The Brave of Gold GOLDRAN




 シリアスは最寄りの領土基地でデスギャリガンの補給と修理を急がせていた。ついでにワルターの親衛隊員も全員下ろす。レオンカイザーとの戦闘データを元に、急いで戦闘用ギアを建造させた。修理の最中、部下がデスギャリガンの記録されている設計図と実際の構造に違いがあると報告を持ってきた。
「なるほど・・・兄上のオモチャにしては機能が充実していますね。主が変われば駄馬も駿馬となる・・・。もう少し詳しく調べてみる必要がありますね、このデスギャリガンも」
 デスギャリガンはまだワルター専用に一機しか製造されていない。注文を受けた工房も、メンテナンスも全てワルターの息がかかっていた。彼らにそれを問うのはシリアスのプライドにも関わる。シリアスは自力でデスギャリガンの解析をすることに決めた。
「シリアス様。補給、完了いたしました」
「よし。兄上を・・・いや、パワーストーンを追え!」


集結!8人の勇者


 南の孤島では陽が大分西に傾いていた。お子達とカーネル、シャランラはすることもなく、一人体の傷を押して偵察に出かけたレオンを待っていた。
「あ!」
 カズキが真っ先にそれに気づいた。きらりと空に金色の点が見える。それはすぐに大きくなり、海水と白砂を巻き上げる強烈な衝撃波を伴って変形した。
「レオン! もうちょい静かに来れないのか!」
『済まぬ』
 エネルギー不足のレオンに対してあんまりな言葉だが、偉そうなレオンの詫び方からはそれを不満に思うようなところは見受けられなかった。
「で、悪太は見つかったのか?」
 黙って首を振るレオンに、
「そんなあ〜〜〜〜・・・・」
 微かな希望も失ったシャランラがしゃがみ込む。
「ちょーっと期待してたんだけどな・・・・」
「おい、爺さん! 悪太の行きそうな所、心当たりないか?!」
 タクヤがカーネルの首根っこを掴んで問いただした。
「い、いや・・・そう言われましても・・・・わっかりましぇ〜ん」
「あーー! もう! イライラする〜〜〜〜〜ッ!!!」
 タクヤが髪を掻き毟る。この間ドランが一時行方不明になってから、ロクなことが続いていない。
『?!』
 次の命令を待とうと、黙って主たちを見下ろしていたレオンが不意に顔をあげた。
『今、皆の声が聞こえた』
「何だって〜〜〜?!」
 狭いレオンの中に全員が飛び乗る。
「ホントにドランたちが呼びかけていたんだな?!」
『左様!』
「よっしゃ! レオン、呼びかけた方向にレッツらゴー!!」


 カスタムギアから降りたワルターは、一人豪華客船に乗っていた。多くの寄港地を巡り、最後にはワルザック共和帝国へ着く。黄昏が水平線を染めている。涙の跡はもう拭った。一時はこのまま父や弟の望みどおりに目の前で死んでみせようかと思ったが、布越しに触れるパワーストーンの感触がそれを思いとどまらせた。今はただ、父に直接会うことだけを考えていた。会えないかもしれないし、会っても何を話すかということまでは考えつかなかったが、それでも会おうと思っていた。
 屋外プールサイドのデッキでは潮風が冷たくなり始めている。カラカラという音が、思考に没頭するワルターの顔を上げさせた。見ると風車を持った小さな女の子と男の子が鬼ごっこをしていた。
「つかまえた!」
「やーられ!」
 無邪気なその姿に思わずワルターの強張った顔が緩む。昔はシリアスもああだった。自分もきっとそうだった。
「こんどはマミちゃんがオニだからね〜」
「あーん、タクちゃんまって〜」
 遠ざかっていく幼子たちを見守っていると、突然のソニックウエーブが危うくワルターを手摺の外に放り出しかけた。
「な、なっ?!」
『チェーンジ!』
 疾風の正体はレオンだ。変形した掌から、主たちとカーネル、シャランラが飛び降りた。当然、パニック状態になった船員たちがかけつけてくる。
「な、何だおまえは?!」
「まさか、シージャックか?!」
 タクヤは愛想笑いを船員たちに向けた。
「いや〜、決して怪しい者じゃないんですけど〜。といっても充分怪しいんだけどね〜。
 この船に悪太が乗ってるんだ!」
「私の未来の旦那様は何処?!」
「若君は?!」
「ここにパワーストーンがあるんだ!」
 一気にまくし立て始めた老人と子供たちに、船員たちは目を点にし、ロボットを見上げ、
「なんなんだ、あいつらは」
「さあ?」
 呆れて放っておくことにした。レジェンドラの機密防衛機構のおかげだ。
「とにかく、手分けして悪太を探すぞ!」
「おう!」
「その必要はない」
 静かで落ち着いた声は騒がしい連中の間にもよく通った。
「悪太!」
「ワルター様!」
 姿を認めると、それぞれが勝手にまくし立てはじめる。
「迎えにきてやったぞ!」
「帰るとこないんでしょ?!」
「心配してやったんだぞ!」
「ワルター様!」
「若君!」
「オイラはおまえと戦うつもりはない! 共に強く正しく生きようじゃないか!」
「えーい、うるさーい!」
 騒がしい連中を一喝する。
「うまいこと言いおって! おまえたちの狙いはこれだろう?!」
 くるりと背中に背負ったウサギさんリュックを見せる。
「あーら、わかっちゃったあ? もーちょっとダサくやった方がよかったのかなあ?」
「ええ?! そんな、僕マジだったのに・・・・」
 何時もなら怒声を浴びせたりツッコミを入れたりするお子達の会話だが、一歩退いて傍観してみると、可愛い子供の会話だった。今までそんな彼らと相手をしてきたわけだ。
「おまえたちに最後のチャンスをやろうか?」
 ポツリとワルターは言葉を漏らした。
「え?」
 どうしてだかは自分でもよくわからない。ただ、なんとなくさっきの幼子たちの追いかけっこが楽しそうだった。
「見ての通り私は一人だ。メカもなく生身である。どうだ? おまえたち三人は勇者に頼ることなく、この私からパワーストーンを奪い取ることができるか?」
「え?」
 取り立てて考えて言った言葉ではない。だが、お子達にパワーストーンを渡してもいいかもしれない。そう思った。
「どうせできるわけなかろう」
「何をーー!」
 父の前に持ち帰ったとて、決して自分のものにはならないのだから。
「この私を捕まえられたらパワーストーンは返してやろう。だができなかったら、あの勇者をどかしてもらうぞ!」
 その様子をレオンは黙って見下ろしている。
「はっ、上等じゃねーの!
 おい、レオン!」
『うむ』
「いいか、絶対に手を出すんじゃねーぞ!」
『心得た』
 お子達は素直にレオンを争奪戦から退かせた。これで人間対人間だ。他に邪魔は入らない。
「さあーお子達よ! かかってきなさーい!」
 ワルターはリュックを背負ったまま船内への入り口で軽快に足踏みをする。
「カズキ、ダイ! 行くぞ!」
「おう!」
ドテッ!
 スタートダッシュを踏み出す前にいきなり妨害が入った。カーネルが甲板掃除用のモップで三人の足をひっかけたのだ。
「ほっほほほ・・・・。三対一では卑怯でございます。
 若! この爺も加勢いたしますぞ!」
「爺!」
 ワルターの顔がほころんだ。
「あんの爺ィ・・・!」
 人がレオンで連れてきたやったってーのに! と、憤慨して立ち上がるタクヤの頭をシャランラが馬飛びで超えていった。
「しゃら! 私もワルター様の味方ですわ!」
「げっ、シャランラ!」
 思わずワルターはカーネルと同じく隣にきたシャランラに一瞬渋い顔をするが。
「まあ、とにかく行くぞ!」
 人数が多い方が有利だし、何より楽しい。優雅さが売りの豪華客船で、ドタバタと騒がしい鬼ごっこが始まった。


「シリアス様。XZポイントにて、レオンらしきエネルギー反応を確認いたしました」
「兄上がいますね。向かいなさい」


「「「逃げろ〜〜〜〜〜!!」」」
「「「待て〜〜〜〜〜!!」」」
 周りの客や船員の迷惑など知ったこっちゃない。ドタバタとホコリをあげて縦横無尽に逃げ、追い掛け回す。
「いくら捕まえてみろと言ったとて、しつこいぞ貴様ら!」
「うるせえ!」
「黙って捕まれ!」
「誰が捕まるものか!
 シャランラ、やつらを食い止めろ!」
「しゃら!」
 スピードを緩めもせず、いきなり停止して半回転したシャランラは、掌のハートを差し出した。シャランラの持つハートといえば・・・・。
「ひえええ〜〜〜〜?! ば、バクダーン?!」
パンッ!
 そこにはワルターどころかシャランラもいない。ただハートの紙吹雪が舞うばかり。
「ああ?! 逃げられた?!」
 見えないのなら片っ端から探すしかない。ロビー、ブリッジ、キャビン、カジノ、サロン、厨房、フィットネスクラブ、図書室、バー、免税店、シアター、ビリヤード室、カフェテリア・・・・。救命ボートの中まで見ようとしたら、流石に船員に止められた。ちらりと見える白い布を追いかければ船員のセーラーだったり、乗船客のワンピースだったり、船の旗印だったりと紛らわしい。
 ぜいぜいと息を切らしたお子達は一旦甲板に戻った。白のマントの上に黒いケープを羽織った男が、夕日の中で佇んでいる。
「あそこだ!」
 逃がさないように三方から飛び掛って押さえつける。
「捕まえたぞ、悪太!」
「ふっふっふ・・・・」
「ほえ?」
 いぶかしむお子達の前で、俯いていた顔が上がった。
「じゃーん! カーネルちゃんだよ〜ん!」
 なんとワルターの予備マント(常時用意)をつけていたカーネルだった。
「うっき〜〜〜〜〜! この爺ィ〜〜〜〜〜〜!!!」
 腹いせに頭を拳でグリグリする。
「あちゃちゃちゃちゃ・・・富士山が見えるう〜」
「やーい、やーい! こっちだよ〜〜〜〜!」
「こっちですわ〜〜〜〜〜」
 向こうの船内入り口でワルターがシャランラと一緒にはやし立てていた。
「逃がすか、悪太!」
「こっこまでおいで〜〜〜〜!」
「待て〜〜〜〜〜〜!!!」
 船の中ではお子達に地の利はない。短い足で追い掛け回すだけだ。ワルターは階段の手摺をひらりと飛び越え、ショートカットで階下に下りた。シャランラもそれに続く。
「・・・・・楽しいな・・・・・」
「しゃら?」
 息を切らすこともなく走り続けるワルターの漏らした言葉に、シャランラは走りながらワルターの顔を覗き込む。今まで聞いたことのないようなワルターの声。
「これが最後だと思うと・・・・」
「しゃら? 最後って何のことですの?」
 無邪気に尋ねるシャランラに、ワルターはただ沈黙した。
「ねえ、ワルター様?」
 重ねて問おうとしたシャランラが口を開きかけたとき、
「あーーー! 悪太みーっけ!」
 お子達がそれを遮った。
「シャランラ、やつらを食い止めろ!」
 ハツラツとした口調のワルターに、シャランラは疑問を消し去った。
「はい、しゃら!」
 今度はお子達に向けてバズーカを構える。
「はっ、同じ手を食うか!」
バスン!!
 客船の一角が爆発した。 
「・・・こ、今度はホンモノだったのね・・・・・」
「しゃ、しゃら〜・・・・・」

「はあ・・・・はあ・・・・はあ・・・・」
 甲板に戻ったワルターは走るのをやめて呼吸を整えた。船は西に向かっているのでなかなか日が沈まない。美しい夕日はまだ見ることができた。
「お疲れ様です若君」
「おお、爺か。うむ。だが、心地よい疲れだ」
「左様でございますか」
 カモメが船の後をついてくる。ワルターはそのまま甲板にぺったりと座り込み、足を投げ出した。体温が上がっていたので強めの潮風が心地よい。カーネルでも見たことのない、本当にリラックスしたワルターだった。
「なあ、爺よ」
「なんでございましょう?」
「長生き、するのだぞ・・・・」
「何を今更・・・・まさか、若君・・・・!」
 ワルターの蒼い瞳に金色の夕陽が差し込む。
「父上は私を必要ないと判断された。例えパワーストーンを持ち帰ったとしても、おそらく父上はこの私を・・・・」
「そ、そんな・・・・」
 立ち上がって手摺によりかかる。茜色の光が、真っ直ぐ夕陽を見据えるワルターの顔をモノトーンに照らした。
「それでも私は父上に会う。会ってこう言おう。
『世界制服などという野望は捨てて、自由気ままに生きようではないか』
 と」
「若・・・・」
 どうしようか考えていなかったことだったが、追いかけっこの最中に思いついた。何も考えずにひたすら走っている時間は楽しかった。どうせ死ぬのなら、最後に思い出ぐらいは持っていきたかった。
 お子達とくだらない時間を過ごしている間は、本当に自由気ままな時間だった。本末転倒で、いつもどうやって相手を出し抜こうか、顔を合わせて初めて考えて。頭を使うよりも先に体を動かして。あの時もあの時もあの時も・・・・。
 出会えて良かった。例え、もう会えないとしても、こうして出会えたことが嬉しい。
 全ての始まりは、このパワーストーン。
「こうして求めてきた宝は手に入った。しかし、私にとっての本当の宝物は、あのお子達と過ごしてきた時間だったのかも知れない・・・・」
 ウサギさんリュックが淡い光を放つ。
「?! こ、これは・・・・」
『パワーストーンの目覚めが近いのだ』
「ん? げえっ?!」
 頭の上から降ってきた声に、ワルターは思わず目をむいてあとじさる。胡座をかいたレオンがいたからだ。そういえば、ここは着陸した甲板だった。
『心配ご無用。主の命令だ。手は出さん』
「そ、そうか・・・・・」
 ワルターはもっともらしく咳払いをしてレオンから目を反らした。
『悪太とやら。一つ尋ねたいことがある。』
「な、なんだ?」
『お主は本当に悪人なのか?』
 まるで冷水を浴びせられたかのような衝撃だった。
「え?」
『私は復活してからまだ日が浅い。おまけにこれまでの戦も知らぬ。だからかもしれんが、私にはお主が悪人に見えんのだ』
「ぁ・・・・」
 何かが見えた。口に出して言えるほどはっきりしたものではなかったが、岩で押しつぶされていた芽に太陽があたったように、レオンの言葉はワルターを突き動かした。
 レオンに何か言いかけようとした悪太だが、
「あーー! 悪太みーっけ!」
 それは肝心のお子達によって阻まれた。
「えーい、お子達め!」
「待て〜〜〜〜〜!!」
「待てぬわ〜〜〜〜!!」
 知恵をつけたお子達は、プールサイドでワルターを挟み撃ちにするように追いかけた。逃げ場がなければとレオンの影でおびき寄せる。
「あ、くそ・・・レオンのトコに!」
 命令したので手が出せない。
「この〜〜〜〜!」
「あっかんべろべろ〜〜〜〜!」
「待て〜〜〜〜〜!」
「イーーーだ!」
「イーーーだ、と言っても待て〜〜〜〜!!」
 足元で熾烈な戦いをしている主たちをレオンが温かい目で見守っていると、不意にこの船のものとは違うエンジン音が聞こえた。
『はっ?!』
 逢魔が刻の空に、デスギャリガンが見えたのだ。
「フフフフ・・・・見つけましたよ、兄上」
 デスギャリガンのコンテナから、カスタムギアとは違う、白いシャープなロボット群が吐き出される。シリアス専用の汎用ロボット・エクセルギアだ。ワルターが思わず声をあげる。
「エクセルギア!」
 ビームマシンガンを構えたエクセルギアが豪華客船をぐるりと囲み、威嚇射撃をした。衝撃に船が大きく揺れる。お子達は倒れ、ワルターは床に手をついた。
『カイザー!』
 レオンはすぐにレオンカイザーに合体し、エクセルギアを蹴散らしていく。
「なかなかやりますね。では、これならどうです?
 ウルティマ、出動!」
 三番コンテナから白い顔だけの巨大ロボットが射出される。レオンの1.5倍はありそうな大きさだ。
『な、なんだ?!』
 その不気味な面に一瞬レオンカイザーは戸惑った。すぐに気を取り直し、
『カイザーガン!』
 左手にハンドガンを出現させる。弾丸でウルティマを足止めすると、カイザージャベリンを構えた。
『大成敗!!』
 ビームカッターがウルティマを直撃する。だがウルティマはヒットする直前に顔を回転させて面を変え、口の部分でエネルギーを飲み込んだ。異様に大きい左目から、超音波となってそのエネルギーをレオンカイザーに反射させる。
『うわあああーーーーー!! あ、頭が・・・割れそうだ・・・・・』
「フフ・・・・ウルティマを今までのギアと同じと思っては困ります」
 レオンカイザーが脱力すると超音波の拘束が解かれ、海に向かって落ちる。ウルティマはそれを追って海中に飛び込んだ。再び仮面を回転させて別の面に切り替えると、口から手錠のようなものを吐き出してレオンカイザーの首をしめ、電撃を流した。
『うわああ!!』
「ウルティマはレオンカイザー。君のデータを知り尽くした殺人マシーンなのです」
 そのままウルティマは、海中でレオンカイザーを引きずりまわし始めた。
『ぐああああああ!!』
「レオンカイザー!」
「あっ・・・・!」
 デスギャリガンから光の粒が降りてくる。ハンドジェットを背負って武装したシリアス親衛隊だ。数十人が降下してきて甲板を埋めた。お子達とワルターたちはプールを境に分断される形になる。向けられた銃口に、カーネルは思わず怒り声を出した。
「なんだおまえたち、無礼だぞ! 誰に向かって・・・・」
「やめろ、カーネル」
 ワルターは静かな声でそれを諌めた。
「し、しかし・・・」
 ワルターは上空のデスギャリガンを見上げた。
「兄上、これ以上私を困らせないでください。さあ、大人しくパワーストーンを渡すのです」
 ただ声だけが聞こえる。エクセルギアは尚も降下してくる。
「し、シリアス・・・・」
 結果などとうに見えている。渡そうが渡すまいが、シリアスはこの客船すら犠牲にしてパワーストーンを手に入れるだろう。ワルターにできるのはせいぜい時間稼ぎか、パワーストーンと交換条件でお子達やカーネル、シャランラの身の安全を保障させるよう、交渉するぐらいだった。
 ウサギさんリュックを差し出そうとすると、悲痛なお子達の声がそれを押し留めた。
「悪太! それだけはやめてくれ!」
 また一人で答えを出そうとしていたワルターは、その声にはっと顔を上げる。銃口を向けられているお子達は、死を覚悟で叫んだ。
「ドランたちは、僕らの大切な友達なんだ!」
「悪いヤツには渡すな!」
 友達だと言った。ロボットの勇者たちを。
「やめろ、悪太!」
「た、タクヤ・・・・」
「悪太!」
「カズキ・・・・」
「やめてーーーー!」
「ダイ・・・・」
 ワルターは初めてお子達のそれぞれの名前を呼んだ。それは奇妙に新鮮だった。
「わ、若・・・・」
「ワルター様ぁ・・・・」
 お子達もカーネルもシャランラも非力だった。か弱く、戦う術もなく、それでも命がけでここまで来た。ただ友達を取り戻しに、ただワルターの身を案じて。
 海中ではレオンカイザーが苦戦している。
「わ、私は皆を・・・・皆を・・・・」
「悪太!」
「悪太!」
「やめて!」
「若!」
「うう・・・・」
「渡すのだ、兄上」
 何がしたかった? 何のためにここに来た? 何を待っていた? 何が欲しかった?
「私は皆を・・・・助けたい!」
 道が、見えた。
 エネルギーの充填したパワーストーンが一斉に光を放ち、望みを持つ者の手に収まった。それはワルターの望みが正しいものであると、背中を後押ししてくれた。
「黄金の力護りし勇者よ! 今こそ甦り、我が前に現れ出でよ!!」
 お子達が息を飲む中、パワーストーンから勇者が復活していく。
『黄金剣士 ドラン!』
『鋼鉄武装 アドベンジャー!』
『空の騎士 ジェットシルバー!』
『星の騎士 スターシルバー!』
『大地の騎士 ドリルシルバー!』
『炎の騎士 ファイヤーシルバー!』
『黄金忍者 空影!』
 ワルターの背後を護るように降り立った感情のない勇者たちの姿に、タクヤたちは愕然とする。
「こ、今度は悪太が主・・・・? そんな・・・・」
 シリアスは軽い失望感を吐き出した。
「まあよい。兄上、わかっていますよね。勇者の主は、このシリアス・ワルザックだということを」
 親衛隊員が銃の安全装置を外す。
『主よ』
 ドランがワルターに向かって呼びかけた。「主」と呼んで。ワルターはその違和感に、現実を認識するのに少し時間がかかった。
『私たちに命令を』
「うん。主として命令する!」
「悪太!!!」
「やめろーーーーー!」
「勇者よ! あのお子達を主として崇めよ!!」
 ワルターは真っ直ぐタクヤたちを指差し、微笑んだ。
「ええっ?!」
 そこで初めてタクヤたちに視線を向けたドランたちは、雷に打たれたように硬直した。
「思い出すのだ、今日までの日々を。あのお子達こそ、おまえ達の真の主なのだ!」
「わ、悪太・・・・」
 くしゃっと、タクヤたちの顔が歪む。
「・・・・私を崇めない勇者も、そして兄上もいりません。撃ちなさい!」
 親衛隊員たちがトリガーボタンを押そうとした瞬間、海面から水柱が立った。
『どおおおおおおっ!!!』
「レオンカイザー!」
 レオンカイザーが引きずられていたウルティマを、逆に引きずって海上に踊り出たのだ。とっさの事態に対処できないアンドロイドの隙をつき、タクヤが命令を出した。
「よーし、ドラン、今だ!」
『はっ!』
 懐かしい声に、ドランの顔に表情が生まれる。消え去ったはずの記憶が一気に溢れ出した。
『心得た!』
 車に変形してアンドロイドの親衛隊を轢き、ワルターたちの身の安全を確保すると、大きくジャンプしてタクヤたちの回りのアンドロイドを蹴散らす。
『チェーンジ!』
 変形を解いてタクヤたちをすぐに守れるだけの距離置いて控える。
 レオンカイザーは遠心力でウルティマのワイヤーを引きちぎり、遠くへ放り投げた。アドベンジャー、空影、ジェットシルバーが空中で尚も降下し続けるエクセルギアを蹴散らし、スターシルバー、ドリルシルバー、ファイヤーシルバーが迂回して船に近づくエクセルギアを迎撃する。
『モールドアタッカー!』
『フェイランチャー!』
『ファイヤーボウガン!』
『おまえがレオンカイザーか!』
 拳の一振りで二体のギアを破壊したアドベンジャーが初対面の勇者に声をかける。
『いかにも。その方たちがアドベンジャー、空影、ジェットシルバーか』
『ああ!』
『ならば共に戦い、悪漢を成敗しようぞ!』
『おう!』
『カイザーファン!』
 レオンカイザーの手に白い扇子が出現する。
『でやっ!』
 手首を翻すと扇は自在に宙を飛び、エクセルギアを切り裂いていった。
『乱れ撃ち!』
『バードチェイサー!』
『スマートガン!』
 辺りがすっかり暗くなったおかげで、戦闘の光が花火のように鮮やかにドランを照らす。わざと離れて控えているドランの姿が幻のような気がして、タクヤは恐る恐る声を出した。
「ドラン」
 微笑んで膝をつき、自分たちを向いてくれたドランになんと言って良いかわからなかった。ただ胸がいっぱいだった。
「大丈夫かい?」
『うん。心配をかけたな』
「ドラン・・・・」
 離れていたのなんて少しの間だったのに。
「ドラン!!」
 タクヤ、カズキ、ダイは、大きなドランの足に飛びついて泣いた。寂しくて心細くて、それでも気を張り詰めていなくてはならなかった。無意識のうちに我慢してたものが一気に溢れ出す。
『どうした主よ』
 泣かせてしまったことを後悔し、それでも元気な姿が見たいが為に、微笑んでそっと指先で三人の主を支える。
「お、オイラ泣いてんじゃねーんだぞ! 心の汗をかいてるだけだからな!」
「お、俺も・・・・!」
「僕だって・・・・」
「「「う、うう・・・・・うわーーーーーーん!!!」」」
 その光景に思わずカーネルもシャランラも貰い泣きする。少し寂しそうにワルターは微笑した。が、ウルティマが戻ってきたことに気づき、すぐに表情を険しくする。
「お子達よ! 再会を喜んでいる暇はないぞ!」
 ワルターの声は何時だって他人を意気消沈させる類のものではなかった。お子達も涙を拭って不敵な表情に切り替える。
「よーし、皆!」
「「「合体だーーーー!!!」」」
『『『おう!』』』
 スカイゴルドラン、ゴッドシルバリオン、アドベンジャー、レオンカイザーが一斉にウルティマに攻撃を仕掛ける。全方位からの攻撃にウルティマは適正攻撃面をさだめることができなくなり、外装を剥がしてオールレンジでビームを放った。
『なんてやつだ!』
『手に負えんぞ』
『ならば私がカタをつける!
 超電磁ストーム!』
 スカイゴルドランのランチャー部から発せられた強烈な電磁波がウルティマの動きを拘束する。ビームが止まり、全く身動きがとれなくなった。ウルティマにはレオンカイザーのデータはあっても、スカイゴルドランのデータはなかったのだ。
『スーパー竜牙剣 疾風迅雷斬りーーーー!!』
 爆発にレイザーが何度も吼えた。
「おやめ、レイザー。今回は出直しましょう」
 回頭するデスギャリガンを見て、お子達は調子に乗ってはやし立てた。
「へっへーん! 逃げてった〜あ、逃げてった〜!」
 静かにタクヤたちに向かって膝をつくレジェンドラの勇者の姿に、カーネルは勇者の主となったはずのワルターを見た。
「若・・・・」
「これで良いのだ。これで・・・・・」
 ワルターの笑顔はどこまでも清々しかった。


 客船の寄港地でワルターたちは降りた。もう共和帝国へは行かない。勇者たちは改めて主たちの前に整列した。
『八人の勇者そろいし時、黄金郷レジェンドラへの道は開かれん。今こそその時である』
「うん」
 神妙な彼らの姿にお子達も威儀を正す。ワルターたちはそれを少し離れたところで眺めていた。
 ワルターはこれから先どうするかは決めていなかった。ただ、国に帰ることだけはない。今まで敵としていたお子達と共に行くのも都合が良すぎると思う。だからせめてレジェンドラのある場所がわかるというのなら、お子達のこれから先だけでも知っておきたかった。
『主の持っているゴルドシーバー、ゴルドライト、ゴルドスコープをかざしてくれ』
「何が始まるんですの?」
 勇者の存在する理由を知らないシャランラが小首を傾げる。
「シャランラ様、お静かに」
 言われた通りにドランに貰ったアイテムをかざすと金色に光り輝き始める。同じように輝いた勇者たちの両目から伸びたビームと合わさって、中間に光の玉を作り出す。光の中にはどこかの山が映って見えた。
「これは・・・・世界最高峰のチョラモンマだ!」
「そこにレジェンドラがあるんだ・・・・」
「はあ〜・・・・
 あ!」
 感嘆のため息をついたタクヤだが、すぐにパッと身を翻すとワルターの側に駆け寄った。
「悪太!」
 その行動にワルターはびっくりして目を見開く。
「おまえも一緒に、チョラモンマに来てくれるよな?」
 思いもよらず差し出された小さな手が嬉しい。それでもその手を取らなかったのは、今まで敵役だったワルターの精一杯の矜持だ。だから笑って格好つけてみせた。
「ふっ。おまえたちだけでは心配だからなあ。よし、ついていってやるぞ」
「なんだあ? その言い方!」
 行き場のない手で自分の顎を掴み、タクヤがブーたれた。
「まあ、いいじゃないの」
 ダイの一言で気持ちを切り替えるのもまたタクヤだった。
「よし、じゃあ皆。チョラモンマに出発だあ!」
『おう!!』

 心意気も新たに、お子達もワルターたちも勇者たちも、全員が空を飛ぶアドベンジャーの外で風にあたる。日も高くなってくると、お子達はアドベンジャーの上で寝てしまった。無理もない。夕べは嬉しくてずっとドランたちの側にいたし、ベバルの塔に行く前から――時差も含めると――四十時間近く起きっぱなしだったのだ。育ち盛りの子供にはさぞ辛かったろう。
『主』
 落ちないように中に連れて行こうとドランが膝をつくと、
「いや、私がやろう」
 ワルターがそれを制した。一人一人を抱えるとアドベンジャーの中で寝かせてやる。昔、シリアスを寝かしつけた時のことが思い起こされる。
 タクヤの髪を撫でてみる。
「・・・・・・」
 カズキが寝返りをうった。
 例え命を狙われようとも、やはりシリアスはワルターにとって可愛い弟だった。
「・・・・そうか」
 ダイが寝言を呟いている。
 お子達も普段はこまっしゃくれて可愛げがないが、こうして寝ていると本当に子供だ。そしてシリアスも、お子達と同じ歳の子供なのだ。
「・・・・・・そうか!」


「ふっふふふふふ・・・・なるほど、デスギャリガンにこのような力があったとは」
 ついにシリアスはデスギャリガンの全てを解析し終えた。
「兄上の置き土産である、このデスギャリガンの変形システムさえあれば、勇者など最早脅威ではありません。レジェンドラの秘密はこの私、シリアス・ワルザックがいただきます。ふふふふふ・・・・・」





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