白日の誘拐
- Kidnapping in das Tageslicht -



ゴルゴンを従えて戻ってきたタクヤと共に宿部屋に集まった一同は、まず互いに自己紹介をしあった。 その中に何度か感激の再会劇もあったりするのだが、あえてそれは割愛させて頂く。 1つの輪を囲んでこれまでの旅の話や冒険談などを続けていると、なかなか話題は尽きない。
「これで揃ったのは7人・・・と、9人か。ゴルゴンやカイザーも含めて」
「ああ、あと1人だよな」
「いたよね、いつも僕らを守ってくれた、大きくて頼もしい仲間」
「だな。なんかこう、黒くてでっかい奴でさあ・・・」
タクヤ、カズキ、ダイの3人はもうすっかり覚えている頃の仲を取り戻して和気藹々としている。 その横ではカイザーがレオンとダイにに挟まれて御満悦中で、タクヤの隣にはしっかりとドランが席を取っていた。 その隣にゴルゴン、空影、翼、ハヤタ、ロック、焔、レオン、となれば、総勢12名の大所帯だ。 当然椅子も足りないので、ほとんどの者はベッドや机に腰掛けてくつろいでいる。
「それにしても、その最後の1人とは一体何処にいるのでしょう?」
「やはり、我々と同じように主を探して旅をしているのだろうか・・・」
「だったらどうすんだ?動いてるヤツほど掴まえるのは難しいってのによう」
諦めがちなハヤタの言葉に、ロックや翼も渋い顔をする。
「空影、その方の手管では見つからなかったのか?」
レオンに水を向けられ、空影は覆面の顔のまま静かに首を振った。収穫無しという意味だろう。
「お主の言った「3人組の少年と、それを探している者」の情報は『ギルト』ではそう流れてはおらぬ。 実際、依頼を受けたのもお主とそこのドランという者だけでござった」
「オレは『星座』の方で当たってたからな。まあ、範囲は狭かったんだけど」
とは、元保安官のハヤタの言い分である。
「しかし、向こうも恐らく我々や主をさがしているのだろうから、求めれば必ず会える」
「そーだよな。結局何だかんだ言って、俺たちこうして集まっちまったんだからな」
ドランが確信を持って、カズキが諦め半分で肯定する。仲間たちが全員揃う事を。 それはもう運命のようなものだと、他の誰も疑う事はなかった。
「なら話は簡単じゃねーか。今までどおりオイラたちは旅を続けりゃいいんだろ?空影に情報探ってもらってさ」
「あ、もちろん報酬はナシだぞ空影」
「頼りにしてるよ、空影」
主3人に念を押されては、さすがの空影も形無しである。覆面の下で溜息をつきながら、 空影は報酬だの何だのという諸々がどうでも良くなっている事に気づいた。仲間であるのなら、それも致し方ない。 そのやりとりを微笑ましく見つめる仲間たちの間に、しばらく和んだ空気が流れた。
「ダイ、ダイ」
袖を引っ張られる感覚に、ダイはカイザーの方に振り向いた。
「なに?どうしたのカイザー」
「あのね、タクヤ、主のタクヤってオス?」
「オスって・・・うん、タクヤ君は男の子だよ。それがどうかしたの?」
苦笑しながら答えたダイだが、カイザーはまだ不思議そうに首をかしげている。
「タクヤ、何だかメスみたいな匂いがする・・・」
「はぁ?何言ってんだカイザー」
ぎょっとするタクヤとは裏腹に、隣のカズキが訝しげに眉をひそめた。 ドラン達にまで注目されて、カイザーは上手く説明できず唸っている。
「はいは〜い、その疑問にはこのボクがお答えしましょ〜」
いつのまに移動したのか、焔がタクヤの背後で怪しげな笑みを浮かべて立っていた。
「焔、それはどういう意味ですか?」
「それはこういう意味、ってコト」
言うが早いか焔はタクヤのシャツを首までばっとまくり上げた。当然、無防備な白い胸元が露になる。
「!!!」
唐突な出来事に焔とカイザー以外の全員が固まった。カイザーはきょとんとした顔で皆を見回している。
「〜〜〜っ何しやがんでいっっ!!」
我に返ったタクヤは真っ赤な顔でシャツを引き降ろすと焔に食って掛かった。が、タクヤの抗議も焔はさらりとかわす。
「だって、これから一緒に旅をしていくんだったら知っておいた方がいいでしょ〜?
どうせいつかはばれるんだし、だったら早い方がいいじゃない〜」
「だからってお前なっ!」
「説明よりこっちの方が手っ取り早いでしょ〜?それとも下の方が良かった〜?」
それは幾らなんでも嫌なのでタクヤも仏頂面で押し黙った。タクヤの隣でゴルゴンも威嚇している。 ようやく硬直の解けたロック、レオンの2人は気まずそうに顔を見合わせた。
「??みんなもダイもどうして驚いてる?」
「そう、カイザーは賢いね〜。ちゃんと主の事がわかってるんだから」
「一体・・・どういうことなのだ」
訪ねるドランの声もひっくり返っている。カイザーの頭を撫でながら焔は至極当然のことのように言い放った。
「ん〜?別にたいした事じゃないよ。主が今は女の子の体だってこと。もう少ししたら男に戻るけどね〜」
ますますドラン達にはわけがわからない。
「簡単に言うと、半月は男で、半月は女の子。そういう体になる「体質」なんだってコト」
『体質』という言葉にレオンは少しだけ眉を上げた。焔が種族の事を話さず、あえてそういう説明をしたのは、 もうひとつの「秘密」を隠すためか。ロックもその意味を察知したのか何も言わない。だから、 レオンも視線だけで、何か言いたげな面持の空影を黙させた。
「いつもいつもボクらが側にいられるとは限らないんだよ〜?特に変化期の間は主はぜんっぜん身動きとれないじゃないか。 主に万が一のことがあったら困るから、ちゃんと皆には覚えといてもらわないとね〜」
タクヤの方に手を置いて悪気ない笑みを見せる焔に、他の皆も若干戸惑いながら了承する。
「マジかよ・・・」
「そ・・・そうなんだ、よろしくね・・・」
頭を抱えるカズキと引きつった笑顔のダイに、タクヤも同じ顔で返すしか無かった。


◇◇◇

「ふう・・・」
扉を閉めて、タクヤは溜まっていた息を一気に吐き出した。
他の仲間たちは、これからの旅の方針を決めるため会議している。外の空気を吸ってくると言ってタクヤは廊下に出た。 本当は、場の雰囲気に居たたまれなくなったからだと思う。タクヤのことを気遣ってか、皆は直接その話題に触れてこないが、 時折向けられる視線が如実に語っている。奇妙なものを見る視線は慣れたものだったが、翼やドランだけでなく、 カズキやダイにまでそんな目で見られることが、痛い。
少しだけ沈んだ気持ちが、隙を作り出したのかもしれない。
「?」
頭上に影が差し掛かって顔を上げたとたん、鳩尾に強烈な衝撃をくらった。
「なっ・・・・・・あ・・・」
(ゴルゴンっ・・・!)
フェードアウトする視界に抗おうとする手が、空しく宙を掻く。 倒れ伏すタクヤの体を、毛深い太腕ががっしりと支えた。そのまま片腕でひょいと担ぎ上げたのは、何と食堂にいたあの酔っ払いだ。
「へへ・・・こいつぁ思わぬ儲けモンだな」
レオンに凄まれた腹いせに部屋まで尾行して聞き耳を立てていた男は、やがてタクヤが男にも女にもなれる体であることを知った。 男の頭の中で、その符号がぴたりとある情報と一致する。そして無防備にも1人で出てきた『本人』を、まんまと掴まえる事ができたのだ。
(まさか、噂に名高い『妖精』がこんな所にいるとはな・・・)
部屋の中の連中に気づかれないように、男はタクヤを抱えたまま忍び足で廊下を歩いて行った。
(このままこいつを仲間で売り飛ばしちまえば、奴への仕返しにもなるし金も入って、まさに一石二鳥だぜ。へへへ・・・)
酒の酔いが覚めた男は、今度は自分の思いつきに酔っていた。

「ゴルゴン、ゴルゴンどうした?」
さっきから指一本動かそうとしないゴルゴンに、不審に思ったドランが問い掛ける。 それでもゴルゴンは応えを返そうともしない。
「あ〜〜、ひょっとしたら固まっちゃってんじゃない?ちょっと叩いたら直るよ」
「その方の相棒なら、面倒を見てやれ」
焔とレオンに言われて、ドランは御免、と言いながらゴルゴンの首筋を叩いた。とたんにゴルゴンの瞳に光が入る。
「ガザー!!キキキュイキキイイイーーーーッ、ピガーーーーー!!」
「だああうるっせえーーっ!!」
突然の快音に全員思わず耳を塞いだ。ハヤタの抗議にも構わずゴルゴンは大騒ぎしている。 その様子に、ほとんど直感的にドランは叫んだ。
「まさか、主に・・・主に何かあったのか!?」
「何ですって!」
「主が!?」
他の仲間たちもさっと表情を変える。叫ぶが早いかドランは体当たりで扉を開けて飛び出した。
「くっ・・・」
心情を察して一人で行かせたのが、仇となったか―――!!
唇を噛み締めてレオンはドランの後に続く。階段の踊り場まで出てきたドランは、玄関から不審な人影が出て行くのを見た。
「待て!!」
階段を使っていたのでは間に合わない、と一足の下に手すりを飛び越えてドラン達は後を追う。波止場まで出てきたところで、
彼らは不審な男の姿をようやく捉えた。ほくほく顔でふり返った男が怒りの形相のドランを見てぎょっとする。
「ひ・・・っ」
「おのれ、主をどこにやった!」
組み伏せた男の懐からバラバラと金貨がこぼれ出てきた。それを見てレオンが呟く。
「・・・『地下鉄』の者か。義理も倫理も無いというのは本当らしいな」
「船!船あの船!!主が乗ってる!!」
「ガキピガーーー!!」
カイザーとゴルゴンが示す先には、出航するモーターボートの姿が。
「どいてっ!」
焔がロープを結えつけた矢を装填してボウガンを放った。しかし、ボートは凄い速さで瞬く間に遠ざかっていく。 矢は標的に届く前に海に落ちた。
「おら吐け!てめえ主をどこにやったんだ!!」
怒りの収まらないハヤタが男の胸倉を掴み上げた。しかし、男は唇から血を流しながらもにやにやと笑っている。
「へへ・・・誰が答えるかよ・・・そんな」
「ここで死にたいのなら、そうしても構いませんよ」
翼のスピアにレオンの長刀、ドランの竜牙剣など全員の武器を突きつけられて、さすがの男も肝を潰したようだ。
「たっ『旅立ち宿のハルキリアス』だ!奴らのボートが向かった先はそこだ。だけどそっから先は俺でもわからねえって!」
「嘘つくんじゃねえ!最後まで洗いざらい吐かねえと痛い目見る・・・」
「それだけ分かれば十分でござる」
仲間たちの中から空影が一歩進み出た。空影の視線を受けて、ハヤタは男を解放する。
「それは真か、空影」
「港の航行記録を調べれば船を特定するのは容易きこと。『ギルト』や『地下鉄』にも主を拉致した輩は顔を出すだろう。 それらは全て情報となる。そして、拙者に手に入らぬ情報など無い」
覆面の間から覗く視線は、冷ややかだが内に熱いものを秘めている。
「この空影の名にかけて主の居所を突き止めてしんぜよう。拙者は先にハルキリアスへ向かう。 お主らは主と共にゆっくりと参れ。御免」
「空影!」
煙を撒くように空影は姿を消した。よほど主を攫われた事に怒りを感じているのだろう。 しかしそれは、ここにいる誰もが同じ事だった。
「タクヤ君・・・大丈夫かな」
不安そうにダイがタクヤの身を案じる。以前なら平気だろと答えられたカズキだが、タクヤの事情を知ってしまった今、 そうも言っていられなくなってしまった。
「そうだな・・・俺たちが、助けに行ってやらなくちゃな」


◇◇◇

三日後、船を手配してハルキリアスに辿り着いた一行の元に、空影からの情報が舞い込んだ。
「チョラモンマ・・・?」
「そうだ、主はそこに捕らわれているらしい」
「では一刻も早く出発するであります!」
「ああ、もちろんだぜ!」
「主、主助ける!」
休む間もなく旅立ちの意志を固める一同の中で、レオンは空影からの手紙に記された、最後の一文に目をとめた。
(――――其の山頂に住居構える番人が件の石を所有と聞く。取り急ぎ調査する次第。草々)



BACK INDEX NEXT
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送