The Brave of Gold GOLDRAN




 シュバンシュタインのブリッジにあるメインスクリーンには、星航路が映されている。地球から伸びた軌跡は幾度か折れ曲がり、今でも伸び続けていた。まだ伸びる光線の先目掛けて、真っ直ぐ赤い点が追いかける。
「ふむふむ、ここが我々の位置っと・・・・」
 カーネルは赤く明滅するシュバンシュタインの現在位置と、先を行くアドベンジャーの距離をざっと計算した。
「この分なら勇者どもを捕捉するのは時間の問題ですな」
「シリアス様、流石〜!」
 シリアスの座るソファの側でお追従するシャランラとカーネルに、レイザーが唸った。
「ひえっ!」
 シリアスはそんな二人を見やり、微かに目だけで嘲った。



まぼろしの青空





「おい、アドベンジャー。まだ次の星に着かないの?」
 床に座り込んで携帯ゲームをしているタクヤが液晶画面から目を離さず声をかける。続きの言葉が出てきそうにないので、代わりにカズキが本から顔をあげた。
「アドベンジャー、今度はどんな星だ?」
『データによると、次の星は惑星ガーランド。高度な文明を誇る、平和な星だ』
「へえ、高度な文明か。なんかワクワクするね」
 そういえば、未開の地や、何もかもが手作りのような自然と一体化した場所ならば多くいったが、ハイレベルな文明を誇る場所にはいったことがない。
「うほ?」
 ゲームオーバーになり、ゲームを床に放り出す。もう何度もクリアして飽きた。
「平和ねえ。退屈な星なんじゃねーの?」
 それでもこの閉塞空間から解放されることはありがたいに違いない。着地したアドベンジャーから期待して下車すると。
「ありゃりゃりゃ・・・なんじゃこりゃ」
 そこは廃墟だった。ドランも首を捻る。
『本当にここが、ガーランド星なのか?』
 そこにあるのは倒壊し、風化した都市の風景だけだ。岩を敷き詰めた地面には、草もロクに生えていない。勇者たちは生命反応を探してセンサーを最大にしたが、ひっかかるものは何一つとしてなかった。アドベンジャーのデータが古過ぎたようだ。一体何時の主の記憶から引っ張り出してきたのだろう。
 それでも突っ立っているよりはマシと、お子達は街の中を歩き出した。
「おーい、誰かいないかー?」
「廃墟になってから、かなりの時間が経っているようだな」
 岩を切り出して造られた建物は、年月に晒されて角が丸みを帯び、建っていた当時からは考えられない程の無数のヒビを浮き上がらせている。カズキが指抜きグローブをはめた手で触ってみるが、何が原因でこうなったのか、さっぱりわからない。
「やっぱ誰もいねーのかな? およ?」
 タクヤは崩れた廃屋の中で、微かに鈍い輝きを放つ物を見つけた。
「中も調べてみようぜ!」
 言うが早いか、二人を置いて中に飛び込む。ダイがおっかなびっくりくっついていった。
「うん・・・・」
「気をつけろよ。中も大分風化してるぜ」
 歩く度に埃が舞い上がる。壁を軽く触って壁画でもないかと思ったが、岩で覆われた外見とは裏腹に、アドベンジャーの言うとおり割と高度な文明だったようで、所々に腐った配線のようなものが見えた。
わくわくと胸を弾ませて鈍い光を放った物体に近づいたタクヤは、それがレバーだと知った。
「何だこりゃ?」
「タクヤ、うかつに触ると・・・・あ」
 そのまま取りあえず押してみる。
「え? うわーーーーーーっ!!!」
 床が丸く光に切り取られ、落ちた。
『!?』
 外を調査していたドランは顔をあげた。
『どうした、ドラン』
 近くにいたレオンが声をかける。
『いや、主たちの声が聞こえたような・・・・』
『またその辺りで遊んでいるのであろう。まったく、何処でも元気な主たちだ』
 ドランは一抹の不安を抱えながらも、気のせいだと思い込む。
『ふっ・・・そうだな』
 その頃、彼らの主は。
「どひゃーーーー!!!」
 絶叫をあげていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「行ってきまーす!」
 気弱な少年ジョナは、学校へ行く振りをして、オーバルボードに乗った。オーバルボードはガランドウ市ではメジャーな乗り物だ。地磁気を利用して浮遊と移動を行う。立ったままなので長距離には辛いが、それが辛いと思えるほど、町の端から端は遠くない。免許がいらないので、学校へ行ける年頃の子供はほとんど持っていた。
 何時ものように町の外れに行くと、鞄からスケッチブックを取り出して昨日の続きを描く。どちらかというと無口なジョナは、学校の成績はあまり良くないし、体を動かすのも好きではない。こうして自分の夢想する世界を描いていることが一番好きだった。今描いているのは目の前に広がるこのガランドウ市ではない。彼が夢見る別世界の都市だ。高層ビルの隙間を何色にしようかと、一旦手を止める。マンガや小説で見る別世界も、全てがガランドウ市をモデルにした地下都市を舞台にしたものだ。だが、ジョナはもっと別のものが描きたかった。
「あの向こうには、何があるんだろう・・・・」
 ガランドウ市は岩で覆われた地下都市だ。電気水道等の公共設備がしっかりしており、灯りに困ることもないが、上を見上げれば黒っぽく、少し湿った茶色の岩が都市の広さだけしか続いていない。何時か、この岩の向こうに出ることができるのだろうか? 知識としてだけでも知り得ることができるのだろうか? それが、今のジョナの最大の感心事だった。

ドンガラガッシャーン!!

 突如、地響きが起こり、背後から崩れてきた岩に押されて、ジョナは前のめりに転んだ。
「う、うわーーーああっと!」
 崖から転げ落ちそうになるのを、なけなしの運動神経をフル活動させて止める。
「はー、何がどーなってんだー?」
「へー、こんな凄い地下都市があったのか」
「うん?」
 なんとかよじ登って崖から顔を覗かせると、そこには見たこともないヒトが三人いた。ガランドウ市では見たこともない服装をしている。ガランドウ市は気温の設定もきちんとされているが、基本的に寒いため、体温が逃げないように、頭から足の爪先まで一体型の、体にフィットした服装が一般的だった。だが、この三人の着ている服は上下が別れているし、布を重ねてもいた。それに、ガランドウ市の人々は目の採光力を高めるために、赤ん坊でもレンズと呼ばれる小型の採光装置を両目に付けているのに、まったくつけていない。
まるで、ジョナが夢見る別の世界から来たヒトのような。
怯えと好奇心で震えて縮こまるジョナを、彼らは発見した。
「あ!」
「お、人だ」
「こんにちは」
 ジョナと歳の変わらぬ少年たちは、ジョナを発見すると、笑顔で話し掛けてきた。
「お、おまえらどっから・・・・」
「どっからって・・・・ほれ」
 鮮やかな赤を纏った少年が天井を指差す。
「ほれって・・・天井の向こうから?」
「ああ、ここまで落ちてきちゃったらしいや」
 何でもないことのようにサラっと言い流す様子に、ジョナは自分と何か似たようなものを感じた。勢いをつけて崖を登り、少し斜に構えて近づいた。
「へー、おまえらもか」
「おまえらも?」
「おれ、ジョナっていうんだけど、実はおれも外の世界から来たんだ!」
 言ってから慌てて
「・・・・なーんちって・・・・」
 と付け加える。だが返ってきた返事は、ジョナの予想外のものだった。
「なーんだ、仲間かよ!」
「やっぱ宇宙人って旅行好きなんだな!」
「僕たち、地球って星から来たんだけど、君は?」
「え? あ・・・・」
 目を輝かせて逆に近づかれ、ジョナはパニックになった。
ウチュウジン? リョコウ? チキュウ? ホシ?
聞いたことのない言葉のオンパレードだ。焦って二の句が告げないジョナに、助け舟が現れた。
「ジョナー、さっきの音はなんだー?」
 隣に住む学生のクルトンが、彼女と友人と一緒にオーバルボードに乗ってやってきた。あんまり嬉しくない助け舟だ。また大学をサボって遊んでいたんだろう。ジョナも他人のことは言えないが。クルトンは直ぐにジョナに馴れ馴れしくしている少年たちに目をやった。
「見かけない子だな・・・・」
「初めましてー! オイラたちもジョナと一緒で、外の世界から来た者でーす!」
 無遠慮な視線も気にせず、彼らは元気にクルトンたちに挨拶をする。ジョナは顔色を変えた。
「またくだらない嘘ついて! こいつめ!」
 何時ものように怒られ、軽く殴られる。
「いい加減にしなさい、ジョナ。知らない子まで巻き込んで」
「天井の上には別の世界があるとか、外の世界から来たとか、大人をからかうのがそんなに面白いのか?」
 からかってなどいない。ただ、想像力が豊かなだけだ。好奇心が旺盛なだけだ。そう言いたかった。けれども口ごもるジョナからは、元気のない反論がモゴモゴと出てくるだけで、悲しくなった。
「べ、別にからかってなんか・・・・」
「何だよ、ウソだったのか」
 小柄な少年が唇を尖らせる。
「まったく、いつも大人を馬鹿にして!」
 クルトンはさっき崖崩れの際に放り出されたスケッチブックを拾い上げた。
「こんなくだらないマンガばっかり描いてるから、くだらない嘘ばっかつく変な子になっちゃうんだよ!」
 頭に血が上ったジョナは全力でスケッチブックを取り返すと、クルトンを睨みつける。
「くだらなくないやい!」
 他に言葉が続かない。もっと言いたいことがたくさんあるのに。
「あのー、お取り込み中すみません」
 控えめな声に、ジョナの溜飲が少し下がった。振り返ると、三人の少年たちが少し困惑したようにジョナたちを見ている。
「オイラたち、本当に外から来たんだけど」
「え?」
 真顔で言う三人に、ジョナは頭を抱え、クルトンたちは呆気に取られ、続いて笑い出した。
「あはははは・・・・・!」
「「「え???」」」
 今度は三人の方が呆気に取られる。レンズが顔に無いせいか、表情がはっきりと読み取れる。クルトンは腹を抱え、目に涙さえ浮かべて三人を見た。
「ど、どっから来たって?」
「どっからって決まってるじゃん!」
「地上から来たんですけど」
 余りにも真面目に返すその態度に、笑っていたクルトンたちは笑いを止めた。ここまで徹底されると毒気を抜かれる。
「? チジョウって、何だい?」
「何って、ここの上さ」
 少年は再び天井を指す。
「このずっと上に、地上と空があるじゃん!」
「ソラ?」
 これも初めて聞いた言葉だった。ジョナの心は再び揺れ動いた。
「うん、ここよりずっと広いんだよ」
 さも見てきたかのように言う。クルトンたちはその大法螺に再び笑い転げた。
「きゃはははは・・・・・!」
「バッカだなおまえら。このガランドウ市より広いなんて、天井が落ちてくるじゃないか」
 ガランドウ市の人口が増えることはない。市の面積を広げることができないからだ。天井を落とさないために。子供が欲しかったら申請を出し、許可を受けてからでなければ子作りもできない。
「ほんと、そんなこともわからないなんて」
 非常識もいいところだ。SFも考えていたジョナは、がっくりと肩を落とす。
「何だ、やっぱり嘘か・・・・」
 従って、彼らの呟きは耳に届かなかった。
「・・・・ねえ、これってマジなの?」
「ああ。どうやら本当に地上を知らないようだぜ」
 ジョナの中で、落胆は次第に怒りに変化した。せっかく自分と同じ感性を持っている人間と出会えたと思ったのに。ジョナはキっと顔を上げると、今まで周りに受けてきた嘲笑までも思い出し、ありったけの大声を出した。
「おまえらなあ、どーせならもっと本当らしいこと言えよ!」
「うるせえ! 本当の話なんだからしょーがねーだろ!!」
 小柄な割に少年は相当気が強く、ジョナは逆に噛み付かれた。一方的に睨み合いに負けてしまう。結局、何時も自分は負けてしまうのだ。
サイレンの音がし、犬の顔をモチーフにしたパトカー(オーバルボードと同じ原理)が到着する。さっきの崖崩れを敏感に市のセキュリティシステムが感知したのだろう。地下都市の為、地盤に関することに対しては特に敏感だった。
「崖崩れがあったのはここか?」
 ネイビーブルーを基調とした一体型スーツの制服を着た警官は、さっき少年たちが現れた崖崩れの後をざっと見ると、ポケットからコネクションギアを取り出した。携帯型のモバイルコンピューターだ。使用するときはホログラフィキーとスクリーンが浮かび上がり、こちらも地磁気からエネルギーを得ている。空虚に淡いキーボードが浮かび上がるのを見て、少年たちは軽く息を飲んだ。警官は被害状況を入力すると、それは市の中央管理センターに直送された。画面に浮かぶ返信の文字を見ると、二人は軽く何やら会話を交わす。
「この程度の被害ならば問題ないそうだ」
「通常の補修手配で充分だな」
 コネクションギアをしまって立ち上がる警官に、クルトンの彼女が声をかけた。
「おまわりさん、この子たち、さっきから外の世界から来たとか、変なことばっかり言ってるんです」
 言った本人にしても、クルトンやジョナにしても、それは軽い脅しのようなもので、別に他意はなかった。だが、警官たちの目がレンズ越しにも細まったのがわかる。いきなり少年たちの体を捕らえたのだ。
「え? ああっ」
「何するんだ!」
「うるさい! 悪戯に町を騒がした罪で逮捕する!」
「話の続きは警察で聞こう」
 いくら暴れても所詮は子供だ。大人に敵うはずも無く、三人はパトカーに押し込められた。
「こんにゃろ、放せ!」
「俺たちが何したってんだよっ!」
 去っていくパトカーにクルトンは焦りを隠すかのように呟いた。
「ありゃ、こってりしぼられるぞ・・・・」
 ガランドウ市では立ちションやら酔っ払いだの、軽犯罪しか発生しない。それが子供相手にあの豹変。
「・・・・まさか、あいつら、本物?」






「ふう、は・・・あははははは・・・・!」
「うははは・・・・お、俺たちは玩具じゃないんだぞ!」
「そ、そこはやめてえ・・・・」
 お子達は警察署へ連行されると、すぐに署の奥にある拷問室に連れてこられた。平和な街にも、こんな恐ろしい場所は存在するのだ。全身を拘束させられ、くすぐられるという非常に厳しい拷問を受けさせられた。
「これほどの拷問に耐えるとは、どうやら嘘はついていないようだな」
 手元のスイッチでくすぐりを止めると、署長は重い口を開いた。
「だーからさっきから何度も言ってるだろ!」
「だったら尚更ここから出てもらうわけにはいかん!」
「へ?」
「どんな目的でここにきたのか知らんが、余計なことを市民に吹き込まれては困るのだ」
「余計なこと?」
 カズキの呟きに、署長は何かを思い出すような仕草をした。
「そうとも。皆、大昔の惨劇を知らずにいるんだからな。
 かつてガーランドは高度な文明を誇った平和な星だった。それが、ある日大きな戦争がおこった。地下に逃げ込んだご御祖たちは、ここに新しい都市を創った。そして再び過ちを繰り返さないように、地上の記憶を封印したのだ」
 署長は長い物語を語り終えたように、レンズを持ち上げて目元を拭う。体格が良い上に悪趣味なグラサンをかけているからわからなかったが、意外と普通のおじさんの顔をしていた。
「なるほど。これで地上が廃墟だった理由がわかったぜ」
「それで皆、地上も空も知らなかったんだ。可哀想・・・・」
「このまんまじゃオイラたちの方が全然可哀想だぜ!」
 タクヤはお得意の甘えた声を出す。
「ねえ、署長さんv それはわかったからさー、オイラたちを地上に戻してくれるう?」
返事はマジックハンドで抓られた。
「知ってるぞ。地上には化け物がウヨウヨいるんだろう? そうに決まってる!」
「んなわきゃねーだろ! あいたたた・・・・」
「イテ・・・・なんだよ、このおっさんも何も知らないんじゃないか」
「おまえたち、正体を見せるまではここにいてもらうからな」
「えーーーーっ!!!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



『主ー! 何処だー!? 何処にいるのだー?』
『主よー!』
『何処だー!?』
 主を見失った勇者たちは、焦って必死に辺りを探していた。ドランの勘は正しかったのだ。惑星に生命反応がないことがわかると、次の命令を主に求めたのだが、ゴルドシーバーからの返事は一向にこない。センサーの感度をあげたが、微弱な黄金の波動をキャッチすることもなく、まさしく神隠しにあってしまったのだ。
『どうだ、見つかったか?』
 一通り街中を探したドランは、近くで廃墟の下を覗きこんでいたジェットシルバーに声をかけた。
『いや、まだだ。主たち、一体何処へいってしまったのだろう・・・・・』
『!? あれを!』
 ドリルシルバーの声に、勇者たちは一斉に空を見上げる。長く伸びる輝きに、声を失ってしまう。
『!?』
『ああっ!』
『何いっ!?』
『ひ、光のレールが!』
『一刻も早く、主たちを探し出さねば! 何処にいるのだ、主よ!』



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ジョナはすぐに図書館に駆け込んだ。彼らが本当にこの天井の向こうから来たのなら、一緒に連れて行ってもらえるかもしれない。捕まった者が警察署の何処にいるのかはわからないが、警察署に忍び込む経路はすぐにジョナの頭に浮かんだ。地下水道を利用するのだ。街の何処にどういう水路が回っているのかは一般に公開されていたから、警察署の真下を通る水道管の配置は容易く分かった。ノート代わりにしているコネクションギアにルートをダウンロードすると、すぐに家に戻ってもう一台、兄のオーバルボードを拝借する。コネクションギアを頼りに警察署に一番近いマンホールの蓋を開ける。中に潜り込むと、意外に汚くなかった。上水道か下水道などは調べなかったから、これは幸先良いかもしれない。警察署の真下にくると、ジョナは耳をそばだてた。直ぐ側でごうごうと水の音がする中を、人の声がしないか、少しずつ場所を変えて移動する。足を何度も止めて息をつめていると、あの声がした。
「ドランたち、心配してるだろうな・・・・」
「ここだ!」
 ジョナは急いで梯子を探し、石の蓋を苦労してずらした。
「ああ。こんな地下じゃ、通信もできないし・・・・」
「はーあ・・・・レジェンドラどころか、もう太陽も拝めないなんて・・・・・」
「タイヨウって何?」
 ひょこっと顔を覗かせると、暗く沈んでいた三人の表情がぱっと明るくなる。
「ジョナ!」
 名前を憶えていてくれたことに驚きつつも、少し余裕ぶって口元に指を当てる。
「しーっ!」
 辺りを見渡し、見張りのいないことを確認すると、三人に向かって手招きをした。彼らは黙って頷くと、ジョナの後をついてくる。さっきのマンホールから顔を出すと、一応辺りを警戒して出た。続いて少年たちも外に飛び出す。今まで張り詰めていた空気が和らぎ、沈黙していた少年がやっと声を出した。
「はあー、久しぶりのシャバか。太陽が眩しいぜ・・・・ってえ、太陽ないのかv」
 ジョナはオーバルボードを建物の影から引っ張り出して、三人に見せた。
「秘密の抜け道なら任せて。外につながる道を教えてもいいぜ」
「それ本当か?」
「けど、おれも一緒に連れてってくれよ。でなきゃ案内しないぜ」
「あ・・・・」
 何か地上には秘密があるのか、三人が顔を見合わせる。だが、相談の言葉が口に乗る間もなく、町中にサイレンが響き渡った。
「げっ! わあったよ! どっちだ!?」
「こっち!」
 ジョナは自分のオーバルボードに飛び乗ると、小柄な少年が背中にしがみ付く。兄の物には長身の子と、少し体格の良い二人が乗る。長身の少年はオーバルボードに戸惑ったが、ジョナの手元を見てグリップを握って回すだけの簡単な仕組みを理解すると、すぐに生まれた時から乗っていたかのように操縦した。
追跡者をからかうように、警察署の前を横切る。
「いたぞ!」
「追え! 逃がすな!」
 警官たちの声を背後に聞きながら、ジョナは口元が綻ぶのを止められない。何時もなら絶対にできないような大胆な行動だ。きっと、彼らがいるからできるのかもしれない。背中から伝わる温もりからエネルギーを感じ、ジョナは久々に爽快な風を感じた。
「タクヤ、本当に信じていいのか?」
「ここはコイツに賭けてみるしかないな。ま、オイラを信じろって!」
「それが一番信じられないんだけど・・・・」
 ジョナが向かっているのは、立ち入り禁止の洞窟だった。周りに隠れてこっそり何度も通った場所。あそこなら追っ手も来ないだろう。目立つ立ち入り禁止ロープが見えてきた。
「あの先に逃げ込むんだ!」
「でも、立ち入り禁止なんじゃないの?」
「いっくぞー!」
 一層加速をつけて洞窟の中に入ると、市内に配給されている電力が絶たれた。オーバルボードのライトを照らして疾走する。初めてきた時は低速で恐々と入って行ったのに、今はこんなに身軽に駆け抜けることができる。しばらく行くと、ライトの光なしでもキラキラと青く輝く光が見えてきた。湖だった。壁を覆うのは岩ではなく、水晶だ。純水を湛えたその場所は、何時もと変わらず、優しく美しくジョナを歓迎してくれる。
「ここは誰も知らない秘密の場所さ」
「地底湖か・・・・」
「神秘的だね」
 自分だけの秘密を、肉親や友達意外に教えるなんて、とてもドキドキする。ジョナはオーバルボードから下りて、少年たちが辺りを見渡している間にスケッチブックを開いた。
「へえ・・・・って感心してる場合じゃねーよ。早いトコ地上に案内して・・・・うえ」
「ねえ、外の世界って本当にこうなってんの?」
 ジョナは自分の想像している外の世界のスケッチを見せた。祖母に聞いた御伽噺では、ガランドウ市が地下にあるのは、地上への道を巨大な亀が塞いでいるからだと教わった。
「・・・・何処にもこーゆーワケのわかんない世界観ってあるんだなあ・・・・」
「じゃあ、どうなってるんだよ!?」
 その言い草にムッとジョナが詰め寄ると、三人は気まずそうに天井を見上げた。
「ど、どうなってるって・・・・うーんと・・・・」
「じゃあ、ソラってどんなだ? 教えてくれなきゃ案内はナシだぜ」
 脅しをかけると、慌てて説明をしてくれた。
「わーった! 空ってのはなあ、とにかく広いんだ! 青くて太陽が昇って・・・・『太陽』って、丸くて眩しくて、暖かかったり暑かったりするんだ」
「『タイヨウ』? うーん・・・・青くて広いソラ(天井)に、丸くて眩しくて熱いタイヨウが登る?(虫みたいに?)」
「あ、ああ・・・・」
 何と返答していいか言葉に詰まっていると、少年は得意になって続きを喋った。
「それで、夜になると星が出るんだ」
「ホシ?」
「まあ、言ってみれば、無数の太陽だな」
「無数の、タイヨウ・・・・」
 どうやらチジョウとは、周りから聞かされている以上に危険な場所のようだ。
「どーだ? 少しはわかったか?」
「う、うん・・・・なんとなく・・・・」
 そんな恐ろしい場所にこれから行くのだ。ジョナはへっぴり腰になったが、それを許さぬ状況が追ってきた。パトカーが立ち入り禁止区域まで入って来たのだ。
「こ、こんな所まで・・・・!」
「逃げようぜ!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



『何処にいるのだ、主よ』
『早くしないと、何時光のレールが消えてしまうか・・・・』
 足元で起こる爆発!
『うおっ!?』
『何っ、敵だと!?』
 ミサイルの降って来た先を見ると、それは間違いなくシリアス所有のエクセルギアだ。遅れて一際大きい戦艦型のギアも見える。ガーランドの衛星軌道上では、シリアスがシュバンシュタインのブリッジで、エクセルギアと共に下ろしたゾルベッド越しに勇者たちを見下ろしていた。
「ゾルベットよ、勇者どもを始末しなさい!」
「ああ・・・・」
 カーネルとシャランラは、その様子を固唾を飲んで見守ることしかできない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 パトカーが次第に追いついてくる。オーバルボードに搭載しているジェネレーターの出力が違いすぎるのだ。焦った長身の少年が聞いてきた。
「本当にこっちなのか? ジョナ?」
「ジョナ、どうなんだ?」
 わからない。知らない。ジョナが来たことがあるのは、あの地底湖までなのだ。今走っているこの道だとて、初めてきた。何処に繋がっているのかすら、本当に知らなかった。ジョナの手持ちのカードは尽きてしまった。
「わ、わかんないよ!」
「え?」
「この先は、一度も来たことがないんだ! 外への抜け道知ってるなんて、全部嘘なんだ!!」
「「「えーーーーっ、嘘ーーーーーっ!?」」」
「ご、ごめんよ!」
 それしか言葉が出てこない。出ない自分が情けない。嘘を言ってまで誰かに自分の秘密を共有して欲しいと思う自分が浅ましい。でも、それでもジョナは続きが叫びたかった。
「やっぱこんなことじゃないかと・・・・」
「チクショー、信じたオイラがバカだった! 純真な少年を騙しやがって!!」
 騙してなんかいない。ただ、ただ・・・・
「だって、だって・・・・外の世界が見たかったんだ! 本当の外の世界がみたかったんだよう!!」
 叫んだ。生まれて初めて、ジョナは自分の中の想いを、洗いざらいぶちまけた。もう、何を言われようがジョナは耳を塞ぐことにした。これからまた、嘘つきのレッテルを貼られる日々が続くのだ。それに犯罪者の汚名まで加わってしまう。
『主よ、聞こえるか!?』
「ドラン!」
「!?」
 不意に聞こえた声に、背中に捕まる少年の声が明るく弾む。何も聞かないと心に決めたばかりだが、ジョナはその会話に聞き入った。
『主! 無事なのか!』
「今のところはね」
「通信が復活したってことは、地上が近いってことだ!」
 長身の少年たちがオーバルボードをジョナに寄せてきた。今までとは違う、綻んだ表情をしている。ジョナは思わず聞き返した。
「チジョウが?」
「へへっ、満更嘘でもなかったな」
 瓢箪から駒。自分は嘘つきではなかったのだ。振り返って目をぱちくりさせるジョナに、少年は慌てて前を見ろと、腰を抓った。

 飛行しながら移動をしているうちに、夕暮れの領域に入ってきた。エクセルギアの数はまだ尽きず、尚も追ってくる。レオンカイザーとゴッドシルバリオンが近くに来た二体を貫くと、スカイゴルドランを振り返った。
『スカイゴルドラン、ここは我々に任せて、そなたは主たちの元へ!』
『心得た!』



 パトカーのサイレンが次第に五月蝿く反響してくる。
「しつこいやつらだぜ!」
 目の前に見えたものに、ジョナは悲鳴をあげた。
「ああっ!!」
「行き止まりだーーー!!」
 急ブレーキとターンで辛うじて激突だけは避けたが、追い詰められたことだけは確かだった。パトカーが止まり、強いヘッドライトに晒される。パトカーからゆっくりと署長が降りてきた。
「あわわ・・・・」
「ふん、地上どころか袋のネズミだな」
「くそう・・・・」
 警官たちが持っているのは麻痺を引き起こすパラライズガンだが、それでも向けられるのは充分恐い。ジョナは初めて、レンズが嫌な物だと思った。



 スカイゴルドランは夜の領域に入った。微かにゴルドシーバーの反応を感じる。
『待っていてくれ、主よ・・・・』
 不自然に闇が切り裂かれる。
『!?』
 仲間たちが討ち漏らしたエクセルギアが、スカイゴルドランを追いかけてきたのだ。相手をする間も惜しみ、スカイゴルドランはその攻撃を避けると、低空で主を探した。ビームが幾筋か、地表を抉った。



 本日二度目の地震がジョナを襲った。
「うわーーー!!」
 天井が崩れ、オーバルボードが巻き込まれる。もうもうとした煙が収まると、まるで天へと続く道のように、洞窟が傾斜の口を開いていた。
「洞窟か!」
 光すら持たない深遠だが、ジョナは不思議と恐くなかった。それとは対照的に警官たちはパトカーに逃げ込んだ。
「うわーーー! 地上のバケモノが攻めてくるぞーーーー!!」
 そのまま尻に火かけて逃げていく。小柄な少年は盛大にアッカンベーをした。
「バッキャロー!! ベロベロベーっ!」
「ば、化け物!?」
「ジョナ!」
 怖気づく間もなく、少年が強い意志を持った目でジョナを見上げた。
「オイラたちは行くけど、どうする?」
「え? い、行くよ!」
 置いて行かれるのはもうまっぴらだった。だったら自分が彼らを置いて行く。空元気のまま、ジョナは暗い洞窟の坂を駆け上がっていった。
出口は意外と近かった。ヒュウと冷たい風が前髪を揺らす。全身に力をこめてよじ登ると、そこは確かに、今までとはまるで空気の違う世界だった。
「ここが、外の世界・・・・?」
 だが、見渡す限り暗くて何もわからない。でも、天井を見上げると、小さな光が点々と、そして無数に広がっている。それに、それに・・・・最初は暗くてわからなかったが、よく見ると洞窟よりも少し天井が青い。ぐるっと見渡すと、色が次第に藍色から紫、紫から淡いピンクへとグラデーションを作っていく。それも、どんどん鮮やかな色の領域が広がっているのだ。ジョナは惚けて声を出すこともできなかった。
「はあ、やっと戻ってきたぞ」
「でも、初めて見た地上が廃墟だなんて・・・・」
「ああ、ちょっとハードだな・・・・」
 少ししんみりした声がする。三人も登りきったらしい。あの色の変化が何か聞こうとしたその時。強烈な光が視神経を焼いた。
「うわっ!?」
 眩しい。目を瞑っても尚も飛び込んでくる光に、ジョナは怯えた声を出す。
「こ、これがタイヨウなの!?」
「違う、これはっ・・・・!」
 光源が少しだけ遠ざかり、光を発している物体が明らかになる。巨大な人の形をした白いモノ。それが、同じく巨大な銃口を自分に向けている。
「うわっ・・・・」
 また目を瞑った。やっぱりこれはチジョウの化け物!
爆発音がしても、ジョナは体を強張らせたまま丸めていた。
『主よ、無事だったか!?』
「「「スカイゴルドラン!!!」」」
 三人の喜色の混じった声に、ジョナは顔をあげ、再度悲鳴をあげた。そこには黄金の巨人がいたからだ。
「うわあああっ!?・・・・・あう・・・・・」
 不意に頬が温かくなる。レンズにすっと優しい光が差し込んだ。光の元を見ると、とても眩しくて、綺麗なオレンジ色に輝くものが、だんだんと姿を見せてきていた。空のグラデーションが広がっていく。
「あれ、何?」
「あれが太陽さ」
「あれが、太陽・・・・!」
 光は温かかった。ピンクからオレンジに変わった空は、最後に鮮やかな青に染まる。白く刷毛で刷いたようなものがあるのはなんだろう? 黒い岩の下の向こうに広がる、もこもことした緑の陰の名を、ジョナは知らない。
「廃墟じゃなくなってる・・・・」
「本当。こっちの方じゃ、自然が蘇っていたんだね」
「シゼン?」
「あの緑のことだよ」
 昇り切った太陽は確かに丸く、輝き、温かかった。市内で着ている一体型スーツが馬鹿馬鹿しくなる。甘く爽やかな香りが自然と辺りに満ちてくる。そして青の下で見る緑の鮮やかさ。
「あれは豊かさの象徴さ」
 長身の少年の言葉に、ジョナは本能的に頷いた。きっと遠い昔、自分たちの祖先はこの光景を見て生きてきたのだ。
『主よ、急ぐのだ。光のレールが既に現れているのだ。その上、敵も攻めてきている』
「敵だって?」
「そうか、シリアスだ!」
「ここまでオイラたちを追っかけてきやがったのか! んにゃろ・・・・」
 駆け出す気配にジョナは我に返った。少年たちは、恭しく傅く黄金の巨人の掌に飛び乗った。
「じゃあな、ジョナ!」
 最後に力強く笑ってくれたことが、とても嬉しかった。胸が詰まって言葉が出ない。これ以上は彼らと一緒にいられない。きっと、連れて行ってくれと言っても断られるだろう。それはなんとなくわかった。それでも、一言だけ。
「こっちこそ、ありがとう!」
「よし!」
 少年たちはジョナの言葉を待って従者を振り仰いだ。
「行くぞ! スカイゴルドラン!!」
『心得た!』
 巨人は少年たちを大事に大事に抱えると、ジョナの知らない名を持つ背中のものをはためかせて、本当に広くて青い空に向こうに消えていった。
彼らは、きっと神様なのかもしれない。
ジョナの目の前を、黄色いひらひらしたものが横切った。辺りをまたよく見ると、白くて似たもの、地面を這う虫たち。近くに水の流れる音もする。
「これ、皆に教えなきゃ。信じてくれるかな・・・・」
 始めはきっと笑われるだろう。嘘つき呼ばわりされることも続くだろう。
でもこの冒険は、ウソではない。たった一度の大きな冒険。とても短い間ではあったけど、名前も知らなかったけれど、彼らは確かにジョナの一番の理解者で、友人だった。そして、この太陽も風も、温度も匂いも音も、何もかも。
全てが現実。
だから、大丈夫。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 頭数の減った勇者たちに、ゾルベットは強敵だった。エクセルギアの相手もしなければならない。夜の領域で繰り広げられる戦闘に、次第に焦りが生じてくる。
『おのれっ・・・・おわ!』
 猛攻にさらされる勇者たちをシリアスは余裕を持って見下ろしていた。
「ふっ、他愛ない」
 握る拳に力がこもり、思わずシャランラの口から応援が零れる。
「頑張って! 勇者さんたち!」
「シャランラ様!」
 ぎょっとしたカーネルが窘める。シャランラは慌てて言い添えた。
「・・・・と、戦っているロボットさんv」
「アララ・・・・」
 上空から砲弾が降り注ぎ、エクセルギアが弾け飛んだ。
『何!?』
『スカイゴルドランか?』
『いや、違う!』
 ドランと空影のパワーストーンを感じない。変わりに空の彼方に見えたのは、青い鮫だ。
『あれは、この前の・・・・・』
 突然の横槍は、シュバンシュタインからも見て取れた。
「しゃら? あれは?」
 シリアスはそれを見た瞬間、嫌いなものでも食べさせられたかのような表情になった。無意識のうちに酸素を求めるかのように、親指の爪を噛む。
「邪魔者はさっさと始末しなさい」
 エクセルギアとゾルベットの砲身が、空飛ぶ鮫戦艦に向けられる。違う方向からきた弾によって、ゾルベットのバーニヤの一部が破損する。ゴッドシルバリオンが目を向けると、そこには。
『おお、スカイゴルドラン!』
 その掌には、確かに彼らの主がいる。
「ったく、地球から追っかけてくるなんてしつこいんだよ!」
『スカイゴルドラン!』
『主よ、無事だったか!』
 小さな主たちの姿を見つけて俄然やる気を取り戻した勇者たちは、エクセルギア部隊をあっという間に全滅させた。残るはゾルベットのみだ。それを見ると、鮫戦艦は百八十度回頭して行った。
「行っちゃった・・・・」
「味方だったんだ、あの鮫戦艦は」
「そんなこと気にすんのは後だ。
 アドベンジャー、早く光のレールに乗るんだ!」
『了解! チェーンジ!』
 タクヤの命令に、アドベンジャーは素早くSLへと変形すると、光のレールの上を走り出した。逃げるお子達に、シリアスが眦を釣り上げる。
「勝手は許しませんよ!」
 追撃するゾルベットに、時間を避けないと判断したスカイゴルドランは、命令を乞う。
『主よ、合体命令を!』
「よっしゃ!」
「「「合体! グレートゴルドラン!!!」」」
 レオンカイザーの体がパーツに別れ、スカイゴルドランを覆う。
『黄金獣合体 グレートゴルドラン!!』
 グレートゴルドランは黄金に輝く弓を構えると、空影とのジョイント部から黄金の矢を取り出した。
『ゴールデンアロー ファイナルシュート!!』
 暗闇を引き裂き、黄金の矢がゾルベットに突き刺さる。
「やったぜ!」
 シュバンシュタインのブリッジでも、シャランラとカーネルが浮かれていた。
「やりましたわ!」
「やりましたぞ!」
 レイザーの唸り声が聞こえ、慌てて体裁を繕った。
「あ・・・・」
「ちい! やられちまいましたわ!」
「まったくです、ハイ」


 ようやく一息ついたドランは、アドベンジャーの中で主に向かってぐちぐちとこぼしていた。いきなり音信普通になるわ、シリアスは追ってくるわ、第一、今回自分たちは冒険らしいものは何もしていない!
『まったく、一時はどうなるかと思ったぞ』
「まあまあ、無事に済んだんだから、硬いこと言っこなし!」
 例によって主たちがそんなことを聞き入れるはずもない。それを知っていても口にしてしまうのは、愛情に溢れたスキンシップの延長だろう。
「ああ、見てよ、皆!」
 ダイは行きとは違ってじっとガーランド星を見ていた。朝の領域が広がっていくのが鮮やかに見てとれる。地球に似た、美しい星だった。
「意外に綺麗な星だったんだな」
「どうしてるかな、ジョナのヤツ」
 感慨に耽ってドランやアドベンジャーに、地下都市で起こったことを話していると、アドベンジャーの窓越しに影がよぎった。
「あ!」
「また鮫だ」
 タクヤは窓に寄ってついつい手を振った。
「おーい、さっきはありがとさーん!」
『これからも気をつけろよ! じゃあな! ははははは・・・・・!』
 高笑いと共に鮫戦艦は遠ざかって行く。
「せ、戦艦が喋った!?」
「まるでドランたちみたいだけど・・・・」
「ちょっと、まさか、あの鮫も・・・・?」
『ええっ・・・・!?』




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