The Brave of Gold GOLDRAN




 アドベンジャーが汽笛を鳴らす。
「それじゃ皆、後よろしくなー!」
 魚人の住む海洋惑星・シーパラで、圧制を強いていたオカシラー将軍を打ち倒した勇者たちは、トロ王子をはじめとする人々からの大歓声に見送られて、ゆっくりと発車していった。
「それから、合言葉は『ぽてちん』だからな! 忘れるなよ?
 ぽてちん♪」
「おーーーーーっ!!」
「・・・・・」
 調子に乗って余計な事を吹き込むタクヤに、カズキとダイは気まずそうに視線を背けた。後世、この星の挨拶が「ポテチン」になったらどうしようかと。
「ポテチン! ポテチン! ポテチン・・・・!!」
 杞憂は止められないまま積み重なり、結局この星の未来は決定してしまった。



掟破りの新勇者





「わ〜お、お寿司だ〜〜〜v」
 さっきまでの気まずさも何処へやら。出立時に渡されたお弁当の蓋を開け、お子達は感涙を流した。一つ一つがお子達の握り拳ほどもある、大きな超☆特上寿司が、きらきらと桶の中で輝いている。
「これがあの星の果物だなんて信じられないv」
「僕、こんな凄いもの見たことないよ」
 早速あがりと醤油を用意し、築地でもお目にかかれない特上寿司に手を伸ばす。
「「「いっただきまーす!!!」」」
 口でとろけるその美味さに、手が止まらない。たっぷり六人前はあった超☆特上寿司は、瞬く間になくなってしまった。
「あ〜、幸せ〜」
「生きてて良かった〜」
「こんなに美味い物食べたの久しぶりだもんなー」
 長い宇宙の旅では、保存食ばかりしか食べられない。それすら大事にしないと、次の星まで保たないのだ。育ち盛りの子供には酷な話である。
 そして残った寿司は一つきり。
「あ・・・・・」
 絡み合う視線に、背後で見守っていたドランが冷や汗を流す。途端に争奪戦が始まった。食べ物は人を狂わせる。飢えた野獣のお子達が取っ組み合っていると、アドベンジャーの切羽詰まった声がそれを遮った。
『前方に隕石群!』
「あん?」
『避けきれない! おわっ!』
 移動する隕石群の中に突入してしまったアドバンジャーは、光のレールから離れることもできず、飛び交う隕石の直撃を受けてしまう。
「わーーーーっ!!」
衝撃でソファから放り出される。醤油や寿司桶が床に散らばった。アドベンジャーはスピードを調節し、なんとか隕石群をやり過ごそうとしたが、揺れた車体を立て直す暇も無く、小惑星程の隕石が眼前に出現した。
『何っ!? もっと巨大な隕石だ! 避けきれなーい!!』
「ひーーーーっ!!」
 閃光が隕石を砕く! 余波でアドベンジャーが激しく揺れた。
「うわっ!? ああ・・・・」
 光が失せると、アドベンジャーが無数の小石となった空間を進んでいるのがわかった。
『宇宙という名の大海原はな、危険がいっぱいなんだ。注意して行けよ!』
 先週も助けてくれた鮫が、アドベンジャーの斜め上から高笑いと共に離れていく。慌ててアドベンジャーは声をかけた。
『待ってくれ! 君の名は・・・・』
『あ? 俺か?
 俺様の名は、海賊戦艦 キャプテンシャーク!』
 何処からかテーマ曲まで聞こえてしまう。なかなか侮れなさそうだ。
「キャプテン」
「シャーク・・・・」
「なーんかハデな名前。あんぐ」
 ポツリと呟くカズキとダイの真ん中で、タクヤはさっき命がけでキャッチした超☆特上寿司を口に放り込む。
「ああーーーっ!!」
ダイとカズキは悲鳴をあげた。
「おまえ、今寿司食ったろ!」
「へへ〜ん、早いもん勝ちっ!」
「出せ! 吐けっ!!」
「酷いよタクヤ君!!」
『じゃ、ステキな航海祈ってるぜ! はっははははは・・・・・!』
 ピンチの後のクセに緊張感のカケラもないお子達に、キャプテンシャークは豪快な笑い声をかけて去っていった。
『キャプテン、シャーク・・・・・』
 ドランは何かを思い出すように、その名を反芻した。


「ふふふふ・・・・相変わらず見事な腕前だな、キャプテン」
『いやあ、それほどでもないぜ』
 喋る鮫戦艦・キャプテンシャークの中には、人がいた。彼こそがこの鮫戦艦の船長であった。見事な赤毛を誇るその人物は、髪と同じ色のワインが入ったグラスを傾ける。
「ふふふふ・・・・では謙遜するキャプテンに乾杯だ」


 宇宙の距離としてはそれほど離れていない場所では、シュバンシュタインがパワーストーンの波動を追っていた。
 シャランラは休息用のテラスに来ると、胸から愛のパワーストーンを取り出した。澄んだ石の表面に歪んだ泣き顔が映る。
 長い。シャランラがワルターを初めて見た時から、これほど長く離れていたことは初めてだった。距離的にも、時間的にも。捨てたくない希望が、どんどんか細く頼りなく、宇宙の闇に溶けてしまいそうになる。ワルターの渡してくれたこの石を眺めていると少しは気が紛れたが、それすら今は危うかった。
「うっ、うっ・・・・」
思い出すのは『私は必ず還ってくる!』というあの力強い言葉だけ。もっと会話をしたはずなのに、別れ際のあの言葉だけしか思い出せない。
「ワルター様ぁ・・・・」
 堪らず嗚咽を漏らすシャランラに、カーネルはそっとレース付きのハンカチを差し出した。
「こうして宇宙に出たものの、シリアス様の配下では自由に若君探しもできぬ・・・・。はてさて、どうしたものか・・・・」
「やはり兄上は生きていると?」
「はい」
 ここで二人は気付いた。ここは指令のいるべきブリッジではないはずだということに。
「ぎょえ〜〜〜〜!?!? シリアス様!!」
 二人の背後にはレイザーを連れたシリアスが、冷たく老人と少女に視線を向けていた。
「あなた方は兄上が生きていると未だに信じているのですね」
「いいや、滅相もございません、あのバカッタレ、アホッタレが生きているなどと!」
「わ、わたしはシリアス様一筋ですわ〜」
「・・・フン」
 シリアスは何の表情も見せない一瞥を投げると、そのまま背後を見せて立ち去った。
「はわわ・・・・ほっ・・・・」
 極度の緊張から解放されたシャランラは、不安そうにカーネルの方を向いた。
「でも、今の私たちの会話って、シリアスにバレバレじゃありませんの?」
「だとしたら、我々は裏切り者として船外に捨てられて・・・・」
「星になってしまうのですね」
「いいえ、違います」
「しゃら?」
 乙女なチックな人生の終末論に水を注され、首を傾げるシャランラに、カーネルは淡々と説明する。
「宇宙に捨てられたら、体内の水分が一瞬にして沸騰し、圧力の関係から全身粉々になって・・・・死にます」
「うわ〜ん、超リアルに言わないで〜!」
 シャランラは己の末路に身を震わせ、カーネルは受け取ってもらえなかったハンカチで冷や汗を拭う。
「まあ。とにかく次の対策を考えねば」
「ワルター様、わたしを守って・・・・ぶちゅv」
 シャランラは酸素ボンベのように片時も放さない宝石に口付けた。

「ふわーくしょん!」
 盛大なクシャミをしたのは鮫戦艦の主だ。
『どうした、船長? 風邪かい?』
「む〜・・・いやー、そんなハズは・・・・」
 何しろ戦艦内は無菌だし。

 アドベンジャーはスクリーンに広範囲に渡って生命反応がないかを表示させていた。これは宇宙に出てからの日課のようなものだ。
「やっぱみつからないなー、悪太のヤツ」
「いっつもこうして探してるのに」
 一応、お子達もワルターの心配をしつつ旅をしているのだ。
「うーん・・・・ま、いつかはみつかるだろ。バカだけど生命力だけはゴキブリ以上だからなー」

「ふっ・・・ふ・・・ふわっくしょんっ! あー・・・・?」
『やっぱ風邪だろ』
 キャプテンシャークは、主のワルターに向かってそう言った。
「いやー、そんなはずは・・・・」
 海賊服を着たワルターは、指で鼻の下を擦る。

「ぶちゅv」

「ゴキブリねえ・・・・」

「ふわっくしゅ! ぶわっくしゅん、ぶえーーっくしょん!!」
『うん、風邪だよ、やっぱ!』


 絶叫は、お子達の膨れたお腹が少し減ってきた頃に起こった。
「「えーーーーっ!? 我々に出撃せよと!?」」
 シャランラとカーネルがブリッジで叫ぶ。シリアスはソファで寛ぎながら、レイザーの毛並みを撫でて問う。対して二人は親衛隊員の整列する中、跪いたまま。ワルターはあまり他人に頭を下げさせるという形の見下し方はしなかったが、シリアスの前ではシャランラとて身分が下の者として振舞わなければならなかった。
「何を驚いているのです? あなたがたはこの私の忠誠を誓ったはず。その私が、勇者と戦えと、言っているのですよ?」
「でぇもぉ〜・・・・・」
 渋るシャランラに、レイザーが喉の奥を唸らせる。咄嗟にカーネルはシャランラの口を塞いだ。
「畏まりましたっ! 出撃させていただきます!」
 そのままぴゅっとシャランラの手を引いて退室する。
 ブリッジとは別の階層に移ってから、初めてシャランラは口を開いた。
「カーネルさん、それはないでしょ? どーしてわたしたちが?」
 シャランラの戦闘力は超一流だが、既にお子達と敵対するつもりはない。同じく黙ったままだったカーネルが、黙ったまま足を止める。
「しゃら?」
「シャランラ様。シャランラ様は本当に若君を愛していらっしゃいますか?」
「しゃら?」
 あまりに当たり前な質問をされ、シャランラは拳を固く握り締めて叫び返した。
「もちろんですわ!」
「ならば!」
 カーネルは振り向き様にシャランラに迫った。
「そのお命、この爺めにお預けいただけませんか?」
「しゃら〜・・・近づきすぎですわ、カーネルさん」
 仰け反ってカーネルのドアップを避ける。
「い、いやっははは・・・これまた失礼致しました」

 同じ人間に想いを馳せる人物が、この艦内にもう一人いた。ブリッジの窓から、遠近感わからぬ宇宙に思考を漂わせていた。
「生きているのか、兄上は・・・・」
 あの小さなギアがデスギャリガンを振り払えるわけがない。照準からして月面に激突するか、よしんば助かっても酸欠か飢えで野垂れ死にしているはずだ。あれから何日も過ぎている。
「そんなこと、ありえない・・・・」
 それでもシャランラとカーネルはワルターの生存を信じている。確率の計算もできない愚かな少女と憐れな年寄り。無意識のうちに右親指の爪を噛んだ。
「シリアス様。Z3ポイントにてアドベンジャーを確認しました」
「よし、すぐに追え」


 時刻としては、やはりお子達の満腹感が薄れてきた頃、キャプテンシャークの中では、ワルターがいきなり思い出し笑いを漏らしていた。
「ふっ・・・・はははは・・・・・あははははは・・・!!」
『な、何笑ってンだよ、気持ち悪ィ・・・・』
 慌てて咳払いをする。
「あ、すまん。下品な所を見せてしまって。
 いや、なあ。運命とは不思議なものと思ってなあ」
『運命?』
「ああ。よもや私が、勇者の主として、お子達を守ることになるとはなあ」
『俺だって自分がまさか目覚めるとは、思ってなかったぜ』
「うん。・・・・あの時私は、死を覚悟していた」
 ワルターは瞼を閉じ、数日前のできごとを、肌に感じる温度までリアルに思い出した。

「何ーーーーーっ!?」
 デスギャリガン・ファイナルモードの腕に捕らえられた私は、そのまま勢いを殺すこともできずに地球を離脱してしまったのだ。
「もうダメかっ!?」
 大気圏離脱能力のないリバイバロンが摩擦熱で溶け始め、私は死の覚悟をしながらも、一縷の望みをかけて、パイロットスーツを身に付けた。ああ、パイロットスーツというのもはだな、本来ギアに搭乗する者は、衝撃を和らげるために専用のパイロットスーツを着なければならんのだ。どのギアにも標準装備されているのだが、あれを着てヘルメットまで被ったら、この私の完璧なる美貌が閉ざされてしまうであろう? だが、生きるか死ぬかの瀬戸際に、そうも言ってられん。
 丁度装着が終わった瞬間に、リバイバロンは月面に激突し、私は外に放り出されたのだ。咄嗟に伏せて爆発をやり過ごし、焦げたクレーターを見て思ったものだ。
「た、助かったのか・・・・何か・・・嬉しい〜・・・・」
 私は命があるということにしばし喜びを噛み締め、それから帰る手段を探して、辺りを彷徨っていた。
「いや待てよ。今現在、水も食料もない。地球との通信もできない・・・・ってことは、全然助からないってことじゃないかーーーーっ!!」
 およそ一時間も歩き回っただろうか。私は不意に思考が鈍くなってきていることに気付いた。続けて呼吸が荒くなってきていることにも。
「うぐっ・・・ああ、うう・・・く、苦しい・・・空気が無くなってきたのか・・・うわあ、あ・・・・」
 パイロットスーツの酸素ボンベが尽きかけていた。仕方があるまい。もともと、救助を待つためだけの時間分しかないのだから。酸素がないとだんだん眠くなってきてな。

―――心正しき者よ―――

 そして私は、そなたの声を聞いたのだ。
「え? おっ! おお〜!!」
 色は違えど、あの輝きは見間違えようがない。
「偶然にもあんな所にパワーストーンがある! もらっちゃお〜〜!」
 その胸の感動具合、お子達にすら解るまい。私が、私だけの勇者を手に入れることができるのだから。
 だが、運命は非情にも、私から酸素を奪い続けていた。
「おぐっ! やっぱぐるじ〜・・・・ぐ」
 倒れた痛覚すらわからぬ私の耳に、お子達の声が聞こえた。
『だらしねーなー悪太!』
『ぼさっとしてると』
『俺たちがパワーストーン取っちゃうよ?』
『あーーはははは!!』
 あ奴らの嘲笑が不思議と励みになってな。私は地面を這ってまでパワーストーンに向かおうと思ったのだ。
「え、ええい・・・お子達め! 負けてたまるかあっ・・・・!」
 それでもやっぱり空気がなくてな。
『ワルター様〜〜こっちですわ〜早く〜〜v』
 諦めそうになると、シャランラが励ましてくれたのだ。ふふふふ・・・・。
「ええい・・・・!」
『ラブリー、ラブリー、レッツゴーワルター! レッツゴーワルター!』
 ああ、そうだな。私はこの時初めて、シャランラが側にいないことを実感したのだ。もう一度逢わねばと・・・・!
 そして私はとうとう、パワーストーンを手にし、最後の一呼吸で呪文を唱えたのだ。
「よっ・・・黄金の力護りし勇者よ・・・・今こそ蘇り、我が前に現れ出でよ・・・・!」
 そして眩い光を放って姿を現したそなたを見た時驚いてしまったぞ。
「どっしぇ〜〜〜! サメだあああああ!!」
 そして私とキャプテンの感動の対面だ。
「・・・ここは?」
『気がついたかい? 俺の名はキャプテンシャーク! レジェンドラの勇者だが、宇宙海賊でもある。よろしく頼むぜ、船長!』
「船長?」
『ああ。あんたが船長で俺がキャプテンだ』
「ちょ、ちょっと待ってくれ! レジェンドラの勇者は、全部で八人の筈だが・・・・」
『そうだ。確かに地球に眠っていたパワーストーンは全部で八つしかない。だが、その全てが悪人の手に落ちたら大変だ。俺はその『もしも』の為に用意された九人目の勇者ってわけだ』
「あらま、そうだったの・・・・お?」
 その時、キャプテンが外の様子を見せてくれているスクリーンに、蒼く輝く地球から、金色の光が伸び始めたのが見えた。「何だ、あれは?」
『光のレールだ。どうやら八人の勇者たちはレジェンドラに向けて出発したようだ』
「光のレール、か・・・・」
 お子達は無事にレジェンドラへの道を開いたか。
『さあ船長! さっそく命令をくんな!』
「え?」
 命令。私が、勇者に命令。あまりに突然すぎることに困惑した私は、どうしたらいいかわからなかった。だが、すぐに思ったのだ。
 私はもう、自由なのだと。
 誰と共にいたいのか、何が成したいのか。それらが全て自分で選べるのだ。
「うん。よし、私を乗せてお子達を追うのだ!」
『アイアイサー!』

「ふふふ・・・そして私は影ながらお子達を守り、道を踏み外した弟を正す、正義のヒーローとして蘇ったのだ〜〜〜!!」
 正義のヒーロー!! なんとカッコ良い響き! お子達は私の名も知らず、影ながら助けてくれる存在に憧れるのだ。そして数々の星で繰り広げられる大冒険! シリアスがお子達を追いかけてきたということは、それだけシリアスがお子達と接触する機会が増えるということ。そして人との付き合いが不器用なシリアスに私は・・・・
『船長、船長』
 悦に入って笑い続けるワルターの思想が、野太い男の声で破られる。
「もう! せっかく良い気分だったのに、何だよもう!」
 ワルターは頬をぷうっと膨らませ、モニターを睨みつけた。鋼の宇宙海賊は、子供っぽい主に少々持て余すような声と共に、遥か前方の光景を見せた。
『その道を踏み外した弟が、勇者たちを攻撃してるぜ』
「何っ!?」
 確かにズームアップされた光のレールの線上で、シュバンシュタインからエクセルギアが大量に射出されている。合体したスカイゴルドラン、ゴッドシルバリオン、レオンカイザーが、お子達を乗せたアドベンジャーを守るように戦っていた。
「えーい、回想シーンで時間を取りすぎた! 
 キャプテン、全速力でお子達の所へ向かえ!!」

 時間稼ぎのエクセルギアが破壊されている間、主戦力となるヴィーダーゼンには、シャランラとカーネルが搭乗していた。移動制御の前席にカーネル、攻撃制御の後席にシャランラが着く。通信はどちらの席からでも行える。
『ヴィーダーゼン、メンテ完了。ヴィーダーゼン、メンテ完了』
 放送が入り、カタパルトデッキまで自動で移動させられる。その間に、ある計画を秘めた二人は、計器のチェックもピアノを奏でるかのように軽やかに行う。
「ふん、ふふ〜ん♪」
「準備はよろしいですか?」
 ハッチ前の赤信号待ちで、シリアスからの通信が小型モニタに入る。
「はい」
「いつでもOKですわ〜」
「では、出撃してください」
 グン! とGがかかり、ヒトデ型のヴィーダーゼンが無重力に放出される。慣性が強く作用するなか、バーニヤを噴かして戦闘領域までギアを移動させる。
「出撃さえすればこっちのもの。後はシリアス様を裏切って、勇者の皆様に合流すれば、作戦は大成功でございます」
「名づけて、『出撃したとみせかけて勇者と合流しちゃいますわん作戦』v」
「そのまんまでございますな」
「しゃら・・・・」
 カーネルの静かなツッコミに、シャランラは軽く拳を頭に乗せた。
 一方二人が乗っていることなど露ほども知らない勇者たちは、新たに現れた戦闘ギアに身構える。
『!? 新手か!』
『皆、油断するな!』
『おう!』
 気合を入れる勇者たちに対し、シャランラ達は少しウキウキした様子で準備を始めた。
「しゃら、通信回線オープンしまーす」
「では、エンジン停止」
「あーあー、勇者の皆さ〜ん、お久しぶりー。わたし、シャランラ・シースルーでーす!」
 出来る限り声を張り上げたのだが、返答がない。小首を傾げたシャランラは、もう少し声を大きくして叫んだ。
「あのー、もしもし? 勇者さんたちー、あのー、応答してくださーい」
 だが、勇者たちはとても通信を聞いているとは思えない速度で接近してくる。
「あの、勇者さんたち? もしもーし! もしもーし!?」
 焦ったシャランラは何度も通信スイッチを押した。カーネルが声をかける。
「如何なさいました?」
「勇者さん達、全然返事してくれないんですの」
「ええ〜〜〜!?」
 カーネルの顔面が蒼白になった。ギギーー・・・・と錆び付いた音を立て、首をスクリーンに向ける。
「と、いうことは・・・・」
『でえーーーーい!』
 スカイゴルドランの拳がヴィーダーゼンを吹き飛ばす。
「きゃーーーーっ!」
『うおーーーーーー!!』
 そこへすかさずレオンカイザーが拳を叩き込み。
「ほんぎ〜〜〜〜〜!?」
『どおあーーーーー!』
 ゴッドシルバリンの蹴りが炸裂する。
「ふごお〜〜〜!?」
『でやあーーーー!』
 続けざまに勇者たちの攻撃を受け、ヴィーダーゼンの中の二人は、ミキサーの中に入れられたようにボロボロになっていった。
「はらほらひれ・・・・」
 朦朧とする二人の意識にシリアスの声が響いた。勝手に通信回線が開いたのだ。
「フフフフ・・・・私を騙そうとしても無駄です。そのヴィーダーゼンは、こちらの自動システムで操作しているのですから」
「そ、そんな〜〜〜・・・・」
「わ、私たちをどうするおつもりです!?」
 吐き気を伴いながらなんとかカーネルは声を絞り出す。
 パチン
 シリアスが指を鳴らした。途端に操縦席がぐわっと浮上する。
「キャーーー!」
 ヴィーダーゼン頭頂部に透明なカプセル状の物体がせり上がった。
『『『何ッ!?』』』
「「「ああッ!?」」」
 トドメを刺そうと一斉攻撃をかけていた勇者たちは慌てて急制動をかけた。お子達も声をあげる。
「シャランラにじーさん!」
「何でこんな所に!?」
 動きの止まった勇者達に向けて、人質の入ったカプセル付近から猛烈な勢いでビームが掃射される。
『はっ!』
 咄嗟に散開する三体だが、カプセルの中で怯える二人に、攻撃に転じることができない。
『あの二人がいると手が出せん!』
『何の! 助け出してみせる!』
 レオンカイザーがビームをかいくぐって接近を試みるが、ビームの密度の高さに避けきれない。
『うわ!』
「ああ、ごめんなさいっ! 痛かったですか、勇者さん・・・・」
『っく・・・・』

 歯噛みする勇者たちの姿を見ているワルターは、思わずシートから立ち上がった。
「ええい、人質とは卑怯なり! 倍速で急ぐのだ、キャプテン!」
『アイアイサー! どわっ!』
 突然キャプテンシャークが揺れる。慌てて踏みとどまったワルターは、天井から聞こえる声に振り返った。
「な、なんだ!?」
『乱れ隕石群、俗に言う宇宙霰の中に入っちまった!』
「何〜〜〜!? のっ!?」
 舌を噛みそうな衝撃が、容赦なくキャプテンシャークを襲った。

『主よ! ど、どうすればいいのだ!?』
「ど、どうすればって言われても・・・・!」
「とにかく、なんとかして二人を助け出すんだ!」

「フフフフ・・・・あなた達を連れてきたのは、最初からこれが目的だったのですよ。心優しき勇者たちのこと。人質がいると戦闘能力が落ちることは、過去の戦闘データで確認しています」
 『心優しき』という言葉に多大なる皮肉をこめて、シリアスはデザートグラスからアイスクリームを口に運んだ。
「そう、私は、私の手を汚すことなくパワーストーンを手に入れる作戦を立てたのです」
「あーーー! 卑怯者ですわシリアス! 超ひどーい!!」
 シリアスの声はシャランラとカーネルにも聞こえていた。わざと回線を繋いだままだったからだ。そのシャランラとカーネルの目の前で、また勇者たちはヴィーダーゼンに弾かれていた。

 苦戦する勇者たちの姿は、ワルターの目にも映っていた。巨大な岩石群がひっきりなしにキャプテンシャークのボディを叩き、軌道を狂わせ、遅らせる。
「ええい、この急ぐ時に!」
 だが、迂回していては更に遅くなる。広大な宇宙では、酷ければ光年単位で隕石群やアステロイドベルトが広がっているのだ。ワルターは投げ出された床から立ち上がり、操舵輪に捕まると、目一杯面舵を切った。同じ行動をすることによって主と精神がシンクロし、勇者の更なる力を引き出す。大きくギリギリの動きでかわしていた隕石が、最小ギリギリの動きでかわせるようになっていく。
「こんな隕石群など・・・!」
『前方に巨大な隕石! 五千メートルはあるっ! 避けきれねえ! このまま強行突破する!!』
 声と同時にスクリーンを見上げ、ワルターは即座に決断した。
「よーし、任せたぞ、キャプテン!」
『アイアイサー!』
 キャプテンシャークが放ったビームが、巨大な隕石を粉砕する。あまりの眩しさにワルターは目を覆った。

 こつんと、小さな音がした。
「しゃら・・・・?」
 爆発音に掻き消されてしまうその音に、何故かシャランラは気付き、足元に視線をやった。何時の間に零れたのか、愛のパワーストーンが床に落ちていた。カーネルの前で、また救出にきた勇者が打ちのめされる。
「ああ、よもやこんな事態を招くとは・・・・全て私が悪いのじゃ・・・・」
 不意にワルターの顔が目の前に浮かび、シャランラは縋るように石を拾い上げた。
「・・・・ワルター様・・・うぅ・・・うっ・・・・あーーーーん! ワルター様助けてーーー!!」
 シャランラは叫んだ。この場に居ない人だとしても、叫ばずにはいられなかった。真珠の涙が幾つも頬を伝い、宝石の上で砕けていく。
「ワルター様ぁーーー!」
「フッ、馬鹿が」
 やはりこの場に居ない者を思い、冷笑するシリアス。
「わたしたちピンチですの! 勇者さんたちもピンチですの! 絶対絶命ですの!! このままじゃ皆、皆・・・・やられてしまいますーーー! 
 お願い、ワルター様、ワルター様ーーーーー!! 助けてえええええええ!!!」
「今行く、シャランラ!!」
「しゃら?」
 確かに聞こえたその声に、シャランラの涙が止まる。
 苦戦する勇者たちの遥か頭上からトリモチのようなものが降り注ぎ、ヴィーダーゼンのビーム砲を塞いだ。
『!?』
 顔を見上げる間もなく、沈黙したヴィーダーゼンにカワセミのようなスピードで青い影が突っ込む。あわやの瞬間、僅かにスピードが緩み、辛うじて腕がカプセルを奪ったのだけが見えた。
『人質はもらったぜ!』
「ああっ・・・・!」
「な、なんだ!?」
 そのまま一気に射程距離外へと逃げたそれは、風から鮫へと形を変える。お子達もシリアスも、思わぬ伏兵に目を見張った。お子達は数度目にし、シリアスはこれで二度目となる、その姿。
『じゃ、キメポーズといくかあ! チェーンジ!』
 鮫戦艦・キャプテンシャークは、まるで空影のように姿を変えた。下腹が割れて足が伸び、両舷が腕となる。尾鰭がマントのように開いた。背中から起き上がった顔には右目にアイパッチが走っている。腹の下に付いていたリボルバーのようなものが離れ、右肩に装着された。
『宇宙の海は俺の海・・・・海賊戦艦キャプテンシャーク! とは俺様のことだあ!!』
 第三者の目には何故か日本海の波しぶきが見えたようだが、おそらく疲れによる幻覚だと思われる。
「あーーーっ! キャプテンばっかり目立ちやがって! ずるいぞ、ずるいぞ!」
『そうか? じゃあ船長、あんたもやるかい?』
 いきなり内側にいる主に騒がれ、キャプテンシャークはボリボリと額を掻いた。
「うん、やるやる!」
『あいよ』
 キャプテンは腹に当たる鮫の口を開いた。いそいそと変装したワルターが、腕を組んだ立ちポーズでその姿をお披露目する。キャプテンと同じ右目に黒い眼帯をし、左頬に傷跡のシール。何時もは左分けの髪を右分けにし、青と黒を基調とした海賊服。伏せた瞼がキッと持ち上がり、鋼鉄に守られたシリアスを真っ直ぐ指差すと、黒いマントが翻る。
「悪の少年シリアスよ!」
「悪?」
 突然の兄の姿に、シリアスはアイスの乗ったスプーンを持ったまま目が点になった。
「そう! 私はおまえを正す為、大宇宙の神が使わした正義のヒーロー! その名も!
 宇宙海賊イーター・イーザックなのだああああっ!!」
 腰に手を当てて大笑いするイーター・イーザックの姿に、お子達は大量の汗をたらしていた。
「あれ、絶対悪太だよな・・・・」
「ダサダサ」
 しかしまあ、調子の良いロボットがいると思ったら主はあの悪太。なんと似合いの主従だろうか。
『パワーストーンの波動を感じます』
 アドベンジャーが初めてそのことに気付く。人型にならないとわからない程の微弱なものだったらしい。
 お子達の声が真空にいるワル・・・イーターに届くはずもなく、彼は先刻カーネルの言った宇宙の法則を無視して高笑いを続けていた。
「なっははははははは・・・ふははははは・・・・!!」
 救出されたカプセルの中で、カーネルは高笑いしている若い男の後ろ姿を見つけ、瞬時に悟った。
(そうか・・・・例えバレバレでも、若はシリアス様を正すべく、身分を隠しておられるのか・・・・!)
「あの海賊さん、ワルター様に似てますわね」
 隣で呟く少女の声に、カーネルはひっくり返った。
『船長』
「なんだ?」
 長い悦に入っているイーターに、キャプテンシャークは控えめに声をかけた。
『そこは空気がない』
「・・・・・げええっ!? 早くなんとかしてえええええ!!」
 ようやく自分がどんな環境にいるのか(真空、圧力ゼロ、絶対零度、放射線多数、etc・・・・)理解したイーターは、途端に酸素を求めて喘ぐ。多分、知らずにいたらそのまま永遠に宇宙服なしで生きていられたろう。
『あいよ』
 パクンと鮫の口が閉じ、ワンマンショーの幕を下ろした。口を開けて放心していたシリアスは、我に返るとデザートグラスをぶん投げた。
「えええい、バカを粛清しなさい!!」
 エクセルギアが再びシュバンシュタインから大量に射出されてくる。キャプテンの右肩のリボルバーが回転した。
『スパイラルランチャー!』
 十六連装が火を噴き、次々とエクセルギアを破壊していく。人質のいなくなったスカイゴルドランたちも一斉に反撃に転じた。
『キャプテンシャーク、今までの助け、恩に着るぞ!』
 疾風のごとく戦場を駆け抜けたスカイゴルドランが、刀を構えてキャプテンシャークの隣に立つ。
『なーに、良いってことよ!』
 軽く言いながらミサイルを打ち続けるキャプテンの中で、イーターは爆風に紛れて戦闘領域から離れようとしているシュバンシュタインを見た。予定が狂った以上、戦闘を続行すべきではないという判断だろう。
「なっ、逃げるな、シリアス! 追え、キャプテン!」
『アイアイサー!』
 瞬時に変形し、シュバンシュタインを追う。
『あ、深追いするな、キャプテンシャーク!』
 止めようとしたスカイゴルドランの指先を、ビームが掠める。
『!?』
 ヴィーダーゼンの砲台が復活したのだ。
「面倒くせえ! グレートゴルドランに合体だ!」
 タクヤが拳を振り上げると、カズキとダイも頷いた。
『黄金獣合体 グレートゴルドラン!!』
 グレートアーチェリーを番えるグレートゴルドランに対し、ゴッドシルバリオンはアドベンジャーを守るように移動する。
『ファイナルシュート!』
 ヴィーダーゼンが宇宙の塵と成り果てると、ダイが少し不安そうに呟いた。
「でも、戻ってくるかな?」
「へ?」
「悪太だよ」
 既にキャプテンシャークの姿はアドエベンジャーのレーダーにも映っていない。だが、タクヤは自信たっぷりにウインクしてみせた。
「戻ってくるさ。なんてったって、ヤツはオイラたちの仲間だもん!」

「待て、シリアス!」
 逃げる弟を追う兄。
『だめだ、奴のスピードには追いつけねえっ!』
 超高速による擬似ワープに入ったシュバンシュタインに、キャプテンシャークは追撃を諦めた。
「ええい!」
 ワルターは震える拳をシートに叩きつけた。
 キャプテンシャークはそっと反転し、アドベンジャーの後を追う方向に航路修正する。


 シャランラは一人、星に囲まれ宝石を見ていた。結局、あの人は来てくれなかった。
「ワルター様・・・・」
「娘さん、どうかしたのか?」
「しゃら?」
 振り返った背後には、代わりに来てくれた人がいた。
「あ、船長さん」
 さっきは少し怒っていたような船長だが、今は穏やかな眼で自分を見ていることに、少し安心する。それはワルターの眼差しに似ていた。ここしばらく緊張していたものが緩み、シャランラは長い間溜め込んでいたワルターへの想いを、あらいざらい話した。あまりにも惚気が過ぎたのか、数度この海賊船長は頬を紅く染めた。
「そうか、おまえはその男を探しておるのだな」
「はい」
 こっくりと頷くシャランラに、明るい声がかけられる。
「心配するな、その男なら・・・・」
「しゃら?」
 言いかけてイーザック船長は口を篭らせた。おそらく、あまりに期待に満ちた視線を向けられ、適当な慰めの言葉が出てこないのだろう。
「うぐっ・・・そ、その、なんだ・・・・その男は必ず生きておる。そして、おまえのことをちゃんと見守っていると思うぞ」
 それでもその気遣いが嬉しくて、シャランラは久しぶりに大きく微笑んだ。
「・・・・はいしゃらv」





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