『六花のアキュームレイト』と呼ばれる村がある。万年雪に覆われた珍しい土地だ。 狂ったこの世界では、天に届くような高山の頂上とて森や湿地があったりする。 休火山なので、同時に温泉も湧き出ていて、辺鄙な場所ながら湯治にくる客も多かった。 レオンはギルド直営の宿に入った。外套の外にきらきらとビーズのようについた雪を払い落とす。 「部屋は空いておるか?」 「生憎と、満室なんですよ。通りもう一本向こうの宿なら部屋が空いているはずです」 「そうか。空影というものが来る予定は?」 「おまちを」 宿の主人は奥で帳簿らしきものを探り、戻ってきた。 「今夜、ご予約が入っております」 「わかった。後でまたくるとしよう」 レオンと空影は、面識があった。レオンが以前、『豊沃のフウカイ』と呼ばれる大きな交易都市で軍の指揮官を務めていた時、空影から海賊や盗賊の情報を仕入れていた。 その時の功績から、今でもレオンは『黄金将軍』の二つ名を持ち、空影とは何かと付き合いが続いている。 別の宿で一旦風呂に入って着替える。そのまま『ギルド』直営の宿に再び足を向けた。 「久しぶりでござるな」 金屏風を剥がして作ったのかと思えるような浴衣を着た銀髪の男が振り返った。覆面を外すと、雪女のような美貌に眼帯が走っている。 「うむ。 頼まれてくれた人はみつかったか?」 温めたワインと熱いシチューを頼むと、いきなり本題に入る。 「生憎、お主の探している三人組の少年はみつからなかったでござる。だが、面白い話ならあるでござる」 「聞こう」 赤ワインが湯気と共に運ばれてきた。 「やはり三人組の少年を探している一行がいた。別々でも構わぬから、とにかく目立つ子供で良いと妥協したので、教えてやったらどうやら条件の少年と合っていたらしいござる」 「そうか。やはり仲間どうし、引き合うのであろう」 「仲間?」 「私が探しているのは、主たる少年だけではない。仲間もいるのだ。その方が言った、子供を探している者も、私の仲間かも知れぬ。 その方はどうだ?以前から探し人がいると言っていたが、見つかったのか?」 空影はその問いには答えなかった。 「おぬしこそ、フウカイの将軍家に生まれて不自由はないくせに、何故一人で探そうとする?情報とて拙者一人が集められるものには限度があるというもの」 「私は、自分の手で主を、仲間を探したいのだ。受身で探してもらうばかりではいかぬのだ。それでは主が・・・主が泣く。泣いた主を知っている。だからだ。だから私は、主を泣かせたくはないのだ」 「そうか」 丁度料理が運ばれてきて、二人はそれきり無口になった。 「拙者はしばらく港を当たってみようと思う。『地下鉄』(奴隷商人のもつ情報ルート)で聞いた話では、脱走で有名な奴隷の子供がいるらしい。 お主の探している者かはわからぬが、彼奴らが探している人物である可能性は十分にある」 「どの船かはわからぬというわけだな?ならば私も当たってみよう」 「ついでに、お主の探している仲間とやらについても調べてしんぜようか?」 「容易にわかればな」 レオンは軽く笑うと、懐から赤い宝石を取り出してみせた。大きなルビーといった感じだ。これだけで大変な値打ち物である。 「『仲間』は、同じ物を持っている。必ずだ」 「何故そう言い切れる?」 「以前、誤ってこれを捨てたことがある。だが戻ってきた。人伝に渡りあるき、それでも戻ってきたのだ。 呪いでもあるのかと思ったときもあるが、そうではない。これは『絆』なのだ。だから必ず持っている」 「・・・・心得た」 空影はそういうと席を立った。これでまた当分会えまい。 「では、フウカイで会おう」 レオンに対するあてつけのように、一方的に落ち合う場所を告げ、自分の分の勘定を払うと、そのまま宿から出て行った。 単に外を歩きたいだけなのかもしれないが、空影ならこの雪山でも旅装なしで行動しそうだった。 「私は、お主も仲間だと思うのだ・・・・」 だが、一度スタートに戻るのも良いかも知れない。レオンはすっかり冷めたワインを飲み干した。 「絆か・・・・・・・」 星空の下、空影は赤い宝石を取り出して眺めた。 |
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