れいろう
- Railload of Over the Angel's Radder -



「わあっ、すごい星空〜」
月さえも覆い隠していた夜の雲は過ぎ去り、宝石箱をひっくり返したようなと形容される煌きたちが天井を埋め尽くしている。 満天の輝きを見上げてダイが歓声を上げた。
「麓のレンジャーと話をつけてきた。これで後の事は『星座』が面倒を見てくれるだろう」
「世話をかけてすまない」
「なんの、これが私の本職だからな」
アドベンジャーは口元にたっぷりと蓄えた髭を浮かせて笑った。聞けば、彼はチョラモンマ一帯の治安を守る山岳警護監察官であるという。 平たく言えば山の番人のようなものだ。その彼が、タクヤ達を御山の頂上へ連れて行くという。
「さあ主よ、参りましょう」
アドベンジャーの先導で一同は登山ルートを歩き始めた。かつては最も天に近い場所として神聖なる領域であった山も、 往年の地殻変動、地盤沈降などで7000メートル以下は全て水没してしまったため、今では小高い丘程度のコースだ。 遠くを見下ろせばフウカイやハルキリアスの姿も見える。ドラン達は山脈の嶺を伝い歩くような形でチョラモンマ頂上を目指していた。 子供の足に合わせてゆっくりとしたペースだったが、慣れた道とはいえあれだけの重装備を担いだままいともすいすいと先導する姿を 見せつけられては、さしものドランやハヤタも疲れた笑みを見せるしかなかった。レオンでさえ多少息が上がっているというのに。 元気なのはカイザーとゴルゴンぐらいだった。ただしゴルゴンの場合は途中停止するのが常であるが。
「ドラン」
後ろの方を歩いていたタクヤが小走りに追いついてきた。傾斜のきつい坂道を大またに歩いて、若干歩調を緩めたドランの隣に並ぶ。
「大丈夫か?」
「主の方こそ、疲れたのなら言うのだぞ」
「ん、オイラはまだ平気だぜ?じゃなくてオイラが言ってんのはココ、ココ」
と自分の頬を指差すのでドランも同じように手をやった。先刻銃弾が掠めてできた傷は、触れてみると薄い笠蓋になっている。 兵士達相手に立ち回ったときの傷だが、実際にはそれ以外の場所にもかすり傷程度の負傷をしている。
「心配ない、焔にも治療してもらったからな」
ホントは野郎〜の世話なんて趣味じゃないんだけど〜、という焔の呟きを思い出してドランは僅かに苦笑した。 微妙な表情の変化だったが、タクヤは安心したような顔になった。
「そっか、良かったな」
言ってカズキ達の元に戻っていく。その背中を目で追いながら、ドランはふとあの白衣の男の言葉を思い出した。
『妖精』―――タクヤの性別が変化することを形容したのかもしれないが、それだけの意味とは思えなかった。
前を進んでいるアドベンジャーが足を止めたことに気がついて、思考の淵から引き戻される。
「着いたぞ、頂上だ」
確かに登り坂は無くなっていた。山の頂上というのは言葉から予想するような狭い突端ではなく、広い場所だ。 湿っぽい土を撫でるように風が吹き抜けるが、寒いほどではない。無味乾燥とした大地の上にぽつんと一枚の石碑が立っていた。 墓標のように佇んでいる石版の表面には古い文字が幾重にも連なっている。
『黄金の力求めし者よ、8つのパワーストーンを手にし復活の呪文を唱えよ』
「っ!?」
突如飛び込んできた文章にドランは驚いた。何故この石版の文字が読めるのか。
「これは・・・」
「え、おい、俺だけじゃねえのか・・・?」
「私にも何故か見覚えが・・・」
「どうしたんだよお前ら」
カズキが呼びかけても翼達は戸惑いを隠せないでいる。そんな彼らにお構いなしにアドベンジャーは石版の一部を指し示した。
「その窪みにパワーストーンを入れるのだ。主は3つのアイテムを」
「???」
まず先立ってアドベンジャーがパワーストーンを嵌めこんだ。青い宝石が月の光で淡く輝いている。 続いてドラン、翼、ハヤタ、ロック、焔、空影、レオンの順にパワーストーンを置いていった。カズキが御守りのペンライトを取り出し、 続いてダイが双眼鏡を置く。
「ガー」
ゴルゴンが身を屈めて胸元のハッチを開いた。中に収められているバッジを取り出してタクヤは石版に嵌めこむ。 石版の窪みは何故かアイテムとぴたりと一致し、全員のものがあるべき位置に収められた。
「さあ主、復活の呪文を」
「??何だそれ?」
きょとんとしたタクヤにアドベンジャーは一度大きく目を見開いた後、深い溜息を吐いた。
「・・・やはり憶えていないか。無理もないとはいえ、残念な事だ」
「・・・おい、どういう意味だよ」
勝手に失望されてはタクヤたちも黙っていられない。
「おまえ俺たちに何させようとしてるんだ?はっきり言えよ!」
「ねえ、ちゃんと教えてくれたら僕たちも思い出せるように努力するから」
「アドベンジャー、我々にも教えてくれないか。何故主や我々をここに連れてきたのか、何か意味のあることではないのか?」
おぼろげな記憶だけでは分からない事が沢山ある。例えば何故自分達がタクヤ、カズキ、ダイの3人を主と呼ぶのか。 夢で見るだけではまだ欠けているのなら、そして手掛かりがあるのなら知りたい。それはドランだけでなく他の誰もが同じ事だった。
アドベンジャーの眼差しが全員を捉える。暫くの沈黙の後、その口が不思議な物語を語り始めた。
「・・・かつて、勇者と呼ばれる者たちがいた。勇者はパワーストーンという石に封じられ、 己を目覚めさせたものを主と認め忠誠を誓った。勇者は主を守り、そして道標の役目を背負っていた」
「道標・・・?」
翼の口から零れた呟きにアドベンジャーが頷く。
「最初に目覚めた勇者は仲間を求めた。自らと同じく封印されしパワーストーンを探す事を主に求めた。 8つの勇者全てが揃った時伝説の黄金文明への扉が開き、勇者と主は旅立った」
「黄金文明・・・それは?」
「かつて人はそれを黄金郷と呼んだ。その星は遠い宇宙の果てにあるという」
「その星の名は・・・?」
語り部のようにアドベンジャーはゆっくりと言葉を呟く。その星の名は・・・
「レジェンドラ」
その瞬間、全てのパワーストーンが力強い光を放ち始めた!
「うっ」
「うわっ」「わあっ!」
あまりの強さに誰もが目を眩ませた。眩暈がするほどの強烈な光だったがドランはそれをひどく懐かしいものに感じた。 頭の中で声がする。レジェンドラ、レジェンドラ、ああ、その単語が溢れるように脳裏を埋め尽くす。 そうだ、この光の中でいつも自分は目覚めるのだ。そして今とは違う形で主に出会い、そして別れる。鋼鉄の体で何度も繰り返した死と再生、 永劫の輪廻の中でかつて一度、いや二度だけ彼らと出会ったのだ。
「お、思い出しました・・・私たちは」
「お、オレたち・・・・・・・・・ロボットだった」
「そうだ・・・そうであります!」
「夢で見てたのは、このことだったんだ・・・」
「・・・拙者らはレジェンドラの勇者」
「そうだ・・・それがかつての我々の姿だったのだ!」
翼、ハヤタ、ロック、焔の4人は互いの顔を見つめあい、がっちりと拳を繋ぐ。かつて彼らは一つの存在だった。 ドラン、空影、レオンは改めて己の名と姿を確認する。ドランはゴルゴンにも目を向けたが、ゴルゴンは無言で立ち尽くすままだった。
「あ・・・ああ・・・・・・ああああレオン!レオンレオンいる、カイザー、カイザーは・・・!」
「落ち着いてカイザー!いいんだよ、ゆっくり思い出せばいいから・・・」
混乱するカイザーにしがみついて宥めるダイの顔にも動揺が表れている。それはカズキやタクヤも同じだった。
「石輪山だな・・・それに、タイムカプセル」
「そう、その下にドランのパワーストーンが埋まってたんだよね」
「それで・・・・・・オイラが・・・あれ?誰だったかから呪文を聞いて・・・」
そして彼らは、彼らに出会った。冒険が始まった。それは、夢で見ていたものと同じだろうか。懐かしいものだった。
「主よ、復活の呪文を」
いつも通りの落ち着いた声でアドベンジャーが促す。彼は知っていたのだろうか。その記憶を持ったままずっと、 この場所で待ち続けていたのだろうか。見上げるタクヤを優しい眼差しで見つめている。
なんだかくすぐったいような気持ちに後押しされて、タクヤは陽気に笑った。
「そんじゃまあ、ちゃっちゃと行きますか!」
タクヤは輝くゴルドシーバーの上に手を置いた。カズキはゴルドライト、ダイはゴルドスコープの上に。
「――黄金の力守りし勇者よ!」
記憶の言葉に呼応してタクヤの唇がひとりでに動く。
「今こそ蘇り!」
カズキが、
「わが前に!」
ダイが、
『現れ、出でよ!!!』
3人の声が1つに揃ったとき、パワーストーンと冒険セットが黄金の光を放った!
「うわっ!」
思わずタクヤは手を離した。意思を持つように浮かび上がったアイテムが円状になり、時計の針のように真ん中に配置されたゴルドシーバーが空のある一方向を指し示す。
とたん、パワーストーンから帯状の光が駆け上った。
「わあ・・・」
枕木の階段の上を双条の光が走り、天に掛かる梯子のように星空の彼方へ伸びていく。光はやがてひとつになり、 彼方の一点を目指してどこまでも伸びていく。どこまでも、どこまでも・・・
「光の、レールだ・・・・・・」
「おお・・・」
かつてと同じ光景が目の前に広がっている。光のレール。その彼方に何があるのかをここにいる誰もが知っている。 思い出した今なら、進むべき道はひとつ。
「レジェンドラだ」
「ああ、行こう。きっと待っている」
ゴルゴンが空に向かって一声吠えた。横でカイザーもその真似をする。 山彦に返される咆哮が汽笛のようにいつまでも響き渡っていた。



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