闇の広がる宇宙に向けて、目にも眩しい純白の戦艦が飛び立った。赤く描かれた紋章はワルザック共和帝国皇帝家の家紋だ。大きさは随伴する量産された五隻のデスギャリガンの十倍はある。外宇宙航行用の新型戦艦、シュバンシュタインである。 皇宮の執務室を模した広々としたブリッジでは、脇にカーネルとシャランラを控えさせたシリアスが、ソファに座ってレイザーの頭を撫でていた。前には空になったアイスクリームの器がある。 「シュバンシュタイン、地球の引力圏を脱出しました」 「大分遅れをとってしまいました。アドベンジャーの位置を」 メインスクリーンに光のレールの残光が映る。その先を生み続ける存在こそ、アドベンジャーだ。 「補足しました」 「よろしい。 シュバンシュタイン全速前進!」 廻る廻る。 運命のルーレットが廻る。 「5だ!」 廻っていたのは『人生ゲーム』のルーレット。回していたのはタクヤだ。宇宙を行く長い旅の中、床に座り込んでお菓子を食べ散らかして遊んでいる。 「1,2,3,4,5っと! 『仕返し』だあ!」 『人生ゲーム』とは、結婚したり会社を興したり借金を作ったり・・・・と、その名の通り、人生で起こりうる様々なイベントをマスに書き込んだスゴロクである。駒は車。家族が六人まで乗せられる仕様だ。 既に結婚して子供が一人いたタクヤは、五マス進めた。止まったのは『しかえし』のマスだ。幾つか『しかえし』のマスがあるが、場所によって書かれている内容が少しずつ違う。タクヤが止まったマスでは、誰かから十万ドル貰えるか、誰かを十五マス下げることができるか選べた。軽く笑うと、ピッと人指し指を立てる。 「第一のコース、須賀沼ダイ君!」 「えー! また僕? さっきだって・・・・」 「いいから早く10万ドル寄越せ」 立て続けに『しかえし』をやられ、ゴールから遠ざけられているダイは悲しみの混じった渋面を作った。 「酷いよ、タクヤ君」 「うるせえ。獅子はウサギを倒すのにも100%の力を使うんだよーん」 「でも、カズキ君が・・・・」 「いいんだよ、カズキは」 逆らうと宿題を手伝ってもらえないからだ。 「うう・・・・」 ダイは泣く泣くタクヤに十万ドルのカードを渡した。受け取ったタクヤは慣れた手つきで偽者の札束を数える。 「しっかし地球を出てからもう何日目だ? 昼も夜もわからないから、さっぱりわからないぜ」 既に飽きて思索に耽っていたカズキが口をだした。ルーレットを回したダイも同調する。 「宇宙旅行ってもっとカッコイイものかと思ってたんだけど、現実は厳しいね・・・・」 無重力で生活していないだけ良い。アドベンジャーの中では、地球にいたのと変わりのない生活環境が提供されていた。 「ま、これだけヒマこいてる小学生ってのも、史上かつてないだろーな」 私立中学を受験するなどと言っている同級生の顔を思い出し、カズキは皮肉気に笑う。タクヤもそろそろゲームに飽きてきて、金額を数えるのを途中で放り出す。 「この調子じゃ、何時になったらレジェンドラに辿り着くやら・・・・。ひょっとして、ずうっとこのままで、レジェンドラに着く頃にはオイラたち・・・・」 遥かに望む黄金の都。それを見下ろすのは・・・・ 「やっと着いたのう・・・・」 「良かったなあ」 「良かった、良かった」 「あ〜、それはそうと、こりゃあ、なんちゅう星じゃったかのう・・・・」 ・・・・三人の年寄り。 「「「だあーーー!!!」」」 行き過ぎた未来予想図に三人は絶叫をあげる。 「そんなーーー!」 「俺の青春返せーーーっ!」 「もー、たいくつで死にそうーーーっ!!」 『主・・・・』 わめきだすお子達に、ドランたちはちょっぴり冷や汗をかいた。じっと動かずに過ごすこともできる彼らには、遊びたい盛りの子供の心境を理解するのは少し難しいかもしれない。 タクヤは宇宙に出てからは決して開かれることのない、アドベンジャーのハッチにしがみついた。 「外に出ておもいっきり遊びたいよう! 美味いモンも腹いっぱい食いてえ、食いてえ・・・・!?」 ずる・・・・としがみついていた取っ手からずり落ちる。 「どうしたの、タクヤ君」 「さ、さ・・・・サメが飛んでるう〜・・・・」 扉の上部にある窓に視線を向けたまま、タクヤは腰を抜かして後退りした。カズキはタクヤに額に手を当てた。少なくとも昼間から幻を見るようなヤワな神経の持ち主ではない。「こりゃ重症だな。相当ストレスが溜まってる」 宇宙を行く青い鮫は、そんな彼らの姿を可笑しそうに眺め、アドベンジャーの傍から離脱していった。 『主よ! 光のレールの先に、惑星が見えてきたぞ!』 ドランの嬉しそうな声が響いた。 「ふえ? やったー! レジェンドラだ!!」 正気に返って喜ぶタクヤに、アドベンジャーが水を差す。 『いや、主よ。我々の旅はまだ始まったばかりだ。あれはレジェンドラへ繋がる一つめの惑星、ファンタジオンだ』 「え? 一つめって・・・・」 「幾つも星を辿っていくってコト」 だがタクヤは落胆のそぶりすら見せなかった。体を動かしたくてうずうずしているのだ。 「とにかく降りてみよーぜい。もう、じっとなんかしてられるもんか!」 「「賛成!!」」 狭い場所で退屈していたのは二人とて同じ事。カズキはビッと親指を立て、ダイは諸手をあげて賛成する。 「ようっしアドベンジャー! 着陸だあ!」 『了解!』 アドベンジャーはさしたる支障もなしに、惑星ファンタジオンに着陸した。大気圏突入の際にお子達が感じたのは、いつもアドベンジャーが海水に入るような感覚だけだ。 センサーで外が地球と同じ重力や大気組成をしているのを確認すると、物言う機関車は主の為に扉を開いた。お子達は待ちきれずに外に飛び出す。 「いーっやほう!」 補給もなしに酸素を供給し続けてくれているアドベンジャーには悪いが、やはり外の空気は美味い。アドベンジャーの中から、シルバーナイツや空影、レオンも外に出た。 「でも、森ばっかりだね」 「せっかく期待してたのにねえ・・・・面白くも何ともねーや」 『して、これからどうするのだ、主よ』 レオンが跪いて命令を促す。 「もっとよく調べてみようぜ」 「ああ」 ドランに乗り込んで遊びにいく主に、残るアドベンジャーが伝える。 『主よ、停車時間はこの星の一日だ。空に光のレールが現れたら、出発だ』 「わかった。 ではでは、初めての惑星探検に・・・・出発〜〜〜〜!!」 『心得た!』 ドランも嬉しそうにエンジンを噴かす。 奇妙な黄金の車を、岩陰からタヌキのような尻尾を持ったキツネが見ていた。 「あいつら・・・・」 尻尾が光る。 「行けども行けども森ばっかりってか」 木漏れ日はあるものの、それだけでは寂しい。ドランが更に疾走すると、一気に視界が広がった。きらきらと太陽光が乱反射する。 「湖だあ!」 表情を輝かせたお子達は、ドランが止まる間ももどかしく、車内から飛び出す。服を脱ぎ捨て、下着一枚になって澄んだ水の中に飛び込んだ。 「やっほ〜!」 「気持ち良い〜」 「生き返るぜ」 バシャバシャと水をかけあい、泳ぐ。 「ああ、見てみて! 美味しそうな果物だよ」 ダイとカズキは柿に似た果物を取ると、齧ってみた。たっぷりの水分と微かな甘味が口の中いっぱいに広がる。 「美味しい〜〜〜〜!」 背泳ぎでぷっかりと浮いていたタクヤは、湖の中程にある岩の上に、人影を見つけた。今までこの水場には他に人は居なかったのだが。 「? 人だ」 「あん?」 「どこどこ?」 「ほら、あそこ」 タクヤにつられて岸に上がっていたカズキとダイも岩の上に目を向ける。 「この星の人間かも」 「しかも女の子だ」 人影はタクヤたちと歳の変わらぬ少女だった。顎の近くで切りそろえられた栗色の髪に黄色いカチューシャをしていて、薄いピンクのブラウスに、短い赤い吊りスカートを合わせていた。手には小さな弓を持っている。 「これって宇宙人?」 「そういうことになるな」 彼女は不思議そうにタクヤたちを見下ろしていた。 「ねー彼女〜! オイラたちと一緒にエンジョイしないかー?」 「あなたたち、何してるの?」 「何って、見ればわかる・・・・」 「「「わ!?」」」 突如水の感覚が失せた。 「あ、石ころ!?」 果物は石に、そしてそもそも水そのものがない。ただの岩が転がっている故に、木が生えていないだけの場所で、お子達は下着姿でいたのだった。 「なんじゃこりゃ!?」 「どーなってんだ!?」 まさにキツネにつままれたような彼らの姿に、少女は心当たりがあったのか、キっと辺りを見渡した。 「ククったらまた悪戯したわね! 何処に隠れているの、出てらっしゃい!!」 少女が岩の一角を睨みつけると、やがて手を頭の後ろにやった、タヌキの尾を持つキツネが、愛想笑いを浮かべて出てきた。二足歩行をしてオーバーオールなどを着ている。 「たははは・・・・」 「動物が、喋ってる・・・・」 「しかも直立歩行。やっぱり宇宙は違うなあ・・・・」 ダイとカズキは妙な感心をした。 「やっぱりあなたの仕業ね」 「どーゆーことなんだ?」 状況がさっぱり飲み込めないタクヤは、ククの存在も驚かずに受け入れた。 「ククには幻を見せる能力があるの」 「つまり僕たちは化かされてたってワケか」 幻にしては水の浮遊感や圧迫感、果物の味など、細かいところまで再現されていた。かなりの使い手のようだ。 「てめー、よくもやってくれたなー! オイラたちを誰だと思ってんだナメんなよ!」 「パンツ一丁で言っても全然カッコついてねーよ、タクヤ」 慣れないスラングを使いかけるタクヤを、カズキが当り障りなくたしなめた。 「はっくしょ!」 言われて上半身裸の状況に気づいたのか、盛大なクシャミをした。 ククと呼ばれたキツネタヌキは、タクヤたちを見ながら少女に弁明する。 「てっきりこいつ等の事を、『鉄の国』の回し者だと思ったんだ」 「そんな悪い人たちには見えないわ」 「へっくし!」 「カッコ悪ィな」 「うん」 きっと少女にはマヌケに見えたのだろう。 「さあ、皆。早く服を着て、わたしについてらっしゃい」 少女が身を翻すと、二対のトンボのような羽が生えた。 「わあっ・・・・!」 そのまま軽やかに宙を舞う姿に、タクヤたちは神秘を見た感動と羨望の眼差しを向けた。 お子達は少女に案内されて、彼女たちの生活する村にドランと共にやってきた。日本の昔の田舎といった風情のある村だ。村人たちは皆、蝶や蜻蛉のような羽を持ち、ペガサスが馬代わりに荷車を引き、言葉を喋る猿や熊、兎などの動物たちがたくさんいた。ダイが目を輝かせる。 少女の住んでいる家に案内される。茅葺屋根の木造建築で、縁側に座るよう促し、少女は井戸に冷やしてあった西瓜を切ってくれた。 「さっきはごめんなさい。ククも悪気があってやった事じゃないの」 「だってさ、こーんなの見たら間違っちまうよ」 ククはもう西瓜を食べ始めていて、顔を少しだけ上げるとドランを見た。そのドランは庭先で、ボンネットに小鳥たちを懐かせている。 「もう気にしてねーよ。それよか、挨拶がまだだったな。オイラは地球からやってきたタクヤ」 「同じくカズキ」 「僕はダイ」 「わたしはミー。この『森の国』に住んでいる妖精なの。よろしくね」 「こっちこそよろしく」 「さ、皆食べて」 「うん!」 「いっただきま〜す!」 ククや動物たちも縁側に座って、仲良く西瓜に齧り付く。 「あんぐ・・・・うめ〜!」 「こんな美味しいスイカ、食べたことないよ!」 「ホント、最高だぜ!」 「あったりめーだ! おれ達の森は天国だからな!」 ククが西瓜から顔を離し、得意そうにニッと笑った。 「わたしたち妖精は、この『森の国』で、自然や動物たちと共存して暮らしているの」 「そーいえば、さっき『鉄の国』とか言ってたけど・・・・」 あらかた西瓜を食べたタクヤが顔をあげる。ミーは表情を曇らせて俯いた。 「ええ・・・・」 「「ミー、大変だよ! 真珠の森に、『鉄の国』の奴らが!」」 双子の猿が唐突にミーの家の庭先に飛び込んできた。 「!!」 真珠の森は、その名の通り、真珠に似た実をつける『真珠の木』が多く生息する森だ。ファンタジオンには『鉄の国』と『森の国』という二つの国があり、『真珠の森』はその二つの国の境にあった。 『鉄の国』は『森の国』とは対照的に、険しい岩山から採れる鉱物資源を求めた人々の創った国だ。厳しい自然に鍛えられ、逆らうように機械文明が発達していた。貪欲に機械を使って山を開発する『鉄の国』を、『森の国』の住人たちは快く思っていなかった。 その『鉄の国』の産物が、樹齢のある木々を切り倒し、草の生い茂る大地を抉っていた。 「おい、せめて手がかりでも見つからんのか?」 「はあ、閣下。残念ながら、まだ何も・・・・」 閣下と呼ばれた男は、タンクトップにモンペ、腹巻を巻いた上から豪華な赤いマントを羽織り、頭には工事現場用の黄色いヘルメットを被っていた。『鉄の国』を治めるカッカ将軍だ。カッカは軍手を填めた手で、腹巻の中から古びた地図を取り出した。 「くそう。この辺りにある筈なんだ。草の根分けても必ず見つけ出してやる!」 タクヤたちは顔色を変えて飛び出したミーたちの後を追いかけ、真珠の森に入った。木陰の隙間から、ゴツイ男たちが地面を掘り返しているのが見える。 「あいつ等、何探してんだ?」 「しーっ!」 パキ・・・・ 警戒心を特に働かせもせず歩いてきたタクヤは、小枝を踏んだ。予想外に大きい音が発生し、地面を掘り起こしていたガテン系の男たちが一斉にこちらを振り向く。 「ん? 誰かいるぞ!」 部下の一人の上げた声に、カッカ将軍は眉を釣り上げる。 「何ぃ? 構わん、始末しろ!」 「わーーっ!」 黒と黄色のストライプのマシンガンを構える連中に、タクヤたちは慌てて慌てて木の陰に逃れる。ミーは表情を改めると、手に持つ弓に力をこめた。 「クク、タクヤたちを安全な所へ!」 「わかった!」 消えていた羽が再びミーの体を浮き上がらせる。 「ああっ、ミー!」 「えーい!」 ミーは勇敢にも空から矢を無数に放ち、男たちの注意を自分に引きつける。ククはタクヤのズボンを引っ張った。 「さあ、おれについてこい!」 「じょーだんじゃない! 女の子一人残して逃げるわけに行くもんか!」 果敢に戦うミーの耳に、その声は届いていた。 「タクヤ・・・・えいっ、えいっ!」 機動性を生かして矢継ぎ早に動き回るミーに、カッカ将軍は巨大なバズーカを向ける。 「小娘が!」 「きゃーー!」 弾はミーを掠めて弓を壊してしまった。空中でバランスを崩す。 「今だ!」 動きの止まったミーに、部下たちが照準を合わせる。 「まーて待て待て待て〜〜〜〜!!」 甲高い子供の声に、部下たちが一瞬気を取られる。ドランのボンネットに乗ったタクヤたちは、木の枝を剣に見立てて部下たちを薙ぎ倒した。ミーの表情に喜色が浮かぶ。 「タクヤ!」 「はっはーん、どんなモンでえ!」 ミーに向かってサムズアップしてみせる。 「あーー!」 ダイが悲鳴をあげた。 「? うわーー!」 前方からは戦車が迫ってきていたのだ。蛇行運転で逃げるドランから、掴まるところもない主たちは振り落とされる。小さな体が地面に叩きつけられた。 「くっそー! 行けえ、ドラン!」 痛みをものともせず、ダイを下敷きにしてタクヤが怒鳴る。 『心得た! チェーンジ!』 変形したドランは竜牙剣を構え、戦車を次々と切り捨てていった。 「な、何者だあ!?」 呆気に取られるカッカ将軍の目の前で、自軍被害はどんどん増えていく。 「えーい、撃て撃てー!」 焦ったカッカ将軍の命令で、クレーンに似た兵器を斬るドランの背後に、巨大なミサイルが襲い掛かった。 『ん? 何?』 ドッカーン! 爆発が森を貫いた。 「やった・・・・」 『何の!』 煙の中から無傷のドランが飛び上がる。 「何ぃ!?」 辺りが一瞬暗くなり、雷雲から刀に稲妻が落ちる。 『稲妻斬り!』 ロケット車が爆炎に包まれた。 「くっそー、退却だ!」 「はっ」 部下たちは尻に帆かけて逃げていく。「うわー」「おぼえてろー」などと叫びながら。 「へへっ、一昨日来やがれい!」 喜ぶ主の後ろで、ドランは刀を鞘に納めた。 「この膏薬を貼っておけば、すぐに良くなるわ」 ミーの家に戻ったタクヤたちは縁側で、地面に叩きつけられた時にできた傷の手当てを受けていた。薬草をすり潰して布に塗り、青くなった肌の上に貼る。 柔らかい女の子の手にそっと腕を押さえられ、慌ててタクヤは捲くっていた袖を下げた。ミーはそれを特に気にするわけでもなく、床に手を置いた。 「どーってことねーさ、こんなカスリ傷。それより、話を聞かせてくれねえか?」 「相当、ワケアリのようだな」 「あいつら、一体何を探してたの?」 再びミーの表情が曇り、掴まる物を求めて、縁側の板の上に置かれているタクヤの手をギュッと握る。 「・・・・伝説の魔神、ムゴーレ・・・・」 「ムゴーレ?」 「言い伝えさ。このファンタジオンに伝わるな」 表情をなくしたかのようなククが代わりに答えた。 「言い伝え?」 「ずうっと昔、このファンタジオンには自然と科学の融合した超文明が栄え、皆平和にくらしていたそうだ。ところが、やがて人々の間で醜い争いがおこり、自ら創り出した魔神ムゴーレの恐るべき力により、超文明は、あっという間に滅んじまったんだとさ」 「わたしたちは、眠りについた魔神を、絶対目覚めさせてはいけないって、教えられてきたわ。 なのに、『鉄の国』の人たちは、伝説の魔神ムゴーレを見つけ出そうとしているの・・・・!」 辛そうにしていたミーが表情を険しくする。 「どうしてまた?」 「決まってるだろ! この星を支配しようとしてるんだ! おれたちも、何時あいつらに狙われるか、知れたもんじゃねえ!」 さっきまでの悪戯な表情が消えた彼らに、タクヤは笑って力こぶを作ってみせた。 「心配すんなってミー。どんな相手だろうと、オイラたちがついてるぜ! な、ドラン!」 『その通りだ、主!』 元気づけるかのような二人の声に、ククとミーは心の緊張を解いた。 「タクヤたちはともかく、ドランは頼りになりそうだな」 「ええ」 ミーまで一緒に笑って頷く。 「あ〜、そりゃねえだろ、クク」 「ははは・・・・」 ドッカーン! 笑い声が爆音にかき消された。 「何だ!?」 腰を浮かすタクヤたちの前に、双子の猿が血相を変えてまた飛び込んできた。 「「皆、逃げろ! とうとう奴らが攻めてきたぞ!」」 「なんですって!?」 真珠の森は再び鉄の動く不気味な音に支配される。先程よりもずっと大きく大量の兵器が樹木を薙ぎ倒し、『森の国』に進軍してきたのだ。 「『鉄の国』に盾突く者は許してはおけん! 一人残らず始末してくれる!」 不気味なキャタピラ音を響かせて迫る数十の巨大な兵器群は、どれもこれも二十メートル程もある。両手にドリルを装備し、安全帽を被ったロボットたちは、何処か愛嬌のあるくせに無表情な姿で、胸から機関銃を発射し、ミサイルを吐き、『森の国』に迫ってきた。 「森だー! 森へ逃げろー!」 人々は突然襲ってきた『鉄の国』の起動兵器にパニックになり、取るものも取らず逃げ惑う。真珠の森とは反対側に当たる珊瑚の森へ、ある者は駆け、ある者は飛んで逃げた。 「『鉄の国』の鉄器兵軍団だ!」 「このままじゃ村が・・・・!」 タクヤはドランを振り返った。 「おし、ドラン、合体だ!」 『心得た! ゴルゴーン!』 ドランが叫ぶと大地が割れ、中から黄金に輝く恐竜が姿を現した。 「な、なんだ、あれは!?」 カッカ将軍やその部下たちだけでなく、ミーやククもその荘厳な姿に萎縮し、動きを止めた。 ゴルゴンの体が展開し、体を畳んだドランが胸にはめ込まれる。 『黄金合体 ゴルドラン!』 ゴルドランは立ち止まった鉄器兵軍団の前に降り立つと、腰のスーパー竜牙剣を抜いて構えた。 『ここから先は、このゴルドランが通さん!』 「何だ、この金ピカロボットは!? えーい、やってしまえーー!!」 鉄器兵軍団が再び火を噴いた。 『でーい!』 だが、機動力に勝るゴルドランはそれをものともせずに、次々と鉄器兵を切り捨てていく。はっきり言ってカスタムギアより弱い。それでもなんとか背後に回りこもうとした鉄器兵が、爆発した。 『ゴルドラン!』 森の外れで待機していた他の勇者たちだ。 『超白銀合体 ゴッドシルバリオン!』 『鋼鉄武装 アドベンジャー!』 『獣王合体 レオンカイザー!』 『皆!』 ゴルドランが、駆けつけてくれた仲間たちに振り返る。逆にカッカ将軍の焦りは頂点に達しようとしていた。 「何でこんなにロボットが!? ええーい、撃て撃てーーー!!」 ありったけの銃器を突き出す鉄器兵の前に、また一つ黄金の光がよぎった。 『空影参上! 喰らえっ!』 空影が変形し、手裏剣を銃口に向かって投げつける。 『カイザージャベリン!』 レオンカイザーの一振りで数体の鉄器兵が爆発し、アドベンジャーの一斉掃射で敵はその数を激減させた。 『何の!』 緩慢な動きで吐き出されたミサイルを、ゴッドシルバリオンが盾で受け流す。一つはその場で爆発し、一つはそこから僅かに離れた山の中腹に流れた。 誰もが戦闘に釘付けになるなか、標的から外れたミサイルは山を一つ崩し、その奥に封じ込められていたモノが動き出す。 「て、鉄器兵軍団が全滅ぅ!?」 一つだけ残った王将の前に、黄金の巨人たちが立ちはだかる。 『勝負あったな!』 「く、くっそう・・・・」 「大人しく観念しろっつーの!」 「くう・・・・」 子供にまで見下され、カッカ将軍は屈辱に唇をかんだ。 ムゴーレ・・・・ 辺りに不気味な音が響く。 『何!?』 ムゴーレ・・・・ それは聞く者に嫌悪を与える音を放ち、緑豊かな山を無残な土砂に変えて浮かび上がってきた。 人型のロボットといえば言えるかもしれない。あえて言うのならば、羽織袴を穿き、頭にちょんまげを乗せ、座布団に座って手をついた・・・・・フクスケ。 「何だありゃあ?」 「間違いない! あれこそ伝説の魔神ムゴーレ! 魔神が甦ったのだーーー!!」 『何だと?』 『魔神、ムゴーレ・・・・』 ムゴーレ・・・・ 「魔神ムゴーレよ、おまえの力を見せるのだーー!!」 まるでカッカ将軍の声に応えたかのタイミングで、ムゴーレは生物に向かって口から炎を吐いた。 「ああっ!!」 「村が!」 「うわーーー!」 ゴルドランたちの攻撃から逃れていたカッカ将軍の兵士たちも一緒になって逃げ惑う。その光景に、キっと厳しい表情をした主が振り返った。 「ゴルドラン!」 『心得た!』 勇者たちは一斉にムゴーレに飛び掛った。再びムゴーレは1000000000000度にも及ぶ超々々々々高温の炎を吐き出す。 『ダメだ、うかつには近寄れん!』 『ならば!』 勇者たちの体の随所にある重火器が一斉にムゴーレを襲った。ゴルドランのレッグバスター、アームシューター、ショルダーバルカン、アドベンジャーの四連装フットランチャー、スマートガン、ガトリングショット、メガライフル、アイアンキャノン、四連装ショルダーランチャー、レオンカイザーのアームミサイル、ニーロケット、空影の五連装カゲランチャー、ゴッドシルバリオンのトライビームが、あっという間にムゴーレを炎と煙で包む。いくら魔神と呼ばれていようとも、これだけ喰らえば一溜まりもない。 「やったあ!」 初夏の風が硝煙を流す。 『何ぃ!?』 そこに、ムゴーレは無傷でいた。 ムゴーレ・・・・ 俯き気味な瞳孔から、暗黒物質を収束させた黒い光が発射される。 『うわーー!!』 強烈なダメージとエネルギーを根こそぎ奪うかのようなそのブラックビームに、勇者たちは大地に叩きつけられた。 「みんな!」 『か、体が・・・・』 「見ろ! これこそ私が探し求めていた無敵の力なのだーーー! フハハハハ・・・・!!」 ムゴーレ・・・・ ムゴーレのセンサーは生命反応をキャッチした。一人離れたところで調子に乗るカッカ将軍に向けて、ゆっくりと座布団を進ませる。 「遂に、遂に、この私が支配者となる時がやってきたのだ!!」 タクヤが小躍りするカッカ将軍に向けて叫ぶ。 「ダメだ、逃げろ!!」 「さあ、魔神ムゴーレよ、私に力をーーーっ!」 ムゴーレはカッカ将軍の声を聞き、暗黒物質を放った。彼に向けて。 「な、何い!? どわーー・・・・」 塵さえ残さず、カッカ将軍が消える。 「あ、ああ・・・・」 目の前で起こったあまりの出来事にお子達は言葉を失い、次いで怒りが湧き起こった。 「ゴルドラン!!」 『わかっている! いくぞ!』 『おう!』 勇者たちもまた、主と同様の怒りに包まれ、ムゴーレに向かって突っ込んでいった。 「魔神ムゴーレは、古代の超文明が作った全てを滅ぼす最終兵器だったんだ。そして、古代人は、自ら滅びてしまうことになった・・・・」 戦いの行く末を見守るカズキたちの頬を、赤い炎が照らし出す。 「「ミー、クク!」」 双子の猿の呼びかけに、煙に撒かれていることに気がついた。 「みんな!」 「「燃えちまう! おれたちの森が・・・・!」」 赤い炎が全てを焼き尽くさんと、その勢力範囲を広げていく。 「おれたちも、もうおしまいだ・・・・」 気落ちするククを叱咤するように、ミーは顔をあげた。 「そうはさせるもんですか! 皆で火を食い止めるのよ!」 「ミー・・・・」 こんな状況に追い込まれても決して諦めないミーの姿に、消沈していた村人たちが顔をあげる。 「「そうだ! みんなで火を食い止めよう!!」」 「おう!」 「おーし、オイラたちも手伝うぜ!」 川から池から井戸から水を汲み、全員でバケツリレーを開始する。森に燃え広がる炎に対して、それは確かにささやかな行為だったのかもしれない。だが、小さな子供たち、動物たちもが手を取り合うその姿に、逃げてきた『鉄の国』の兵士たちも心を打たれた。彼らは格別恨みや野心で『森の国』を攻撃してきたわけではないのだ。 「くそ、俺たちもやるぞ! あんな化け物に滅茶苦茶にされてたまるか!」 「おう!」 厳しい環境で生活してきたが故に、互いに助け合う心を育てていた男たちは、手に持った武器を持ち替え、現場監督の的確な指示でこれ以上燃え広がらないように枝を落とし、火を踏み消していった。 一瞬手を休めて上を見上げれば、勇者たちは、果敢にムゴーレに立ち向かっていっていた。暗黒物質が空を薙ぎ、彼らを大地に叩きつける。 『うわーーー!!』 何度も重い水の入ったバケツの中身をぶちまけ、腕がおかしくなってきたククがへたりこむ。 「無理だ。とっても、間に合わないよ・・・・」 「負けちゃだ・・・・」 ミーが励まそうと顔をあげると、周りで水をかけている村人や動物たちも、煙と熱気と疲労で、既に限界のようだった。 「・・・・」 ミーはバケツを投げ捨てると、ムゴーレに向かって走り出した。 「あ、ミー!」 「ムゴーレ、わたしの話を聞いて!」 炎に包まれた森の中で、ミーは目の前にまで迫ったムゴーレに語りかけた。今、皆の為に自分にできるのはこれしかない。 「ムゴーレ、戦うのを止めて! もうあなたに命令する人は居ない。あなたは戦わなくていいのよ! だからもうやめて! お願い!!」 ムゴーレは動きを止めてミーを見た。 「ムゴーレ・・・・」 不気味な瞳孔から不気味な光が発射される。 「!!」 「ミー!」 驚愕に立ちすくむミーを、タクヤが横から攫って飛んだ。爆風を伏せてやり過ごす。 「大丈夫か、ミー」 「た、タクヤ・・・・」 体の離れる気配にミーは顔をあげ、見つめあった。 「タクヤくーん!」 ダイとカズキが慌てて駆けつける。 「大丈夫か、タクヤ」 「ああ」 『主よ、我々に力を!』 ゴルドランと空影、レオンカイザーがフラつきながらも立ち上がる。 「おーし、こうなったらグレートゴルドランだ!」 「おう!」 タクヤ、カズキ、ダイは各々が持つゴルドシーバー、ゴルドライト、ゴルドスコープの冒険セットを高々と掲げ上げた。 「「「合体、グレートゴルドラン!!!」」 主の呼びかけに応え、空影が鳥形に変形し、ゴルドランと合体する。レオンカイザーが体をパーツに分け、激しい放電と共にスカイゴルドランに合体した。 『黄金獣合体 グレートゴルドラン!』 神々しいまでのその姿に、ミーたちは息を飲んだ。 『グレートアーチェリー!』 グレートゴルドランの手に黄金の弓が出現する。 『魔神ムゴーレよ、今度こそ永遠の眠りにつくのだ・・・・!』 黄金の矢がムゴーレの眉間に突き刺さった。 ドランたちの手伝いもあって、なんとか鎮火した。だが、あの豊かな森はすっかり焼け野原となってしまった。『鉄の国』の人たちも、一緒に焼けた森で作業をしている。 「酷いことになっちまったな」 「うん、そうだね・・・・」 夕陽が辺りを寂しく照らす。眩しい光に紛れ、金色の光が空をよぎる。 『主よ、光のレールが現れた。出発の時間だ』 「ああ・・・・。 ごめん、ミー。オイラたち、行かなきゃ」 「ううん、いいの」 ミーは首を振り、自分より少し背の低いタクヤに向けて微笑んだ。 「ありがとう、タクヤ、カズキ、ダイ」 「でも、これからが大変だな、ミー」 「大丈夫、力を合わせて、きっと元通りの美しい森を蘇らせてみせるわ」 「うん、その意気だよ、ミー」 ダイが大きく頷く。 「じゃあな、ミー、クク!」 タクヤは手を差し出し、慌てて引っ込めた。煤だらけの汚れた手をジャケットで拭う。握り返してくれたミーの手は白くて柔らかかった。上からカズキ、ダイ、ククの手が重なる。 「さよなら、タクヤ、カズキ、ダイ」 「みんなも頑張れよ!」 「ああ!!」 空の遥か彼方へ向かう機関車を、ミーたちはいつまでも見送っていた。 |
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