古代語で風と海を意味するフウカイは、この星でも有数、南では最大の交易都市である。 有名都市の多くが防護のシェルターで覆われているのに比べて、フウカイは開放的な町だった。 世界中のありとあらゆる船が集う港を中心に様々な交易がなされ、異種の文化が交じり合っている。 文明のるつぼと言われたある古代都市の風景が、今この港町で再現されていた。 数週間に渡る航海の末到着したレオンたちは、市場で賑わう中心部でなくまず郊外に向かった。 西洋と東洋が混在する街並の中に、一際大きな武家屋敷が立構えている。ロックやタクヤは驚いたが、 何とそこがレオンの生家であるというのだ。 「おかえりなさいまし、レオン様」 大玄関に入ると着物姿の老人と女中が一行を迎えた。 「只今戻った。じいもまだまだ元気のようだな」 「もったいなきお言葉にございます。上様もご無事で何より」 レオンの後に続いて上がろうとしたタクヤたちは、まず履き物を脱ぐように教えられた。 爺と呼ばれた老人はレオンとタクヤ達を応接間へ案内する。 「夕餉には是非客人もお連れなさいませ。御館様も菊様も若のお帰りを待ち侘びておりました故、何卒御顔を見せられますよう」 「いや、夕食は外で取る。すまぬがこの者たちが泊まる部屋を用意してやってくれ。 旅の途中に立ち寄っただけで、長く居座るつもりはない。皆への挨拶は後で」 爺の申し出を断ってレオンは他の者たちを下がらせるように命じた。 近習の衆がいなくなって、やっとタクヤたちも一心地付く。 「・・・すっげーな。さすがは将軍様」 緊張していたタクヤも軽口が叩けるようになったようだ。後ろでロックが同感とばかりに頷いている。 焔は豪華だね〜と言いながら部屋の中を物色していた。 「ほんっと、無駄に金持ちだったんだね〜」 「無駄とは何だ。まあ、確かに一代で築き上げたものではないがな。しかしこれで宿の心配はなくなっただろう。 主もゆっくりとくつろぐといい。何かあれば傍の者に用意させよう」 「はぁ・・・」 奴隷生活の長かったタクヤにしてみれば、豪華すぎてかえって落着かない。 隣にいるゴルゴンもきらびやかな部屋の中ではほとんど目立たなかった。 「しかし・・・宜しいのでありますか?ご家族の方々にも会わないとは」 遠慮がちなロックの言葉に、レオンは少しの間だけ目を伏せる。 「・・・またすぐに旅立つのだ。会えば想いが募る」 「・・・・・・」 気まずくなった空気を追い払うように、レオンはいつもの調子でふっと笑った。 「さて、一息ついたら空影を探しに行くか」 ◇◇◇ 「っあ〜〜、久しぶりの大地だぜっ!」 「カイザー、まだ揺れてる感じする・・・」 「大丈夫?カイザー」 ハーニュブルスの旗印をつけた船からドランたち一行はフウカイに降り立った。 カズキのお陰で良い船に乗れたが、途中で大時化に遭いさんざん到着が遅れてしまっていた。 お陰で初めて船に乗ったカイザーは船酔いしてしまい、心配そうにダイが介抱している。 「ここがフウカイですか。良さそうな街ですね」 「俺もずっとカジノにいたからな、こういう場所に来るのは初めてだ」 翼とカズキは珍しそうに街の様子を眺めている。最後に降りたドランが皆をまとめて号令をかけた。 「さて、とりあえず宿に向かおう」 ◇◇◇ フウカイには『ギルト』の総本部がある為、宿は全て直営で相場も安い。 レオンはその中でも空影がよく好む『エンカウンター』という宿屋に足を運んだ。 「これは将軍、いらっしゃいませ」 「空影は来ているか?」 受付の男とは顔見知りらしく、レオンは用件だけを述べた。 「予約は入っておりますが、まだご到着はされてませんよ」 「そうか」 レオンは僅かにため息を吐いて同行者を振り返った。 「・・・今日もはずれだな。一体何処で油を売っているのやら」 「本当にここで待ち合わせてんのか?その空影ってヤツ」 「きっと他の仕事があるのでありましょう。仕方ありません」 「じゃあ今日もここでご飯食べてこっか〜?ここの料理ってすっごく美味しいよね〜」 「ああ、この店の料理はフウカイの中でも逸品だぞ」 レオンたちが地下の食堂へ降りていくのを見送って、受付の男は業務に戻った。 しばらくすると、薄汚れた旅装の大人数の客が入ってきた。若い男たちの中に混ざって少年もいる。 「いらっしゃいませ」 「部屋はあいているか?6名だが」 「お待ちを。・・・大部屋になりますが、宜しいでしょうか?」 「それでいい。頼む」 「では鍵を。料金は一日毎にお支払いをお願いします」 手続きを済ませた客が、ふいに顔を上げて尋ねてきた。 「この街で空影という者を知らないか?」 先程と同じ事を聞かれ内心驚いたが、良くあることなので受付の男は落ち着いて対処する。 「当店でご予約を承っておりますが、御到着はされていません」 「そうか・・・、かたじけない」 客の男は礼を言うと、受付のカウンターから離れた。 「3階の部屋だ。皆で一つの部屋だぞ」 「ええ〜?俺、ハヤタのイビキがうるさくて眠れねえかも」 「そりゃねえだろ〜主〜?」 「まあまあ、抑えて」 「カイザー、ダイと一緒!ダイと一緒!」 「うん、カイザーも僕と一緒の部屋だよ」 にぎやかな客たちはそのまま階段を上がっていった。しばらくして、荷物を置いて軽装になった彼らが地下の食堂へ降りていく。 今夜も大繁盛だな、と思いながら受付の男は仕事に戻った。 ◇◇◇ 食堂には大勢の客がいたが、夕飯時より早いこともあってそれほど混雑はしていない様子である。 右側に客席が、左側に料理を置いたテーブルがあり客の列ができている。 ドランたちは先に客席の方に向かった。丁度良い具合に空いているテーブルが一つ見つかる。 「椅子が一つ足んねえな・・・こっちから貰うか」 ハヤタが隣のテーブルから椅子を引っ張ってきた。隣も空いているので問題はないだろう。 席を確保した後、一同は料理を取りに向かった。 入れ違いになるようにタクヤ達が飲み物のトレイを持ってやってくる。 「あれ?何か椅子減ってねえ?」 「誰か持っていったんじゃないの〜?」 「4つあるのだから問題はないだろう。料理を取ってこよう」 ドランたちの隣のテーブルに飲み物を置いてタクヤ達も客の列に並びに向かった。 料理はバイキング形式で、客が順番並んで好きな料理を取っていく様になっている。 「ハンバーグ!ハンバーグ!」 「はいはい」 せがむカイザーに苦笑しながら翼がカイザーとダイの皿に一つずつハンバーグを乗せる。 その後ろでハヤタがフライドチキンに手を伸ばし、カズキも思い思いの料理を取っていく。 「主、ハンバーグはいるでありますか?」 「おう、サンキュ」 「野菜も食べなきゃ駄目だよ〜はい、主」 「・・・わあってるって、ちぇっ」 野菜炒めを山盛りに盛り付ける焔にタクヤは渋々頷く。タクヤの背では手前にしか手が届かないので、 奥にある料理はロックや焔に取ってもらっていた。 一方、飲み物を入れたグラスを運んでいる途中でドランは肘をぶつけてしまった。 「っと、すまない」 「バーロ、気を付けろい!」 罵声に面食らって振り返ると、顔の紅い男が千鳥足で去っていく所だった。気を取り直してドランは席に向かう。 酔っ払った千鳥足の男は今度は広い背中にぶつかった。 「てやんでぃ、気をつ・・・ 「気を付けろ」 「・・・へ、へえ」 威圧感のある目で見下ろされて男は思わず尻込みをしてしまう。が、周りの客がくすくす笑っているのに気が付くと、 不機嫌な様子で食堂を出ていった。 「何持って来たんだ?レオン」 「これだ。主も飲むか?」 椅子を引いて、白ワインのボトルを掲げて見せる。 「・・・レオン殿」 「冗談だ」 ◇◇◇ 「いただきますっ!」 「いただきます」 「・・・いただきます」 カイザーとダイがいつもの様に手を合わせると、皆の視線にカズキも渋々と合掌する。 それが合図となって、一斉に食事を開始した。 「なあ、フウカイに着いたはいいけどこれからどうするんだ?」 フライドチキンを頬張りながら話すハヤタに、隣の翼が嫌そうな顔をする。 「さっき受付で尋ねてみたのだが、空影もこの宿を予約しているそうだ」 「何だ、なら話は早えじゃねえか」 「そうですね、空影から情報を貰って、早く最後の主を探しましょう」 にっこりと笑う翼に、ダイは少しだけ記憶に思いを馳せる。 「最後の1人・・・。ねえカズキ君、どうしてるかな?」 「さあ、あいつのことだし、元気でやってるんじゃねえの?」 カズキは笑って、心配ないという風に両手を振ってみせた。 ◇◇◇ 「それで、空影ってヤツに会った後はどうすんだ?」 同じ頃、タクヤやレオンたちも席で食事にありついていた。実は隣のテーブルに座っているのだが、 周りが騒がしい所為でお互いに全く気付いていない。 「空影の情報を元に残りの主を探す。もちろん、他の仲間もだ」 「確かボクらと同じように旅をしてるんだってね〜そう簡単に見つかるかな〜?」 「・・・我々がこうして出会えたのだ、他の仲間にも必ず会える」 確信を持って頷くレオンに、焔はさらに問いかける。 「じゃあさ、ずっとボク疑問に思ってたんだけど〜、その仲間がみ〜んな見付かったら、その後どうすんの?」 「・・・何?」 「一緒に暮らすの?そのまま旅を続けるの?」 「それは・・・」 焔の質問にレオンだけでなくロックも考え込んでしまう。確かに、夢の記憶の欠片だけを頼りに主と仲間たちを探してきた。 今はそれだけで良いかもしれないが、全員揃ったその後は・・・? 確か、やらなければいけないことがあったと思う。でもそれが何かがわからない。思い出せない。 「なーんでえ、結局お前ら何も考えないで旅してたわけ〜?」 考え事が苦手なタクヤは蚊帳の外だ。 唸る3人を前に、思わず呆れて仰け反りかえる・・・と、頭が後ろの誰かにぶつかってしまった。 「あっ、ワリ・・・」 「いや、こちらこそ・・・」 謝ろうとして見上げたタクヤと、振り返ったドランの目が同時に相手を見た。 「・・・え?」 「あ・・・っ」 瞬間、眩暈がするような感覚にドランは一気に襲われた。まるで、あの夢に引き込まれるような感覚。 タクヤの方も自分の中で何かの殻が無くなったような気がした。目が覚めても忘れない夢。 けれど何一つ思い出せない夢が、今までかかっていた靄を取り去って、一気に鮮やかに蘇った。 凄まじい記憶の奔流に頭がクラクラする。 「あ・・・」 思わずふらついた体を慌ててドランが支えた。そしてその小柄な体に驚愕する。 夢で見ていた時も小さいと思っていたが、感覚が違う。全然違う。 「主・・・!?」 ロックや焔たちと同じく、自分を『主』と呼ぶ声。澄んだ黒の瞳がタクヤを真っ直ぐ見下ろしている。 こんな風に見られたことがある。気がする。絶対にある。自分をいつも守ってくれた、黄金色のモノ。 ―――――「主って、オレたちのこと?」 「いかにも、私を目覚めさせた君は即ち、我が主だ」――――― 「・・・ド・・・ドラン・・・?」 呟いた声は掠れてしまっていたが、その瞳は喜びの色に輝いた。 「あ・・・るじ、主だ!」 「ドラン?」 「カズキ、ダイ、見つけた、最後の主だ!主のタクヤだ!」 その言葉にその場の全員が驚いて目を見張った。 「何だ、全員揃っているではござらんか」 『空影!』 何時の間にか現れた空影に全員の声が揃った。 紅色の見事な友禅染めに何故か鬼と巨大に書かれた浴衣を着た空影は、覆面の下で見えないが多少は面食らったようだ。 「空影、それはどういう意味だ」 「意味も何も無いが・・・とりあえずは場所を移動するでござる。こう人が多くては込入った会話もできんのではござらんか?」 はっと気が付いてみれば、周りの客もじいっとこちらの様子を見つめていた。 確かにあんな大声で叫べば注目も集めるだろう。 「そ・・・そうだな」 そそくさと食事と片づけを済ませて一同は食堂を後にする。 とりあえずドランたちの泊まる部屋に移動することにして、はたとタクヤが気が付いた。 「ああっ!ゴルゴン忘れたっ!!レオンの家に置いてきたまんまだろっ!」 「何、ゴルゴンもいるのか?」 「あいつ目立つし食わねえから留守番させといたんだったよな!待ってろドラン今連れてくるからな!」 「あっ、主〜!」 言うが早いか飛び出して行ってしまったタクヤを追いかけるようにロックが、レオンも後を追う。 「何か・・・相変わらずだね、タクヤ君」 「・・・だな、忙しい奴だぜ」 取り残されてしまったカズキとダイは、苦笑して肩をすくめてみせた。 |
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