旅の合間に皆で夢の内容を話し合っているうちに、だんだんと鮮明に思い出すようになった。 驚いたことに、カイザーも言葉少なに主のことを説明し始めた。 だがどれだけ話し合っても、肝心な部分がすっぽりと抜けている。彼らがかつては何であったのか。 主は変わらず少年であると記憶しているのに、自分たちがどこの誰なのか、何のために旅をしていたのか。 昔のことはとんと思い出せないでいた。 ドランたちはまた、ダイのことをよく構った。 休憩はこまめにとったし、危険な場所は代わる代わる背負ったり抱えたりして旅を続けた。代わりにダイは得意の料理でお礼をした。 途中でカイザーが狩りをしてくれたり、ダイが食べられる植物に詳しかったおかげで、残り少ない旅費でもなんとか『宵闇のハーニュブルス』に辿り着けた。 もとは戦のために作られた巨大な城砦都市である。 崖と湖に囲まれ、交易には地形が悪いのを逆手にとって造られた強固な城壁の向こうには、きらびやかな世界が待っていた。夢と退廃的な匂いの混じる都市。 跳ね橋を渡って中に入ると、別世界に迷い込んだ気がする。 宿で荷を解くと、まずはアルバイトがないか主人に尋ねた。 「そうだな。面接があるが、ボーイのバイトにサーカスの手伝い。調理場のアシスタントもあるぜ。 場所は、アークハイムにゲッセマネー、シャングリラってとこか」 「アークハイム!」 思わず全員が口をそろえて叫んでしまった。 「ああん?いくら有名なカジノだからって、即刻雇ってくれるとは限んないぜ?」 「あ、ああ・・・わかっている」 地図と担当者の名前を書いた紙をコピーしてもらい、ドランたちは真っ先にアークハイムに向かった。 うまくいけば、すぐに主がみつかるかもしれない、という思惑と共に。 「ボーイさん、こっちにシャンパンをくださる?」 「おーい、カクテルが足りないぞ!」 「サンドイッチを19番テーブルに!」 「はい、はい、はいっ!ただいまっ!!」 顔の良さが見込まれて、翼は「アークハイム」のボーイに雇われた。ハーニュブルス一のカジノだけあって、客層も金持ちばかりだ。 ドランとハヤタは調理場で皿洗い、ダイとカイザーは「ゲッセマネー」というショーを主体とした別のカジノに雇われた。 「おお〜〜〜〜っ!」 またも歓声があがる。さっきもあのテーブルだったなと、翼はカクテルを配りながらさりげなくルーレットの台に近づいた。 「ねーえ、あたし今度は赤の25に賭けたいの」 化粧をして胸の大きく開いたドレスを着た妙齢の女性がしなだれかかっているのは、黒のベストを着こなした十二,三歳ぐらいの少年だ。 「オーケイ。さ、俺の腕と渡り合おうって自称・強運のヤツはどいつだ?」 小さなボールを片手でお手玉し、辺りを見回すその姿には、風格すら漂う。 「・・・・・・!」 見覚えがある。確かに自分はその少年を知っていた。 「彼は、彼は・・・・!」 「ルーレットの狼と呼ばれたこの俺が相手になってやる!」 成金のような趣味の悪い男が葉巻をくわえ、バンっとチップを積み重ねた。 「黒の47だ」 「お客さん、慣れないうちは『赤か黒か』だけにしといた方がいいよ」 「はっ!ガキが聞いた口をきくな!てめえみたいな陰間に売られた方が良さそうなガキがここに出入りできるのは、客寄せのためだってのがわからねえのか?」 周りにいた他の客も、男の下品さに顔をしかめる。 「カズキ、やっちゃいなさいよ!」 別の台でボールを投げていた女性のディーラーが口を挟む。こちらは赤いベストを着ていて、喧騒に紛れもしない、よく響く声をしていた。 「カズキ殿、ですか・・・・」 空になったトレイを抱えたまま、翼はその勝負に見入った。 「じゃ、入れるぜ」 ルーレットが廻る。カズキは縁にボールを押さえつけると、ぴっと指先で投げ入れた。 ルーレットとは逆方向に疾るボールが、次第にからからと音を立てて跳ねていく。ルーレットが止まる。 ボールも止まる。赤の25。 「おおおお〜〜〜〜〜!!」 わっと歓声と拍手が飛ぶ。 「おーい、祝いにこいつにシャンパンを!」 「何言ってんだ、ジュースだ、ジュース! おい、ボーイ!」 肩を叩かれて翼は我に返った。 「あ、はい!」 急いでカウンターに戻ると、手付かずのグラスが大量に残っていた。 まだ配り終わっていないそれらに邪魔されて次のカクテルが作れないと、バーテンが目を吊り上げている。 「す、すみませんっ!」 「手伝うぜ」 「交代の時間になった」 横から手を伸ばして、グラスをとったのは、ハヤタとドランだ。 「何しろカジノなんて滅多に来れねえからな。ちょっとぐらいは楽しまないと!」 ポケットに早速変えてきたチップを入れて、ハヤタが待ち遠しそうにグラスをトレイに載せていく。 「エプロンぐらい外してきてください。それより、主がいました」 「何?本当か?!」 「ええ。確かに有名でしたよ。凄いです」 いそいそとグラスを持って先ほどの台に向かうと、今度は沈黙が漂っていた。 三人とも懐やポケットに手をやる。微かにパワーストーンが光っているのがわかる。 「間違いない。主だ」 だが、喉元まで出掛かっている名前が思い出せない。ひどくもどかしかった。 「一体どうしたってんだ?」 ハヤタは騒ぎの方に気を取られている。 「イカサマやってるって思うなら勝手に調べればいいだろ?保安官でも何でも呼べばいい」 「そうよっ!そんな店の信用なくすマネ、するわけないじゃない!」 人垣の間から垣間見えるのは、細身の理知的な少年が趣味の悪い男に絡まれているところだった。 「さっき、主とルーレットで勝負していた男です」 「もちろん、勝ったんだろうな?」 「ええ」 「店ぐるみでイカサマしてんじゃねえのかっ!ええ?!」 「タチの悪い客だな〜。こういうところは女と一緒で、騙されるのも楽しみだってえのに」 「じゃ、あんたの望みの勝負してやるよ。ここに来るぐらいだ。ポケットにトランプの一枚でも入っているんだろう?」 「いい度胸だ」 にやりと笑って男が懐から見たこともないカードの束を取り出した。 「何かしら、あれ?」 「見たことないわよ?」 「あんなマイナーで仕掛ける気かよ」 「どうするの、カズキ?」 赤いベストを着たクリスが、心配そうに年下の少年を見る。 カズキ! ドランとハヤタの中で、符号がぴたりと合った。 「あんなの初めてみるけど、ま、やってみるしかないな」 「ちょうっと待った!!」 陽気な声がその場に響く。 「そいつのルールだったらオレが知っているぜ。代わりにやらせなよ」 厨房のエプロンをしたまま、トレイを持ったハヤタが人垣の中央に進みでる。 「あのバカ・・・!」 翼は思わず片手で頭を抑えた。 「大丈夫か?」 ドランが翼のトレイを代わりに持ってやった。 カズキはハヤタを見て一瞬体を硬直させたが、すぐにきつい表情をして睨みつけた。 「おまえ、厨房のバイトか?だったら引っ込んでろよ」 こんのクソガキ・・・と、ハヤタは片頬を引きつらせてカズキを見た。 「何いってんだよ。ディーラーが強いのは当たり前だろ?ハンデのために出てやろうってのによう!」 周りの客からは、ヤジが半分、面白がって代わりにやらせろと言う声が半分。 「代わってもらいな、ボウズ。もっとも、そいつがてめえの身内だって可能性はいくらでもあるがな」 「だったら一ついい案がある。あんたがこいつを投げるのさ。そしてこいつにも投げさせる。俺がそれを両方当てる。どうだ?」 ヒューっと誰かが口笛を吹いた。 「いいだろう。ただし、台に細工がしてあるなんてことはねえな?」 「疑い深いヤツだな。だったらあんたの好きな店に場所を移してやってもいいんだぜ?」 「おい、いいのかよ」 ハヤタはカズキの方を振り向いて言った。 「大丈夫さ」 カズキは女の子以外には見せない、ウインクをして見せた。 「どうしたの?皆揃って」 仕事が終わったダイとカイザーがステージから降りてきた。 「カズキの仕事上のトラブルのおかげで、まあ、なんというか・・・・」 ドランが口をもごもごさせる。男が指定し、カズキが店のマネージャーに断ってやってきた店は、ちょうどダイとカイザーがサーカスのバイトをしている「ゲッセマネー」だった。 ステージの上では今度は半裸の女性がダンスを踊っている。目のやり場に困りながら、ドランと翼はなんとかダイに説明をした。 「カズキ・・・・カズキ君?そうだ!カズキ君だよ!カイザー、覚えてる?」 「知ってる。カズキ、知ってる!」 「ね、僕たちのこと話した?」 「いや、まだだ。この勝負が終わったら話し掛けようと思っている」 ドランと同じ方向に視線を向けると、ルーレット台の前に座ったカズキが、ボールを投げる男の手をじっと見ていた。 「それっ!」 勢いがつかずにすっぽ抜けたボールがカンカンと音を立ててルーレットに放りこまれる。 「あ、ああ・・・・」 情けなさにあたふたする男を見向きもせずに、カズキは静かに口を開いた。 「黒の15」 プロが投げたものよりもずっと早くボールが止まる。黒の15だった。 「おおおーーーーうっ!!」 「きゃーーー!カズキっ!!」 側で見ていたクリスがカズキに抱きつく。 「じゃ、次はあんたが投げろよ」 カズキはハヤタの方を振り向いた。 「そうもいかないみたいだぜ?」 「イカサマだ、イカサマーーーーっ!!店の間で連絡して、ルーレットに何か仕込・・・・・」 ごすっ! 崩れた男の後ろから、ドランがひょっこり顔を出す。 「出すぎたマネをしてしまったか?」 「いや、助かったよ」 「この者はどうする?」 「跳ね橋の向こうにでも捨てといてくれ」 カイザーが言われたとおりに町の外に捨ててくると、店に戻ったカズキが礼を言った。 「今日は奢らせるように言っとくからさ。楽しんでくれよ。あ、バイトはちゃんとやれよ」 手を振って仕事場に戻っていくカズキに、ドラン達は考えてしまった。 「カズキ君、ここで凄く楽しそうだね。僕たちのことも憶えてないみたいだし・・・・」 「彼にとっては、ここで働いていたほうが幸せなのかもしれません」 遠くの台で、カズキは再び女性に声をかけられ、ルーレットが回る。 「言うべきか、言わざるべきか・・・・・」 「くおらバイト−−−−っ!」 「あ、やべっ!」 厨房から怒鳴り声が聞こえ、慌ててドランたちは持ち場に戻った。 「女に囲まれて良いご身分だよな〜」 手を泡だらけの水につっこんでハヤタがぼやいた。 「だが、本当にどうしたらよいだのろうか?」 「どうしようか、カイザー?」 「ダイ、カズキ、一緒いる。違う?」 カイザーはカズキのいるルーレット台を指した。 「うん・・・・。そうだね。ちょっと、話をするだけでもしたほうがいいよね。 ・・・・どうして話そうと思わなかったのかな?僕たち、友達なのに」 友達だったのに・・・・・? と頭の中で続けて愕然とした。微かに夢に見る曖昧な絆の為にわざわざ命の危険まで冒してここまで来たのに、彼らは友人でも何でもないのだ。 「どうしよう・・・・カズキ君、やっぱり、忘れちゃってるのかな?ううん。こういうのって、憶えている僕たちの方が変なのかな?」 途方も無い不安が、ダイを押しつぶしていく。 「どうした?賭けないのか?」 ルーレットの向こうでカズキがお得意の皮肉めいた表情で笑っている。何時の間にか席についていたらしい。 「赤。赤!」 「番号は?」 「8!8はいいことある!ダイ言った!」 カイザーが大きな声で叫んだ。 「赤の8だな?OK!」 8・・・・ダイはハっとカイザーを見た。大事な数字。ダイが一番好きな数字。 何と引き換えにしても、これだけは手放せないもの。 ボールが赤の8に入る。ダイとカイザーの前に、山とチップが積まれた。 「ありがとう・・・えっと、こういう時は・・・・・」 翼がグラスを持って歩いている。ダイはジュースの入ったグラスを貰うと、持っていたメモ帳の一部をちぎってコースターとグラスの間に挟んで、カズキに渡した。 「さっきのお礼」 「センキュ」 ダイは閉店までずっとその台でカズキを見ていた。仕事にも仲間にも恵まれ、彼女もいるみたいだった。客の受けもいい。 深夜を大分まわって、肩を揺すられた。 「おい、おい!」 どうやら寝てしまっていたらしい。隣ではカイザーが完全に熟睡していた。 「あ、ああ・・・ごめん!」 「いいって。なあ、それより・・・・おまえ、ダイ・・・だよな?」 「・・・・カズキ君、憶えていてくれたの?!僕のこと見ても何も言ってくれないから、てっきり・・・・」 「当たり前だろ。仕事とプライベートは別さ」 指の間にさっきダイが渡したメモがある。全員の名前が書いてあった。 「なあ、全員そうか?俺がずっと夢の中で探してたやつらか?」 「そうだよ!ドランに、翼に、ハヤタ!ここにいるのはカイザーだよ!わかるよね?」 「ドラン・・・・」 不意にカズキが、今までとは全く違う表情をした。 「凄い、懐かしい名前だ・・・・」 「もう一人、いたよね?とても大事な、僕らの友達。それから、五人の仲間!」 「ああ。ちゃんと憶えてるさ」 カズキはそういうと、ズボンのポケットに何時もいれている幸運のお守りを取り出した。黒地に金で縁取りがしてあり、スイッチは赤い宝石という豪華な懐中電灯だ。 「こいつが、俺たちを繋げてくれてるんだ。俺がここにいたのだって、それなりにワケがあるんだぜ?」 やがて明かりの消えた店の中に、ドランたちが戻ってきた。 「ああ・・・・わかる。わかるよ・・・・なくしてたパズルのピースが見つかったみたいだ。まだ足りないけど、これから探すんだろ?」 「主・・・!」 「思い出してくれたのですね!」 翌日。主に逢えた幸運に、ほとんど眠ることもできずにバイトに赴いたドランたちだが、開店前のフロアから怒鳴り声が聞こえた。 「だーかーら!俺退職するって言ってるだろ!」 「おまえが抜けたらあの台は誰が仕切るんだ?!売上が落ちちまうんだぞ?!」 「んなこと言ったって、こっちにも事情ってモンがあるんだよ!」 「事情だけで『はい、そうですか』なんてできるか?第一、後釜が決まるまで続けるのが最初の契約だったろうが!おまえの後がなけりゃ違約金払ってもらうぞ」 「ディーラーになりたがってる予備軍はいくらでもいるだろ?違約金は・・・・そうだな。わかった。今日、明日で違約金分、稼いでやるよ。それでいいだろ?」 「ちょっと待て。・・・・おまえ、本気か?」 店のオーナーは表情を一変させてカズキをしげしげと見つめた。 「本気さ」 カズキはにやりと笑って準備の整ったフロアに出ようと踵を返した。 「じゃ、ちゃんと最後の稼ぎしてやるからさ」 「待て!」 オーナーは真剣な表情でカズキを呼び止めた。 「店が引けたら、13番テーブルに来い。わかったな?」 「わかったよ」 気楽に返事をするカズキに、ドランたちはその日一日中ハラハラしながらバイトを続けた。 そして深夜。客のいなくなった店内は、店員たちの熱気で満ちていた。 テーブルについているのは店のオーナーとカズキだ。ボールをもったオーナーがカズキを睨みつける。 「いいか。一回勝負だ。おれが入れる」 「OK」 ルーレットが回る。ざわついていたフロアが水を打ったように静かになる。 色に関係なく0、00は親の総取りだから賭けることはできない。ピッとオーナーの指からボールが離れた。 「・・・・黒の12」 少し迷った後、盤面を見たまま静かにカズキが声を出した。チップの代わりに胸につけているディーラーの証明バッジを置く。 「カズキ・・・!」 クリスが短い悲鳴のような声をあげた。 回転がゆっくり止まる。次第に跳ねはじめたボールがコンコンコンと最後のバウンドをし、黒の12に落ち着いた。 「・・・・やれやれ。こんだけ腕のあるやつを手放したくはないんだがな」 「あんたが花を持たせてくれたんだろ?俺、12歳だぜ」 カズキが手を差し出すと、オーナーは代わりにべしっと頭を叩いた。 「ったく、本当に可愛げのねーガキだな、おい!」 そのまま笑って頭をぐりぐりする様子に、わっと周りの店員たちが取り囲む。ドランたちは張り詰めていた息を吐き出した。 「明日も出ろ。よくしてもらったお客に、ちゃんと挨拶していけ」 「うん」 「カズキ・・・・」 カズキと色違いのベストを着たクリスが、うっすらと涙を浮かべていた。 「悪い、クリス。俺・・・・・行くわ」 「・・・・・わかってるわよ。バカね!自惚れないでよ!」 頬にされたキスで、再び歓声が上がった。 二日後、ドランたちが泊まっている宿に、旅支度を終えたカズキがやってきた。 「いいのか?彼女とかいたんだろ?」 「クリスとは・・・・まあ、若気の至りってやつだよ」 「ガキのくせによく言うぜ」 「いいんだよ。出掛けるんだろ?ホラ!」 カズキが渡したのは、随分と重いリュックだった。 「何入れてんだ?」 首を傾げたハヤタが中を開いてみる。 「あ、あああーーーっ?!」 「うるせえな。そんなに騒ぐなよ」 「だ、だって、これっ・・・・!」 口をパクパクさせているハヤタの手元を見ると、なんと中身は全部貴金属や宝石だった。 「こ、これは・・・・・」 「じゃらじゃら金持ってたら余計にかさばるだろ?あ、そのバッグはブランドもんだから、売れば百万はするぜ。 で、こっちは携帯用の食器。中には砂金が詰まってる。表は銀でコーティングしてあるから、毒もばっちり見分けられる。 こっちは旧時代に作られた透かし彫りの金属の皿。ちょっと見た目はただの陶器の皿ってあたりがマニア受けしてさ。コレクターに売れば壱千万はくだらないね」 次々とお宝を見せるカズキに、一同は呆然としてしまう。 「先立つものはちゃんとに用意しとかないとな!」 カジノで働いていたのもその所為らしい。 「で、何処行くんだ?」 「下で、空影から情報を貰おうと思っている」 「そうか」 ぞろぞろと階下の酒場に下りていく。 「空影は用事があってこられなくなった」 階段の直ぐ側で低い声がし、黒に近い茶色のセミロングの男がスツールから立ち上がる。 「おぬしは?」 「レイザー。やつとは同業だ。 『豊沃のフウカイ』に行くと伝言があった」 「『豊沃のフウカイ』・・・・南にある最大の港町だ」 レイザーはそれだけ言うと、マントと帽子を取り上げる。 「もう行くのか?」 たったそれだけの為にここまで来たのかと、思わず声をあげる。 「・・・・・人を探している。ここにはいなかった。それだけだ」 レイザーは出口に向かって歩き出した。 「あ、待ってくれ!君が探している人に、会えるかもしれない。ここまで来てくれた御礼にもならない が、もし会えたら、空影に伝えておく。誰を探しているのだ?」 「・・・・・・シリアス」 レイザーはそれだけを静かに口にすると、今度こそ宿から出て行った。 「ちぇっ。スカしてるヤツ」 「シリアス、レイザー・・・・」 「ああ。聞いたこと、あるな・・・・」 ダイとカズキは密かに顔を見合わせた。きっと、三人揃ったら思い出す。そういう確信があった。 |
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