The Brave of Gold GOLDRAN





夢の惑星



 くすくすくすくすくす・・・・・。

 私は惑星・ミラダイス。訪れる旅人の願いを叶える、安らぎの場所。

 私が生まれたのは、この宇宙が生まれたのと同じぐらい前のこと。他の惑星達に比べたら、遥かに年寄りと言えるわね。 惑星の名を持ってはいるけれど、ここでは恒星が私に従う。 すなわち、彼は私に時間を教える砂時計の役割と、適度な気温を与えてくれる暖炉としての存在にすぎない。
 私が存在するのは銀河の中でも星の少ない宙域で、それ故訪れる多くの者は疲れ果てていた。単に迷った者から、航路的にここを選ばざるを得ない者、あるいは導かれる事を前提とした者。そんな彼等に、私は一日の休息を与える。幸せな夢に浸って、また明日への気力を養い、あるいは彷徨える魂に真実の道を教え。どちらを、どういった結果を選ぶのかは、ここに来た者の自由。私が見せるのは、幸せな夢でしかないのだから。

 私に向かって微かな信号を送ってくるものがある。私はその感覚を知っているわ。 これは光のレール。彼は冒険者を黄金郷レジェンドラへと導くもの。その動きはとてもきまぐれ。だから私の上でちょっと休息を、なんてことは宇宙の開闢以来珍しいことではない。ここのところ、人間との接触がなかった私は、久しぶりに彼が導いた冒険者をもてなす幸せな悩みを得られるというわけ。
 ふと、私は彼ら以外の存在を感じ取った。この光のレールに導かれる者とはまた違う者が、こちらに向かってやってきている。こんな宙域では二つの船が同時に私の近くに来るなんて珍しいこと。ただ、航路的に見ると、こちらの片方は、光のレールを追いかけてきたのかもしれないけれど。そうすると、彼らはいわゆるライバル関係というものかしら? こんな組み合わせで訪れる者も珍しい。鉢合わせしないようにしなければ。二組のお客さんが来ても充分にもてなせるよう、私には昼と夜の顔がある。私の計算では、光のレールがこちらに届くまで、先に到着する方と比べると10時間程の遅れが生じそうだった。これだったら昼と夜で入れ違いに彼らを迎えることができる。
私は先に彼らに呼びかけた。

あなたは誰?
あなたの望みは?
あなたの心安らぐものは?

 私は少しずつメロディに乗せて、たった一人のお客さんに向けて尋ねた。でも一人というのは少し語弊があるかもしれないわ。その人の側には、ペットらしい大型犬が側に寄り添っている。彼らはとても大事な友達同士のよう。だったら犬といえども、私のお客さんに他ならない。私は彼にも協力してもらえるように、そっと囁いた。
 それと同時に、ちょっと細工もした。彼らを更に追ってきている者がいたから。 周囲に注意深くセンサーを飛ばし、まるで見張っているかの様。追っ手はレジェンドラの勇者が一人、キャプテンシャーク。 彼の主は、今まさに私が迎えようとしているお客さんの実の兄。見たところ、血の繋がりを誤魔化す扮装をしているようだけど、それが何処まで通じているのか怪しいところね。 主が兄弟ならば一緒に招いた方が良いのかもしれないけれど、キャプテンシャークは光のレールに導かれないイレギュラーな存在だし、第一、私のお客さんを獲物のように追いかけるなんて無作法を許すわけにもいかない。 私はそんな彼に簡単な目くらましを投げかけた。ちょっと気をつければひっかからないでしょうけど、割と血眼になっているみたいだから、これで大分時間が稼げるでしょうね。

 さて、本日最初のお客さんとなったのは、シリアス・ワルザックという一人の少年。ペットの犬はレイザーというみたい。彼らが私の上に降り立つと、そこには何もない草原が広がっているだけ。シリアスは私の姿に少し拍子抜けしたみたいに溜息をついた。あら、世の中には何もない惑星の方が遥かに多いのに。代わりにレイザーは狭い宇宙船から降りられて、遊びたくて仕方がないみたいにソワソワしている。ほら、チョウチョウを追いかけ始めたわ。それでも一緒に遊んで欲しいとまでシリアスに伝えていないのは、それだけ彼が立派な忠犬だということかしら? でも私の前ではそんなことをする必要はない。だって、私は旅人を癒すのが役目なのだから。
 シリアスが目の前で揺らぐ草波で視力を休ませているほんのちょっとした隙に、私はレイザーの目の前にフリスビーを落とした。何の変哲もない、ただの投げるだけの玩具。でもレイザーはそれが、人間と犬とのコミュニケーションの手段として使用されていたことをきちんと憶えていて、しかもシリアスがそれを使って自分を相手にしてくれたことがないことまで、しっかりと記憶していた。広々とした草原が呼び水になったのかしら。レイザーは多分、何時もよりも自己主張を強くして吼え、シリアスの視線を自分に向ける。
「こんな物を何処から見つけてきたのですか、レイザー?」
 レイザーはフリスビーを咥え、シリアスの手にしきりに押し付ける。尻尾を千切れんばかりに振って。
「これを、私に投げろと?」
 シリアスも一応、これの使い方を知っていたみたいね。少し困ったような表情をしたけれど、彼は愛犬の為に、スナップを効かせてフリスビーを投げた。
「それっ!」
 初めて投げたにしては上出来なぐらいに遠くへ、でもヘろへろと飛んでいったフリスビーを、レイザーはきちんとキャッチした。
「よし!」
 珍しく素直に嬉しそうな表情をする主人に、レイザーは飛び掛って顔を何度も舐めた。
「あははは・・・・! くすぐったいよ、レイザー」
 シリアスはレイザーの頭を何度も撫で、立ち上がるとまたフリスビーを投げた。さっきよりは綺麗に飛んだそれを上手にキャッチする愛犬。二人がとっても仲が良いというのはこれでわかったし、レイザーの望みは叶えられたみたいね。
 けれどもシリアスはなかなか自分の望みを曝け出そうとはしてくれない。レイザーと戯れはしたけれど、それはあくまで彼がレイザーを好きだから。レイザーと遊ぶことは確かに彼の望みの一つではあるけれど、それは私でなくても叶えられる小さな小さな望み事。私は目をこらし、息を潜めてシリアスの様子を観察したけれど、彼にレイザーと遊ぶ以上の望みなんてないみたい。世捨て人ではあるまいし、欲望のない人間なんて星一つどころか宇宙を探してもそういるものではないし、彼の様子は悟りきっているのとも違うみたいだけれども。あるいは、そもそも自分に欲望があるということすら気付いていないのかしら?
 シリアスは、彼の兄の記憶をちょっと覗いたところから見ても、相当の意地っ張りみたいだし。彼みたいな子供から望みを引き出すのはとても時間のかかることだというのは、私は永い年月の間に知っていたから、時間も足りないことだし、ちょっとズルをすることにした。

 正規に私へと航路を定めているレジェンドラの勇者の主達。彼らはシリアスと同年代。けれども生物はレイザーしか近寄らせない彼と違って、何時も仲の良い三人は、とっても子供らしい。一番大人びた態度を取る一人だって、結局は他の二人と同じレベルで遊んでしまうんだもの。彼らは子供の役割と特権をとても理解している。そんな彼らから、同じ年ぐらいの子供の望みをリサーチすることにした。光のレールを進むSLの中で、暇つぶしに彼らがする話題は、もう次の冒険のことでいっぱい。
「今度の星って、どんなところだろうね」
「そうだなー、こうして星を見てると、期待が高まってくるよな」
「例えば、たっくさんの恐竜さんたちが、仲良く暮らしているとか」
「たっくさんのダイヤモンドが仲良く暮らしている星もいいぞー」
「星、ぜーんぶが遊園地! なーんて惑星あったらいいよな!」
「それ最高!」
「だろ?」
『そんなに遊園地という所は楽しいところなのか?』
 主達のはしゃぎように、彼らに仕える勇者は、眦が下がったような声を出す。こんなに主を溺愛している勇者も珍しいわね。
「あったりまえだよ!」
「遊園地が嫌いな人なんていないよ」
「特に子供はね」
 空飛ぶSLである勇者の一体の中で、彼らはゲームに興じながら楽しいおしゃべりを広げていく。ありがとう、理想の子供達。あなた達の夢も、私はきちんと叶えてあげるわ。

 私はシリアスの方へと意識を戻すと、彼がレイザーとじゃれあっているところ少し離れた場所へと、メリーゴーラウンドを置いた。いきなりジェットコースターは好き嫌いが別れてしまうもの。これだったら誰でも乗れるし、ゆったりしたものよりも過激なアトラクションが好きな人は、付近に他のアトラクションがないか見渡すでしょうしね。
 今度も最初にそれに気付いたのはレイザー。思ったよりもずっと彼は好奇心旺盛みたい。シリアスよりも早くそれに近づくと、ちゃっかりと馬車に乗り込んでしまっている。
「レイザー?」
 シリアスはフリスビーを持ってこないレイザーを訝しげに思い、追ってきたというわけ。けれども目の前には大きなメリーゴーラウンド。
「メリーゴーラウンド・・・・何故このようなものが、突然現れのです?」
 疑いの眼差しを向けつつも、何もないと思っていた惑星に突然現れた遊具に、興味は沸いたみたい。でも視線は木馬や馬車、それを支える支柱、回転の中心にある鏡張りの柱や屋根にまで注がれていても、足はそこから竦んでいるのか動かない。本物を見るのは初めてなのかしら? でも乗ってみたいんでしょう? レイザーはすでにワルツの音楽に合わせて馬車に揺られているのに、あなたはそこで立ちっぱなしなのかしら?
 私はもう少し背中を押してあげることにした。遊園地ではピエロやヌイグルミがゲストをもてなすもの。数人のピエロがシリアスの前におどけて現れ、彼を別世界へと誘う。
「な、何ですか、おまえ達は!?」
 少々強引かもしれないけれど、メリーゴーラウンドの中にシリアスを放り投げ、ピエロ達は消えてしまう。シリアスは慌ててしがみ付いた木馬の上で体勢を立て直すと、辺りを見渡す。誰もいない、けれど隣の馬車にはレイザーがいて、小首を傾げてみせる。同じメロディを繰り返すワルツはまだ続いていて、付近の草原には柔らかな色をした花が咲いていて。人目を気にしなくて良いと解ったシリアスは、ようやく肩の力を抜いてメリーゴーラウンドの動きに身を委ねたみたい。

 それじゃあ、いよいよ夢の時間が始まるわ。

 私はシリアスをゴーカートに乗せて、次のアトラクションへと移動させる。
「あっ・・・・これは、何時の間に・・・・ん? あれは、観覧車? ジェットコースター・・・・一体、何が起こっているのです?」
 シリアスは警戒と疑惑のよりも、単純に不思議そうな色を多く含んだ視線で辺りを見渡し、そして遊園地の一番人気のジェットコースターの乗り口に来た時には、もう彼の瞳に疑問はなかった。猛スピードに長い髪を靡かせ、絶叫をあげて。ループからゆっくりと終点に辿り付くと、心臓の辺りに手をやって、唐突にシリアスは笑い出した。
「あはっ・・・あはははは・・・・!! これがジェットコースターですか!!」
 そして目の前にある観覧車を見上げると、
「次に行きますよ、レイザー!」
 今度は彼の方からレイザーを誘って走り出していく。
ようやく彼の本音が、少しだけ出てきたみたい。まだまだ他にも遊ぶものはあるわ。コーヒーカップにジェットフライヤー、揺れる海賊船、オバケ屋敷にミラーハウス、空飛ぶ絨毯・・・etc。私は彼の出身惑星の主だったアトラクションを思いつく限り草原の上に広げていった。どれもこれもシリアスとレイザー専用の遊園地ができあがり、彼らはそれを一つ一つ楽しんでいく。でもこれだけじゃまだまだ足りない。だってこれは、あなたの望みの一つではあるかもしれないけれど、あなたの本心からの願いではないのだから。だから私は、あなたが本当の夢を思い描くまで、幾らでも幻の夢を見せてあげる。
 目に付くアトラクションを片っ端から制覇していった一人と一匹は、やがて遊び疲れたのか、展望用に作ったテラスに腰を下ろした。こんな草原に彼が座り込むなんて、彼の兄が見たら何というかしら? けれども彼の中に、薄っすらと甘い香りのする柔らかな場所があって、そこには確かに草と花が彩りとして添えられている。それだけは私がこの短時間にわかったこと。だから私は遊園地の周りを無粋なコンクリートで固めず、草原のままにしておいた。
 レイザーはしゃがみこむと、シリアスに甘えるのとは少し違う、軽い唸り声のようなものを向けた。
「どうしましたレイザー? お腹でも空きましたか?」
 その通りよ。そういえば、遊園地では食べ歩きも遊び方の一つだったかしら? 私はレイザーの前に、骨つき肉を一つ置いてあげた。
「残念ながら、食べ物は艦に戻らないと・・・・?!」
 突然食べ物がわいて出てきたから、これには正真正銘、びっくりしたみたい。シリアス、あなたも何か食べる? こんな場所だからクレープ? それともピクニックらしくサンドイッチやオニギリにする?
「こ、これは・・・一体どういうことなのです? 
 ・・・・レイザーが望んだから、食べ物が出てきた。あのおもちゃもレイザーが望んだもの・・・・」
 ええ、そうよ。解ってくれたかしら? でもシリアスは目を見開いて遊園地を見渡し、唇を戦慄かせている。
「これは、全て私が望んだものだというのか?! ウソだ! こんなのまやかしだ!!」
 いいえ、これはまやかしなんかじゃないわ。その証拠にレイザーのお腹に入ったものは、きちんと後で消化され、彼の血肉となる。でもそれと同時にこの遊園地は現実でもない。
「こんなチャラチャラしたものが、私の望みだと言うのか?!」
 望みの一つではあるわ。でもそれはあなたが一番欲しいものではない。私はそれが知りたい。さあ教えて。あなたは誰と遊びたいの? それとも遊びつかれた後の安らげる場所を望んでいるの? この草花達を夢見ていた場所は何処?
「やめろ! やめろっ・・・・!」
 あなたのお兄さんでは、ここに一緒にいるのに役不足なのはどうしてかしら? 機械や技術そのものへの興味があるなら、こんなに素直に遊びに興じはしないのでしょう? それとも何かを独り占めにしたかったの?
「やめろ・・・・お願い、やめてくれ・・・・」
 私は質問を繰り返しシリアスに囁きかけ、望みを聞き出そうとしたけれど、彼の心は頑なで、夢の在り処に戸惑うばかり。次々と出される甘い誘惑に、けれどシリアスは頭を抱えてしゃがみこんでしまって、レイザーが吠え立ててくれなかったら、彼の狭いキャパシティはあっという間に溢れてしまっていたかもしれない。どうやら私の想像以上に、彼の内面には夢を広げる場所がなかったみたい。それとも自分を直視するのが恐いのかしら?
「ああ・・・・レイザー・・・・」
 シリアスはレイザーの首に縋りつき、呼吸を整えると、キッと顔をあげて叫んだ。
「エクセルギア隊、出撃!」
 彼の乗ってきた大型の戦艦から、次々と白いロボットが吐き出され、私の周りを覆って銃弾を浴びせ、炎を撒き散らしていく。
「私の望みは、全宇宙をワルザック共和帝国のものとすること! こんなチャラチャラしたものは、私の望んでいるものではない!
 破壊しろ! 焼き尽くせ!!」
 二十メートルクラスの白い巨人達は次々と遊園地を薙ぎ払っていくけれど、私からしてみたら、それは自在に伸ばせる髪や爪を切られているのと同じ。それらは私が何の痛みもなく差し出せるものばかり。でも子供が癇癪を起こした時のように、暫くこの破壊活動に付き合ってあげるのもまた私の役目かもしれないわね。
 破壊活動に付き合ってあげているのは私だけではなく、そろそろ私に到着する予定の、光のレール付近でも行われていた。エクセルギアはレジェンドラの勇者達にも攻撃を仕掛けているのが見える。もちろん私は助けに行くことはできないけれど、主を守るという役目に必死な勇者達は、主達を守り抜いて、私の元へと連れてくるだろう。少々敵対する数が多すぎる気もするけれど、彼らが疲れたというのなら、私の処で休めば良いだけのこと。
 目の前の建造物を焦土と化すと、シリアスは目を細めて笑ってみせた。
「星の一つや二つ、破壊するなど簡単なことではありませんか」
 ええ、表面を撫でるような破壊活動なんて、簡単なことよ。だから子供はお気に入りの玩具だって壊すし、そうすることで周りに愛情の飢えを訴える。
 あなたの望みは不足している愛情を与えてもらうことかしら? ならば、それは誰によってもたらせるの?
 硝煙の匂いが瞬時に草原を渡る風によって流され、夢の場所はまた動き出す。
「っ・・・・! おのれ・・・・!!」
 さあ早く。あなたの夢を私に教えて? 
 さっきの戦闘の際にロボット達が降下してきた経路を追ったことで、キャプテンシャークは私の目眩ましに気付いてしまったみたいだし。距離はまだ離れているけれど、私はそろそろレジェンドラの勇者達を迎える準備もしなくては。
 だからそうなる前に、さあ早く。
「叩き壊せ!!」
 シリアスは半ば悲鳴のようにロボット達に命令を出す。そろそろ破壊が無駄だということを教えてあげた方が良いかしら? 物が壊れるのも、私がそう演出しているだけ。鉄骨もブロックも、もっと硬い物で作ることができるし、大気組成を変化させて、あなたのロボット達の吐き出す硝煙の匂いすら最初から消してしまうことだってできるのよ。
「そんなバカな! 何故、私の前に現れる?!」
 それは私には時間がないから。あなたにも時間がないように。
 ああ、でも本当に。
 光のレールは私の日没と黎明を待たずに次ぎの場所を求め始め、勇者達はそれに従ってしまっている。理想の子供達は私に来ることなく過ぎ去ってしまった。今、私が相手にできるのは、あなたしかいないのよ。シリアス。
 せめて日が沈むまで、私の砂時計が落ちるまで、あなたにこの場所を提供してあげる。ピエロ達が、あなたの相手をしてくれるでしょう?
「離せ、離せっ! 何をするんだおまえ達っ!」
 私はとても残念で心残りのまま、シリアスを私から解放することになってしまった。遊園地が全て消えてもまだ放心したような表情をしている彼に、レイザーが何度も吠え立てた。
「ああ・・・・・レイザー・・・・」
 最後の建物が霞のように消える様子をぼんやりと見た彼は、ぽつりと呟く。
「ミラダイスの力は、日没と同時に消えるのですね」
 そう、とても残念なことだけど、それが私に与えられた枷。どんな望みも叶えてあげることができるけど、それは半日でしかないの。
 シリアスはやがてふらついた足取りで大気圏用のシャトルで彼の旗艦に戻り、落ち着いたようだった。
「たいした惑星です・・・・。この私を、こんなにも振り回すとは・・・・。
 一体、おまえは何モノなのです?」
 あら、それはあなたがさっき自力で気付いたものでなくて? いいわ、もう一度教えてあげる。
『私は惑星・ミラダイス。訪れる旅人の願いを叶えるもの』
「何っ?!」
 そんなに驚くことではないでしょう? だってあなたはそれを知っていたからあんなに癇癪を起こして、攻撃をしてきたわけだし。
 私はそれを告げようと思ったけれども、止めておいた。彼は戦艦の主砲を立ち上げたらしい。エネルギー係数がどんどん上がっていくのを観測すれば、それがどれぐらいの威力を持っているのかぐらい、私にもわかる。残念なことに、私は自分の体を外から守る術は持っていない。せいぜい近くに居る者たちに囁きを伝えるぐらい。間に合う間に合わないは別として、私は彼のこれから犯す罪を、彼の兄に向けてそっと流した。
「な、なんだ今の光景は・・・・はっ! いかん、シリアス!」
 主砲のエネルギーはどんどん高められ、照準は私に向けられて。私の心残りは、あなたの望みを叶えられなかったことぐらいかしら? だから私は、その望みを見たいと思う。
 ねえ、シリアス。あなたが自分の夢を誰かに語る姿を見せてね。私の姿はなくなってしまうけれども、私の声を聞いた者が見てくれれば。
 だから私は笑う。私の声を、できるだけ遠くまで響かせるために。

 くすくすくすくすくす・・・・・。





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