもいい。からかう余地もなくてつまらないカズキはすぐに頭を切り替え、シャランラの足元で遊ぶのに邪魔だからと地面に下ろされたウサギのリュックを顎で示す。 「そうあわてるなって。隙を見て奪えばいいさ」 「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ!」 「だけど、こんなことしてる間にまた追っ手が!」 「お二人さん、動きましたね?」 「あっ・・・・・」 「だるまさんがころんだ」をやっている事を忘れて話に夢中になっていた二人は、シャランラの子悪魔のような視線に射すくめられた。 デスギャリガンのブリッジは、今やシリアスの親衛隊員で占められていた。今まで操縦やオペレーターを務めていたものは、ワルターの具合が悪いから近辺の世話をするようにと、ブリッジから遠ざけられている。シリアスは本国のデータバンクを呼び出して、ウサギ型のギアの外見から検索したデータを読んでいた。登録された所有者の名前は。 「シャランラ・シースルー。兄上の婚約者ですか」 それにしては公式にシリアスの元へ連絡が着ていなかったが。 「何故彼女がこんな行動に出たのか・・・そんな真意はどうでもいいことです。邪魔者は排除する。それだけです」 「シリアス様、シャランラ・シースルーに関する調査書です」 親衛隊員が書類を持ってブリッジに上がってくる。 「ご苦労」 分厚いパーソナルデータの収められた書類をめくると、華麗な彼女の経歴に思わず感嘆のため息が漏れた。 「ほう、大したものですね。兄上にもこれぐらいに気概があればよかったのですが・・・・。 もしかして、これが兄上と彼女による作戦だとしたら・・・・」 すぐに頭を振ってその懸念を笑い飛ばす。 「まさか。兄上にそんな才があるのでしたら、父上が見限るわけがありません。 で、発見できましたか?」 今度は別の親衛隊員が振り返った。 「はい、シリアス様。この島でギアのラストコール、及びパワーストーンの波動をキャッチしました」 「ご苦労です。それでは、兄上に働いてもらいましょうか」 ベッドに仰向けに転がったワルターに見えるのは、ベッドを覆う天蓋ではなく、一人の少女だった。いつもは聞くだけで怖気が走る声に、奇妙な懐かしさを感じる。デスギャリガンに戻ってからシリアスに聞いた話では、パワーストーンを持ち逃げしたウサギ型のギアはデスギャリガンの目の前で自爆し、現在行方不明だということだ。まさかシャランラが死んだとは思えない。思いたくない。常人離れしたシャランラのことだから無事だろう。だが、デスギャリガンの砲撃を受けて無傷であるとも思えない。 酷く・・・・心配だった。 何時もは邪魔だったのに、生死すらわからぬ行方不明になってみると、いなくなって清々したとはカケラも思わなかった。デスギャリガンが、シリアスが追わなければそんなことにはならなかっただろうが、シャランラがパワーストーンを持ち逃げしなければそもそもはそうならなかったはずで。シャランラはパワーストーンから勇者が復活することは知っていても、それが何を意味するかは知らない。彼女にとって用は無いものなのに、何故パワーストーンを持って立ち去ったのか。しかもワルターも探さず。普段だったらカスタムギアもノーヴァも蹴散らしてワルターを瓦礫の隙間から探し出したろうに。 「若君、お休みになられた方が・・・・」 「大丈夫だ。それより爺。シャランラに何か変わったことはなかったか?」 「はあ? と、おっしゃいますと?」 「あ・・その・・・・例えば、悪いものを食べたとか、着るものが派手になったとか、夜な夜な外に出歩くとか・・・」 主の微妙な心境を、残念ながら老執事は曲解した。わざとらしくため息をついてみせる。 「若君」 「な、なんだ?」 「シャランラ様は、若君に振り向いて欲しくてあのようなことを」 「ば、バカな。何をバカなことを・・・・」 それではこうして命の体の心配してやっているのは、シャランラの思う壺ではないか。ワルターは続きを紅茶と共に飲み込んだ。 「ぶはっ、ぶはっ・・・・」 吹き出した紅茶を拭くハンカチを差し出しつつ、カーネルがアップで迫る。 「愛は命がけです!」 どうあってもシャランラ中心の話題にしたいようで、慌ててワルターは話を反らした。 「ま、まあ・・・その、何だ。とにかく今は、パワーストーンを取り戻すことが先決だ!」 タイミング良く警報がなり、シリアスから艦内放送が入った。 「兄上、パワーストーンを確認しました」 「何と! じい、行くぞ!」 「ああ、若君! ・・・・まったく、素直じゃないのですから・・・・」 ブリッジのメインスクリーンでは、前方にある群島の一部がクローズアップされている。 「シリアス! パワーストーンは?」 「この先の島です。レオンも確認しています」 「それではお子達が!」 シャランラも無事だということだ。いくら敵のお子達とはいえ、シャランラには手を出さない、いいや・・・出せないだろう。微かな安心感がワルターを包んだ。 シャランラが細くてしなやかな足で空き缶を蹴る。海岸に打ち寄せられていたものを拾ってきたのだ。お子達は蜘蛛の子を散らすように密林に散った。シャランラは空き缶を拾って小さなジャングルの広場の中央にセットすると、数を数え始めた。 「1,2,3,4,5,6,7,8,9,10! さあ〜、何処に隠れていらっしゃるのかしら〜?」 お子達とシャランラは、今度は缶蹴りに興じていた。とにかく、シャランラの意識をパワーストーンから遠ざけなければいけない。 「何時までこんなことやってんだ?」 タクヤが隣の茂みに隠れたカズキに向かってぼやく。 「見ろ」 カズキは、シャランラが缶を置いた近くの木を指差した。 「!」 タクヤの表情が崩れる。運良くシャランラは向こうの茂みを覗いている。 「よーし、今だ!」 「うふっ」 ポンという軽い音と共に、吸盤のついたワイヤーがウサギさんリュックをシャランラの手元に引き寄せてしまった。 「タクヤ君みっけ、ポコペン。カズキ君みっけ、ポコペン」 「きったね〜!」 「やられた・・・・」 銃の形をした吸盤ワイヤーは、ウサギさんリュックと共にシャランラの腕の中で、自分の活躍に笑っているようだ。 「きゃい〜ん! 大成功ですわ。後はダイ君だけね」 ダイは異様なプレッシャーを背中に感じ取っていた。 海岸では戯れるカニと共に大人しくレオンが鎮座していた。 『主たちはまだか・・・・ ?! あれは・・・・!』 上空を横切るのはデスギャリガンの機影だ。大量のカスタムギアを吐き出してくる。変形したレオンはナギナタソードを構えた。 「私はレオンを倒します。兄上はパワーストーンを」 「わかった」 残ったカスタムギアを放出し、最後にシリアスがもう一機忍ばせておいたヤドカリ型のギア、メティアが出撃していった。 「ダーイくーん! 出てらっしゃーい! しゃら?」 捕虜のタクヤとカズキの様子がおかしい。カンの良いシャランラはすぐに見当がついた。案の定、視線を廻らせるとダイが茂みから這い出てきていた。 「ダイ君みっけ!」 「うーーーーーー!!」 急いで缶のところに走るシャランラ、ダイ! 「シャランラ!」 そこへ、丁度缶を挟んでシャランラの正面になるような位置からワルターが顔を覗かせた。 「ワルター様〜〜〜〜〜!!」 感激で頬を紅潮させたシャランラが、一気に走る速度をあげる。 「シャランラ!」 ワルターはシャランラの手にパワーストーンが入っているらしいウサギのリュックを見た。 「ワルター様〜! ポコペン」 「だはっ!」 コケるワルターがシャランラにはわからない。見つけたら『ポコペン』だからだ。 「じゃないだろ!」 「まあ、そうでしたの。わかりましたわ〜!」 シャランラは熱い抱擁のため、ワルターに向かって走り出した、邪魔なリュックを放り出して。ワルターがシャランラに向けて両腕を広げて・・・・リュックをキャッチした。 「しゃら〜?!」 すれ違う形になったシャランラは不満顔だ。 「良かった〜。パワーストーンが無事で!」 「シャランラ、ちょー理解不能ー!」 それまで二人のやりとりを傍観していたタクヤたちも、相手がワルターになれは遠慮はいらぬとばかりにウサギさんリュックに手を伸ばす。 「これはオイラたちのもんだよっ!」 「何を言う、離せ〜〜〜〜!」 ボン! いきなり白い煙が吹き上がり、リュックは消滅していた。 「な、なんと?!」 「何時の間に・・・・?!」 シャランラの方を振り返ると、しっかりと本物のウサギさんリュックを抱えていた。なんとも侮れない。 「きったねーぞ!」 「シャランラ、何が目的だ!」 業を煮やしたワルターがシャランラに詰め寄った。人がせっかく心配してやったというのに、そのワルターですらパワーストーンから遠ざけるとは。 「・・・っ・・・・っ・・・・」 シャランラが肩を震わせる。が、それにひるむタクヤでもない。 「パワーストーンを返せ! 今日のオイラたちは一味違うぜ!」 カーネルが銃を構えてジャングルの中から現れる。 「静かにしなされ、このトリオ漫才」 老人と子供のにらみ合いは一瞬にも満たなかった。地響きのような爆音が響き、色鮮やかな鳥たちが一斉に森から飛び立った。 「あ・・・何だあ?!」 『主よ、敵襲だ!』 「レオン!」 ワルターが来た時点で予想はついていたが、ゴルドシーバーの向こうから爆発音や金属音が聞こえる。 『こちらは私に任せて、主たちはパワーストーンを!』 「わかった!」 タクヤが返事をしている間にもこちらの戦況は変化していた。ワルターがシャランラに詰め寄る。 「いーから渡すのだ!」 「絶対、絶対、渡しません!」 ワルターの頭からぐつぐつと湯気が立ち上る。 「若君、落ち着いてください」 「爺は黙れ!」 その剣幕にカーネルは二,三歩後辞去る。 「シャランラ、何が不服だ! いーかげんにせぬと・・・・」 「渡しません!」 とうとうシャランラの赤い双眸から涙が零れた。ワルターの溜飲が下がる。 「ワルター様は何も知らないのです!」 「し、知らない? 何をだ?」 カイザーを呼び出して合体したレオンカイザーは、カスタムギアを全滅させた。 「まあ、カスタムギアに過度の期待はしません。囮で充分ですから」 海の中に潜んでいたメティアが、レオンカイザーの背後に忍び寄る。 『?!』 それでもレオンカイザーは体を入れ替えてメティアに正面を向けた。蜘蛛のような長い足に体を絡め取られる。 『うおっ!』 超重量のメティアに押し物され、共に海に沈んでいく。 「フフフ・・・・メティアに取り付かれて生きて返ってこれるものか。レオンカイザー、恐るるに足らず」 行く末のわかるギア戦を横に置き、スクリーンをワルターの後を尾けさせておいたスパイカメラに切り替える。 「ワルター様は騙されているんです!」 「何をわけのわからないことを! 今回のことなら怒りはしない。パワーストーンさえ戻れば全ては丸く収まる。さっきのことを心配しているのなら、シリアスには私が説明しておくから」 「シリアス?」 タクヤが首を傾げると、カーネルが説明してくれた。 「ワルター様の御弟君のことです。こちらがそのお写真で」 「へー・・・・って、こないだの狼少年じゃん!」 「シリアスならわかってくれる。何せ私の弟だからな!」 「シリアスは・・・・シリアスはワルター様のお命を狙っているのです!」 「おしゃべりは嫌いです」 シャランラの一大決心の告白に、だがワルターはそれを笑い飛ばした。 「シリアスが私を殺すだと? だはははははは・・・・! 何を言い出すかと思えば!」 「シャランラ聞いちゃったんです! 超スクープしちゃったんです!」 シャランラはあの時ワゴンの下で聞いたシリアスの言葉を一言一句間違えずに伝えた。 「シリアスは言っていたのですわ! 『はい、心得ております。皇帝陛下。パワーストーンを、私が必ず。兄上との違いを見せてごらんにいれます。ワルザック共和帝国を受け継ぐ者の血を。 そして、兄上には血の裁きを』 って・・・・言ったのですわ!!」 ワルターの白い肌から血の気が失せていくのが、タクヤたちにもはっきりわかった。 「そんなバカな! それでは、シリアスが私を殺してワルザック共和帝国の後継者になるというのか?! 父上もそれを容認していると?!」 「それが本当なら、シャランラは悪太のためを思ってパワーストーンを奪った・・・・と」 ワルターは怒りで頬を紅潮させてシャランラからリュックを取り上げた。 「ええい、いい加減にしろ!」 「ああ〜ん!」 力づくでウサギさんリュックを取りあげられ、ワルターがちっとも自分の言うことを信用してくれないことに、シャランラは目を潤ませる。 ワルターもまた、シャランラがそんなことを言うことに腹を立てていた。シリアスは歳こそ離れているが大事な弟だ。母にも言われ、良い兄になれるよう努力だってしてきた。シリアスもそんなワルターを慕っているからこそ、今回のパワーストーン探しも自分のために色々気を配ってくれているのではないか。それに、父親が息子同士の殺し合いを容認するだろうか? 血の繋がった実の子供の死を望むだろうか? 公務で中々会えないからこそ、こうして秘密裏に行われているパワーストーン捜索を任せて絆を繋いでいるのではないか? 強烈なエンジン音が密林の静寂を破った。デスギャリガンが上空にきたのだ。 「ちょうどいい。シャランラ、おまえの間違いをここで晴らそうではないか。 おーいシリアスよ! パワーストーンは手に入れたぞ〜!」 と、ウサギさんリュックを振り回す。 「あー! こら勝手に・・・・」 カチャっとカーネルが引き金に指をかけた。 能天気なワルターの笑顔を画面の端に追いやり、シリアスはレイザーを撫でながらリュックの中からパワーストーンのオーラ波が検出されるかどうか確認させた。その結果に満足する。 「この島で全ての邪魔者が消え、全てのパワーストーンが手に入る。感謝しますよ、兄上。 主砲、発射用意!」 デスギャリガンの艦首にある主砲にエネルギーが充填されていく。光が砲塔に吸い込まれていく光景に、ワルターは笑顔を強張らせた。 「シリアス・・・・? パワーストーンは手に入れたからもういいぞ・・・・?」 『うおおお・・・・!』 海底でメティアにしがみつかれ、電撃を流されているレオンカイザーはなんとか引き剥がそうと渾身の力をこめる。チッチッチ・・・と時計の針が動く音が聞こえた。 『ぬ? こやつ、次元爆破装置が? いかん! このままでは・・・・!』 全身の力を振り絞り、必死にメティアを引き剥がす。 『私は負けるわけにはいかんのだ! ここで負けたら、主や仲間たちに笑われてしまうからな! でえええい!!』 パワーを全開にすると、メティアを抱えたままレオンカイザーは浮上した。 背丈の高い木々の間からも水柱が見えた。同時にゴルドシーバーからもブツッという不吉な音が響く。 「レオンカイザー?!」 「ああ、デスギャリガンが・・・・!」 エネルギーが臨界点まで高まった主砲は、ゆっくりとその発射口を下へと向ける。 「うわ、撃つな!」 「助けて〜!」 「きゃいーん!」 「わ、若君・・・・」 カーネルも持っていた銃を取り落とす。 「・・・・・シリアス・・・・おまえ・・・・・」 呆然と立ったままのワルターの目の前で、光が爆発する。 「「「うわ〜〜〜〜〜〜!!!」 主砲のビームは熱帯の木々やワルターの髪を大きく揺らし、水平線を直撃した。 「な、何ぃ?!」 いきなり傾いたデスギャリガンのブリッジでシリアスはひっくりかえった。 『ぬううううう・・・・あ、主よ・・・無事か・・・・?!』 「レオンカイザー!」 なんとレオンカイザーがデスギャリガンの艦首を持ち上げ、主砲の軌道を反らしたのだ。 「ちっ・・・撤退しなさい!」 副砲でレオンカイザーを引き剥がし、デスギャリガンが去っていく。ワルターも、カーネルも回収せずに。 「ふう・・・・」 「助かった〜・・・・」 胸を撫で下ろして互いの無事を噛み締めたお子達だったが、俯いて肩を震わせるワルターの姿に笑顔を改めた。 「若君・・・・」 「ワルター様・・・・」 「さすがになあ・・・・」 「月並みだけど、言葉がないな・・・・」 「うん・・・・」 突然、ワルターは顔も上げずに走り出した。 「あっ、ワルター様!」 「若君!」 「悪太!」 ワルターは海岸でレオンにコマンド受信機能を壊されて動かなくなっていたカスタムギアを手動で立ち上げると、何処とも知れぬ場所に向かって飛び去った。 『待て!・・・う・・か、体が・・・・』 レオンカイザーが追おうとするが、体の各部で放電が走った。メティアの爆発、デスギャリガンを持ち上げたダメージは、まだ癒える兆しすらなかった。 ウサギさんリュックの上に滴が滴り落ちる。ワルターは何も考えず、ただひたすら涙を流していた。 |
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